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レジリエンス

レジリエンスの意味と鍛え方

レジリエンスとは、病気や失敗、人間関係のトラブルなど、つらい出来事に直面しても、しなやかに適応し、立ち直っていく力や、その過程のことです。生まれつきの性格だけで決まるものではなく、経験や周りの支えを通して育てていくことができると考えられています。

みなさん、こんにちは。公認心理師、精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「レジリエンス」です。

レジリエンス

2020年、新型コロナウイルスの流行で緊急事態宣言が出たばかりの頃、お客さんが来なくなったバーの店主が、ミシンを買って店を一時的なマスク工房に変えた、というニュースを見ました。私はそのとき、「なんというレジリエンスだ!」と唸ったことを覚えています。

病気、天災、失恋、失業、友人とのけんか…私たちは人生を通して、さまざまな困難に直面します。当コラムでは、そんなときに支えになるレジリエンスの基礎と、日常で育てる方法を紹介します。目次は以下の通りです。

目次

①レジリエンスとは

レジリエンスは、もともと「跳ね返す力」を意味する言葉です。心理学では、つらい出来事から立ち直り、適応していく力や過程を指します。

レジリエンスの意味

アメリカ心理学会の心理学辞典[1]では、レジリエンスを、心や感情、行動を柔軟に調整し、外からの要求や内側の要求に適応することで、困難な人生経験にうまく適応していく過程とその結果、と説明しています。

また、環境ジャーナリストの枝廣[2]は、強い風や重い雪にもぽきっと折れず、しなって元に戻る木の枝のように、何があってもしなやかに立ち直れる力、とたとえています。

バネでイメージする

バネの両端を指で押すと、バネは縮みます。でも、指を離すと、元の形に戻りますよね。この「押されても、跳ね返して元に戻る力」がレジリエンスです。心理学では、心にも「元に戻る力」「立ち直る力」「へこたれない力」があると考えます。

育てることができる力

レジリエンスは、一部の人だけが持つ特別な能力ではありません。困難に向き合う経験や、周りの人の支えを通して、少しずつ育まれていくものです。また、レジリエンスが高い人でも、つらい出来事にまったく傷つかないわけではありません。落ち込みながらも、時間をかけて立ち直っていく、その過程こそがレジリエンスなのです。

レジリエンス,立ち直る

②レジリエンス研究の歴史

レジリエンスという言葉は、物理学や工学で使われていた言葉が、心理学に取り入れられたものです。ここでは、その歴史をたどります。

物理学から心理学へ

レジリエンス(resilience)は、ラテン語の「跳ね返る」を意味する言葉に由来します。19世紀には、木材や鉄などの材料が、衝撃を受けても元に戻る性質を表す言葉として、工学の分野で使われていました。

心理学の分野で下地を作った一人が、アンナ・フロイトです。アンナ・フロイトとバーリンガム[3]は、第二次世界大戦中のロンドンで、戦争に巻き込まれた子どもたちの心の反応を観察し、記録しました。レジリエンスという言葉は使っていませんが、逆境の中の子どもの心に目を向けたこの研究は、のちのレジリエンス研究につながっていきます。

カウアイ島の研究

アメリカの発達心理学者エミー・ウェルナー(Werner, E. E.)は、レジリエンス研究で最も有名な研究の一つを行いました。ハワイのカウアイ島で1955年に生まれた子ども698人を、生まれる前から大人になるまで、長期にわたって追跡したのです[4]。同じ人を長い期間追い続ける「縦断研究」は、心理学の世界では大変な労力が必要な研究です。

カウアイ島研究の内容

対象の子どものうち約3分の1は、貧困、親の精神疾患やアルコール依存、家庭の不和など、複数のリスクを抱えた環境で育っていました。こうした子どもの多くは、10代までに学習や行動の問題を抱えました。

ところが、リスクの高い子どものうち約3分の1は、問題を抱えることなく、思いやりのある有能な大人へと成長していきました。ウェルナーらは、こうした子どもたちを「レジリエント(resilient)」と呼びました。

この子どもたちには、親以外にも信頼できる大人がいる、地域や学校に支えてくれる人がいる、といった特徴がありました。周りの支えが、逆境を乗り越える大きな力になることが示されたのです。

ラターの研究

イギリスの児童精神科医マイケル・ラター(Rutter, M.)も、レジリエンス研究の基礎を築いた一人です。ラター[5]は、レジリエンスを、個人の性格だけで決まる固定的なものではなく、本人の特性と、家族や学校などの周りの支えが関わり合う「過程」として捉えました。この考え方によって、周りの環境を整えることも、レジリエンスを育てるうえで大切だと考えられるようになりました。

ポジティブ心理学との統合

2000年代以降、レジリエンス研究は、人の強みや幸福に注目するポジティブ心理学とも結びつき、前向きな感情や柔軟な考え方が、立ち直りを支えることが研究されてきました。現在では、学校教育、職場のメンタルヘルス、災害支援など、さまざまな分野で活かされています。

③ストレスとレジリエンス

レジリエンスがどのように働くかを、ストレスへの反応の流れから考えてみましょう。ここでは、ラザルスとフォークマン[6]のストレス理論をもとに、筆者が整理した3段階のモデルで説明します。

レジリエンス,予防的・一次・二次

予防的レジリエンス

困難に直面する前から、心と体を整えておく力です。逆境に陥りにくい状態を作っておくことが、最初の守りになります。

生活習慣:睡眠や食事など、規則正しい生活を送っている

ストレス管理:日頃からストレスをためこまない工夫をしている

人間関係:困ったときに支え合える人がいる

目標:身の丈に合った目標を持っている

一次レジリエンス

どんなに備えていても、病気やけが、失業、失恋など、自分ではどうしようもない出来事(ストレッサー)に直面することがあります。そのとき、最初に働くのが一次レジリエンスです。楽観的に考える力、柔軟で現実的な考え方、「これまでも乗り越えてきた」という自信などが、出来事の受け止め方を支えます。

二次レジリエンス

一次レジリエンスで受け止めきれないと、眠れない、気分が落ち込む、頭痛がするなどのストレス反応が出てきます。この段階で必要になるのが、ストレスに積極的に対処する二次レジリエンスです。

情動焦点型:日記を書く、信頼できる人に話す、泣くなど、気持ちを表して和らげる

問題焦点型:原因となっている状況そのものを変える

認知的:出来事を別の角度から捉え直す

社会的支援:家族やカウンセラーに相談する

身体的:運動や睡眠で体の調子を整える

気晴らし:趣味や旅行でリフレッシュする

それぞれの方法は、ストレスコーピングの種類で詳しく解説しています。

こうした対処でも立ち直れず、つらい状態が長く続くと、うつ病や適応障害などにつながることがあります。それぞれの段階に応じた力を育てておくことが、危機を乗り越える助けになります。ストレス反応の詳しい仕組みは、ストレスマネジメントの理論で解説しています。

④レジリエンスを支える要素

レジリエンスを支える要素は、研究者によってさまざまに整理されています。ここでは、日本でよく使われる研究と、ラターが示した考え方を紹介します。

精神的回復力の3つの要素

小塩ら[7]は、大学生を対象に、つらい出来事から立ち直る力を測る「精神的回復力尺度」を作成しました。その結果、精神的回復力は、次の3つの要素から成り立っていることが示されました。

精神的回復力の3つの要素

新奇性追求:新しいことや、さまざまなことに興味を持つ

感情調整:自分の気持ちを落ち着かせ、コントロールできる

肯定的な未来志向:未来に希望を持ち、前向きに考える

この尺度は、その後の国内の多くのレジリエンス研究で使われています。研究では、精神的回復力が高い人ほど、つらい出来事を経験しても、心の健康を保ちやすい傾向が報告されてきました。

周りの支えも大切

ウェルナーやラターの研究が示したように、レジリエンスは、本人の心の強さだけで決まるものではありません。信頼できる家族、友人、先生、職場の仲間などの支えは、逆境から身を守る「保護因子」として働きます。一人で頑張りすぎず、支えを得ることも、立派なレジリエンスの一部なのです。

レジリエンスは変化する

レジリエンスは、一度身につけたらずっと変わらないものではありません。ある時期には力強く立ち直れた人でも、環境が変わったり、困難が重なったりすると、立ち直りにくくなることがあります。また、仕事の悩みには強くても、人間関係の悩みには弱い、ということもあります。

その一方で、困難を乗り越えた経験を通して、新しい力や自信を身につけ、以前より成長することもあります。レジリエンスは、経験とともに育ち、変わっていく過程なのです。

逆境にもへこたれない力

⑤鍛えるための5つの柱

アメリカ心理学会[8]は、レジリエンスを育てる方法を、「つながり」「ウェルネス」「目的」「健康的な考え方」の4つの柱と、「助けを求めること」にまとめています。それぞれの柱に沿って、具体的な方法を紹介します。

つながりを築く

気持ちを分かってくれる人とのつながりは、つらいときの大きな支えです。友人と会う、家族と食事をする、趣味のサークルや地域の活動に参加するなど、日頃から人とのつながりを大切にしましょう。

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ウェルネスを育む

ウェルネスとは、体と心が健やかな状態のことです。十分な睡眠、バランスのよい食事、適度な運動は、ストレスに対応する土台になります。また、つらさをお酒などで紛らわすことは、かえって回復を遅らせることがあるので注意しましょう。

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目的を見つける

「この先、どう生きていきたいか」という目的があると、困難な時期も乗り越えやすくなります。人の役に立つことをする、大きな問題を小さく分けて一つずつ取り組む、自分の目標に向かって少しずつ進む、といった行動が、目的の感覚を育てます。

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健康的な考え方を持つ

つらい出来事を、長い目で見たり、別の角度から捉え直したりすることも大切です。変えられないことは受け入れ、変えられることに目を向ける。過去に乗り越えた経験から学び、希望を持って先を見通す。こうした考え方は、練習で身につけることができます。

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助けを求める

強いストレスやトラウマを抱えているときは、自分の力だけで乗り越えようとしなくて大丈夫です。家族や信頼できる友人、カウンセラーや医師などの専門家の力を借りることも、レジリエンスの大切な一部です。

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⑥今日からできるワーク

ここでは、レジリエンスを育てるために、一人でもできる3つのワークを紹介します。紙やノートに書きながら取り組んでみましょう。

乗り越えた経験を振り返る

これまでに、つらかったけれど何とか乗り越えた出来事を1つ思い出し、次の問いに答えてみましょう。

①どんな出来事だったか

②そのとき、何が支えになったか(人、考え方、行動など)

③その経験から、どんなことを学んだか

書き出してみると、自分なりの立ち直り方や、頼りになる支えが見えてきます。次に困難に直面したとき、それがそのまま使える「自分の対処法リスト」になります。

サポートマップを作る

紙の真ん中に自分の名前を書き、周りに、困ったときに頼れる人や場所を書き出します。「愚痴を聞いてくれる人」「具体的な助言をくれる人」「一緒に気晴らしをしてくれる人」「専門的な相談ができる場所」など、役割ごとに分けて書くのがコツです。書いてみて少ないと感じた部分は、これから少しずつ増やしていきましょう。

小さな「できた」を集める

1日の終わりに、その日できたことを3つ書き出します。「朝、予定通りに起きられた」「苦手な人に挨拶できた」など、小さなことで構いません。小さな成功を積み重ねることで、「自分は何とかやっていける」という自信が育ち、困難に直面したときの支えになります。

レジリエンス,鍛え方

⑦取り組むときの注意

レジリエンスを高めることは大切ですが、次の2つの点にも気をつけましょう。

我慢することではない

レジリエンスは、つらさを感じないことや、弱音を吐かずに我慢し続けることではありません。落ち込んだり、泣いたり、人に頼ったりしながら立ち直っていくことも、レジリエンスです。「レジリエンスが低いから自分はダメだ」と、自分を責める必要はありません。

つらいときは専門家へ

眠れない、食欲がない、気分の落ち込みが2週間以上続く、といった状態がある場合は、自分の力だけで立ち直ろうとせず、医療機関やカウンセラーに相談してください。また、虐待や暴力など、本人の努力では変えられない環境に置かれている場合は、まず安全を確保し、相談窓口を頼ることが何より大切です。

⑧確認してみよう

ここまでの内容を、3つの問題で確認してみましょう。答えを考えてから、正解と解説を開いてください。

問題1

レジリエンスの説明として、最も適切なものはどれでしょうか。

ア つらいことにまったく傷つかない強さ

イ つらい出来事からしなやかに立ち直っていく力や過程

ウ 生まれつきで変わらない性格

問題1の正解と解説

正解はイ(つらい出来事からしなやかに立ち直っていく力や過程)です。レジリエンスは、傷つかない強さではなく、落ち込みながらも立ち直っていく「しなやかさ」です。経験や周りの支えを通して育てることができます。

問題2

カウアイ島の研究で、リスクの高い環境でもよく育った子どもたちに見られた特徴はどれでしょうか。

ア 親以外にも信頼できる大人や支えてくれる人がいた

イ 一人で何でも解決していた

ウ 困難な経験がまったくなかった

問題2の正解と解説

正解はア(親以外にも信頼できる大人や支えてくれる人がいた)です。親以外の信頼できる大人や、地域・学校の支えなど、周りの支えが逆境を乗り越える大きな力になることが示されました。

問題3

アメリカ心理学会がまとめた、レジリエンスを育てる方法に含まれないものはどれでしょうか。

ア つながりを築く

イ 健康的な考え方を持つ

ウ 一人で我慢し続ける

問題3の正解と解説

正解はウ(一人で我慢し続ける)です。アメリカ心理学会は、つながり、ウェルネス、目的、健康的な考え方の4つの柱と、助けを求めることを挙げています。我慢し続けることは含まれていません。

⑨まとめ

レジリエンスとは、つらい出来事に直面しても、しなやかに適応し、立ち直っていく力や過程のことです。生まれつきだけで決まるものではなく、経験や周りの支えを通して育てていくことができます。

今回のポイント

レジリエンスは「折れない強さ」ではなく「しなやかに戻る力」

本人の力だけでなく、周りの支えも大きく関わる

つながり、ウェルネス、目的、健康的な考え方、助けを求めることで育てる

つらい状態が続くときは、一人で抱えず専門家へ

受験、就職、病気、天災…私たちの人生には、たくさんの困難があります。皆さんが、一度しかない人生を、しなやかに、そして力強く歩んでいかれることを願っています。

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ストレスが生まれる仕組みと対処法は、ストレスマネジメントの理論で解説しています。また、人の強みや幸福に注目する考え方は、ポジティブ心理学のコラムもあわせてご覧ください。

レジリエンス,立ち直る女性

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講座の日程が合わない方や、自分のペースで学びたい方は、個別レッスンのご相談も受け付けています。

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] American Psychological Association. (n.d.). Resilience. In APA Dictionary of Psychology.
 
 
[3] Freud, A., & Burlingham, D. T. (1943). War and children. New York: Medical War Books.
 
[4] Werner, E. E., & Smith, R. S. (1992). Overcoming the odds: High risk children from birth to adulthood. Ithaca, NY: Cornell University Press.
 
[5] Rutter, M. (1987). Psychosocial resilience and protective mechanisms. American Journal of Orthopsychiatry, 57(3), 316-331.
 
[6] Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, appraisal, and coping. New York: Springer.
 
[7] 小塩 真司・中谷 素之・金子 一史・長峰 伸治 (2002). ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性:精神的回復力尺度の作成 カウンセリング研究, 35(1), 57-65.
 
[8] American Psychological Association. (2020). Building your resilience. Retrieved from https://www.apa.org/topics/resilience/building-your-resilience
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