自己効力感を高める方法とは,セルフエフィカシー
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。今回は「自己効力感を高める方法」についてご相談を頂きました。
相談者
30歳 女性
お悩みの内容
私は昔から消極的な性格で、チャレンジをしてきませんでした。大学は合格をしたのですが、滑り止めでだったので、挫折感があります。就職もうまくいかず、希望する会社とは全然違う分野で働いています。容姿もパッとしないので、自信がありません。
もっと自分に自信を持ちたいと感じていたところ、「自己効力感を高める」という用語が自分にぴったりな気がしました。詳しく教えてください。
自分に自信がない状況だと、何をするには躊躇してしまいますよね。当コラムでは、自己効力感を向上させるコツをお伝えします。是非最後までご一読ください。
自己効力感の意味とは?
まずはじめに自己効力感の意味をおさえていきましょう。
意味
自己効力感は英語ではセルフ・エフィカシー(self-efficacy)と言ったりもします。心理学者のバンデューラが提唱した「社会的学習理論」における中心的な概念の一つです。意味は以下の通りです。
ある行動を達成することができる、と自分の可能性を認識していること(Bandura,1997)
簡単に説明すると「私にはできる!」という感覚と考えるといいでしょう。バンデューラは人が自信を持って行動できるひとは、2つの要素がポジティブに関連していることを主張しています。
効力予測
1つ目は、効力予期(Efficacy Expectation)です。効力予期とは、結果を生み出すための課題をうまく行うことが出来るという確信を意味します。
例えば
腕立て伏せを1か月毎日できる!
気持ちを込めて告白できる!
プロジェクトをやりとげる能力がある!
という自分への期待があげられます。
結果予期
2つ目は結果予期(Outcome Expectation)です。結果予測とは、ある行動をすると、なんらかの報酬が得られるとすると期待を意味します。
例えば
毎日50回腕立てをすれば筋肉がつくぞ!
告白をすればたぶん付き合てもらえるぞ!
このプロジェクトはきっとうまくいくぞ!
という未来の期待を意味します。
このような2つの要因を元に私たちは行動を行い、結果が出ていくと自己効力感が増していくことになります。自己効力感をうまく高めてこの2つの好循環に入るように意識しましょう。
自己効力感を高める効果
自己効力感についてはこれまで様々な角度から研究がなされてきました。気になるタイトルがありましたら展開してみてください。
ほめられた経験が多いほど、「自分はできる!」という感覚が強くなっていきます。ただ、自分のどの部分をほめられるかによって、自己効力感の高まり方が変わってきます。
浅沼ら(2018)の研究では、大学生249名を対象にほめられ経験の種類が自己効力感に与える影響を調べました。
その結果、上図のように「能力」よりも「努力」をほめられた方が自己効力感が増すことが分かったのです。能力をほめるとは、「期待していた」「やれば出来ると思っていた」など成功したことに対して肯定することを言います。
一方で、努力をほめるとは、「よく頑張っている」「積極的に取り組んでいる」など結果ではなく、それまでの過程を肯定します。
日々の努力を積極的にほめられることで、自信が身に付き、さらなる努力へと促進すると示唆されています。ただ、能力をほめられる経験がマイナスに影響するというわけではなく、あくまでも「努力」をほめられた方が効果は高いという結果になります。
いずれにしても、「ほめられる」という経験は自己効力感を高めてくれるのです。
心理学の研究では、自己効力感のことをGSE(Generalizad Self-Efficacy:人格特性的自己効力感)という言葉を使って表すことがあります。
三好(2007)はこのGSEと様々な指標について調査・研究しました。その結果、自己効力感が高い人ほど、活動に積極的で楽しみやすいことがわかりました。以下の図を参照ください。青字の、自己効力感が高いグラフの方が大きくなっていますね。
バンデューラによると、自己効力感が低いときは
・無気力
・無感情
・無関心
になり、あきらめが早く、失望・落胆し、自己卑下や劣等感を抱きやすくなり、抑うつ状態に陥ってしまいやすいといいます。
一般的に、抑うつ状態に陥った人は、自分を過小評価する、自分には能力がないと感じる、意欲がわかない、無気力になってしまう、こんな特徴が出やすいと言われています。
三好(2007)の研究によると、高GSE(自己効力感が高い人)の方が、抑うつ傾向が低いことが分かっています。これは感覚的にも理解しやすいかと思いますが、統計的な調査でも裏付けられております。
自己効力感と敵意はどのように関連するでしょうか?下図を見て分かる通り、高GSE(自己効力感が高い人)は敵意が低いことがわかります。
自信がある人は、穏やかで、どうにかなるさ!と楽観的なのに対して、自信がない人は、周りのミスによって、自分も被害を被るという感覚があり、イライラしやすいのかもしれません。
後悔は自信のない決断から生まれることがあります。中西ら(
下図のように、自信をもって決断した場合は後悔は少なく、自信が
この研究から「自信をもって行動した」ことについては、
佐藤(2009)はYG性格検査と自己効力感の関係を調べました。その結果が下図となります。この図は非常に示唆に富んでいて、自己効力感を向上させるための、海図のように使えると思います。
図の見方ですが、ポイントはざっくりと2点あります。
1つ目 数字を見る
数字が大きいほど、影響が大きい
2つ目 プラスマイナス
マイナスがついている場合は自己効力感が低くなる
ついていない場合は自己効力感を向上させる
いかがでしょうか。これを見ると、劣等感が一番マイナスが大きいことがわかります。このため、
自己効力感を高める4つの方法
バンデューラはさらに、自己効力感を向上させる具体的な手法を4つ紹介します。
①成功体験を積み重ねる
②代理体験をする
③周りに応援してもらう
④体を元気にする
活用できそうなものがありましたら日々の生活に取り入れてください。
①小さな成功体験を大事に
自己効力感を高めるには、基本は積極的にチャレンジをして、成功体験をコツコツ積み重ねていくことが大事です。自己効力感を高める上では、スモールステップ、成功イメージ、の2点をおすすめします。
スモールステップで達成
成功体験を得るためのチャレンジは、スモールステップを徹底的に意識しましょう。例えば、
会話の中で1回だけユーモアを入れる
水曜日だけは甘いもの控える
1日1ページ本を読む
など、自分にとって小さなステップからスタートし、階段を1段1段を上るように、少しずつ達成していくのです。
NGなのは、一発逆転を狙って途方もない目標をいきなり立てることです。このような目標は達成率が低く、失敗した自分に対してさらにがっかりする羽目になります。
スモールステップ法をより深く知りたい方は、以下のコラムをご参照ください。
成功をイメージ
心理学の研究では、失敗に意識が行きやすい方は、実際に失敗するイメージをしやすいことがわかっています。心理学では、これを「ワレンダ要因」と呼ぶことがあります。ワレンダ要因によって、失敗につながるメカニズムは以下の通りです。
1.失敗イメージをする
2.自己効力感が低下する
3.本当に失敗をしてしまう
このように失敗イメージすることで、自己効力感が下がってしまうのです。ただ、逆もしかりで、
1.成功イメージする
2.自己効力感がアップする
3.本当に成功する
という流れで、成功イメージを持つことで、自己効力感を高められると考えることができます。失敗への恐怖を克服したい…という方は以下のコラムをご参照ください。
②代理体験をする
自己効力感を高めるには、代理体験が有効です。代理体験には以下の意味があります。
他人が成功しているところを、自分と重ね合わせて見る
自己効力感が低い方は、他人が成功した時に、妬みや敗北感を覚えてしまいます。一方で、高い方は、我がことのように一緒に喜ぶことができます。自己効力感は自分だけで高めるのではなく、人の成功も自分の力に変えることができるのです。
実際に代理体験を増やすには、家族の成功体験を聞く、応援するチームや選手を作る、ことをおすすめします。
家族の成功体験を聞く
父親、母親、兄弟姉妹、祖父母はもっとも身近な代理体験の対象です。
たまには父親と腰を据えて、過去にどんなことを成し遂げてきたか?聞いてみるのもいいかもしれません。もしかしたらあなたが知らなかった意外な成果をあげてきたかもしれません。
兄弟姉妹が成功した時は一緒に喜びましょう。兄弟姉妹はあたと同じ環境で育った同胞です。兄弟の成功はあなたがいたからこそ達成できたのかもしれません。
応援するチームを作る
チーム、特定の選手、アーティスト、知識人のファンになって、応援することも効果的です。
ジャイアンツを応援する
サッカー日本代表を応援する
モーニング娘を応援する
応援している人は、日々の生活に生きがいが1つ増えます。自分にはできないことを代わりに達成してくれるので、あなたの自信を作ってくれます。
成功者は応援者から勇気をもらったからこそ、成功できます。あなたが心を込めたからこそ、成功できた一面もあるのです。胸を張って自分の自信として受け取りましょう。
③周りに応援してもらう
心理学の研究では、周りから応援してもらうことが、自己効力感を左右することがわかっています。例えば、2021年に東京オリンピックでは、多くの選手が、無観客は寂しい…応援してほしい…という声をあげていました。周りからの応援やサポートは、私たちに自信と勇気を与えるのです。
実際に応援してもらう機会を増やすには、ソーシャルサポートをもらう、温かいコミュニティに所属することをおすすめします。
ソーシャルサポートをもらう
具体的な方法としては、「ソーシャルサポート」を得ることが大切です。ソーシャルサポートとは、社会的なさまざまな支援のことです。このサポートは、物質的な支援に限らず、励ましやアドバイスなども含まれます。
例えば、
・落ち込んだ時に励ましてもらう
・成功した時に褒めてもらう
・不安な時に背中を押してもらう
などがあげられます。ソーシャルサポートについてより深く知りたい方は、以下のコラムをご参照ください。
温かいコミュニティに所属
こうしたサポートを得るには、暖かいコミュニティに所属することが大切です。暖かいコミュニティに参加することで、辛い時に励ましてくれる仲間を持つことができます。
暖かいコミュニティを見つける方法を詳しく知りたい方は、以下のコラムをご参照ください。
④体を元気にする
自己効力感に影響を及ぼす要素の1つとして、「生理的・情緒的喚起」というものがあります。生理的・情緒的喚起とは、
体を元気にすることで前向きな気分を呼び起こす
ことを意味します。体の健康を改善するには、体のストレス発散法を学ぶ、身体の変化を前向きに解釈するの2つをおすすめします。
身体のストレス発散法を学ぶ
私たちの体は心とつながっています。
・運動不足
・食生活の乱れ
・過労
などが長期化すると、気力が湧かず自己効力感も上がりにくくなってしまいます。まずは身体にストレスが溜まっていないか、チェックしましょう。もし不摂生をしている感覚があったら、以下のコラムを参照ください。
身体の変化を前向きに解釈
自己効力感が低い方は、緊張、震えなどがあったとき、
「自分は無力だ…」
「自分にはできないかも…」
「失敗したらどうしよう…」
と考えます。心身の変化をネガティブに解釈してしまっているため、自己効力感が低下してしまいます。一方で自己効力感が高い方は、緊張、震えがあったとき、
「わくわくしてきた!」
「すごく刺激的だ!」
「エキサイティングしてきた!」
と考えます。心身の変化をポジティブに解釈しているため、自己効力感が高まります。体に気を配り、前向きな変化がある場合は積極的に意識するようにしましょう。
まとめ
当コラムでは自己効力感を高める方法を紹介していきました。自己効力感は、
①成功体験を積み重ねる
②代理体験をする
③周りに応援してもらう
④体を元気にする
の4つと関連しています。紹介させて頂いた、それぞれの項目で活用できそうなものがありましたら、日常生活で取り組んでみてください。皆さんが自己効力感を高め、自信をもってチャレンジし続けることを、心から応援しています。
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・自己効力感を向上させるコツ
・スモールステップ行動計画の立て方
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を学びます。たくさんの仲間と一緒に練習していきましょう。筆者も講師をしています。是非お待ちしています(^^)
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
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*出典・参考文献
Bandura, A. 1977 Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84, 191-215.
Bandura, A. (1997) : Self-efficacy: The exercise of control. New York : W.H. Freeman.
ミハイ・チクセントミハイ著,今村浩明訳:フロー体験 喜びの現象学,新思索社,2000
坂野雄二 1989 一般性セルフ・エフィカシー尺度の妥当性の検討 早稲田大学人間科学研究, 2, 91-98.
坂野雄二・前田基成 2002 セルフ・エフィカシーの臨床心理学 北大路書房
坂野雄二・東條光彦 1986 一般性セルフ・エフィカシー尺度作成の試み 行動療法研究, 12, 73-82.
三好 昭子 2007 人格特性的自己効力感と精神的健康との関連 ―漸成発達理論における基本的信頼感からの検討― 青年心理学研究 19, 21-31.
森津誠(2007),「学生のネガティブな反すうと劣等感および自尊心との関係―『やる気』理解のための一考察―」,国際研究論叢,20(2),p63-70.
浅沼(2018)教師からのほめられ経験・叱られ経験がその後の自己効力感に与える影響 岩手大学大学院教育学研究科研究年報 第 2 巻(2018.3) 49−57
アルバート・バンデューラ,自己効力感 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自己効力感と性格特性との関連 佐藤 祐基 人間福祉研究 (12), 153-161, 2009 北翔大学