気分一致効果の意味

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「気分一致効果」について解説していきます。目次は以下の通りです。

①気分一致効果の意味とは
②気分一致効果の歴史
③気分一致効果が起こる理由
④ 気分一致効果と実践例

是非最後までご一読ください。

気分一致効果の意味とは

意味

心理学者の伊藤(2000)[1]は気分一致効果を以下のように定義しています。

特定の気分が生起すると、一致する感情価を持つ情報の記憶や判断が促進される現象

簡易的な意味

簡単な表現をすると

楽しい時は楽しい記憶が思い出され
楽しい気持ちに即した行動をしやすくなる

不快な時は不快な記憶が思い出され
不快な気持ちに即した行動をしやすくなる

という理論になります。

気分一致効果と歴史

歴史

気分一致効果は社会心理学で必ずと言っていいほど学ぶ理論です。気分一致効果は、1981年にGordon H. Bower教授によって提唱された理論です[2]。英語では

「Mood Congruency Effect」

と言います。Bower教授は2020年にお亡くなりになられましたが、YouTubeで生前の様子が残っていました。

効果

気分一致効果は、社会心理学の分野で伝統的に研究されてきました。今まで分かってきている効果には以下のような特徴があります。

・気分が良い時は説得されやすい
・幸福な時ほど頼みごとにOKを出す
・褒められると寄付をしたくなる

以下Bohner(1992)の研究を折りたたんで掲載しました[3]。興味がある方は展開してみてください。

Bohner(1992)では

・お金を拾った群
・お金を拾わなかった群

の2つに分け、その後頼み事をして承諾率を確認しました。その結果、お金を拾わなかった群と比較してお金を拾った群は、頼みごとの承諾率が高かったことが分かりました。

お金を拾う

頼み事

承諾率がUP

つまり、人間はうれしいことがあった後のほうが、頼みごとを受けやすいのです。

Bohner(1992)は、褒めた後の承認率についても調べています。

・褒めまくった群
・褒めていない群

2つの群について、それぞれに寄付をお願いしました。その結果、褒めていない群と比較して褒めまくった群は、寄付の承諾率が高かったことが分かりました。

褒めまくった群

寄付の依頼

承諾率がUP

この研究から、人間は気分が良い時の方が何かと承諾率が上がることが分かります。

 

気分一致効果で願いをかなえる

気分一致効果が起こる理由

それではなぜ気分一致効果が起こるのでしょうか。下記にベースとなる理論をご紹介します。

感情ネットワークモデル

感情ネットワークモデルは、喜びや怒り、悲しみなどの感情が発生すると、それに伴う自律的な反応や表出行動、そしてその感情を引き起こすできごとなどが、知識とネットワーク状にリンクし合っていると考えます。このモデルは、Bowerによって提唱されました[2]

具体的には、ある感情が生じると、その感情とリンクしている行動や知識が活性化される仕組みがあります。つまり気分一致効果は、感情ネットワークが1つの原因となっていることが考えられます。

それと同時に、喜びの感情が活性化されると、怒りの感情とリンクしている知識は抑制されるという関係性があります。これによって、相反する感情が同時に高まることを防ぎ、感情のバランスを保つメカニズムが考えられています。

感情ネットワークモデルは、感情とそれにともなう行動や知識が複雑に結びついている構造を捉え、感情の発生や変動を理解する上で大切な理論の一つです。

感情情報機能説

感情情報機能説は、「いまの状況」や「自己の判断」のシグナルとして、感情を活用するという考え方になります。このモデルでは、感情がある状況に対する情報を提供するための、基盤として機能すると考えられています。Schwarz(1990)によって提唱されました[4]

Schwarzは、感情が今置かれている状況についての情報を提供すると仮定しました。ネガティブな感情は、当面の状況に問題が多いことを知らせ、ポジティブな感情は安全な環境にいることを知らせると考えられています。

したがって、ネガティブな感情がある人は、問題の多い状況に効果的に対処するために、慎重に行動する傾向があるとされています。一方で、ポジティブな感情がある人は、安全な状況に対して注意を払う必要がなく、また多少のリスクも許容されるため、ざっくりとした計算や判断をする可能性が高まると考えているのです。

こうした感情が与える情報が、気分一致効果の1つの原因となっていると言えるでしょう。

気分一致効果-実践例

気分一致効果は、とても身近な心理学の理論です。以下実践例を挙げました。参考にしてみてください。

①金曜ランチ後が商談のチャンス

登場人物
・太郎くん
・お客さん

状況
・太郎くんは保険の営業マン
・見込み客に商談のアポを取りたい

↓気分一致効果を狙う↓

金曜日のランチ後なら、お腹が満たされていて、明日がお休みなので気分がよさそう。その時間の電話をかける!仕事はじまりの月曜日やランチ前よりはグンと、承諾率が高くなるだろう。

営業マン電話

②取引先でのプレゼン

登場人物
・次郎くん
・クライアント

状況
・次郎くんはIT会社の営業職で勤務
・クライアントの前でプレゼンをすることに

↓気分一致効果を狙う↓

真面目な話から入るよりも、雑談やユーモアを入れた方が相手の気分も高まりそう。面白いネタを1つ考えておこう。楽しみながら聞けた方が気分一致効果も得られやすいだろう。

③オフィス環境を快適に

登場人物
・花子さん
・社員たち

状況
・花子さんは部長
・社員のやる気を高めたい

↓気分一致効果を狙う↓

装飾を凝らすことで空間が華やかになって意欲も高まりそう。絵や花を飾ろう!殺風景な空間よりかは、気分が高まってパフォーマンスも高まるはず。

④愛の告白

登場人物
・五郎さん
・花子さん

状況
・五郎さんは花子さんに告白したい
・ベストなタイミングで告白したい

↓気分一致効果を狙う↓

告白するタイミングは、ディナーの後がいいだろうな。やはり、おいしいご飯を食べた後の方がYESと言ってもらえる確率が高まるはず。場所は夜景の綺麗なロマンチックな空間の方がいいだろう。

⑤夫婦喧嘩

登場人物
・三郎さん
・静香さん

状況
・2人は夫婦喧嘩をしてしまった
・三郎さんはうまく謝りたい

↓気分一致効果を狙う↓

自然の豊かな公園で二人だけで話し合うのがいいだろうな。公園は穏やかな雰囲気が流れているので、険悪なムードも流れにくいだろう。

夫婦喧嘩の和解

気分不一致効果とは

気分一致効果には、「気分不一致効果」と呼ばれる対立概念の存在も指摘されています。

榊(2006)は、気分不一致効果を以下のように説明しています[5]

ネガティブ気分時にニュートラル気分時よりポジティブな自伝的記憶の想起が促進される。

つまり、簡単にいえば、ネガティブな気分の時も、楽しい記憶が思い出され、楽しい気持ちに即した行動を取りやすくなるということです。気分不一致効果は、ネガティブな気分を緩和したいという気持ちがある際に起こりやすいとされています。

ネガティブな気持ちの時に、ポジティブな記憶を思い出すことで、気分を和らげることができるのです。

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人間関係に関するトレーニングをしたい方、心理学をより深く学びたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

・気分一致効果を活かす方法
・人間関係の心理学を学ぶ
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気分一致効果の意味,コミュニケーション講座

 

 

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 伊藤美加(2000).自己関連的情報処理における気分一致効果 自伝想起課題による検討 Vol. 71, No. 4, 281-288

[2] Gordon Bower(1981).Mood and memory. American Psychologist 36(2):129-148

[3] Bohner, G., Crow, K., Erb, H.-P., & Schwarz, N. (1992). Affect and persuasion: Mood effects on the processing of message content and context cues and on subsequent behaviour. European Journal of Social Psychology, 22(6), 511–530. https://doi.org/10.1002/ejsp.2420220602

[4] Schwarz, N. (1990). Feelings as Information: Informational and Motivational Functions of Affective States. In E. T. Higgins, & R. M. Sorrentino (Eds.), Handbook of Motivation and Cognition: Foundations of Social Behavior: Vol. 2 (pp. 527-561). New York: Guilford Press.

[5]榊美知子(2006).自己知識の構造が気分不一致効果 に及ぼす影響 心理学研究 第77巻 第3号pp.217-226