恐怖心の意味とは

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「恐怖心」について解説していきます。

恐怖心の意味,すまいるほっぺ様作成

目次は以下の通りです。

①恐怖心の定義
②恐怖心と3つの反応
③恐怖心と体の仕組み
④恐怖心と2つの要因
⑤恐怖心と条件付け
⑥精神疾患への影響
⑦関連コラム

是非最後までご一読ください。

①恐怖心の定義

意味

恐怖心は心理学辞典(1999)[1]において以下のように定義されています。

自己存在を脅かす可能性のある破局や危険を漠然と予想することに伴う強い不安。漠然とした不安が何かに焦点化され対象が明確になったもの。
*一部簡略化

例えば、見知らぬ人に恐怖心を抱く、大きな地震に恐怖心を抱く、熊の足跡を見て恐怖心を抱く、などが挙げられます。

恐怖心の機能

恐怖心は、生物が生き延びるために自然な反応と言えます。恐怖心を感じるからこそ、私たちは危険を予測し、それに基づいた行動を立てることができます。

恐怖心は人間の生命を守るうえでも役立ちます。例えば、犯罪に対する恐怖心が高まると、人々は自宅や車などをよりしっかりと施錠するようになったり、防犯カメラやセキュリティシステムの導入などの対策を取ることがあります。

恐怖心の悪影響

恐怖心が過剰に煽られると、人々の精神的な健康に悪影響を与えることがあります。恐怖を感じることで、ストレスや不安感が増大し、睡眠障害やうつ病、不安障害などの心の病気を引き起こす可能性があります。また、恐怖心によって、社会的な不信感や孤立感が増すことがあり、集団的なヒステリー現象が起こることもあります。

 

②恐怖心と3つの反応

私たちは恐怖心を覚えると3つの選択を取りやすくなります。これは戦うか逃げるか反応[2]、ポリヴェーガル理論[3]と言われます。

戦う

暴力を受けそうになったとき、動物に襲われそうになった時、精神的に傷つけられそうになったとき、私たちの戦うための準備を行います。例えば、会話をしている時に、自分を罵倒してくる人がいたとします。この時、恐怖心が出てくると共に、言い返す!という行動に出ることになります。

逃げる

暴力を受けそうになったとき、精神的に傷つけられそうになったとき、私たちは逃げる選択をすることもあります。例えば、電車に乗っていた時に、だれかれ構わず暴力を振っている人がいたとします。この時、私たちは、身体に力を入れ、すばやく逃げることもあります。

固まる

ポリヴェーガル理論によると、私たちの体は、恐怖心が大きくなりすぎると、不動の状態になるとされています。これは生物学的には死んだふり状態とも言えます。例えば、あまりにも恐ろしい目に合うと、もはや逃げることも戦うこともできなくなることがありますが、これが不動の状態と言えます。

逃げるか反応、ポリヴェーガル理論について理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。

戦うか逃げるか反応

 

③恐怖心と体の仕組み

偏桃体の働き

恐怖心と深く関りがあるのは偏桃体と言われています。偏桃体は大脳辺縁系と呼ばれている中にある脳の一部の器官です。下の図で赤く記してある部分が扁桃体です。

私たちは何らかの脅威に直面すると、、偏桃体が刺激されます。偏桃体が刺激されると、視床下部などの器官へ臨戦態勢を指示する情報が流れていきます。視床下部では、自律神経を活性化させたり、弱めたりする情報が伝達されていきます。

神経への伝達

自律神経には以下の2つがあります。1つ目は、交感神経です。交感神経が刺激されると、緊張する、活力を上げる、心拍数が上がる、などの反応があります。恐怖心が刺激されると交感神経が反応していきます。

2つ目は、副交感神経です。副交感神経が刺激されると、リラックス、休息する、心拍数が下がる、などの反応に繋がります。恐怖心があると副交感神経の働きは低下します。

④恐怖心と2つの要因

恐怖心は大きく分けて2つの経路から発生します。

難易度が高いですが、以下を参考に恐怖心が生まれる仕組みを2つの角度から記述をお願いします。

感情の二要因論

シャクターの情動二要因理論(1964)[4]は、情動の経験と理解について説明する際に、以下の2つの要素を考えています。

身体の興奮を特定の原因に帰属させることなく認識する
身体の興奮がどの感情や状況に関連しているかを理解する

シャクターの理論では、情動は単に身体の変化そのものから生まれるのではなく、その変化が何によって起きるかを考える認知的解釈が重要だとされています。

感情の種類や出現を決定するのは、この「原因帰属の認知」です。つまり、身体的な反応がどの感情に関連するのか、そして現在の状況はどうなっているのかを推測することで、特定の感情を経験することになります。

具体例

具体的には同じ心臓のドキドキでも、以下の2つの状況であれば、現れる感情も異なります。

・プレゼンに失敗するかもしれない
・好きな人とご飯を食べに行く

前者は恐怖や不安感が現れやすい状況ですが、後者はワクワクや喜び、楽しみを感じるかもしれません。

シャクターの理論によれば、同じ身体的な反応が見られる状況でも、そこに影響を与える要因や情報の受け取り方によって、異なる感情や情動が生じることが実験的に証明されています。

この「原因帰属」というアプローチは、行動の原因をどこに求めるかという心のプロセスを表すキーワードであり、社会心理学では非常に重要な概念となっています。

⑤恐怖心と条件付け

恐怖条件付けは、特定の刺激に不快な出来事を結びつけ、その刺激が引き起こす恐怖反応を獲得させる心理学的現象です。

動物と恐怖条件付け

Pradeep Lalと川上ら(2004)[5]は、光刺激と電気ショックを組み合わせることにより、ゼブラフィッシュに恐怖条件付け学習をさせることに成功しました。

研究者たちは、ゼブラフィッシュの脳神経細胞を可視化したり操作したりする技術を開発し、これを用いて終脳の一部であるDm領域に存在する神経細胞群の働きを調査しました。これまで魚類においては、Dm領域が恐怖条件付けに重要であると考えられてきましたが、明確な証拠が得られていませんでした。

そこで、以下のように恐怖条件付けを学習させ、ゼブラフィッシュの脳の働きを調べました。

恐怖心 研究

 

その結果、Dm領域の特定の神経細胞群の働きを阻害することで、恐怖条件付けへの学習能力が弱まることが分かりました。この結果は魚類にとっては恐怖条件付けに、終脳のDm領域が関わっていることを示しています。

この研究は、魚類にとっても「偏桃体」に相当する神経回路が存在することを証明しました。

人間と恐怖条件付け

人間の恐怖条件付けについては、Watson, J. Bら(1920)のアルバート坊やの実験[6]がよく知られています。この実験では、乳児であるアルバート坊やに対して、大きな音を聞かせて恐怖心を誘発する無条件反射を調べる実験が行われました。

まず鉄棒をハンマーで叩いた大きな音が、アルバート坊やにとっては無条件刺激(US)で無条件反射(UR)を引き起こします。これは、生まれつき持っている反応です。

次に、白ネズミが中性刺激として扱われます。最初は白ネズミ自体は恐怖を引き起こすものではありませんが、白ネズミを見せた後に鉄棒をハンマーで叩いて音を鳴らすという手順を何度か繰り返します。

この繰り返しの結果、アルバート坊やは白ネズミを見るだけで恐怖心を抱くようになります。図に示すと以下のようになります。

恐怖心条件付け

 

ここで、白ネズミが恐怖心を誘発する刺激として、条件刺激(CS)と呼ばれるようになります。そして、白ネズミを見て生じる恐怖心が、条件反射として知られる恐怖反応を引き起こすようになります。

それぞれの反射と刺激をまとめると、以下のようになります。

無条件反射 (UR)
生まれつき持っている反応
アルバート坊やの場合、大きな音に対する恐怖心

無条件刺激 (US)
無条件反射を引き起こす刺激
アルバート坊やの場合、鉄棒をハンマーで叩いた音

中性刺激
最初は無条件反射を引き起こさない刺激
アルバート坊やの場合、白ネズミ

条件反射 (CR)
条件刺激によって誘発される反応
アルバート坊やの場合、白ネズミを見たことによる恐怖心

条件刺激 (CS)
条件反射を引き起こす刺激
アルバート坊やの場合、恐怖心を誘発する白ネズミ

この実験では、中性刺激である白ネズミが条件刺激になり、無条件刺激である音と関連づけられることで、アルバート坊やが白ネズミを見るだけで恐怖を感じるようになるという恐怖条件づけが明らかにされました。

⑥精神疾患への影響

恐怖心は精神疾患に影響します。

強迫神経症

強迫神経症とは自分でもおかしいとわかっていても、ネガティブな想像が頭から離れず、何度も同じ行動を繰り返す精神疾患です。例えば、潔癖症の方が1日10回シャワーを浴びるなどが挙げられます。

強迫性障害

パニック障害

パニック障害は、突然理由もなく動悸やめまいが起こる、発汗が止まらない、吐き気がするなどの症状が出る精神疾患です。パニック障害になると、逃げ場のない場所が苦手になり、エレベーターや電車に乗ると恐怖心が大きくなることがあります。

パニック障害

PTSD

PTSDは過去にあった恐怖体験が何らかのきっかけでフラッシュバックする精神疾患です。例えば、過去に災害にあった記憶が頭に思い浮かんで恐怖心が沸き起こります。

PTSD

⑦関連コラム

恐怖心を克服する方法

当コラムでは恐怖心の意味や研究を紹介してきました。実践的に恐怖心を改善したい方は以下のコラムを参考にしてみてください。リラックスできる考え方を学ぶなど練習など行っていきます。

恐怖心を克服する方法

パニックになりやすさ診断

筆者はパニックになりやすさを簡易的に診断できるシステムを作りました。恐怖心を感じたときに、冷静に対処する力を把握したい方は一度チェックしてみてください。

パニックになりやすさ診断

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恐怖心の意味とは,心理学講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1]中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999).心理学辞典 有斐閣

[2] Walter Bradford Cannon (1915). Bodily changes in pain, hunger, fear, and rage. New York: Appleton-Century-Crofts. p. 211.

[3] Porges, Stephen W. (1995). “Orienting in a defensive world: Mammalian modifications of our evolutionary heritage. A Polyvagal Theory“. Psychophysiology.32 (4): 301–318.

[4] Schachter, Stanley(1964).”The interaction of cognitive and physiological determinants of emotional state.” Advances in experimental social psychology1 : 49-80.

[5] Lal, P., Tanabe, H., Suster, M.L. et al. (2018).Identification of a neuronal population in the telencephalon essential for fear conditioning in zebrafish. BMC Biol 16, 45

[6] Watson, J. B.; Rayner, R. (1920). “Conditioned emotional reactions“. Journal of Experimental Psychology. 3: 1–14.

画像出典
・フリー百科事典『wikipedia』偏桃体