恐怖条件付けの意味とは

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「恐怖条件付け」について解説していきます。

恐怖条件付けの意味,黒子屋様作成

目次は以下の通りです。

①恐怖条件付けとは何か
②恐怖条件付けの具体例
③恐怖と脳の仕組み
④精神疾患への影響
⑤関連コラム

是非最後までご一読ください。

①恐怖条件付けとは何か

意味

恐怖条件付けは以下のように定義されています。

恐怖を生み出す嫌悪刺激が中立刺激に関連しているタイプの学習
Warburton (2010)

定義の中の「嫌悪刺激」とは何らかの不快な出来事を意味します。例えば、悪臭、痛み、騒音、などが挙げられます。「中立刺激」とは、それ単独では何の反応も起こさない刺激のことです。例えば、「ベル」があったとしますが、ベルにはそもそも意味はありません。

しかし、ベルを鳴らした後に、悪臭が流れる、ということを繰返すと、ベルを見ただけで恐怖心が出てくるようになります。これが恐怖条件付けとなります。

提唱者

恐怖条件付けはアメリカの心理学者のジョン・ワトソンが提唱しました。ワトソン(1920)は、生後11カ月のアルバートという男の子を対象に恐怖実験を行いました。

この実験では、アルバート坊に白ネズミを見せ、アルバートが白ネズミに触れようとしたときに、博士が大きな音を立てることを繰り返しました。その手続きを続けたところアルバートは、白ネズミを怖がるようになることが報告されました。

それ以外にも白ウサギや毛皮のコート、白いひげのサンタクロースなど、似たような外見を持つものまで怖がるようになることが分かりました。

提唱者 ジョンワトソン

これをワトソン博士は、「恐怖条件付け」と呼びました。この研究は恐怖症やPTSDなどのトラウマに関する病態を理解することにとても有用なものになりました。

 

②恐怖条件付けの具体例

恐怖条件付けについては以下のような例が挙げられます。

電話恐怖

あるコールセンターで働いている男性がいたとします。このコールセンターではクレーム対応が主な業務です。男性は電話口で毎日暴言(嫌悪刺激)を吐かれ続けたとします。そして「中立刺激」だった電話が怖くなり、着信音がなるだけでびくっとしてしまうようになりました(恐怖条件付け)。

男性恐怖

ある女性は上司の男性からセクハラ(嫌悪刺激)を継続的に受けていました。そして「中立刺激」だった他の男性も怖くなり、男性全般が怖くなってしまいました(恐怖条件付け)。
嫌いな食べ物

ある男性が海水浴をしたときに、おぼれてすごく苦しい思い(嫌悪刺激)をしました。そして「中立刺激」だった「海」が怖くなり、海と言う単語を見るだけで、汗が出てきてしまうようになりました(恐怖条件付け)。

 

③恐怖と脳の仕組み

恐怖と偏桃体

恐怖条件付けは、扁桃体と呼ばれる脳の部位に依存すると考えられています。ローレンスワイスクランツ(1956)は、 扁桃体に異常を持つサルは、嫌悪刺激を記憶できず、回避できなかったことを示しました。一方で偏桃体に異常がないサルは嫌悪刺激を記憶し、回避することができたのです。このことから、扁桃体は恐怖に関わる脳であることが結論付けられたのです。

恐怖とノルアドレナリン

恐怖心はノルアドレナリンによって促進されます。ノルアドレナリンとは、恐怖や不安を感じた時に、副腎髄質から分泌されるホルモンです。ノルアドレナリンが分泌されると、血圧が上昇したり、心拍数が増加したりして、恐怖の対象と戦ったり、逃げる準備をすることになります。

 

④精神疾患への影響

恐怖心は精神疾患に影響します。

PTSD

PTSDは過去にあった恐怖体験が何らかのきっかけでフラッシュバックする精神疾患です。例えば、過去に災害にあった記憶が頭に思い浮かんで恐怖心が沸き起こります。

PTSD

パニック障害

パニック障害は、突然理由もなく動悸やめまいが起こる、発汗が止まらない、吐き気がするなどの症状が出る精神疾患です。パニック障害になると、逃げ場のない場所が苦手になり、エレベーターや電車に乗ると恐怖心が大きくなることがあります。

パニック障害

強迫神経症

強迫神経症とは自分でもおかしいとわかっていても、ネガティブな想像が頭から離れず、何度も同じ行動を繰り返す精神疾患です。例えば、潔癖症の方が1日10回シャワーを浴びるなどが挙げられます。

強迫性障害

 

⑤関連コラム

恐怖心を克服する方法

当コラムでは恐怖条件付けの意味や研究を紹介してきました。実践的に恐怖心を改善したい方は以下のコラムを参考にしてみてください。リラックスできる考え方を学ぶなど練習など行っていきます。

恐怖心を克服する方法

 

パニックになりやすさ診断

筆者はパニックになりやすさを簡易的に診断できるシステムを作りました。恐怖心を感じたときに、冷静に対処する力を把握したい方は一度チェックしてみてください。

パニックになりやすさ診断

 

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ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・Warburton E.C. (2010) Fear Conditioning. In: Stolerman I.P. (eds) Encyclopedia of Psychopharmacology. Springer, Berlin, Heidelberg. https://doi.org/10.1007/978-3-540-68706-1_707
・Watson, J.B. and Rayner, R.Conditioned emotional reactions. Journal of Experimental Psychology: 1920, 3, 1–14.
・Weiskrantz L (1956). “Behavioural changes associated with ablation of amygdaloid complex in monkeys”. J Comp Physiol Psychol49 (4): 381–391.

・ Weiss Kranz L  1956. “Behavioral changes associated with excision of the amygdala complex in monkeys”. Comparative Psychology Journal .