性善説・性悪説の意味とは

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「性善説・性悪説の意味」について解説していきます。

性善説,性悪説の意味とは,デデムシ様作成

目次は以下の通りです。

①意味や提唱者
②性善説,性悪説と行動遺伝学
③性善説,性悪説と心理学
④性善説,性悪説と経営学

是非最後までご一読ください。

①意味や提唱者

まずは「性善説・性悪説」の意味や提唱者から解説していきます。

性善説

性善説は以下のような意味があります。

人間は善を行うべき道徳的本性を先天的に具有しており、 悪の行為はその本性を汚損・隠蔽することから起こるとする説。正統的儒学の人間観。孟子の首唱。

すなわち、人は生まれつきは善であり、悪行はそれを隠すために行われる、というのが性善説です。以下は参考動画です。

性悪説

性悪説は以下のような意味があります。

人間の本性を利己的欲望とみて、善の行為は後天的習得によってのみ可能とする説。孟子の性善説に対立して荀子が首唱。

すなわち人は生まれつきは悪であり、成長の過程でしか善を学ぶことが出来ない、とするのが性悪説です。以下は参考動画です。

 

つまり、
・性善説は元々人間は善であり、悪は後天的に取得したものである
・性悪説は元々人間は悪であり、善は後天的に取得するものである

という両者の違いがあるのです。

実際私たちはどの程度、生まれながらに善悪が決まってきているのでしょうか?遺伝学、心理学、経営学の視点から解説していきます。

 

②性善説,性悪説と行動遺伝学

まずは、行動遺伝学の観点から検討していきます。

30~70%前後遺伝

性格の中の1つに「誠実さ」があります。誠実さは、約束を守る、時間を守る、嘘をつかないなど、性善説と非常に近い概念です。先程の安藤の研究では誠実さの大きさは50%の遺伝率であることがわかっています(安藤、2011)。

かなり乱暴な解釈となりますが、善人,悪人は生まれながらに、半分程度は決まっているという仮説が成り立ちます。いうなれば、性善説、性悪説はどちらも半分ずつ正しいと言えます。

パーソナリティ障害と遺伝

安藤の主張を裏付ける研究として、Torgersen(2000)の研究結果も挙げられます。Torgersenはパーソナリティ障害について遺伝率の調査を行いました。その結果、50%前後の割合で遺伝率が確認されたのです。

パーソナリティ障害の中には反社会性パーソナリティ障害があります。反社会性パーソナリティ障害は、暴力的で攻撃的な傾向がみられる障害で、性悪説の特徴によくあてはまります。先天的な影響があるとされているので、性悪説も一定程度裏付けられると言えます。

 

③性善説,性悪説と心理学

生まれながれに、性善説、性悪説という研究は、心理学上の研究としてはほぼないと言えます。一方で、生後間もない時期に、性善説、性悪説の基本的なスタンスができるとする理論があります。

具体的には、「基本的信頼感」と言う用語を扱います。基本的信頼感は発達心理学者のエリクソンによって提唱された概念です。エリクソン (1959)は基本的信頼感を以下のように定義しています。

社会や他者に関しての筋の通った信頼 、自己に関する信頼する価値、という感覚であり、生後1年の間の経験から獲得される

基本的信頼感は、乳児期に育まれ、その後の心理的な発達に広く影響されるとされています。以下の図はエリクソンの発達段階を図にしたものです。

アイデンティティ

このように、乳児期の0~1才半の間に、基本的信頼感が構築されるのです。この点、1歳までに十分な愛情をかけられた方は、世の中は信じられるとする性善説を取りやすいと言えます。逆に、虐待、育児放棄など、不安定な育てられ方をされたかたは、世の中に対する不信が溜まり、性悪説になりやすと推測できます。

 

④性善説,性悪説と経営学

経営学では、性善説・性悪説と似た概念として、XY理論というものがあります。XY理論は心理学者・経営学者のダグラス・マグレガーが、著書『企業の人間的側面』の中で提唱したものです。具体的にはX理論、Y理論の2つを提唱しており、それぞれ以下のような考え方があります。

X理論(性悪説)

人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしなくなる

X理論では、命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰を課します。「アメとムチ」による経営手法となります。労働者のモチベーションが低い時に有効とされます。

Y理論(性善説)

人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をする

Y理論では、命令や強制はせず、ルールも少なめになります。自由を与えて自主的に活動することを重視します。労働者が高い志を持っている場合に有効であるとされています。

 

⑤性善説の長所と短所

性善説にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?気になる項目がありましたら展開してみてください。

メリット

心理学の世界では「返報性の原理」が確かめられてています。返報性とは、自分が相手に示した感情は自分にも返ってくるとする心理です。例えば以下のような例が挙げられます。

相手に笑顔を示すと 笑顔が返ってくる
相手に好意を示すと 好意が返ってくる
相手を信頼すると、信頼が返ってくる

このように返報性の原理は、自分が示した態度が相手からも返ってきやすいと言えます。この意味で「相手が善人である」という姿勢で接すると、相手からも「あなたは善人である」という姿勢を引き出すことができるのです。詳しくは以下のコラムを参照ください。

返報性の原理とは何か

高橋ら(2012)は、大学生234名を対象に、「他人のポジティブ面に注目することの心理的な影響」を調査しました。その結果、以下の図のようになりました。

自己肯定感 増える

上図は、他者肯定感が高くなると、自己肯定感が増えやすいことを意味しています。つまり、相手を善人という前提で接し、肯定的に捉えると、自分を肯定することにもつながるのです。

高橋ら(2012)は、大学生234名を対象に、「他人のポジティブ面に注目することの心理的な影響」を調査しました。その結果、以下の図のようになりました。

性善説 メリット

上図は他者肯定感が増えると主観的幸福感が増えることを意味しています。つまり、相手を善人という前提で接し、肯定的に捉えると、幸せになりやすいと推測できます。

菊地ら(1997)は、96人の大学生を、信頼感が高い群と低い群に分け、相手の行動を正確に予測できるかについて実験を行いました。その結果の一部が下図となります。

 

性善説メリット

上図は「他人を信頼する傾向の強い人」は、「正確な行動をする」傾向があることを意味しています。すなわち相手を疑ってかかるよりも、信じた方が結果的に正しく、人の行動を予測できるのです。その意味で性善説の方が人間の行動の予測力が高いと推測できます。

 

デメリット

性善説な人は相手を疑わないため、騙されやすい傾向があります。例えば、世の中は善人だらけだと考えてると、詐欺にあうことがあります。この点、性悪説を取る方は、慎重に人間関係を進めていくので、騙されることは少ないと言えます。

性善説を取りすぎると、逆に不正を助長してしまうケースもあります。例えば、全幅の信頼をして経理を1人で任せたりすると、どんなに誠実な人でも会社のお金を使いこむ欲求に駆られます。このようなケースでは性悪説を取り、複数人でお金の流れをチェックする仕組みを作るなどして、不正から社員を守るなどの配慮が必要になります。

 

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コミュニケーション講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

*出典・参考文献
天貝由美子. (1995). 高校生の自我同一性に及ぼす信頼感の影響. 教育心理学研究, 43(4), 364-371.
天貝由美子. (1997). 成人期から老年期に渡る信頼感の発達. 教育心理学研究, 45(1), 79-86.
Gurtman, M. B. (1992). Trust, distrust, and interpersonal problems: a circumplex analysis. Journal of personality and social psychology, 62(6), 989.
Lewicki, R. J., McAllister, D. J., & Bies, R. J. (1998). Trust and distrust: New relationships and realities. Academy of management Review, 23(3), 438-458.
中井大介, & 庄司一子. (2006). 中学生の教師に対する信頼感とその規定要因. 教育心理学研究, 54(4), 453-463.
下坂剛. (2001). 青年期の各学校段階における無気力感の検討. 教育心理学研究, 49(3), 305-313.
Smith, T. W., & Frohm, K. D. (1985). What’s so unhealthy about hostility? Construct validity and psychosocial correlates of the Cook and Medley Ho scale. Health Psychology, 4(6), 503.

遺伝マインド –遺伝子が織り成す行動と文化 有斐閣  2011 安藤 寿康
桾本知子, & 山崎勝之. (2008). 大学生における敵意と抑うつの関係に意識的防衛性が及ぼす影響. パーソナリティ研究, 16(2), 141-148.
山中一英 (1995). 対人関係の親密化過程に関する質的 データに基づく-考察 名古屋大学教育学部紀要, 42, 127-134.
高橋ら(2012)ポジティブ側面への積極的注目に関する研究 : ポジティブ志向,主観的幸福感,ネガティブ認知,他者軽視との関連 学校教育学研究論集 26, 29-39, 2012-10-31
嶋大樹, 川井智理, 柳原茉美佳, 大内佑子, 齋藤順一, 岩田彩香, … & 熊野宏昭. (2017).
Acceptance Process Questionnaire の作成および信頼性と妥当性の検討. 行動療法研究, 43(1), 1-13.

Torgersen, S., Lygren, S., Oien, P.A., Skre, I., Onstad, S., Edvardsen, J., …, & Kringlen, E. (2000).
A twin study of personality disorders. Comprehensive psychiatry, 41(6), 416-25.