社会的手抜きの意味
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「社会的手抜き」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①社会的手抜きとは
②社会的手抜きの研究
③原因
④傍観者効果との違い
是非最後までご一読ください。
①社会的手抜きとは
意味
Latané, B.ら(1979)は社会的手抜きを以下のように定義しています。
集団課題状況で他者と同じ作業に関わっていると意識する場面で、一人当たりの努力量が低下する現象
平たく言えば、集団になるほど、メンバーがサボりやすくなるという現象です。別名リンゲルマン効果、フリーライダー(ただ乗り)、社会的怠惰ともいわれます。
具体例
・集団の会議で意見を言わなくなる
・綱引きで一人一人の力が弱くなる
・集団のダンスで自分だけ間違えてもバレないと思う
提唱者
社会的手抜きは農学者のマクシミリアン・リンゲルマンによって提唱されました。リンゲルマンは社会心理学の学者ではなく、農学を中心に研究を重ねていました。現在でも煙の測定に使用されているリンゲルマンスケールの開発者でもあります。
リンゲルマンは1882年から1887年にかけてグランジュアンの農業学校で、効率のよい作業を追求する実験の過程で社会的手抜きを発見しました。社会的手抜きは社会心理学に受け継がれ、古典的な理論として100年以上語り継がれています。
②社会的手抜きの研究
リンゲルマンの研究
Ringelmann(1913)は、個人と集団でどれだけ作業のパフォーマンスに差が出るかを調査しました。研究では、大学生102名を1~6人のグループに分けて比較しました。参加者たちが行った作業は以下の通りです。
・綱引き
・荷車を引く
・石臼を回す
その結果、以下のようになりました。
このように、2人の時がもっともメンバーの力の量が多く、人数が増えるほど力の量が下がっていることが分かります。集団になればなるほど、一人一人がサボりやすくなってしまうのです。
ラタネらの研究
B. Latané(1979)の研究では、社会的手抜きのメカニズムについて調査を行っています。研究では、チアリーダに目隠しとヘッドフォンをした状態で、拍手をしたり、叫んでもらい、その音量を測定しました。この時、2人のチアリーダである被験者に以下のように指示を行いました。
・被験者Aには
先に被験者Bが応援すると伝える
・被験者Bには
合図をしたら2人で応援してほしいと伝える
しかし、実際には、合図の時に被験者Aは応援せず、被験者Bは2人で応援していると思い込まされた状態になります。その結果、被験者Bは、1人で応援を行うときの94%の音量で応援を行ったことが分かりました。
③原因
Ringelmann(1913)によると、さまざまな対人関係のプロセスがチーム全体の習熟度を損なうため、潜在能力を十分に発揮できなくなります。グループの生産性低下の潜在的な原因として、以下の2つのプロセスが挙げられています。
1.動機づけがなされない
・自分の努力が正当に評価されない
・努力しなくても周りと同じ報酬が得られる
2.メンバー同士の調整が難しい
・サボっている人を見て努力が馬鹿馬鹿しくなる
・自分だけ成功することで周囲から孤立する
釘原(2013)は2つの原因が生産性に及ぼす影響を調べました。その結果が以下の図です。
上記の図では、1人で作業をした時の生産性の高さ100としています。一般的に考えれば、6人で作業をすれば600の生産性になるはずですが、2つの原因によって、200よりもやや低くなってしまっています。
④傍観者効果と違い
社会的手抜きとよく似た概念に、傍観者効果というものがあります。傍観者効果とは以下のような意味があります。
ある事件が起きた時に、自分の他に傍観者がいる時に率先して行動を起こさなくなる現象のことです。傍観者が多いほど、その効果は強力なものになる。
社会的手抜きは主にビジネス場面で用いられますが、傍観者効果は事件に限定するのが特徴になります。例えば、人が襲われていたとしても、周囲の人が傍観している場合、率先して助けようとする傾向が少なくなります。
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監修
・川島達史
・公認心理師,精神保健福祉士
・目白大学大学院心理学研究科卒
・Youtubeチャンネル
Ringelmann, M. (1913) “Recherches sur les moteurs animés: Travail de l’homme” [Research on animate sources of power: The work of man], Annales de l’Institut National Agronomique, 2nd series, vol. 12, pages 1-40. Available on-line (in French) at:
Latané, B., Williams, K., & Harkins, S. (1979). Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing. Journal of Personality and Social Psychology, 37(6), 822–832.
釘原(2013)人はなぜ集団になると怠けるのか 「社会的手抜きの心理学」中公新書2238
画像出典:https://www.slideshare.net/ellaabyou/ringelmann-effect