モラトリアムの意味とは

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「モラトリアム」について解説していきます。

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目次は以下の通りです。

①モラトリアムとは何か
②モラトリアムの構成要素
③モラトリアムの期間
④関連コラム

最後まで読むとモラトリアムの意味を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。

①モラトリアムとは何か

モラトリアムの意味

モラトリアムは以下のように定義されています。

能力がまだ十分に発揮していない青年が、社会に対して一定の距離を置いている状況。この時期に青年は生きるために働くのではなく、自由な精神で修行や役割実験に取り組むことができる(心理学辞典,1999,一部簡略化)

具体的には、やりたいことをじっくり探す、社会的な立ち位置を模索する、どう生きるべきかを模索するこれらの期間を意味します。モラトリアム期間はこのように、やりたいことが見つからない状態で、自分と向き合う期間として使われています。

提唱者

モラトリアムは1959年に、発達心理学者のエリクソンが提唱した概念です。エリクソンは人間が人生を通してどのように心を成長させていくのかを考えた学者です。エリクソンは1994年までご存命でした。生前の様子もあります。

エリクソンは「Identity and The Life Cycle」という書籍の中で、比喩的に「Psychosocial moratorium」という言葉を使いました。それ以来、モラトリアムは心理学の世界で浸透していったのです。

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語源

モラトリアムとは、元々経済学の用語でした。戦争等の緊急時に社会的な混乱を防ぐために法令として、債券の支払いを猶予する意味で用いられました。その後、自分に自信がなく、社会人になることを猶予する意味として比ゆ的に用いられるようになりました。

 

②モラトリアムの構成要素

モラトリアムは、さまざまな要素が複雑に絡み合って生じます。ここでは、モラトリアムの成り立ちについて考えていきましょう。下山(1992)によると、モラトリアムは以下の5つの構成概念から成り立っていると報告されています。

1.回避

将来的な展望が全くなく、職業決定に対して無気力で回避しがちになります。職業選択を先延ばしにするモラトリアムの典型的な要素とも言えます。

2.拡散

職業決定の意思はあるものの、方向性がブレてしまい、心理的に不安定な状態です。「回避」のように、自ら仕事選びを先延ばししているのではなく、決めあぐねによって結果的にモラトリアムになっています。

3.安易

職業決定を先延ばしはしないものの、真剣に向き合っていない状態です。将来への意欲がなく、受動的で安易な選択に終結することが多いです。

4.延期

大学期を社会的な責任を免除された期間とみなし、職業選択を先延ばしする状態です。大学期間は、自由に遊び楽しむが、必要な時が訪れれば、社会的な活動にも参加することが特徴です。

5.模索

自主的に職業選択に取り組み、社会的な責任を果たす努力をしている状態です。職業選択の重要性を考え、積極的に自分に適した仕事を模索するのが特徴です。

モラトリアムにも様々なパターンがあり、それぞれの強さによって行動も変わってきます。積極的に将来を模索する人もいれば、完全に放棄してしまう人もいるので、自分にあった傾向を考えておきましょう。

 

③モラトリアムの期間

エリクソンの時代

エリクソンの時代ではモラトリアム期間は13歳から20歳ごろと仮定されていました。これはエリクソンの時代は工業化社会の時代であり、一般的には20歳には社会に出ている人が大半であったことが時代背景にあります。

現代社会

現在の日本では大学進学率が50%を超え、20歳の時点で社会に出ている人は少数派となっています。またいったん就職をしたとしても、3年内離職率は30%以上であり、モラトリアム期間が継続していると推測されています。

新規学卒就職者の就職後3年以内離職率 ( )内は前年比増減
【 大学 】 32.0%  【 短大など 】 42.0%
【 高校 】 39.2%  【 中学 】 62.4%
*出典厚生労働省(2016)

人生の危機でも起こる

モラトリアム期間を脱していきいきとした生活をしていたとしても、なんらかの危機により再びモラトリアム期間に入ることもあります。例えば、会社の倒産により無職になる、子育て期間が終わる、リタイア後にやることがなくなる、スポーツ選手が引退したあと目標を見失うなどが挙げられます。私たちの人生はモラトリアム期間を定期的に体験することになるのです。

 

④研究紹介

回避と職業決定

下山(1992)は大学生369名を対象に、モラトリアムの下位分類を行いました。今回は結果の一部として、モラトリアムとアイデンティティの関係を示します。以下の図をご覧ください。

回避とモラトリアム

上図は、モラトリアムの典型レである「回避傾向」がある人ほど、職業決定がしにくく、アイデンティティを確立しにくいことを表しています。

拡散とアイデンティティ

続いて、以下の図をご覧ください。

拡散とアイデンティティ

上図は、何をしていいかわからないという状態を表す拡散傾向が高いほど、アイデンティティの確立がしにくいことを表しています。つまり、職業選択の方向性を決めあぐねることで、アイデンティティが漠然としていくと考えられます。

 

⑤関連コラム

モラトリアムの脱し方

姉妹コラムとしてモラトリアムから脱する方法を解説しました。具体的には、日記法、メタ認知、期限を決めるなどを解説しています。自分と向き合いたい方は下記のリンクを参照ください。

モラトリアム期間を脱する方法

やりたいことの見つけ方

モラトリアム期間は、やりたいことがみつからない…という悩みを抱えがちです。下記のコラムではやりたいことを見つけるコツを8つ解説しました。興味がある方は参考にしてみてください。

やりたいことの見つけ方

 

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監修

・川島達史
・公認心理師,精神保健福祉士
・目白大学大学院心理学研究科卒
Youtubeチャンネル

中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999)心理学辞典 有斐閣
下山(1992)大学生のモラトリアムの下位分類の研究 アイデンティティの発達との関連で Japanese Journal of Educational Psychology, 1992, 40, 121-129

新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00002.html