公的自己意識と私的自己意識
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「公的自己意識と私的自己意識」について解説していきます。
目次は以下の通りです。
①公的・私的自己意識とは何か
②事例で理解
③研究紹介
④関連コラム
是非最後までご一読ください。
①公的・私的自己意識とは何か
公的自己意識とは
公的自己意識は以下の意味があります。
自己意識が公的で外面的な側面(容姿や行動)に注意を向ける傾向
具体的には、自分が周りからどう見られているか気がかりになる、いつも人に良い印象を与えようと考えている、自分の容姿をいつも気にしている、などが挙げられます。
私的自己意識とは
私的自己意識は以下の意味があります。
自己意識が私的で内面的な側面(感情や態度)に注意を向ける傾向
具体的には、自分の感情に注意を払っている、自分の行動は常に把握している、自分自身を客観的に捉えているときがある、などが挙げられます。
②事例で理解
事例を通して、公的自己意識と私的自己意識の理解を深めていきましょう。
事例1
「好きな人と2人きりで散歩」している場面を想定します。
「話し方が変じゃないかな・・・」
⇒公的自己意識
「デートができて幸せだなあ~」
⇒私的自己意識
このような異性とのデート場面では緊張してうまく話せないことがあります。公的自己意識が強いと、嫌われたくないと思うあまり、言葉を選びすぎて結局黙ってしまいがちです。一方私的自己意識が高いと、自分の内面に注意が向かい、相手への印象を気にする傾向が減っていきます。
事例2
「会社で50人を前にスピーチをする」場面を想定します。
「失敗をして評価を下げてはいけない」
⇒公的自己意識
「自分が話すことに集中しよう」
⇒私的自己意識
失敗をしてはいけないと思うと、余計に緊張してしまい、いつも通りのパフォーマンスが発揮できません。自分の話す内容に目を向けて、自分の世界に入り込むと集中力も高まりパフォーマンスが上がります。
③研究紹介
公的自己意識と私的自己意識について、心理学の研究を見てきましょう。
対人恐怖心性との関連
堀井(2001)は対人恐怖と公的自己意識に関する調査を行っています。その結果が下図となります。
上図は、男子、女子ともに、対人恐怖傾向が高いと公的自己意識も高いという結果が出ています。図の中にある数字は、相関係数と呼び、関連の強さを表します。.500以上の項目は心理学的に影響は比較的大きいと考えます。対人恐怖傾向と「他人の評価が気になる」という心性は関連があることがわかります。
社交不安障害との関連
日本医療開発機構の川上(2016)は世代ごとの社交不安障害の有病率を調査しました。その結果が以下の図となります。
上図は、若い方ほど有病率が高いことがわかります。社交不安障害は公的自己意識が過剰な方ほどかかりやすい心の病気です。その意味で、公的自己意識は特に思春期から34歳ぐらいまでに最も強くなると推測されます。
自己関連付けとの関連
金子(1999)は学生261名を対象に被害妄想の心理について調査を行いました。その結果以下のことがわかりました。
被害妄想の1つ目の因子として「自己関連付け」があることがわかりました。自己関連付けとは、周りに起こるなんらかの出来事が自分と関連していると感じる心を意味します。
この意味で被害妄想がある方は、周りの出来事を自分のこととして考える傾向が強いと推測されます。金子の研究では以下の結果も得られています。
こちらの図は、自己関連付けが強い人は、他人の心を読みやすい、人間関係であれやこれや考えやすい、周りの人の見た目に囚われやすいことを意味しています。
猜疑心との関連
金子(1999)は学生261名を対象に被害妄想の心理について調査を行いました。その結果以下のことがわかりました。
被害妄想の2つ目の因子として「猜疑心」があることがわかりました。
被害妄想がある方は、疑い深く、自分が攻撃されているのではないか、ネガティブな評価をされているのではないか、と感じやすいと推測されます。金子の研究では以下の結果も得られています。
こちらの図は、猜疑心が強い人は、周りからみた自分をあまり考えない、自分の気持ちに焦点をあてやすい、人間関係で不安を抱えやすいことを意味しています。
被害妄想を抱えている方は、周りからの評価を感じる余裕がなく、自分のことで精いっぱいになっていると推測されます。
④関連コラム
公的自己意識の改善
当コラムでは公的自己意識・私的自己意識の意味や研究について解説してきました。メンタルヘルスの改善としては、人の目を気にする心理の改善が大事になります。公的自己意識が強く、緊張が強いと感じる方は以下のコラムを参照ください。
社交不安障害
公的自己意識が過剰になっている人の中には社交不安障害を抱えている方が一部いらっしゃいます。人と話すと緊張してひどく疲れる・・・という感覚がある方は以下のコラムを読むことをおすすめします。
コミュニケーション講座のお知らせ
公認心理師の元で、もっと心理学や人間関係の学習したい方場合は、私たちが開催しているコミュニケーション講座をオススメしています。講座では
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ダイコミュ用語集監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
※出典・参考文献
・対人不安研究における公的意識の意識について 菅原 健介1988 東京都立大学人文学報,196, 103116. 菅原健介
・自意識尺度 (self-consciousness scale) 日本語版作成の試み 菅原健介 心理学研究1984, Vol. 55, No. 3, 184-188
・「あがり」現象と自己意識 ― 対人不安への予備的考察 ― 島根大学教育学部紀要(人文社会科学)第40巻29頁~33頁
・公的自己意識が作り笑いに及ぼす効果 押見輝男 立教大学 心理学研究 2002-2003Vol73,NO.3,251-257
・堀井俊章(2001) 青年期における自己意識と対人恐怖心性との関係 山形大学紀要12,4