疎外感の意味とは

皆さんこんにちは。人間関係講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「疎外感」について解説していきます。

疎外感の意味,もものかんづめ様作成

目次は以下の通りです。

①疎外感の意味とは
②疎外感の構成要素
③疎外感と心理的影響
④自責と他責への影響
⑤関連コラム

最後まで読むと疎外感の意味を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。

①疎外感の意味とは

意味

疎外感は心理学辞典(2015)[1]によると以下のように定義されます。

社会集団との親密な関係が欠如している感覚
社会的な環境や自分自身への信頼が欠如している感覚
自分が期待されていないという感覚
(一部簡略化)

疎外感は以下のような文脈で使われます。

毎日一人でランチを食べているので疎外感がわく
LINEグループに招待されず疎外感を抱く
飲み会で孤立して、疎外感をおぼえる

孤独感との違い

疎外感と似た言葉に、孤独感があります。孤独感とは、寂しいという感覚が強い言葉です。そして、「孤独感」に「排除されている」という感覚が強くなってくると疎外感になります。その意味で疎外感は孤独感よりもネガティブな意味合いが強くなります。

疎外感と孤独感の違い

 

②疎外感の構成要素

疎外感は心理学の研究でより詳細に分析がなされています。

Seemanの研究

疎外感は社会心理学の分野で1960年代から「alienation」として研究されてきました。最初に疎外感を分析したのはSeeman (1959)という心理学者です[2]。Seemanは疎外感は以下の5つから構成されると主張してます。

1.無力さ 2.無意味さ 3.無基準 4.孤立 5.自己解離感

全体的に「無」が並んでいてネガティブな感情であることがわかります。集団の「外」にいる感覚があるとこれらの感情を覚えると言えます

Deanの研究

Dean(1961)は、疎外概念を以下 の3つに分けました[3]

1.無力性 2.無規範性 3.社会的孤立

無力性は行為の結果を理解し影響を与えることができない感情を指し、これはシーマンの無力さ・無意味さの考え方も含んでいます。ディーンの独自の視点から社会の中での個人の経験を通じて、これらの要素が疎外感を生むと認識されています。

宮下の研究

宮下(1981)[4]は、大学生176名を対象に、疎外感の中身について調査しました。その結果、疎外感には、以下の因子があることがわかりました。

1.孤独感 2.空虚感 3.圧迫拘束感 4.自己嫌悪

上記のうち、圧迫拘束感は、排除され、社会の片隅に追いやられている感覚です。例えば、職場で仕事を与えられず、オフィスの片隅に追いやられたとします。この時、仕事では自由を失い、拘束されている感覚になるのです。排除と拘束は表裏一体と考えられています。

③疎外感と心理的影響

疎外感と孤独感は似ていますが、疎外感の方がより危険な兆候が見られます。以下疎外感と心理的影響について研究を紹介します。

①自己価値の低下

西野(2007)[5]は小学生から中学生までの933名を対象に疎外感の研究を行いました。その結果の一部が下図となります。

疎外感 自己価値

上図は疎外感が増えると自己価値が低下することを意味します。疎外感があると「自分には価値がない」「いなくても良い存在だ」という感覚が増えてしまうのです。

 

②問題行動が増える

西野(2007)[5]は疎外感と問題行動についても調査を行いました。その結果の一部が下図となります。

疎外感 問題行動

上図は疎外感が増えると問題行動が増えることを意味しています。疎外感があると、そのマイナス感情は行き場所を求めます。それが、問題行動につながりやすくなるのです。

 

③将来への希望がなくなる

内閣府(2013)[6]は諸外国と日本の若者の心理について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。以下のグラフは「友人の数」が「自分の将来への希望」にどのように影響するかを示しています。オレンジ色は「希望がある」、緑色は「希望が無い」というイメージで捉えてみてください。

グラフを見ると、友人が多いほどオレンジ色の面積が広くなり、少ないほど緑の面積が大きくなっているのがわかります。この結果から、疎外感があると、将来への希望を見いだせなくなると推測できます。

幸福感が減る

北川ら(2011)[7]の研究では、大学生160名を対象にコミュティからの疎外と幸福感の関係について調査を行いました。その結果が以下の図です。まずは組織からの疎外について見ていきましょう。

 

組織からの疎外と幸福感

このように、組織からの疎外が増えるほど、「認知的幸福感」「感情的幸福感」が減ることが分かります。人は所属しているコミュニティから疎外されると、幸福感が減ってしまうと考えられます。

次に、家族からの疎外について見ていきましょう。以下の図をご覧ください。

家族からの疎外と幸福感

こちらも組織からの疎外と同じように、いずれの幸福感も減っていることが分かります。ただ感情的幸福感は、家族からの疎外の方が負の影響が強い結果となっています。「会話がない」「挨拶のない」などの疎外感が起こりやすい家庭は注意が必要といえるでしょう。

④自責と他責への影響

疎外感はさきほど解説したように、問題行動へと結びつきます。この問題行動は、大きくわけて2つの結果としてあらわれます。

自責

1つ目は、自分自身を苦しめる行動に結びつきます。たとえば、自傷行為、ギャンブルにのめりこむ、お酒に走るなどが挙げられます。疎外感を感じると自分を大事にすることができず、自分を苦しめるような行動をしてしまうのです。

他責

2つ目は、他人に対する問題行動です。たとえば、暴言、暴力、虐待などが挙げられます。極端な例となりますが、いくつかの事件にも疎外感が強く関連しています。気になる方は下記をクリックしてみてください。

*秋葉原通り魔事件
秋葉原通り魔事件とは、2008年に秋葉原で発生した通り魔殺傷事件です。元自動車工場派遣社員の加藤智大(犯行当時25歳)は、トラックで複数の歩行者に突っ込み、7人が死亡、10人が重軽傷を負わせました。加藤は、事件前に「友人が欲しい」「彼女さえいればこんなみじけな思いはしない…」という、疎外感をネットに書き込んでいました。

*下関通り魔殺人事件
下関通り魔事件は、1999年に、下関で発生した集団殺傷事件です。運送業の上部康明(当時35歳)は、乗用車ごと下関駅のガラスのドアを突き破り、駅構内の自由通路に車ごと侵入し、約60mを暴走しました。その結果、5名が死亡、10名が重軽傷を負いました。上部には「賑やかな場所、にぎやかな時期に一層疎外感を持つ。楽しそうにしている人をみると攻撃心がでる」という心理があったとされています。

 

⑤関連コラム

疎外感の改善

当コラムでは疎外感の意味や研究について解説してきました。疎外感を実際に改善するには、会話力をつける、コミュニティに所属するなどが挙げられます。詳しくは以下のコラムで解説しました。疎外感を感じている方はご一読ください。

疎外感を克服する方法

社交不安障害

疎外感を感じている人の中には社交不安障害を抱えている方が一部いらっしゃいます。人と話すと緊張してひどく疲れる・・・という感覚がある方は以下のコラムを読むことをおすすめします。

社交不安障害の基礎と治療法

コミュニケーション講座のお知らせ

人間関係に関する心理学を学びたい方、トレーニングをしたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

・疎外感を改善,温かいコミュニティに所属
・温かい人間関係を築くトレーニング
・温かい雰囲気を出す会話練習
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疎外感の意味,コミュニケーション講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1]

[2] Seeman(1959). On the meaning of alienation. Amen can Sociological Reυieω, 24, 783-791.

[3] Dean, D. G.(1961). “Alienation:Its Meaning and Measurement”, American Sociological Review 26-5:753-758.

[4] 宮下 一博, 小林 利宣(1981).青年期における「疎外感」の発達と適応との関係 教育心理学研究 29 巻 4 号 p. 297-305

[5] 西野 泰代(2007).学級での疎外感と教師の態度が情緒的な問題行動に及ぼす影響と自己価値の役割  発達心理学研究 18 巻 3 号 p. 216-226

[6] 内閣府(2013).平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 生活環境と個性が友人数に与える影響

[7] 北川夏樹, 鈴木春菜, 羽鳥剛史, 藤井聡(1999).共同体からの疎外意識が主観的幸福感に及ぼす影響に関する研究 土木計画学研究・論文集 第28巻