アイデンティティクライシスの意味

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「アイデンティティクライシス」について解説していきます。

アイデンティティクライシス,,elleve様作成

目次は以下の通りです。

①アイデンティティクライシスとは
②拡散しやすい状況とは
③メンタルへルスとの関連
④関連コラム

最後まで読むとアイデンティティクライシスの意味を一通り理解することができます。是非最後までご一読ください。

①アイデンティティクライシスとは

提唱者

アイデンティティクライシスは発達心理学者のエリクソンによって、1950年に提唱された概念です[1]。エリクソンは人間の心の成長過程に、アイデンティティ(同一性)が関わることをはじめて主張した心理学者です。こちらは生前のエリクソンの様子です。

拡散の意味

「クライシス」とは英語の「Crisis」から来ています。日本語でアイデンティティ拡散と表記されたり、アイデンティティ危機と訳されたりもします。心理学辞典(1999)[2]によると、アイデンティティクライシスは以下のように定義されています。

自己探求を続ける青年が、多くは一過性的に経験する自己喪失の状態を指す

アイデンティティクライシスは古典的には、青年期の課題とされています。青年期は、社会に出る準備をはじめる時期です。この時期に私たちは、人生とはなにか、自分らしさとはなにか、どう生きるべきか、と悩み始めるのです。

確立の意味

対立概念としてはアイデンティティ確立があります。意味としては以下のようになります。

自己探求する対象、自分の存在意義、目標が明確になっている状態

アイデンティティクライシスの時期に、自分と向き合い、考えつくしていくと段々と自分の目標や生き方が明確になっていきます。アイデンティティが確立されると、日々に充実感が増していくことが心理学の研究でわかっています。

発達課題

エリクソンは以下のように心理的な発達課題を8つに分けています。アイデンティティ(同一性)の確立と拡散については13~20歳前後に課題になるとされています。

アイデンティティ確立,拡散

 

②拡散しやすい状況とは

拡散しやすい状況とは

ここまで解説したように、エリクソンは青年期にアイデンティティクライシスが起こりやすいことを主張しましたが、現代では、生き方が流動的な時代になり、生涯を通しての課題になると言えます。代表的には以下のようなケースが挙げられます。

学校などで進路を考えるとき
就職,転職など働き方について考えるとき
外国などに留学した時
結婚するか、子供を作るか考える時期
大きな病気をした時

らせん式発達モデル

岡本(1994)[3]は、自身の研究の中でアイデンティティクライシスは人生を通して何度も訪れ、何度も乗り越えていくことでアイデンティティが確立されていくと述べています。モデルにすると下記のようになります。

アイデンティティ 拡散

この図は、アイデンティティのらせん式発達モデルといいます。上に行くほどアイデンティティが確立できている状態を示しています。私たちは、ぐるぐるとらせんを描きながら絶えず、自分とは何か?を考え、理解していくのです。

 

③メンタルへルスとの関連

アイデンティティクライシスは、心理的にマイナスの影響、プラスの影響があります。

マイナスの影響-対人恐怖心性と関連

谷(1997)[4]は279名の大学生に対人恐怖心性とアイデンティティ危機(拡散)について調査を行いました。その結果、対人恐怖性心性とアイデンティティクライシスとの間に、.53と中程度の相関があるという結果が報告されています。

アイデンティティ拡散 対人恐怖

これは、アイデンティティ危機がある場合、対人恐怖の傾向が出やすいと解釈できます。アイデンティティが拡散している時期は、何をすべきかがはっきりとせず、活力が低下しがちです。思考も内面に向かいやすく、人間関係が不安定になると推測されます。

プラスの影響-人生の意味を再構築

アイデンティティクライシスの時期には重要な意味があります。それは自分のあり方について見つめ直すことができるという点です。最近の心理学の研究では、挫折や危機を乗り越えると、人は大きな成長を遂げることがわかってきています。

この成長は、ポストトラウマティックグロース(Posttraumatic Growth)「PTG」と言ったりします。

Tedeschi & Calhoun(1996)[5][6]によれば、PTGは以下のように定義されています。

トラウマあるいはストレスフルな出来事との奮闘によって生じるポジティブな心理的変容

例えば、若い時に、大きな病気をして回復した後に、今度は自分が誰かを助ける番と考え、看護師や医者を目指す方がいます。

私の周りでは、親族が自殺をしてしまい、その悲しみを乗り越えた後に、自殺予防の団体を立ち上げて活動されているかたもいます。

皆さんの周りいる、信念を持って活動している方は大概のケースで何らかの危機を味わい、それを乗り越えた経験を持っているのです。このようにアイデンティティクライシスは、精神的に堪えるものではありますが、人生をトータルで見れば、人間的な大きな成長をもたらす時期ともいえるのです。

④関連コラム

アイデンティティを確立する方法

姉妹コラムとしてアイデンティティを確立する具体的な方法を解説しました。ライフチャート法、メンタライゼーション法など、自分と向き合いたい方は下記のリンクを参照ください。

アイデンティティを確立する方法

やりたいことの見つけ方

アイデンティティクライシスの時期は、やりたいことがみつからない…という悩みを抱えがちです。下記のコラムではやりたいことを見つけるコツを8つ解説しました。興味がある方は参考にしてみてください。

やりたいことの見つけ方

心理学講座のお知らせ

心理学をより深く学びたい方、人間関係に関するトレーニングをしたい方は、公認心理師主催の講座をおすすめしています。内容は以下の通りです。

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・モラトリアム期間の過ごし方
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ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1]  Erikson.E.H(1950).Childhood and society. New York: Norton.(仁科弥生(訳)1977,1980 幼児期と社会1・2 みすず書房)

[2]  中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999).心理学辞典 有斐閣

[4] 谷冬彦(1997).青年期における自我同一性と対人恐怖性心性 教育心理学研究 45号3巻 254-262

[5] Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (1996). The posttraumatic growth inventory: Measuring the positive legacy of trauma. Journal of Traumatic Stress, 9, 455–471,
*[5] の記述は[6] を参考にしました。

[6] 上野雄己,飯村周平,雨宮怜,嘉瀬貴祥(2016).困難な状況からの回復や成長に対するアプローチ ―レジリエンス,心的外傷後成長,マインドフルネスに着目して―Japanese Psychological Review *P189を参照