仮現運動の意味

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「仮現運動」について解説していきます。

目次は以下の通りです。

①仮現運動とは何か
②提唱者,歴史
③仮現運動の種類
④仮現運動の応用

是非最後までご一読ください。

①仮現運動とは何か

運動の知覚

認知心理学や知覚心理学では、対象の動きや自分の体の動きやスピードを知覚する心理プロセスを「運動の知覚」と呼びます。運動の知覚には、以下の2つの種類があります。

・仮現運動
・実際運動

仮現運動

仮現運動(apparent movement)とは以下の意味があります。

物理的運動が存在しないにもかかわらず知覚される見かけの運動[1]

例えば、電光掲示板などは実際に文字が動いていないですが、光の点滅のタイミングをずらすことで動いているように見えます。

この仕組みは、刺激が呈示される時間差を利用したもので、心理学ではこの最適な時間差や刺激の距離などが研究されてきました。そして、仮現運動の原理は、映画やアニメでの応用にも生かされています。

実際運動

実際運動とは以下の意味があります。

対象物が実際に運動することで知覚される運動

投げられたボールの動きをよく見て打ち返す、お互いぶつからないように車間距離を取る、などが実際運動にあたります。実際運動では、対象のスピードが遅すぎたり、早すぎたりすると知覚することができません。例えば、植物は厳密には成長していますが、速度が遅いため変化をしているようには見えません。また光は早すぎるために動いているようには見えません。

 

②提唱者

仮現運動はゲシュタルト心理学で有名な、マックス・ウェルトハイマー(1912)[2]が『運動視の実験的研究』によって提唱しました。ウェルトハイマーはドイツの心理学者で、運動視などの実験的研究を進めていた人物です。

ヴェルトハイマーの実験では、タキストスコープとストロボスコープを用いてさまざまな実験が行われました。被験者として、ヴォルフガング・ケーラー、クルト・コフカ、およびコフカ夫人の三人を対象に行いました。これらの実験によって、ゲシュタルト心理学フランクフルト/ベルリン学派が形成されたことが明らかになりました。

実験では、被験者が以下の2つのイメージを交互に表示するスクリーンを観察する実験が行われました。

1.枠の左側に引かれた線が描かれている
2.枠の右側に線が描かれている

これらのイメージは、高速で切り替えられることもあれば、時折数秒の間隔を空けて表示されることもありました。実験終了後、被験者にどのような知覚を体験したか尋ねられました。

特定の切り替え間隔を使用すると、被験者はさまざまな知覚を報告しました。一部の被験者は2つの線を個別に認識し、切り替わる線を識別できました。別の被験者は滑らかな運動を感じ、線が移動しているように見えたと報告しました。また、同時に2本の線が存在しているように感じることもありました。

ウェルトハイマーのβ運動は、狭義の仮現運動として定義されていることもあります。ウェルトハイマーはゲシュタルト心理学の提唱者でもあり、ゲシュタルト心理学についての詳しい解説はこちらからご覧ください。

③歴史

仮現運動の歴史は19世紀初頭にまでさかのぼります[3]

1833年

1833年に、ジョセフ・プラトーはストロボ効果に基づく初期のアニメーションデバイスであるフェナキスティスコープを導入[4][3]し、これが後の映画撮影の発展に影響を与えました。その後、多くの研究者は、静止画像の高速連続によって生じる「動きの錯覚」について議論しました。研究者の中には、この効果は網膜上の残像や視覚の持続に関連する精神的プロセスによるものだと主張する者もいました。

1875年

1875年には、シグムント・エクスナーが実験を行い、空間的に離れた2つの急速な電気火花が1つの光として見え、より速いフラッシュは2つの静止した光の間の動きとして解釈されることを示しました。エクスナーは動く光の印象が知覚であり、静止した光の間の動きは純粋な感覚であると主張しました[5][3]

1912年

1912年には、マックス・ヴェルトハイマーが影響力のある記事を執筆し、ゲシュタルト心理学の基礎を築きました。その中で、彼はタキストスコープの実験を紹介し、フラッシュの頻度によって異なる知覚が生じることを示しました[2]

低周波数では同じ図形が異なる場所に連続して出現し、中程度の周波数では1つの物体が移動しているように見え、高速でフラッシュされる場合には物体のない移動現象が見られました。ヴェルトハイマーは、これを「仮現運動」と呼び、高周波の物体のない錯覚を動きのより直接的な感覚経験と考えました。

1913年

そして、1913年にはフリードリヒ・ケンケルが、ヴェルトハイマーとクルト・コフカによる実験からさまざまな種類の錯視運動を定義し、最適な錯覚に「β-Bewegung(ベータ運動)」という名前を付けました[6][3]

③仮現運動の種類

仮現運動には様々な種類があります。

α運動

α運動は、矢羽が内側のものと外側のものを交互に同じ位置で提示すると主線が伸縮して見えることです[7][8]

仮現運動 a運動

β運動

β運動は離れた二点間に、刺激を交互に提示することで、先に提示した位置から、後に提示した位置に向かって、刺激が移動したように知覚される現象です。簡単な例として、踏切の警報機があります。赤い2つのランプは交互に点滅を繰り返します。交互に一定の感覚で点滅することによって、動いているように見えます。

仮現運動と踏切

自動運動

暗がりで提示された光の点をしばらく見つめると、物理的運動がないにも関わらず、光の点が動いて見える現象です。

運動残効

一定方向に動く対象を見つめた後に、静止した対象を見ると静止した対象が動いてみられる現象です。「渦巻き残効」や「滝の残効」などが有名です。

誘導運動

例えば、流れる雲の間に月があると、月が動いているように見える現象です。「取り囲むもの」と「取り囲まれるもの」の間に運動が知覚されるとされています。

 

④仮現運動の応用

アニメーションでの応用

アニメは静止画に少しずつ変化を加えながら何枚も重ねることで、動いているように見えることを応用しています。実際には動いていないけれど、運動が起きているように知覚する仮現運動の働きによるものです。

アニメーションで仮現運動が起きる説明として、吉村ら(2014)[7]は仮現運動を長いレジンと短いレジンに分けて、アニメは短いレジンの仮現運動であると主張しています。

短いレジンとは、脳で処理をするよりも速い知覚であり、アニメは即時的に処理されている仮現運動であると考えられています。

視覚情報以外への応用

仮現運動は視覚情報だけでなく、他の感覚にも応用されています。例えば、武田(2020)[8]は触覚での仮現運動に注目して、風の吹き抜け感覚を生み出す研究をしています。

この研究では、顔の頬部分に空気砲で風を吹きかけ、そよ風として感じるかの実験をしています。単発の空気砲を頬の3か所に当てて、それぞれ時間差をつけることで仮現運動を生じさせます。その結果、風が吹き抜ける感覚が得られたとしています。

こうした実験は、VRやアトラクションなどに応用されて、よりリアリティを追求したコンテンツの作成に応用が期待されています。

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仮現運動の意味とは,心理学講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 中島 義明・子安 増生・繁桝 算男・箱田 裕司・安藤 清志(編)(1999).心理学辞典.有斐閣

[2] Max Wertheimer. (1912). Experimentelle Studien über das Sehen von Bewegung. Zeit Schrift Für Psychologie, 61, 161-265

[3] Wikipedia Default mode network 

[4]Lipton, Lenny (2021)、Lipton, Lenny (ed.)「Plateau Invents the Phenakistscope」The Cinema in Flux: The Evolution of Motion Picture Technology from the Magic Lantern to the Digital Era ニューヨーク、NY: Springer US 、43 –50ページ

[5] Exner, Sigmund (1875). “Über das Sehen von Bewegungen und die Theorie des zusammengesetzten Auges in“. Sitzungsberichte der Mathematisch-Naturwissenschaftlichen Classe der Kaiserlichen Akademie der Wissenschaften. V.71-72: 363. Retrieved 12 December 2020 – via HathiTrust.

[6] Kenkel, Friedrich (1913). “Untersuchungen über den Zusammenhang zwischen Erscheinungsgröße und Erscheinungsbewegung bei einigen sogenannten optischen Täuschungen“. Zeitschrift für Psychologie. 67
*[4][5][6] の記述は[3]を参考にしました。

[7] Wikipedia Müller-Lyer illusion

[8] Müller-Lyer, FC (1889). “Optische Urteilstäuschungen“. Archiv für Physiologie Suppl. 1889: 263–270
*[7]の記述は[8]を参考にしました。

[9] 武田十季,新島有信,佐藤隆(2020).仮現運動を利用した空気砲による風の吹き抜け感覚提示 日本バーチャルリアリティ学会論文誌 25(4),319-325

[10] 吉村浩一,佐藤壮平(2014).映画やアニメーションに動きを見る仕組み:仮現運動説をめぐる心理学的検討 法政大学文学部紀要 (69), 87-105

・その他の出典
画像出典:https://gifmagazine.net/post_images/69110
画像出典:https://en.wikipedia.org/wiki/M%C3%BCller-Lyer_illusion