社会脳の意味とは

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「社会脳」について解説していきます。

社会脳の意味とは,丑蟻様作成

目次は以下の通りです。

①社会脳とは何か
②社会脳と脳領域
③脳とネットワーク
④ダンバー数とは?
⑤社会脳と精神疾患

是非最後までご一読ください。

①社会脳とは何か

意味

まずは社会脳の定義から見ていきましょう。精神行動科学の専門家であるBrothers(1990)は以下のように定義しています[1]

社会脳とは、表情や他人の動きなどの社会的知覚や認知を引き起こす領域

心理学において「社会」は個人や集団を含めたあらゆる人間関係を指します。この意味で、「社会」脳は、相手の言葉や行動から、相手の意図を予測し、人間関係を円滑にするための脳機能全般と言えます。

社会脳と年齢

社会脳は生まれながらにあるものです。例えば、0歳から3歳ぐらいまでは、泣いたり、笑ったりして、母親とのコミュニケーションを測ろうとします。4歳になると、自分だけでなく、他人にも心があることが分かるようになり(シンパシーと,サリーアン課題)、友達と遊んだり、あやまったり、お礼をいったりすることができるようになります。

13歳前後になると、公的自己意識が爆発的に増加し、人からどう見られているか?という意識が増え、大人の社会に適応する準備を始めます。ただし、思春期は社会のバランスが悪くなりがちで、人間関係でトラブルを抱えやすく、深刻になると社交不安障害などの精神疾患につながることもあります。

提唱者

社会脳という言葉は、1990年にイギリスの進化人類学者レスリー・ブラザーズが初めてヒトを対象に「social brain」という言葉を使用したことをきっかけに広まりました[2]。ブラザーズの研究は、他人の意図や感情を理解する能力、心の理論、社会的行動の神経基盤に焦点を当てています。

ブラザーズ「社会脳」の概念を提唱し、人間の脳が進化の過程で社会的相互作用に適応してきたと考えました。この視点から、言語やコミュニケーションの発達は、集団で生活する必要性から生じたものであると主張していきます。

ブラザーズは、社会的な環境が個体の脳の発達に影響を与え、他者との関係構築が生存と繁栄にとって不可欠であると主張しました。ブラザーズの研究は、感情の共感や他者の行動を理解する能力が、社会的な成功につながる重要な要素であること示しています。

②社会脳と脳領域

社会脳は実際に存在するのでしょうか。この点については、90年代から脳画像研究などが盛んになり、「扁桃体、島皮質、側頭葉、側頭葉と頭頂葉の境界、帯状回、帯状回後部」が社会脳に関与することが確認されています[3]。またそれぞれの脳領域には、異なる機能があります。

側頭葉―後頭葉
人の顔や表情の認知、記憶

扁桃体
恐怖など強い感情の認知

内側前頭前野
感情を調節しつつ相手に合わせる


他者に共感する

 

脳領域の図

出典:kennedy & Adolphs(2012)p.559-572

 

③脳とネットワーク

ネットワーク機能とは

脳領域はそれぞれに異なる機能をもっていますが、ネットワークが相互に関わり、社会脳に関与していること確認されています。以下は代表的な脳ネットワークです[3]

偏桃体ネットワーク
社会的刺激への情動反応、社会的神話的な行動

メンタライジングネットワーク
他者の内的状況を推測する、忖度する

共感ネットワーク
他者との共感

ミラーリングネットワーク
他者の行動・情動表出の観察

脳ネットワーク

出典:kennedy & Adolphs(2012)による図を一部修正

 

メンタライジグネットワークとは

脳ネットワークの中でも「メンタライジングネットワーク」は、空気を読むために重要とされています[4]。メンタライジングとは、他者のこころの状態(欲望、意図、信念)を推測することで相手の行動を説明し、予測することをいいます。この機能を使うことで、相手とのやりとりで他者を欺いたり、だましたり、教えたり、説得することができるのです。

メンタライジングに関わる脳領域

出典:Frith, U., & Frith, C. D. (2003)を参考に作成

④ダンバー数とは?

社会脳の代表的な研究として、ロビン・ダンバー(1992)[5][6]が行った大脳新皮質と社会集団の大きさを調べたものが挙げられます。その中で、ダンバー数という概念が提唱されました。

ダンバー数とは?

ダンバー数(Dunbar number)は、人間が維持できる社交関係の上限が約150人であるという理論です。この数字は、個々の人が抱える親しいなかにいる友人や家族、仕事仲間など、直接的な関係が維持可能な限界を示しています。

ダンバーは、この数値が生物学的な制約に起因していると考えており、大きな社会になるほど、個々の関係が複雑になり、維持が難しくなると説明しています。

ダンバー数の研究

ダンバーは、38種類の霊長類のデータをもとに、人間の平均的な集団の大きさを約150と推定しました。しかし、この推定値には大きな誤差測定があるとしました。ダンバーは、この推定値を実際の人間集団の数と比較しました。

人類学と民族誌学の文献を調査し、狩猟採集社会の人口調査から得た情報をもとに、集団を小中大の三つのカテゴリに分類しました。それぞれの集団数は30~50、100~200、500~2500であるとしました。

最終的に、ダンバーは以下のような人間の社会集団の大きさを提唱しました。

自分が知っている人⇒1500人
知人⇒500人
友人⇒150人(ダンバー数)
仲良しな友人⇒50人
親友⇒15人
親密な関係⇒5人

以下は結果を図にしたものになります。

社会脳 ダンバー数

このように関係を構築できる人数は150人までで、それ以上を超えると知人になり、さらに500人を超えるとただ自分が知っている人、認識しているだけの人になります。

さらに、ダンバーは、集団数の上限は社会的な「分散の度合い」に左右されると指摘しています。「分散度」の高い社会では接触機会が少なくなり、親密さも低減するため、集団数は小さくなると述べています。つまり、厳しい環境の場合にのみ、上限150の集団が形成されると結論づけています。

⑤社会脳と精神疾患

社会脳が障害されると精神疾患につながることがあります(厚生労働省の定義を一部抜粋)。

自閉症スペクトラム
自閉症スペクトラムとは、コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手な障害です。自閉症スペクトラムは、最新の脳研究で社会脳の働きに偏りがあることがわかっています。

パーソナリティ障害
パーソナリティ障害は、大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんだり、周囲が困ったりする場合に診断されます。ものの捉え方や考え方、感情のコントロール、対人関係といった種々の精神機能の偏りから生じるものです。

認知症
認知症になると、人の顔を覚えられないなどの相貌失認(そうぼうしつにん)の症状が出ることがあります。また怒りっぽくなったり、人の気持ちを考えられなくなることがあります。

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社会脳の意味,コミュニケーション講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[3] Kennedy, D. P., & Adolphs, R. (2012). The social brain in psychiatric and neurological disorders. Trends in cognitive sciences, 16(11), 559-572.

[4] Frith, U., & Frith, C. D. (2003). Development and neurophysiology of mentalizing. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences, 358(1431), 459-473.

[5] R.I.M. Dunbar,(1992).Neocortex size as a constraint on group size in primates, Journal of Human Evolution,
Volume 22, Issue 6,

[6] Robin Dunbar Dunbar’s number, New Scientist
*[5]は[6]を参考に記述しました。