本音と建前の意味

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「本音と建前」について解説していきます。

目次は以下の通りです。

①本音と建前とは
②日本特有の文化説
③世界的に共通するとする説
④本音を隠す心理学的要因

是非最後までご一読ください。

①本音と建前とは

意味

本音と建て前は以下の意味があります。

ある文化社会で尊守されるべき言語規範と各個人の持つ真の意向の対極(北山,2010)[1]

このように、「表の顔」と「裏の顔」との対照を意味しています。

語源

本音と建前は有名な棟梁が、自分の見栄やプライドのために奥さんを殺してしまった話が語源だとされています。棟梁は、建前の前日に玄関の柱を短く切ってしまいました。寸法がどうしても合わず、自分のミスを恥じた棟梁は自殺しようと決意します。

そのこと知った奥さんは「自分が代わりに死んでもいい」と思い、棟梁に酒を飲まし寝かしつけました。その間に考えた方法が、枡組という方法です。翌朝奥さんが枡を棟梁に渡し、足りない部分を埋め合わせることで事なき得ました。

しかし、自分のミスを知られたくないあまり、棟梁は奥さんを殺してしまいました。棟梁は自分の罪を恥じ、女の七つ道具(口紅・鏡・櫛・かんざし・おしろい・こうがい・かつら)を棟の上に飾って供養しました。

本音で尽くした女と、建前にこだわる男。この対照的な2人になぞらえて本音と建前という言葉が誕生したのです[2]

具体例

・表では仲良くしているが裏では憎しみ合っている
・上司のギャグがつまらないけど、とりあえず笑う
・誘いを歓迎する態度を取るが実は嫌がっている

などが挙げられます。

②日本特有の文化説

従来から日本人は本音と建て前を使い分けると言われてきました。

本音を話さない日本文化

日本人は本音を話さず、相手の気持ちを大事にする文化があります。曖昧な部分から、相手の「本音」を判断する国民性があります。「言葉や文字」にする前に相手の本音を読み取り行動できると「気遣い上手」と褒められます。

・空気を察する
・気配り
・おもてなし
・配慮

このように日本語には相手の本音を大事にする言葉が多くあります。世界的にも、日本が本音を汲み取って行動すること大切にする傾向があるようです。

なぜ日本人は相手の本音を汲み取ってコミュニケーションを行うのでしょうか。1つの説として、西洋と東洋の考え方の違いがあるとされています。西洋はユダヤ教やキリスト教など、一神教の宗教によって文化が形成されてきました。

一神教は神だけ絶対的であり、それ以外はすべて相対化されます。つまり、場の空気は神ではないので、個人が場の空気に一石を投じることに抵抗がありません。

一方で、東洋は仏教やアミニズムなどの多神教の宗教によって文化が形成されていきました。多神教では、その時の場の空気によって絶対的な神が変わっていきます。その場の空気を変えようとするのではなく、場の空気に適応するような生活になっていったのです。

学生による本音を隠す頻度,国際比較

前川(2000)[3]では、本音を表明しない頻度について、日本人304名、欧米人163名、マレーシア人35名を対象に、質問調査紙を用いて国際的な調査を行いました。その結果、以下の図です。

本音 国際比較

図のように、日本人は本音を表明しない頻度は、「滅多にない」が一番を多く、次に「時々ある」が多い結果となっています。「一度もない」については各国と比較してももっとも低い数値となっています。

アメリカも日本と同じく、「滅多にない」が一番多く、次に「時々ある」が最も多い結果になりました。スウェーデンは「頻繁にある」はゼロで、「滅多にない」「時々ある」が多くなっています。また「一度もない」が各国と比較して最も多い数値となっています。

マレーシアは「頻繁にある」が最も多く、次に「滅多にない」が多い結果となっています。

日本人の傾向としては、常に本音で親友と向き合う人が少ないと言えるでしょう。

思いやりと国際比較

総務庁青少年対策本部(2004年当時,現総務省)[4]の調査によると、「親が子どもに望む性格特性」として、日本は「思いやり」を1番に重視していると報告されています(図1)。

本音と建て前の心理学的な意味

 

 

アメリカや韓国では「責任感」、韓国は「礼儀正しさ」が一番に高い結果となっていますが、日本は思いやりが1番となっています。ここからは推測となりますが、日本人は相手が傷つかないように、本音と建て前を使い分けながら、協調関係を結ぼうとする特徴があると推測されます。

③世界的に共通する説,矛盾する研究

本音と建て前は日本人特有のものではないとする説もあります。

アッシュの同調実験と日米差

アッシュの同調実験とは、ソロモン・アッシュ(1956)で行われた集団行動についての古典的な実験のことです[5]

実験では、被験者8人の各グループが半円形に並んで座ってもらいました。しかし、このうち7人実験者が仕組んだサクラです。実験者は全員に基準となる直線を見せた後、3本の異なる長さの直線を見せて、基準となる直線同じ長さものの示すように被験者へ求めました。

実際の実験で用いられた直線は以下になります。

アッシュの同調実験

サクラではない本物の被験者は、最後から2番目に回答する順番となっていました。答えはもちろん「C」なのですが、本物の被験者よりも先に回答する6人のサクラは、あえて間違った回答をするように指示されていました。

その結果、間違った回答に同調する割合は37%、被験者の¾が1回が同調行動を示す結果となったのです。

アッシュの同調実験はアメリカで行われたもので、和を重んじる日本であればもっと同調率が高まると考えられそうです。

そこで、高野(2008)[6]では、アメリカ人より日本人の方が集団主義なのか?を調査すべく、日本人216名を対象にアッシュの同調実験を可能な限り再現しました。その結果、平均同調率は25%でした。

一般的には、アメリカよりも日本は集団主義が強いイメージがありますが、実際のところ日米比較しても大きな差はなく、むしろ日本の方が自分の考えを示す傾向が見られたのです。

橋本による日米比較研究

協調には、「排除回避の協調性」「調和への協調性」の2つがあるという見解があります(橋本,2015)[7]。排除回避の協調性とは、嫌われたくないから協調する、仲間外れにされたくないから協調する、という意味があります。

一方で「調和への協調性」は和を大事にしたい、みんなの役に立ちたい、という前向きな協調性になります。ここからは推測となりますが、本音と建て前が見られるとき、その裏側にはこの2つの心理が影響していると考えられます。

橋本ら(2015)[7]は日本人大学生118名、アメリカ人大学生112名、を対象に協調性に関する研究を行いました。その結果の一部が下図となります。

こちらは「排除回避の協調性」について日米で比較したものです。排除されたくないから協調するという傾向は、日本人の方が10%程度高いことがわかります。

本音 排除回避の協調性

こちらは「調和への協調性」について日米で比較したものです。和を大事にしたい、みんなの役に立ちたいという協調性はアメリカの方が20%程度高いことがわかります。

本音 調和への協調性

ここからは推測となりますが、本音と建て前を使う場合、排除されたくないから建て前を使うのは日本人にある傾向で、調和をしたいから建て前を使うという傾向はアメリカ人にも見られると考えられそうです。

④本音を隠す心理学的要因

本音で語りやすい人、建て前を使いやすい人については心理学で様々な研究があります。関連する研究を紹介します。

①本音と対人信頼感

松永ら(2008)[7]は「本音、気遣い、うわべ」と様々な心理的な指標について調査を行いましました。まずは、「対人的信頼」との関連を見ていきましょう。対人的信頼は、「周囲に対する信頼感」のことを意味しています。


本音と建て前の研究

「本音群」のグラフが「うわべ群」に比べて差が開いています。本音で話す人はうわべで話す人に比べて、周りの人を信用していると言えそうです。言い換えると本音で話す人は相手を信頼するがゆえに、建前よりも本音で話す傾向があると言えそうです。

②本音と基本的信頼感

「基本的信頼感」との関係を紹介します。基本的信頼感とは、

・他人から無条件に認められている
・私は信頼されている
・大概の事はうまく行く

という感覚を意味します。下図のグラフは「基本的信頼感」と「本音、気遣い、うわべ」の関連について調べたものです。

 

本音と基本的信頼

「本音で話す傾向がある」方が基本的信頼感がもっとも高いですね。その意味で本音を話す方は、世の中全般的に信頼していると言えます。周りを信頼しているからこそ本音でコミュニケーションができるのですね。

逆に基本的信頼感が低い方は、気遣いやうわべが大きくなります。世の中に対する信頼が低いため、自分の本心を取り繕ってしまい、建て前ばかり話してしまうのです。

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コミュニケーション講座のお知らせ

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本音と建前の意味とは,コミュニケーション講座

ダイコミュ用語集監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 北山環(2010).呼称に見られる「建前」と「本音」–映画のビジネス場面における呼び名を分析して 語学教育部ジャーナル  6号3 – 23ページ

[2] 駅員3(2017).本音と建て前と沽券にかかわる話 カクヨム

[3] 前川智子(2000).本音を表明しない頻度調査-異文化理解のために 長崎総合科学大学紀要第40巻第2号

[4] 総務省(1995).「子供と家族に関する国際比較調査 」 青少年対策本部

[6] 働き方改革研究所(2022).日本人は集団主義なのか-実証研究を参考に記載,Takano,Yotaro and S.Sogon(2008). Are Japanese More Collectivistic than Americans?: Examining Conformity in In-Groups ans the Reference Group Effect, Journal of Cross-Cultural Psychology, vol.39, pp.237-250.

[7] 橋本博文, 山岸俊男(2015).適応論的視点にもとづく独立性と協調性の日米差の検討 日本心理学会第79回大会 セッションID: 3AM-016

[8] 松永真由美 ,岩元澄子(2008).現代青年の友人関係に関する研究 久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research 7 77-86,久留米大学大学院心理学研究科