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性善説・性悪説はどっちの方が生きやすい?

性善説・性悪説はどっちの方が生きやすい?心理学的に解説

みなさんはじめまして!精神保健福祉士の川島です。私は、これまで精神保健福祉士として精神疾患を抱える方にカウンセリングを行ってきました。当コラムでは「性善説・性悪説」をテーマに専門家が解説をしています。しっかりと対策をお伝えしたいので全部で8分程度かかります(^^;ちょっと大変ですが。是非お付き合いください。 

①性善説・性悪説とは何か

性善説・性悪説はgoo辞典によると、以下のように定義づけがされています。

せいぜん-せつ 【性善説】
人間は善を行うべき道徳的本性を先天的に具有しており、 悪の行為はその本性を汚損・隠蔽することから起こるとする説。正統的儒学の人間観。孟子の首唱。

「人は生まれつきは善であり、悪行はそれを隠すために行われる」というのが性善説です。

せいあく-せつ 【性悪説】
人間の本性を利己的欲望とみて、善の行為は後天的習得によってのみ可能とする説。孟子の性善説に対立して荀子が首唱。

人は生まれつきは悪であり、成長の過程でしか善を学ぶことが出来ない」とするのが性悪説です。

②性善説・性悪説のタイプ

一口に性善説・性悪説と言っても実は4つのタイプがあると言われています(Lewicki,1998)。以下の図は「信頼」「不信」のバランスからそれぞれの対人関係の特徴を表した図です。タイプ別の特徴をご説明します。図の見方ですが、

縦軸 ↑↓ 「信頼」は「性善説」
横軸 ↔  「不信」は「性悪説」

になります。皆さんは下の表の、どの項目に当てはまりそうでしょうか?例えば、完全な性善説の方は、「強い性善説」「弱い性悪説」となります。性善説である性悪説である方は、「弱い性善説」「弱い性悪説」となります。

では、この4つのタイプの特徴について詳しく見ていきましょう。

 

1:無関心型

性善説でも性悪説でもないタイプです。つまり、人間にはもともと善悪など存在しないと考えるタイプです。他人への興味が希薄化しやすく、うわべの関係になりやすいのが特徴です。少し狭い範囲で、限られた人との付き合いをする人が多いでしょう。

2:性善説型


性善説の方です。人間はそもそも「善」であるという考え方が前提にあるので、理他人を疑うことが少なく、他者を信頼する傾向にあります。相手を警戒せずに多くの経験をし、より多くの信頼関係を作ることができます。このタイプはメンタルヘルスの状態もよく、理想的な考え方であると言えます。

3:性悪説型


性悪説の方です。人はそもそも「悪」であると考えるため、他人から何かポジティブな行為を受けても心をオープンにすることができません。他人への不信感が拭えずに、警戒心が強い傾向にあります。その結果、人間関係を円滑に維持することが難しくなります。

4:情緒不安定型


情緒不安定型の人の特徴とは、人によって態度が大きく変わることです。信頼できる人は強く信頼し、苦手な人には強く警戒心を抱きます。好き嫌いがハッキリしているため、周りの環境に大きく左右されることが多くなります。

③性善説のメリット:自分が好きになる

それでは、心から相手を信頼できる性善説には、どんなメリットがあるのでしょうか?高橋ら(2012)の研究では、大学生234名を対象に、「他人のポジティブ面に注目することの心理的な影響」を調査しました。その結果、以下の図のようになりました。

「他者肯定感」は、自己肯定感を高めることにつながり、幸福感も上がることが分かりますね。一方で、他人を低く見積もる「他者軽視」においてマイナスの相関を示しています。これは、他者肯定感が強い人ほど、他人を軽視する傾向が低くなることを表しています。

また、今回は「相関がある」ということなので、その逆も同じことが言えます。例えば、自分の肯定することで、他人への不信感を和らげることにつながります。また、当然といえば当然ですが、相手を軽視することが少なくなれば、他者肯定感を高めることにもつながるのです。

④性善説のメリット:正しい行動ができる

性悪説の人は「だまされるのではないか?」と考えている方もいるでしょう。人を信頼しないほうが、騙されず、間違った行動を起こすことが少ないがのではないか?と考えている人もいると思います。

菊地・渡邊・山岸(1997)は、96人の大学生を、一般的な信頼関係が高い群と低い群に分け、信頼関係と情報選択実験を行いました。その結果、「他人を信頼する傾向の強い人」は、「正確な行動をする」傾向があることを示しました。

性善説メリット

懐疑心を持ってが、情報を精査した方が正確に情報を読み取れそうな感覚がありますが、他人を頼ることでしか目に映らない世の中には多いようです。その意味でも、他人を信頼する!という信念は一定のメリットがありそうです。

⑤性善説のデメリット:「悪」を正しく裁けない

性善説の人の方が手放しに人を信用する傾向があるので、他人に騙される可能性が高くなります。実際に人間は悪行を働くこともあることを受け止める必要があるでしょう。また、人間の未熟な面、おろかな面を受け入れられないことがあります。

すると、犯罪を許しがちな社会になったり、悪いことを見て見ぬフリをするようになります。これでは、法律や憲法の意味が無くなってしまうため、ある程度の性悪説は人を裁くためには必要でしょう。

また、根底にある人間の未熟さを受け入れることで、他人を許せるようになります。人間だから失敗することもあるという考え方は、現実的にヒトの性質をを受け入れて、健全な努力をするなどの活動につながります。

・ただし性悪説は不信感につながる
ただ、性悪説100%正しいというわけではありません。人間の本性を悪として考えることで、他人への不信感が高まってしまうため、性善説に考えた方が対人関係でのトラブルも少ないでしょう。

この「悪」の部分は、心理学では不信感と近い関係にあります。不信感の強い人は、敵意を伴う苦悩と関連が深く、対人問題を感じやすいこと(Gurtman, 1992)がわかっています。

また、他者に対して、冷笑的で否定的な態度を取る人は、対人関係で怒りや恨みを頻繁に経験しやすい(Smith & Frohm, 1985)といわれています。

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改善策①:現実検討能力をつけよう

ここからは性悪説から性善説に移行する方法をお伝えします。なお、性悪説のままでいい!という方はあまり役に立たないのでご了承ください(^^;

それでは、人はそもそも善人だと感じるためには、どのような対策が取れるのでしょうか?性悪説で心から相手を信頼できない人は、認知的フュージョンが原因だと考えられます。

認知的フュージョンとは、自分の「考え」と「現実」を混同し、「現実」よりも「考え」を優先することを言います。フュージョンとは「混ざる、混同」という意味があります。

・相手の反応を気にしすぎる
・些細な一言に反応する
・思い込みを拭うことができない

このような状態に心当たりがある人は、認知的フュージョンが悪さをしているかもしれません。(嶋, 柳原, 川井, & 熊野., 2014)。

認知的フュージョンが起こると、考えと現実の区別がつかなくなり、現実的ではない不安や想像を膨らませて、性悪説のようは考え方になってしまいます。

認知的フュージョンから抜け出すには、自分の考えから「考え」と「現実」を区別し、考えを客観的な視点で見ることが大切です。現実と思考を切り離す「脱フュージョン」をすることで、感情や思考とほどよい距離感を保つことができ、相手を信頼できるようになります。

脱フュージョンには、3つのポイントがあります。

①認知的フュージョンに気づく
まずは、性悪説な考え方に陥っている認知的フュージョンに気づくことが大切。具体的には、不快な「思考や感情」が現れる状態をチェックし認知的フュージョンが起きていないが確認します。

例:「どうせ皆んな、本性を隠して接している」

②現実と思考の分離
思考が性悪説に支配されている状況を脱する過程です。そのためには、思考を客観視するための言葉を用いて、思考と現実を分けていきます。この作業を現実検討と言います。

例:考え方「どうせ皆んな、本性を隠して接している」
  現実「本音で話す時もある」

③脱フュージョン
考え過ぎていたこと、不安に飲まれていたと感じた場合「思考」と「現実」を区別する言葉を自分に投げかけます。一番簡単な方法は、「~と思った」と考え方の後ろに付け加えることです。これだけで、今の性悪説な考え方は、現実ではなく思考なんだと気づくことができます。

例:「あ、今どうせ皆んな、本性を隠して接していると思った」

改善策②:健康な「愛着形成」

性悪説になってしまう原因の1つとして「愛着障害」が考えられます。これは、「母親をはじめとする養育者との間で幼少期に安定した愛着を深める行動が断たれた事で引き起こされる対人面や情緒面での問題症状」のことです。

愛着障害は診断名のため、精神科などで用いられる世界保健機関(WHO)が定める「ICD-10」の診断基準を元に診断されます。診断基準は、簡単に要約すると

A.5歳以前の発症

B.対人関係の不安定さ
 誰にでも助けを求める
 感情の移り変わりが激しい
 あまり他者とつながりを持とうとしない

などが挙げられます。愛着障害の診断基準は幼い子どもを対象にしていますが、大人になっても愛着障害の状態が続いたり、大人になってから愛着障害になるケースもあります。

愛着障害は幼児期の母子関係の不健康さから生じると言われており、自己肯定感ンの欠如、基本的信頼感の欠如など、「性悪説」になりやすい状態と言えます。

・初期の愛着形成と人生への影響
古典的に有名なHarlowの動物実験を紹介しましょう。Harlowはサルを対象に心理的な実験を行いました。

① 赤ん坊と母親を離して育てる
まず、アカゲザルの赤ん坊を母親とは別の場所で、育成をスタートします。昔こういったひどい実験が結構行われていました(^^;

② 布とワイヤーで作られた母
そして、布とワイヤーの母を2体用意し、ミルクを入れた哺乳瓶を取り付けます。

③ 布の母を選ぶ
アカゲザルの赤ん坊は寂しさを感じ、布の母と接触しながらほとんどの時間を過ごしました。たまにミルクを飲む以外にはワイヤー母とは接触することはほぼありませんでした。

④ 社会的スキルの欠如
さらにHarlowは、寂しいという気持ちをうまく処理できずにいたアカゲザルは、他の個体や集団と触れ合うための社会的な能力が育たず、愛着障害に近い行動が目立ったことを報告しています。

このように、霊長類のように社会的な動物は生まれた時から心地よい接触を求め、それが健康的に成長する上で重要な役割を果たすということが示唆されます。

その後の人間における研究でも、幼少期の母子関係が子どもの発達に影響を与えることが分かっています。幼いころに「抱っこをする」「暖かい声をかける」「スキンシップをとる」こうした習慣を大切にすると性善説の考えを持った子どもに成長することが考えられます。

性悪説から性善説へ

性悪説の考え方が強く不信感が大きい人は、気分や感情に影響することや、他人と交流を深めことを回避することがわかっています。 相手を心から信頼できない「考え方」のせいで上手く対人関係が作れない、ストレスを感じてしまうのはもったいないですね。

他人への信頼感を増やすには、「性善説」の考え方が大切です。例え、誰かに嫌なことをされても、「この人にもお母さんがいて、自分と同じように傷ついたりするんだ」と考えることで共感することができます。人の本性は「善」だと考えることで、他人の悪行に直面した時に、その人の奥にある「善」を探すことができます。

 性悪説も1つの考え方ですが、他人を信頼してより良い人間関係を構築するには性善説に基づいだ方がリラックスできます。ぜひ、不信感にさいなまれた時は「脱フュージョン」で善の心を取り戻してくださいね。

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★性悪説は不信につながり、性善説は共感につながる!脱フュージョンで改善

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科修士
  • 社会心理学会会員

取材執筆活動など

  • AERA 「飲み会での会話術」
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
  • TOKYOガルリ テレビ東京出演


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*出典・参考文献
天貝由美子. (1995). 高校生の自我同一性に及ぼす信頼感の影響. 教育心理学研究, 43(4), 364-371.
天貝由美子. (1997). 成人期から老年期に渡る信頼感の発達. 教育心理学研究, 45(1), 79-86.
Gurtman, M. B. (1992). Trust, distrust, and interpersonal problems: a circumplex analysis. Journal of personality and social psychology, 62(6), 989.
 Lewicki, R. J., McAllister, D. J., & Bies, R. J. (1998). Trust and distrust: New relationships and realities. Academy of management Review, 23(3), 438-458.
中井大介, & 庄司一子. (2006). 中学生の教師に対する信頼感とその規定要因. 教育心理学研究, 54(4), 453-463.
下坂剛. (2001). 青年期の各学校段階における無気力感の検討. 教育心理学研究, 49(3), 305-313.
Smith, T. W., & Frohm, K. D. (1985). What’s so unhealthy about hostility? Construct validity and psychosocial correlates of the Cook and Medley Ho scale. Health Psychology, 4(6), 503.
桾本知子, & 山崎勝之. (2008). 大学生における敵意と抑うつの関係に意識的防衛性が及ぼす影響. パーソナリティ研究, 16(2), 141-148.
山中一英 (1995). 対人関係の親密化過程に関する質的 データに基づく-考察 名古屋大学教育学部紀要, 42, 127-134.
高橋ら(2012)ポジティブ側面への積極的注目に関する研究 : ポジティブ志向,主観的幸福感,ネガティブ認知,他者軽視との関連 学校教育学研究論集 26, 29-39, 2012-10-31
嶋大樹, 川井智理, 柳原茉美佳, 大内佑子, 齋藤順一, 岩田彩香, … & 熊野宏昭. (2017).
Acceptance Process Questionnaire の作成および信頼性と妥当性の検討. 行動療法研究, 43(1), 1-13.