怠け者,サボり癖がある人の心理と特徴
現役経営者,公認心理師の川島達史です。
私は現在こちらの初学者向けコミュニケーション講座の講師をしています。
今回の相談
「怠け癖,サボり癖がある人の特徴」
相談者
42歳 男性
お悩みの内容
私は現在、中間管理職としてメーカで働いています。部下が5人いるのですが、1名怠け癖があります。遅刻が多く、仕事の納期も守りません。
外出する仕事の時は、明らかに帰社時間が遅く、おそらくですが喫茶店などでだらだらしていると思われます。
実は入社当初はすごく、活動的だったので、心配しています。このようなサボり癖はなぜ起こるのでしょうか?
部下が思い通りに動いてくれないと、イライラすることも多くなってきますね。管理職になると誰しもが通る道だと思います。
当コラムでは、管理職必須のサボり癖がある方の心理についてしっかり解説していきます。
はじめに
私は日々、公認心理師として様々な方のお悩みを傾聴しています。この時、会社から怠け者とレッテルを貼られると多くの方は、思い悩むようになります。
・やる気を出したいでも…
どうしても出ない
・自責の念に駆られる…
・僕なんて必要とされていない
怠け者になってしまう場合、心理学的には様々な要因が考えられます。一見怠けているように見えても、実は部下の心の中では合理的な理由がちゃんとあるのです。
怠け者と感じたら
まず皆さんにお願いしたいことがあります。それは怠け者の社員を見たときに、すぐに怠けていると考えないことです。怠け者とレッテルを貼った瞬間、あなたの思考は相手のネガティブな側面しか見えなくなり、現実を正しく分析できなくなってしまうからです。
サボり癖を解決しようとするのではなく、サボっている背後にある、原因をしっかり分析したほうが、結果的には解決が早くなります。
怠け者と感じたら
怠け者のタイプは大きく分けて6つあり、それぞれの原因が複雑に関連することで、怠け者に見えると考えられます。
原因① モラトリアム型
原因② 無力感型,診断付
原因③ 性格の問題,タイプB型
原因④ 精神疾患型
原因⑤ 体調不良
原因⑥ アリの法則型
怠けてしまうのは、これらの要因が複雑に絡まり合って発生するのです。1つのこれだ!という原因ではなく、それぞれが関連し合うことを覚えておきましょう。
以下詳しく解説していきます。
モラトリアム型
まず始めにモラトリアム型について考えていきます。
モラトリアム型とは
「目標を見失っている」
「何をすればいいのかわからない」
「成長している気がしない・・・」
部下や子供にこんな兆候がある場合はモラトリアム型かもしれません。モラトリアムとはエネルギッシュに取り組む目標を見失った状態を意味します。
以下の図を見てみてください。こちらはフロー心理学と言われる分野でよく使われる図です。
モラトリアム型はこの図の右下に当たります。図の右下は
「高いスキルがあるのに」
「課題の難易度が低い」
状態です。
このゾーンは自分のエネルギーのぶつけ所がなく、
・つまらない
・飽きた!
・時間が過ぎるのが遅い
という心理状態になりやすくなります。
モラトリアム型への対策
モラトリアム型で怠け者になっている場合は、新たな目標を見つけることがカギとなります。元々能力が高い方が多いので一度目標を見つけると、驚くほど怠け者の症状が改善することもあります。
例えば、あなたが上司であれば、少々難易度の仕事を渡した方がやる気が出てくるかもしれません。モラトリアムについては下記のブログで詳しく解説しています。
全体を読んだ後に参考にしてみてください。
学習性無力感型
学習性無力感
モラトリアム型の対極にあるのが、学習性無力感型です。こちらは深刻度が高くなりやすいので、慎重に解説していきます。
学習性無力感とは
「努力しても結果がでない」
「何をやっても無駄だ!」
という感覚が強くなる状態を意味します。
先程の図をもう一を見ていきます。学習性無力感は左上のゾーンに当たります。
学習性無気力感がある方は、
「スキルが低い」
にも関わらず
「難易度が高い」
チャレンジを続けている傾向があります。とても頑張り屋といえますが、結果が出ない状態が長く続くため、最終的にやる気を失ってしまうのです。
学習性無力感への対策
学習性無力感が続くと、結果が出ず失敗が続くため、精神的に疲弊してきます。もしあなたの部下が、笑顔がなく、苦しそうにタスクをしていたら、おそらくこの学習性無力感に当たると思います。
そんなときは、あなた自身が、過度の要求をしていないかチェックしてきましょう。能力にあった仕事量でしょうか?失敗が続いていないでしょうか?叱責ばかりになっていないでしょうか?
もしそうだとすれば、難易度が低い成果が出やすい仕事を渡すのも視野に入れましょう。
性格の問題,タイプB型
長くなってしまっているのでもう一度目次を振り返りましょう。人は怠け者になってしまう場合、以下の6つの側面から考えていきます。
原因① アリの法則型
原因② モラトリアム型
原因③ 無力感型
原因④ タイプB型
原因⑤ 精神疾患型
原因⑥ 体調不良
後半のタイプBについて考えていきましょう。
タイプBとは
心理学の世界では、様々な性格の研究がなされてきました。そのうちの1つにタイプA研究、タイプB研究という分野があります。
タイプA
競争心が強い、目標が高い、時間にあくせくしているタイプの人たちです。社会的に成功しやすい一方で、血管系や心臓疾患を持ちやすいことが分かっています。
タイプB
競争心が低く、温和、時間感覚がゆったりしているタイプの人たちです。協調性があり、健康状態も安定していることが分かっています。
タイプA研究、タイプB研究についてより深く知りたい方は下記をご覧ください。
タイプAとタイプBを解説
ゆったりタイプにあった仕事を
行動遺伝学の研究では、人間の性格は遺伝することが分かっています。遺伝率は性格の種類によって変化しますが、おおむね4~6割程度であることが分かっています。
例えば、怠け者と感じる方の中には、もともと持った気質的にゆったりしている方も一定数いらっしゃると思います。特にタイプAの方から見ると、タイプBの方は非常にもどかしく見えると思います。
しかし、これは元々も持って生まれたものであるかもしれないのです。特に、
・しゃべり方がゆっくり
・動作がおちついている
・性格が穏やか
こんな方に、無理に過敏な動きを求めてもトラブルのもとです。本人の気質にあったタスクや進路を提案すると良いと思います。
例えば、安心感あたえる、会社の福利厚生の部門、福祉関係の仕事などが当てはまります。
精神疾患,脳機能の変化
今まではすごく元気だったのに、無気力になっている感じがある場合は、精神疾患を疑う可能性が出てきます。以下最低限抑えておきたい精神疾患の知識をまとめました。
お時間があるときに勉強しておきましょう。
適応障害
適応障害は理由がはっきりしている場合に起こります。特に学習性無力感型が悪化すると起こりやすくなります。過度のストレスが掛かっている場合は適応障害に発展している可能性があるので注意しましょう。
詳しくはこちらの動画で解説しています。
うつ病
特に明確な原因がないにも関わらず、消えてなくなりたい…という感覚がある場合はうつ病の可能性があります。うつ病は本人の努力不足などではなく、脳の伝達物質の不安定さから起こると言われています。
怠け者とレッテルを貼って攻め立てても問題は悪化するだけです。終始暗い顔をしている、時折、消えてなくなりたい…というような発言があるというような場合は、うつ病の可能性があります。
詳しくはこちらの気分障害コラムを参考にしてみてください。
統合失調症
比較的若い方にあてはまるのが統合失調症です。統合失調症の中には、陰性型があり、感情の起伏がなくなり、意欲が減退して無気力になってしまうことがあります。
支離滅裂な感じがあり、本人と話していても、どこか現実感がない感覚がある場合は、統合失調症の疑いが出てきます。産業医や精神科のクリニックを検討したほうが良いかもしれません。
脳機能の変化
人間の脳は年を取るとだんだんと変化してきます。そして脳が変化すると、無気力になったり、前ほど活動的でなくなることがあります。脳機能の変化は本人は気が付きくにい特徴があります。
急に忘れっぽくなった
どこかふわふわしている
簡単な計算ができなくなっている
などの症状がみられる場合は、若年性の認知症、脳血管系の疾患を抱えている可能性があります。産業医によく相談してみてください。
体調不良型
体と心の繋がり
「身体の不調」「睡眠が不規則」「食生活の乱れ」などは、怠け者になりやすいと言われています。たとえば、睡眠にはさまざまな脳内物質を分泌する働きがあります。
その脳内物質の中には、やる気と関係が深い「セロトニン」「ドーパミン」「アドレナリン」などが含まれています。
そのためあまり分泌されないと、日中にやる気が起きないというメカニズムができあがってしまいます。
身体を動かす仕組み作り
甲斐(2011)は、IT 関連企業 の従業員2952名に対して、余暇時間にどのくらいの運動をしているかで、1年後の抑うつのなりやすさを調査しました。
その結果上図のように、1週間に運動する時間が「135分未満の人たち」よりも「135分以上運動する人たち」とのほうが抑うつ感が低いことがわかりました。
人間には適度な運動、充分な睡眠が必要です。会社としても、適度に体を動かすような仕組み作りを心がけましょう。
おススメのエクササイズなどを知りたい方は下記のコラムを参考にしてみてください。
アリの法則型
最後にアリの法則型について解説します。
長谷川博士の研究
北海道博士の長谷川博士の著書(2011)によると、アリの世界は全体の2割のアリが、普段はせっせと働き全体を支えているようです。
一方残りのアリのうち特に3割程度はほとんどなにもせずボケっとしているとのことです。その2割のアリからしたら、残りの3割をさぞかし怠け者!と感じている(?)ことでしょう。
しかし、長谷川博士によると、実はそういった怠け者のいるコロニーの方が結果的に生存率が高いことがわかったのです。
というのはサボっているアリは言い換えると、予備兵みたいなものなのです。予備兵は緊急事態の余剰人員として、待機していると考えられ、有事の際に非常に役立つのです。
実際普段働かないアリでも、働きアリがいなくなったら働きはじめるそうです。
人間社会で考える
さてアリはアリだ!人間に当てはめるべきではない!と突っ込みを入れられそうです(汗)人間の社会で考えてみましょう。
例えば、会社にいるすべての人が100%の力で仕事をしたとします。確かに、一時的にパフォーマンスはあがるかもしれません。
ですが・・・皆さん!ここは本音で行きましょう!周りの人が、目を血走らせて、ピリピリしている会社で働きたいですか?
本音ですよ!本音!
詳しい統計はないですが、私がカウンセリングを受ける中での現場感覚では、過度の競争や、ノルマが課せられている会社の方は、疲弊しきっている印象を受けます。
怠け者はある意味で、私たちの働き過ぎを組織全体として抑制しているという陰の側面があると言えるかもしれません。
特に組織全体が、猛烈に働く会社の場合はこのアリの法則型に当てはまる可能性が高いと考えています。
そんなときは、怠け者は組織全体のリラックス感であったり、余剰人員としての保険と考え、片目をつぶる度量も必要になってくると言えそうです。
詳しくはこちらの動画で解説しました。興味がある方は参考にしてみてください。
まとめとお知らせ
まとめ
怠け者,サボり癖がある社員はこのように様々な原因の影響を受けているものです。怒れば解決するものではなく、その原因を客観的に分析をして、解決策を1つ1つ試していく姿勢が大事になります。
そのためには、本人と普段から信頼関係を築く、腹を割って話し合える関係性を築いていくことが大事になります。是非部下の方の健康的なコミュニケーションを大事にして、しっかり話しあうようにしましょう。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
ブログ→
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*出典・参考文献
・桜井茂男・大谷住子 1995 完全主義は無気力を予測できるのか 奈良教育大学教育研究所紀要,31, 171–175.
・対人援助職従事者におけるバーンアウトと感情労働の関係性について 49 事例分析を通した検討
・ミハイ・チクセントミハイ著,今村浩明訳:フロー体験 喜びの現象学,新思索社,2000
・認知行動療法を学ぶ(下山晴彦編 金剛出版,2011)
・認知行動療法(坂野雄二 日本評論社,1995)
・よくわかる臨床心理学 山口 創著 川島書店
・自己志向的完全主義の特徴 : 精神的不健康に関する諸特性との関連から 2009 齋藤, 路子; 今野, 裕之; 沢崎, 達夫対人社会心理学研究. 9 P.91-P.100
点
・甲斐 裕子 永松 俊哉 山口 幸生 徳島 了 (2011)余暇身体活動および通勤時の歩行が勤労者の抑うつに及ぼす影響. 体力研究, 109, 1-8.
・ファンデンボス,G.R.(2013)APA 心理学大辞典 p330