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モラトリアムとは?期間・意味・特徴・過ごし方を心理学の専門家が解説

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モラトリアム期間とは?意味や特徴、過ごし方を心理学の専門家が解説

「モラトリアム」を専門家が解説

みなさん、こんにちは。臨床心理士の竹元と申します。今回は「モラトリアム」についてお話ししていきます。目次は以下の通りです。かなりしっかり書いたので10分程度かかると思います。ゆっくりご覧ください。

1.モラトリアムとは何か?
2.モラトリアム研究の歴史
3.モラトリアムの機関
4.モラトリアムのメリット
5.モラトリアムのデメリット
6.モラトリアムの対処法

それでは早速解説させていただきます。みなさんは、「モラトリアム」と聞いて何か思い浮かぶでしょうか?

大学生が卒業を控えて「モラトリアムが終わってしまう・・」とときどき少し憂鬱げに話している所を見かけます。私自身も大学生の時には、確かに同じことを思っていたので、懐かしい気持ちになりますが・・。

それでは、「モラトリアム」がどういうものか説明から入っていきますね。

1モラトリアムとは何か

モラトリアムとは、元々経済学の用語でした。戦争等の緊急時に社会的な混乱を防ぐために法令として、債券の支払いを猶予する意味で「モラトリアム」が用いられました。これは銀行などを守るためのものでした。緊急時の銀行はそもそもお金が足りなくなりやすい状況です。

しかし、国民の立場からすると、お金自体がなくなってしまわないか心配なので、できる限り手元に持っておきたいと考えます。そうすると、銀行が余計にお金が足りなくなり、最悪のケースとして破たんに追い込まれる可能性もあります。そうしたリスクに対処するために、銀行が国民に当面の間、「お金を払わなくても大丈夫ですよ」と国が守ってあげるためのものでした。

その後、心理学の世界にもこの用語が取り入れられました。

モラトリアムの意味や期間について解説エリクソンという精神分析家は青年期の発達課題として、アイデンティティの形成を重要視しています。具体的には自分がどのような人であるかを理解し、自分が社会とどのように関わっていくか、具体的に職業などを決定することなどを指します。しかし、みなさんもご経験がおありかもしれませんが、自分の進路を決定するというのは、なかなかすぐ決められるものではありません。

エリクソンによると、アイデンティティ形成においては、「人が一人前の大人として出ていく準備期間」が非常に重要な役割を果たすとしています。そしてアイデンティティを形成する前の模索段階として、自分の進路などの決定について猶予された期間のことを心理学の世界では「モラトリアム」と呼ぶようになりました。

2モラトリアム研究の歴史

先ほど説明したように、モラトリアムは、アイデンティティを形成する段階で現れるものです。そのため研究はアイデンティティ研究と絡めながら行われているものが多くあります。

アイデンティティ研究の中で、モラトリアムの視点が注目されるようになったのは、マーシャの研究です。マーシャはアイデンティティ確立までの類型を4類型に分類しました。

アイデンティティ形成に向けて悩んでいることを示す「危機」と、具体的に進むべき道を決めて、それに打ち込んでいるかという「積極的関与」の有無で4つに分けています。


それぞれの説明をしていきます。

アイデンティティ確立
アイデンティティ形成に向けた「危機」も経験し、自分の進路を決め、それに打ち込んでいる状態「積極的関与」も果たしている。

早期完了
進路は決め、それに打ち込んでいる。しかし、アイデンティティ形成に向けた「危機」を経験せずに、自分の進路を安易に決めてしまった状態。また親の望みに応えるような形での進路決定もこれに含む。

アイデンティティ拡散
アイデンティティ形成に向けた「危機」を経験しておらず、また積極的関与もしていない状態。何がやりたいのかわからない、あるいはどうしていいかわからず途方に暮れている状態。

モラトリアム
アイデンティティ形成に向けた「危機」は経験しているものの、自分の進路を決める「積極的関与」には至らず、迷っている状態。

以上の4つです。

基本的には、時間がたつとともにアイデンティティ確立に向けて流れていくことが想定されています。

しかし、アイデンティティはエリクソンも生涯にわたる課題と言っているように、様々な研究でこの4つのステイタスを行き来することが分かっています。アイデンティティ・クライシスコラムでも説明していますが、岡本(1995)はアイデンティティ形成のプロセスは、拡散と達成、達成の前のモラトリアムを繰り返すことを指摘しています。モデル化しています。

モラトリアムをらせん式発達モデルを参考に解説

このようにアイデンティティ形成は、青年期の課題とされていますが、一生の課題でもあるとされています。そのためアイデンティティ確立の準備段階である「モラトリアム」の期間もそれに伴い、大人になっても経験することがあります。

具体的には、例えば「転職を考えているのだけれど、実際に転職活動するかどうか迷う・・」といったような時でしょうかね。そういう時は、これまで人生の中でやってきたこと、家族のこと・・など総合的に考えるのではないでしょうか。

3「モラトリアム」の期間

「モラトリアム」とは、アイデンティティ形成の期間に生じるとお話ししました。具体的にいつかというと、だいたい青年期とは15才~22才くらいまでとされています。しかし、これについては意見が分かれています。

モラトリアム期間とはいつ頃?青年期の延長を指摘している研究者の間では、30才くらいまでを青年期とみるべきだと提唱しています。それ以外にも、現実的な場面でお話しするとハローワークなどの公的機関が行う青年期向けの支援やサポートは、39才まで対応しているところもあります。

ちなみにですが、おおむね結婚をしてパートナーを持っている人は青年期ではなく、立派な大人であるという認識については、ほぼ共通のようです。そのため30代くらいまでで、まだ家族を持っていない人が「モラトリアム」を体験する可能性が高い期間と言えるのではないでしょうか。

4「モラトリアム」のメリット

先ほどの大学生の例でいうと、これまでサークルやアルバイト、友達と旅行に行っていましたが、卒業を控え、とりあえずのところ今後の進路について決める必要に迫られますね。

就職するのであれば、就職活動という具体的な行動を起こさなければなりませんし、資格を生かす仕事で働くのであれば、資格を取るために勉強しなければなりません。それまで「モラトリアム」の期間が終わるというのは、憂鬱な気持ちをもたらすこともあるのかもしれません。

モラトリアムの意味と期間中の気持ち

また日本では、比較的否定的な意味合いでつかわれることも少なくありません。「まだ学生をやっているのか」などと言われることがありますね。しかしモラトリアムの期間は何も否定的な意味ではなく役割実験の時期とも言われとても大切な期間です。将来を見据えて、自分がどんな社会的役割を担うかを色々試行錯誤してみることが許される期間でもあります。

そのためこの期間をうまく活用できると、アイデンティティを形成していくための資源となる材料が手に入ることがあります。

・形骸化するモラトリアム

実際に、日本の社会でのモラトリアムの実情に話を移します。

青年期、あるいは最近まで青年期だった人は、モラトリアムを満喫しているかといえば、実はそうでもないようです。世界的な経済危機から、就職難が叫ばれている時代もありましたね。そのため学生のうちから資格試験を勉強するなど、とても忙しい青年期を過ごしていた人も多いのではないでしょうか。

宮下・杉村(2008)などの指摘では、現代の青年は自分のことについてゆっくり考える時間がなく、モラトリアムが完全形骸化しているという報告をしています。高校時代も、とにかくたくさん勉強して過ごした方も多いのではないでしょうか。

なので、青年期にモラトリアムを感じられるという人はもしかしたらさほど多くないというのが印象としてあります。

こうしたモラトリアムをうまく使えなかった代償が、社会人になってからの早期離職・フリーター問題といった状態となることも無関係ではない気がしてなりません。そのため改めて、「じっくり自分のことについて考える」というモラトリアムの時期は、私たちにとって、仮に大人になったとしても重要な時間だと言えるかもしれません。

5モラトリアムのデメリット

あなたの人生にとって必要なモラトリアムですが、モラトリアムも長引きすぎると、当然悪影響もあります。大きく2つ説明していきます。

1.「自分探し」のし過ぎ
「自分らしい」ということを考えたことがありますか?「自分らしさ」というキャッチコピーをCMや歌詞などでも時々目にします。近年社会的に、「自分らしさ」という言葉は、何も青年期だけではなく、大人になっても、お年寄りになっても意識し、探求していこうという気持ちを持ちやすい風潮となっています。

青年期では、「本当の自分」を探す、「自分探し」というのも非常に流行った時期がありました。今もまだまだありますね。しかし、その言葉にとらわれ過ぎて、社会生活への適応が悪くなってしまう事例は多くみられています。「どこかに本当の自分はあるはずだ」と考え、現実逃避的に職場を転々とすることや、長期のひきこもり生活となってしまうケースも少なくないように思います。

2.メンタルヘルスにも悪影響
モラトリアムが長引くというのは、積極的に仕事などの活動を積極的に関わるわけではないので、どんどん社会から離れていく感覚を持ちやすくなります。そして、期間が長くなればなるほど、当然再適応しづらくなります。社会適応がしにくくなると、当然メンタルヘルスの面でも悪い影響が生じてきます。

ひきこもりの事例などでも、当初はモラトリアムのつもりで家にいたのですが、次第にどんどん外に出づらくなり、うつ病や適応障害といった精神疾患の診断がついてしまうようなケースも数多くあります。

6モラトリアムの過ごし方・対処方法

ここまでお読みいただいた方はお分かりの通りかもしれませんが、モラトリアムはしっかりとした過ごし方をすれば、さほど遠くないいつかには抜け出すことができます。そしてモラトリアムをしっかりと過ごした時間が土台となって、アイデンティティ形成へとつながっていきます。

モラトリアムを抜け出す方法・有意義に過ごす方法は3つあります。

①将来的に人生の責任を負うことを意識する
②モラトリアムの期限を決める
③今の自分を大切にする

モラトリアム期間の過ごし方具体的に以下に説明していきますね。

①将来的に人生の責任を負うことを意識する
1つ目は、将来的に人生の責任を負うことを意識する点です。

モラトリアムは、役割実験の時期として、色々なことにチャレンジができます。しかしその反面、1つのことに集中して何かに取り組むということは少ない期間です。

何か色々な事をやれるということはいいのですが、どこか責任を負うことなく「他人事」になりがちです。それを防ぐためにも、将来は自分の人生に対して責任を負うということを意識していただけるといいのではないかと思います。

②モラトリアムの期限を決める
2つ目は、モラトリアムの期限を決める点です。

モラトリアムは、どこかで終わりにしなければなりません。そのため、いつまで色々なことを模索し続けるのか、モラトリアムの期間にするかを決めておく必要があります。学生の皆さんは、卒業までというのが1つの区切りになっていると思います。

ひきこもり状態の人が長期化する要因の1つに、卒業などのイベントを経験しにくいので区切りをつけるのが難しいという点があります。それだけ人にとって区切りというのは非常に大切なものです。そのため、何かのイベントをきっかけにする、あるいはご自身でいつまでかという区切りを決めておくことが大切であるように思います。

③今の自分を大切にする
3つ目は、今の自分を大切にする点です。

モラトリアムの期間は、「本当の自分」といった存在や「自分らしさ」というものを探すことがあります。探すこと自体は、とても大切な作業だと思いますが、今までのあなたの人生や、今のあなたの生活の中にも「本当の自分」や「自分らしさ」という点は、転がっているように思います。

まずはそこから探してみることも大切な作業の1つであるように感じます。同じようにあなたの身近な人など、今持っているコミュニティの中で関わっている人たちもあなたの「自分らしさ」をよく知っている可能性があります。思わぬヒントがあるかもしれませんよ。まずは身近なものに目を向けてみましょう。

以上、モラトリアムの過ごし方についてお話ししてきました。

いかがでしょうか。モラトリアムは使い方・過ごし方次第で、あなたの人生を豊かにもします。その反面、不自由な生活を送る要因ともなりうるものです。

しかしこの3点を意識すれば、そんなに悪い過ごし方にはならないのではないでしょうか。ぜひ、実践してみてください。

私たちは一生モラトリアム?

「モラトリアム」について色々お話ししてきましたが、私たちはずっと「モラトリアム」と言えるかもしれません。そして、その状態が、実は一番バランスが良いのかもしれません。

モラトリアムの影響

モラトリアムの良いところは、「色んな可能性を考えて生きていくことができる」ことです。現代では、自分の将来を1つに決めるということは、現実的になかなか難しい作業であることも多いのではないかと思います。「この仕事で生きていく」と決めた仕事が、ある日突然とあるできごとで続けられなくなってしまうことは、少なくないのではないかと思います。

そうした意味で大倉(2011)は、現代のアイデンティティを確立した人間とは、いろんな可能性を残しながらも主体的に生きていける「成熟したモラトリアム人間」としての在り方を説いています。

具体的にいうと、今の仕事を熱心に取り組む。しかし、定年まで勤められる保証はない。そのため、万が一のために転職できるよう準備をしているとか、資格を取るための勉強をしているとか、そんなところでしょうか。

色々お話ししてきましたが、あなた自身が気持ちの面でバランスの取れた生活を送ることができ、充実感を感じられるような毎日を過ごせていればなんでもありというところなのではないでしょうか。それが現代的なモラトリアムへの対処法と言えるかもしれません。

モラトリアムを上手に過ごしましょう

みなさん、いかがでしたか。モラトリアムについてお話ししてきました。このコラムを読んだ皆さんは、モラトリアムを上手に過ごして、アイデンティティ形成に生かしていただければと思います。アイデンティティ形成に役立つお話しは、「アイデンティティ」コラムでさせていただいています。そちらも読まれてみてください。

また私たちは特に対人コミュニケーションについての講義も行っています。興味がある方は下記の講座でぜひお待ちしています。

心理学講座

*出典・参考文献
Erikson(1950) childhood and society. New York: (仁科弥生(訳)1977,1980. 幼児期と社会 みすず書房
Erikson(1959) Identity and the Life Cycle. New York
Marcia.J.E(1966) Development and validation of ego-identity status. Journal of Peesonality & Social Psychology 3 551-558
岡本祐子(1994)成人期における自我同一性の発達過程とその要因に関する研究 風間書房
鑪 幹八郎‎・宮下 一博・大倉 得史・谷 冬彦(2014)アイデンティティ研究ハンドブック ナカニシヤ出版
大倉得史(2011)「語り合い」のアイデンティティ心理学 京都大学学術出版会
宮下一博・杉村和美(2008) 大学生の自己分析―いまだ見えぬアイデンティティに突然気づくために ナカニシヤ出版



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