気分障害とは?種類や診断基準、治療法
はじめまして!臨床心理士の森、公認心理師の川島です。今回のテーマは
「気分障害」
です。

改善するお悩み
・気分障害の用語がわからない
・うつ病かもしれない
・双極性障害の疑いがある
- 全体の目次
- 入門①気分障害とはなにか
- 入門②大うつ病
- 入門③双極性障害
- 入門④治療方法
- 助け合い掲示板
入門①~③を読み進めていくと、基本的な知識と対策を抑えることができると思います。是非入門編は最後までご一読ください。もしお役に立てそうであれば、初学者向け心理学講座でもぜひお待ちしています。
入門①気分障害とは?意味や歴史
いきなりですが、気分障害という分類は現在あまり使いません。昔の名残なのです。歴史の流れをまずはお伝えします。
1980年代
日本では1980年に刊行されたDSM-IIIから用いられていた、精神疾患の分類です。
気分障害という分類の中には、大きく分けて、
うつ病
双極性障害
に分類されます。表にすると下のようになります。
2013年になくなる
ところが、2013年に刊行されたDSM-5からは、気分障害という分類はなくなりました。うつ病と躁うつ病(双極性障害)はそれぞれ異なる分類として扱われるようになりました。表にすると、下のようになります。
このように、最新の診断基準では、気分障害という言葉は使われなくなったのです。
*講師の視点 気分障害という用語は分類上はなくなりましたが、現場感覚では、うつ病、双極性を総称する言葉として使うことは多いです。今後もしばらくは気分障害という用語は使われ続けると予想しています。
生涯有病率
川上ら(2006)は、日本人のこころの健康に関する疫学調査を行いました。それによると、大うつ病性障害や双極性障害などの何らかの気分障害は、生涯に8.9%の人が経験すると報告しています。
気分障害の中でも、もっともかかりやすいのは大うつ病性障害、いわゆるうつ病で、生涯に6.3%の人が経験します。これだけの人がかかるのですから、うつ病による社会的損失は大きいと言われています。
気分障害による社会的損失
佐渡(2014)によると、2005年の日本人成人におけるうつ病の総費用(通院にかかる費用など)は2兆円と推定されました。
うつ病によって、これだけの額が失われており、経済的なダメージが大きいことがわかります。
生産的な作業の低下
アメリカの研究ですが、Stewartら(2003)は、うつ病にかかっている労働者は週に平均5.6時間、生産的な作業ができなくなっていました。
うつ病にかかっていない労働者の場合は週に1.5時間で、両者には統計学的に有意な差がありました。
この結果から、うつ病にかかっていると、疲れやすいなどの理由で仕事の能率が低下することが明らかとなったのです。
*講師の視点 気分障害は周りから理解されにくく、努力不足、気持ちが弱い、と責められることがあります。しかし、実際は脳の仕組みの問題であるケースも多々あるのです。
入門② 大うつ病性障害とは?
ここから先は各障害について、解説していきます。詳しく理解したい項目があったらクリックして知識を深めてくださいね。
まずは気分障害の中でも中核となる、大うつ病に焦点を当てて解説していきます。
診断基準
大うつ病性障害とは、いわゆるうつ病のことを指します。最新のアメリカ精神医学会が出した診断基準、DSM-5でも単にうつ病と呼びます。女性は男性の2倍、かかりやすいと言われています。
特徴は以下の2つです。
①抑うつ気分
落ち込んだり、気分が滅入ったりすることです
②興味または喜びの喪失
それまで楽しめていたことが楽しめなくなることです。
*①又は②が2週間以上続くことにあります。
9つの症状
①か②のどちらかがあり、さらに次の9つの症状のうち、5つ以上が存在すると、大うつ病性障害と診断される可能性があります。
うつ病は反復することも
大うつ病を経験しても、回復する人もいますし、何度も繰り返す、難治性のうつ病の人もいます。うつ病のイメージは以下の通りです。
「普通の落ち込み」との違い
気分が落ち込んでいるときは誰でも「抑うつ状態」です。抑うつ状態は、気持ちが滅入る、何をする気にもなれない、不安で仕方ない、むなしい、悲しいなどです。
このようなうつ状態は、誰でも経験することですが、2~3日もすればまた元気になるのが普通です。
ただし、それまで楽しみだったことが面白いと感じられなくなったり、日常生活に支障をきたすほどの落ち込みが2週間以上続いたりする場合は、うつ病と診断される可能性が出てきます。
発症のきかっけ「4種のストレス」
うつ病発症のきっかけになりやすいこととして、以下のようなものがあります。
①環境変化によるプレッシャー、ストレス
就職、転職、昇進、転勤、入学、転校、結婚、出産、人間関係のトラブルなど。
②身体のダメージ
からだの病気や怪我など。
③何かを失うことの不安、むなしさ
こどもの独立、失業、離婚、退職、閉経など。
④別れの悲しみ
家族や友人との死別、失恋など。
いずれも、大きなストレスがかかった時にうつ病を発症しやすいと言うことができます。昇進や結婚など、うれしいことも発症のきっかけになることがあります。
しかし、実際には、何が原因でうつ病になったのかわからない場合もあります。
うつ病のメカニズム
うつ病は、脳内の神経伝達物質の変化が生じるために引き起こされるとされています。
神経伝達物質とは、脳内の神経細胞の間でやりとりされる物質のことで、私たちがものを考えたり、感情を感じたりするときに行き交っています。
うつ病に関係の深い神経伝達物質として、セロトニンやノルアドレナリンがあります。これらの働きが低下したり、バランスが崩れたりすると、うつ病の発症につながると考えられています。
症状をチェックしてみよう
ではうつ病を発症すると、どのような症状が出るでしょうか。具体的な症状をチェックしてみましょう。
入門③双極性障害とは?
気分障害の代表的な疾患として双極性障害があります。
双極性障害とは、双すなわち“ふたつ”の、極すなわち“うつと躁の両極端”が存在する疾患です。
双極性障害は、双極I型障害と双極II型障害とに分けることができます。それぞれ分けて説明していきます。
双極I型障害
双極I型障害は、
①躁病エピソード+大うつ病エピソード
②躁病エピソードのみ
の場合に診断されます。イメージ図を見てみましょう。
躁病エピソードとは、
「異常にハイテンションな状態が1週間ほぼ毎日持続する」
場合を指します。
普段のその人とは明らかに異なり
気持ちが開放的になる
やたらと活力がある
行動が積極的である
あるいは怒りっぽい
といった状態になるのです。
入院が必要なレベルの場合は、期間に関係なく、躁病エピソードとみなされます。
躁病エピソードに加えて、下の7項目のうち3つ(怒りっぽい気分がメインの時は4つ)に該当すると、双極I型障害と診断される可能性があります。
双極II型障害
双極II型障害とは、軽躁病エピソード+大うつ病エピソードがある場合に診断されます。イメージ図を見てみましょう。
軽躁病エピソードとは、
「躁病エピソードが少なくとも4日間ほぼ毎日持続する」
ことで診断されます。
躁病エピソードが1週間だったのに対し、軽躁病エピソードは4日間であることに注意してください。現れる症状は双極I型障害と同じです。
厚生労働省のサイトによると、I型とII型を合わせた双極性障害の人は0.7%くらいの割合とされています。
気分循環性障害
補足として気分循環性障害についても解説します。気分循環性障害とは大うつ病エピソードでも軽躁病エピソードでもない、慢性的な気分の波がある疾患です。下のイメージ図を見てください。
正常ラインより落ち込んだり、気分が高揚したりするのですが、波の振れ幅は双極性障害と比べて緩やかです。
こうした気分の波が少なくとも2年間続いていると、気分循環性障害と診断される可能性があります。
双極性障害は診断が難しい
双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す病気ですが、うつ状態の期間のほうが長いと言われています。患者さんにとっては、うつ状態はつらいので何とかしたい、治したいと感じます。
一方、躁状態は本人にとっては爽快な気分で過ごせることが多いので、これがもともとの自分だと感じられるようです。
そのためうつ状態の時に病院を受診し、躁状態の存在が見過ごされたまま、うつ病として治療を受け続けるケースが多いのです。こうして、きちんと双極性障害と診断がつくまでに時間がかかってしまうことがあります。
気分障害の治療法
ここからは、気分障害の治療について、具体的な方法をご紹介します。
休養第一
気分障害「うつ病」と診断されたら、休養をよくとることが治療の第一歩です。
落ち着いて休養を取るためには、環境調整といって、身の回りのストレスを減らす工夫をします。たとえば、会社を休職する、家事の負担を減らす、などです。
カウンセリング
医師との診察や公認心理師とのカウンセリングでは、辛い気持ちを支えてもらい、病状に合わせた具体的なアドバイスをもらいます。
心理療法を学ぶ
ある程度症状が軽くなってきている時期は、少しずつ力をつけていくことも大事です。
具体的には心理療法を学び実践してみるのもオススメです。心理療法は様々なものがありますが、何を学べばいいかわからない場合は認知行動療法がおすすめです。
*認知行動療法の基礎(動画)
対人関係療法を学ぶ
対人関係療法とは、うつ病、双極性障害の治療法として実施されています。対人関係療法では、身近な対人関係が病気の症状に影響を与え、また病気の症状が身近な対人関係に影響する、と考えます。
そこで、“現在の”対人関係にターゲットを絞って、会話の仕方や、関わり方を改善していきます。
ここで、対人関係療法に関する海外の研究結果を見てみましょう。
Miklowitz(2007)は双極性障害のうつ状態の患者に対して、
対人関係療法を受けた群
心理教育
を受けた群の1年後の状態を確認しました。
その結果、対人関係療法などの心理社会的治療を受けた群では、163名中、105名が回復しました(64.4%)。心理教育を受けた群(130名中、67名が回復(51.5%))よりも統計学的に有意に回復した人が多かったと言えます。
このように、対人関係療法といった周囲の対人関係に焦点を当てた治療は、双極性障害のうつ状態の回復に役立つと考えられます。
心療内科,精神科を受診
・病院選び
もしご自身や身の回りの人が気分障害なのではないかと思ったら、精神科を受診することを考えましょう。気分が改善して落ち着くまでは定期的に通うことになるので、自宅や会社から通いやすいクリニックや病院を探し、予約を取ります。
・問診表への記入
精神科では、問診票に記入する内容がたくさんあります。初診の時は予約時間よりやや早めにクリニックに着くようにします。記入する内容としては、主訴(何を相談しに来たのか)、原因として考えられるストレス因はあるか、職業、家族構成、自分の性格などがあります。
・医師との会話
精神科の診察では、医師との会話が大切です。気分が悪く正確に話せる自信がない方は、あらかじめメモをしておいて、伝えるのもいいかもしれません。
薬物療法
多くの場合、薬物療法が開始されます。いわゆる抗うつ薬による治療です。症状によっては、その他の抗不安薬や睡眠薬などの薬が処方されることもあります。
心理療法と精神科の違い
心理療法と精神科の選択で迷う方はこちらを参照ください。
発展編‐気分変調性障害,新たな疾患
気分障害は、大うつ病、双極性障害が中核となりますが、その他、気分変調性障害や新しい分類法も出てきています。より深く理解したい方は下記を展開してみてください。
気分変調性障害とは?
気分変調性障害とは、大うつ病エピソードはないものの、抑うつ気分が長期間続く疾患です。つまり、軽いうつが慢性的に持続する病気です。以前は抑うつ神経症や気分変調症と呼ばれていました。
抑うつ気分を感じる日が感じない日より多い状態が2年以上続き、次の6つの症状のうち2つ以上が続いていると、気分変調性障害と診断される可能性があります。
1:食欲減退もしくは過食
2:不眠もしくは過眠
3:気力の低下、または疲労
4:自尊心の低下
5:集中力低下、または決断困難
6:絶望感
気分変調性障害をイメージ図で表すと、以下のようになります。
気分は正常ラインより落ち込んでいますが、大うつ病エピソードよりは程度が軽い期間が続いています。
気分障害「新たな疾患」とは?
アメリカ精神医学会が出している最新の診断基準、DSM-5には、うつ病に関連する疾患として、「重篤気分調節症」「月経前不快気分症」なども記載されています。
重篤気分調節症
12歳までの子どもに診断されます。気分の調整がうまくできず、突発的に激怒する癇癪(かんしゃく)発作を起こしたり、持続的にいらいらしたりします。
月経前不快気分障害
月経がはじまる前の時期に、著しい情緒不安定やいらいら、抑うつ感といった症状が出現します。月経がはじまって少しすると、これらの症状は収まります。
また、DSM-IVやDSM-5には載っていませんが、「新型うつ病」と呼ばれるうつ病もあるとされています。
新型うつ病
うつ病と診断されて会社を休職しているものの、趣味や楽しみには参加できる人のことを指します。休職中に海外旅行やスキーに行くなどするのです。
新型うつ病は従来型のうつ病と比べて、怠けているといった印象を与えかねませんが、背景に様々な要因がある複雑な病態である可能性が指摘されています。
専門家の講義を受けたい方へ
最後に、これまで「気分障害」コラムにお付き合いしていただき、ありがとうございました。皆さんの症状が少しでも軽くなるヒントになれたならとてもうれしいです。
ある程度、症状が軽くなってきて、専門家から心理療法や人間関係を学びたい!という方は良かったら私たち公認心理師・精神保健福祉士が開催している、コミュニケーション講座への参加をおススメしています。
コラムだけでは伝えきれない知識や実践的なワークを進めています。みなさんのメンタルヘルスが向上するように頑張ります。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
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*出典・引用文献
川上憲人(2006)こころの健康についての疫学調査に関する研究. https://www.khj-h.com/wp/wp-content/uploads/2018/05/soukatuhoukoku19.pdf
厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス総合サイト 双極性障害(躁うつ病) https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_bipolar.html
Miklowitz, D. J., et al. (2007) Psychosocial Treatments for Bipolar Depression: A 1-Year Randomized Trial From the Systematic Treatment Enhancement Program. Arch Gen Psychiatry, 64(4), 419–426.
佐渡充洋(2014)うつ病による社会的損失はどの程度になるのか?-うつ病の疾病費用研究-. 精神神経学雑誌, 116 (2), 107-115.
Stewart, W. F., Ricci, J. A., Chee, E., et al.(2003)Cost of Lost Productive Work Time Among US Workers With Depression. JAMA, 289(23), 3135-3144. doi:10.1001/jama.289.23.3135.
高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳(2002)DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引き. 医学書院.
高橋三郎・大野裕監訳(2014)DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
山本眞利子(2014)ポジティブサイコロジーとストレングス(強み)の認知行動療法-ストレングスコラム法の実践的試み-. 久留米大学心理学研究, 13, 95-105.