ストレングスモデルの意味や活用法
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。今回は「ストレングスモデルの活用」についてご相談を頂きました。
相談者
30歳 女性
お悩みの内容
私は現在、福祉関係で生活困窮者の支援をしています。転職したばかりで、業界経験は浅いです。上司から口を酸っぱくして「相談者のストレングスに目を向けなさい」と言われます。
自分なりに勉強はしているのですが、ストレングスモデルについて理解を深めたいです。よろしくお願いします。
上司の方は援助者として、すばらしいと思います!ストレングスモデルは、福祉、医療、ビジネスの現場で必須の理論です。是非最後までご一読ください。
ストレングスモデルの意味
歴史
ストレングスという言葉は元々は、アングロサクソン系の中で1970年代の後半から福祉や医療の現場で日常的に使われてきたとされています。「1」有名になったのは、1997年です。カンザス大学福祉大学のラップ教授が「The Strengths Model」「2」を執筆し、世界中で活用されるようになっていきました。
意味
ストレングスは学者により様々な定義がなされています。
全ての人が持つ、目標、才能、自信、資源、人材、機会
(Rapp&Goscha,2006)
いかなる状況にあっても人は、発見されていない無限の力があり、その力を発見し、活かしていこうとするもの
(Walter,2009)
異なったものが各々に有する優れたもの
それぞれがもつ、うまく生きていく力
(狭間,2001)
このように学者によって定義に若干の違いはありますが、人生を充実させるためのあらゆる資源を、ストレングスと考えると良いでしょう。
使用場面
ストレングスという言葉は、福祉関係の援助者が口癖のように使う用語です。例えば、生活保護を受けている方が、社会復帰を希望されているとします。
この時、私たち福祉の援助者はストレングス視点を持って、本人の強みを一緒になって発見していかなくてはなりません。
例えば、保護を希望されている方が、インターネットに詳しいというストレングスを持っているとします。その際は、
インターネットを使った仕事の検討
インターネット関連の職業訓練
相談者が孤独な場合、趣味でつながるSNSを提案
などの視点が必要になります。これは一例ですが、ストレングスには様々な種類があり、強みを柔軟かつたくさん検討することが援助者には必要なのです。
ストレスングス力,7つの方法
ストレングス視点を高める方法として、初学者の方は以下の7つを意識することをおすすめします。
① VIA‐ISモデルの活用
② 強みを活かす提案
③ リフレーミング法
④ ライフチャート法
⑤ 本棚セラピー
⑥ 傾聴力をつける
⑦ ストレングスコラム法
それぞれ援助職、管理職としては必須の知識となります。以下で詳しく解説していきます。
①VIA‐ISモデルの活用
セリグマン(2004)は、ストレングスを測定する「VIA-IS(Values In Action Invent Of Strengths)」というツールを開発しました。VIA-ISは、200以上の哲学・経典から抽出した、6分野24の指標です。
援助すべき対象の方の強みを探すときは、この表をおさえ、ストレングスを把握する際の参考にしましょう。
②強みを活かす提案
VIA-ISを参考に、援助者は相談者の方と一緒に強みを考えて行きます。基本は相談者が自分で気づくように支援をしますが、発想ができない場合は、支援者から提案をしていくのもOKです。
〇〇さんは、接していて気遣いができると感じます。すごく丁寧に電話をしてくれたり、小まめに感謝の言葉を言えていますよね。自分では強みだと思いますか?
そういえば、以前、ゲームに没頭して24時間過ごしたと言っていましたよね。集中力があると感じたのですが、これは強みとして考えられるかな?
このように強みの候補を提案して、相談者の気づきを促していくといいでしょう。この時大事なことは、あくまで提案にとどめる事です。当たり前ですが、援助者が勝手に決めて、相談者の主体性を奪わないように気をつけましょう。
そして強みが見つかったら、一緒にそれをどう役立てていけるか?考えて行きます。集中力がある、というストレングスでしたら、物作り、研究、危険物の取扱、などが向いているかもしれません。たくさん発想していきましょう。
③リフレーミング法
リフレーミングとは視点を変えることで、前向きな長所を発見していく手法です。福祉や医療の現場では、被支援者は自信を失っていることが多く、自分の性格にダメ出しをしたり、挫折で苦しんでいることが多いです。
そのような被支援者と話すときに、タイミングを見てリフレームを一緒にしてみると、思わぬストレングスが発見されることがあります。
例えば
おとなしい性格
をリフレーミングするとどうなるでしょうか?
癒される
圧迫感がない
警戒心を与えない
相手の時間を大事にできる
など、長所として捉えなおすことができそうです。おとなしい…だけでは見えない長所をリフレーミングで発見できるようにしていきましょう。リフレーミングの練習をもっとしたい方は以下のコラムを参照ください。
④ライフチャート法
ライフチャート法は、人生を総合的に振り返ることで、自分自身の強みに気がついて行く手法です。具体的には以下のような図を作成しながらストレングスを見つけていきます。
横軸に年齢、縦軸は幸福度を表します。援助者の方は、適切なタイミングで被援助者の方に、この図を書いてもらいます。そして、幸福度が下がった原因や上がった原因を充分傾聴していきます。
特に重要なのは、幸福度が上がった原因でそこには、沢山のストレングスが発見できるはずです。ライフチャートについては下記のコラムで詳しく解説しています。参考にしてみてください。
⑤本棚セラピー法
本棚セラピーとは自分の長所や資源に目を向けていくことでストレングスを発見していく方法です。例えば、こんな感じの本棚をイメージします。ここにたくさんの知識や長所を入れていきます。
シンプルにできるワークなので、ストレングスを発見する際にとても有効です。項目は自由にアレンジ可能なので、被支援者と相談しながらカテゴリを決めていくと良いでしょう。詳しくは以下のコラムを参照ください。
⑥傾聴力をつける
ストレングスを把握する上では、相談者の方と充分話し合う必要があります。この時大事なのが、傾聴力です。傾聴力がある援助者は、相談者と温かい関係を築き、その信頼を元に、深いレベルの自己開示を引き出していきます。
その深いレベルの自己開示により、その人が大事にしている基本的な価値観を発見することができます。基本的な価値観は、その人の生き方そのものにかかわってくるので、ストレングスの中でも重要度が極めて高いです。ストレングスの発見能力は傾聴力がベースになることをおさえておきましょう。
傾聴スキルがやや不足している…と感じる方は、筆者が主催する人間関係講座がおススメです。講座では
相手の話を受け止めるスキル
質問力を向上させるワーク
共感トレーニング
相槌や表情の練習
などを行っていきます。トレーニングをしっかりしたい方は下記を参照ください。
⑦ストレングスコラム法
自分の強みを探す方法に、ストレングスコラム法があります。ストレングスコラム法は、山本(2014)が開発した、日々の生活の中から、自分の強みを発見していく手法です。やや難易度が高い手法となりますが、より発展的な学習をしたい方は、以下の折り畳みを参考にしてみてください。
ストレングスモデルの研究
ストレングスモデルに関して量的な研究は少ないですが、ケアをする側のストレングス志向に関する研究や、ストレングスモデルを活かして支援にあたった事例などは報告されています。今回は2つの研究について解説をしていきます。
①退院支援とストレングス志向性
ストレングス志向性とは、支援者側が当事者の強みや長所を理解し、それを支援に反映させようとする態度のことを示します。精神障がい者の支援にあたっては大事な関わり方として注目されています。例えば
当事者に必要な資源は何か
経済面、居住面、職業面の強みは何か
ピアサポート(当事者間の力)を重視する
支援過程では当事者が決定者である
などの項目が挙げられます。杉山ら(2022)は精神障がい者のケアに関わる看護師148名を対象にストレングスについて調査を行いまりました。その結果の一部が下図となります。
図のように、経験年数10~20年の層で高くなっていますが、20年以上になると下がっています。ただ経験年数を重ねるだけでは、支援者のストレングス志向が高まるというわけではないということです。
では、何の要因がストレングス志向を高めるかというと、退院支援を行った経験があるかないかということです。下の図は退院支援経験の有無とストレングス志向の関係です。
上の図から、退院支援の経験がある方がストレングス志向の得点が高くなっています。退院支援の経験を通して当事者の退院後の生活を想定する中でストレングスに注目する機会が多いと推測されます。
②シートの活用とストレングの向上
ストレングスモデルを活用して、支援がうまくいった事例を紹介します。長澤ら(2018)ではストレングスモデルを用いて精神科での支援事例を紹介しています。事例
60代男性
統合失調症
パーキンソンニズムがあり生活困難になり入院
薬の副作用によって動作がしにくくなり、日常生活が困難となったため入院した方です。当初は、今後自宅での生活は困難になるとの判断でした。そこで、入院中にストレングスモデルに基づくシートを活用し、今後の生活や目標を決めることにしました。シートを活用した対話からは、
自分の家でのんびり暮らすことが夢
買い物は自分一人で行きたい
歩かないとダメになってしまう
などの声が聞かれました。こうした声を退院に向けての支援者会議で活かすことで、サポート体制をしっかりと整えて、自宅への退院を実現したとしています。
まとめ
繰り返しになってしまいますが、人間はだれしも強みを持っていて、その強みを社会や仕事とつなげる手伝いをするのが、福祉家や管理職の仕事です。
率直なことを言えば、相談してくる方の中には社会常識がなく、攻撃的な方もいると思います。やりとりをしていく中で援助者自身が疲弊してしまうことも多々あると思います。
そんな方でも、一緒になって向き合えば、きっとキラリと光るダイアのような強みを発見できるはずです。その強みを一緒に見つけていくのが、仕事の面白さなのかなと感じています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・強みを見つける,ストレングスの発見練習
・短所を長所に,リフレーミング練習
・支援の力をつける,傾聴トレーニング
・相手を成長させる,コーチング練習
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
*出典・参考文献
「1」佐久川政吉 大湾明美 宮城重二 (2010) 高齢者ケアにおけるストレングスの概念 沖縄県立看護大学紀要11 65-69,
「2」Rapp, C. A. (1998). The strengths model: Case management with people suffering from severe and persistent mental illness. Oxford University Press.
「3」Rapp. C. A., Goscha R. J. (2006) 田中秀樹 (2008). ストレングスモデル 精神 障害者のためのケースマネジメント (第2版),59-102. 東京:金剛出版.
「4」Walter E.K. (2009) . The Opportunities and Challenges of Strengths -Based,PersonCentered Practice : Purpose, Principles,and Applications in a Climate of Systems Integration , Saleebey D. , The Strength Perspective in Social Work Practice (FifthEdition) .47-71, Boston, Allyn & Bacon
社会福祉の援助観 ストレングス視点・社会構成主義・エンパワメント 狭間香代子 筒井書房 2001
・Press Wood, A. M., Linley, P. A., Maltby, J.,Kashdan, T. B., & Hurling, R. (2011).Using personal and psychological strengths leads to increases in wellbeing over time: A longitudinal study and the development of the strengths use questionnaire. Personality and Individual Differences, 50,15-19
・ニューセンチュリー英和辞典,三省堂,1987,p.1279
・大竹恵子(2005)ポジティブ心理学から見た新しいパーソナリティの提案ー人間のポジティブな人格特性(character strengths)について 東北学院大学 日本パーソナリティ心理学会発表論文集14巻
・Peterson, C., & Seligman, M. E. (2004).Character strengths and virtues: A handbook and classification. UK.: Oxford University
・杉山由香里,田中いずみ,遠田大輔,浜多美奈子(2022) 精神疾患をもつ人と関わる看護師のストレングス志向性と経験および教育による比較 日本精神保健看護学会誌 31(2)65-70
・長澤亜矢子,重野みどり,柳津さやか,細田かず子(2018)ストレングスモデルを活用した意思決定支援 信州大学医学部附属病院看護研究集録 46 (1)57-59