早とちりを直す方法
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「早とちりを直す方法」です。
相談者
32歳 男性
お悩みの内容
私は昔から思い込みが激しく、すぐに早とちりをしてしまいます。相手の表情がちょっと曇っただけで、「嫌われた…」と感じたり、ちょっと連絡がないだけで「縁を切られた…」と後ろ向きに考えたりしてしまいます。もう少し冷静に人間関係を築けるようになりたいです。アドバイスをお願いします。
早とちりが多く、空回りしている感覚があるのですね。当コラムは早とちりをしがちな方向けに、冷静になる方法をしっかりお伝えします。是非最後までご一読ください。
早とちりの意味と問題
早とちりの意味
早とちりとは、国語辞典(2017)によると、次のように定義されています。
よく聞いたり、確かめたりしないで分かったつもりになり、まちがえること
早とちりをする人は、1つの事実を元に、根拠なく拡大解釈してしまい、一人相撲を取ってしまいます。
心理学上の意味
心理学においては、早とちりに近い概念として「結論の飛躍」が挙げられます。英語では「Jumping to Conclusions」という綴りで、大した根拠もないのに容易に結論を出す癖を意味します。早とちりとほぼ同じ意味になしますね。
結論の飛躍は「先読みの誤り」「心の読みすぎ」の2つに分類され、様々な問題を引き起こします。
先読みの誤り(Fortune telling)
1つ目は先読みの誤りです。これは不明確な理由にも関わらず、悲観的な未来を予想してしまうことを意味します。例えば、不安を煽られて、条件の悪い契約を結んでしまう、など不正確な行動をしてします。
コロナウイルスの問題が出始めたころは、かなりのデマが世の中を駆け巡りました。ひどいものですと、漂白剤で治る!と拡散してしまった方もいます。早とちりしがちな方はSNSで発信するときに注意が必要です。
心の読みすぎ(Mind reading)
2つ目は心の読みすぎ癖です。相手の考えや感情を根拠なく決めつけたり、考えすぎてしまうことを意味します。例えば、恋愛では、ちょっと好意を寄せられただけで、自分のことを好きと勘違いして、嫌がる相手を誘い続けてしまう方がいます。逆に、ちょっと嫌な表情を相手がしただけで、相手が自分のことを嫌いと勘違いして、身を引いてしまう方もいます。
たとえば、気になる異性をデートに誘うときには、相手の気持ちを過剰に考えてしまい、思わぬ結果を招いてしまう事もあります。
相手の気持ちを過剰に考えすぎてしまうと、にっちもさっちもいかなくなってしまうことも…。このように、相手の話もよく聞かず失敗をしてしまう事を早とちりといいます。
早とちりへの5つの対策
早とちりを直すにはどうすれば良いのでしょか?当コラムでは5つの対策を紹介します。
① 自分を客観視する
② いったん距離を置く
③ 根拠が正確か考える
④ 別の可能性を考える
⑤ 現実的な行動する
ご自身でも使えそうなものをご活用ください。
①自分を客観視する
早とちりしやすい方は、一度思いこむと、感情の赴くまま行動しがちです。ここで大事なことは、まずは早とちりしている自分に気がつくことです。このように自分の状態に気がつくことは、「マインドフルネス」と呼ぶことがあります。
マインドフルネスができる人は、自分がいまどのような状態なのかを客観的に把握し、冷静な考え方や行動をすることができます。具体的には以下のように、「~だな ~な」というワードを使いながら自分を観察してみることをおすすめします。
今自分は早とちりしている状態だな
今自分は冷静に考えていない状態だな
今自分は感情的に動こうとしているな
マインドフルネスについては以下のコラムで詳しく解説しています。早とちりして混乱しやすい…と感じる方は参考にしてみてください。
②いったん距離を置く
早とちりをする人は、早まった行動を起こしてしまうことがあります。例えば、投資であれば根拠の薄い状態で、持つべき株を売ってしまったり、人間関係では暴言を吐いてしまったりします。一時的な感情で行動してしまうと、長期的には大きな損失となってしまう恐れがあり注意が必要です。
早まった行動を軽減するためには、いったん距離を置くという方法がおすすめです。例えば、以下のような方法が挙げられます。
相手を怒鳴る前に1回だけトイレに行く
相手が話終わってから話す
投資で株を売るべきか1日置いて再度考える
人の感情には波があり、永続的に続くものではありません。そこでほんの数分でも、対象の事柄から離れることで落ち着きを取り戻すことができます。早とちりで失敗が多い方は、行動する前に一拍置くという意識を持つと良いでしょう。
③根拠が正確かを考える
早とちりが多い方は、根拠が曖昧なまま行動してしまうことが多くあります。根拠が薄い場合、行動の結果は「運」の要素が強くなり、結果的にミスすることが増えてしまいます。そこで、早とちりで行動する前に根拠が正確かどうかを考えるようにしましょう。
根拠を確かめる具体的な方法としては、以下の3つ手順で行います。
根拠があるかどうかを考える
何%ぐらいの確率で正しいか考える
過去の同じ事例があるかを考える
早とちりしがちな時は、確証のない状態で行動してしまうケースも少なくありません。そのため、まずは「根拠があるのか?」という前提に目を向けるようにしましょう。
次に根拠の正しさを%で考えてみます。50%未満であれば、特に気にする必要はないかもしれません。最後に過去の経験を振り返って、同じ事例があるかを考えます。もしその結果が深刻でなければ、行動を急がなくてもよい可能性があります。
根拠が正確かどうかを検討する方法は以下のコラムで詳しく解説しています。早とちりでトラブってしまう…と感じる方は参考にしてみてください。
現実検討能力を高める
④別の可能性を考える
早とちりしがちな方は、別の可能性を考えることもおすすめです。例えば、友人をデートに誘ったとします。この時、一瞬顔がこわばった後に、「いいよ…」とOKをもらったとしましょう。この時
本当は嫌なんだ!
と予測するだけでなく
突然でおどろいたのかもしれない
2人きりであうのは不安なのかも
OKをくれたということは少しは嬉しいのかな
と他の可能性も考えられると良いでしょう。少しの情報で相手の感情を決めつけないように、最低でも3つぐらいは発想してみましょう。
⑤現実的に行動する
①~④を把握した上で、根拠に基づいた行動するように心がけましょう。行動前にいくつかの可能性が見つかっていると思いますが、その中でも最も確率の高いものを参照して行動していきます。
ただし何事も確実なものは存在しないことにも留意することが大切です。行動した上で全く想定外の事態に繋がることも十分あり得るでしょう。これによって、行動後の早とちりも抑えることができます。
練習問題にチャレンジ
最後に早とちりを改善する練習問題を3つ作成しました。より理解を深めたい方はチャレンジしてみてください。
太郎さんのプロフィール
・28歳男性
・パチンコが趣味
・不定期の仕事で月収15万
・パチンコで30万負ける
状況
太郎さんはお金がなくて不安な日々を過ごしていました。そんな時にインターネットで検索をしていたら「無料投資相談」という広告を見つけました。コレだ!と思った太郎さんは話を聞いてみることにしました。当日、コンサルタントは以下のように話しました。
・1か月で100万稼いだ人もいる
・成功者の真似をするだけでいい
・このやり方なら損することはない
・30万円で情報教材を買える
太郎さんは、「この人は本物だ!絶対に稼げるに違いない!」と早とちりをしています。先ほど紹介した5つの治し方で捉え直してみましょう。
①自分を客観視する
②いったん距離をおく
③根拠が正確かを考える
④別の可能性を考える
⑤現実的に行動する
解答例
①自分を客観視する
「今、興奮して買おうとしている自分がいるな」
「人生一発逆転できると感じている自分がいるな」
「挑戦してみたいと思っているな」
②いったん距離をおく
「この場で決断する必要はない、いったん持ち帰って考えよう」
③根拠が正確かを考える
「真似するだけでいい、損をしない、と言っているが、明確な証拠を見たわけではない」
④別の可能性を考える
「これだけ美味しい話だから、何か裏があるかもしれない」
「投資は景気に左右されるため、損をしないとは限らないはず」
「自分で勉強すれば、大金を払わずともそれなりに稼げるのでは」
⑤現実的に行動する
「とりあえずこの話は一度持ち帰ろう。自分なりに調べてみて、自分でできそうであれば挑戦しよう。行き詰った時にお金に余裕があれば、このコンサルタントでなくても、信頼できる人に相談するのもいいかも」
次郎さんのプロフィール
・高卒で鉄道会社に就職
・入社12年目
・電車のエンジニアとして勤務
状況
・登山サークル初参加
・サークル後の飲み会にも参加
・大学の話が出てみんなもり上がる
この時、以下のような会話になりました。
メンバー 「鈴木さんは、大学は出たのですか?」
次郎さん 「いえ、高卒です」
メンバー 「そうなんだ~」
次郎さん 「高校では○○で…」
次郎さんは高校での話をすることに。しかし、参加者と会話が盛り上がりませんでした。次郎さんは「高卒の僕を馬鹿にしている!」と考えてしまいました。この次郎さんの早とちりを、先ほど紹介した5つの治し方で捉え直してみましょう。
①自分を客観視する
②いったん距離をおく
③根拠が正確かを考える
④別の可能性を考える
⑤現実的に行動する
解答例
①自分を客観視する
「今、怒りが湧いてきたな」
「高卒をバカにされたと思っているな」
「心拍数が上がっているな」
②いったん距離をおく
「このままでは不穏な空気を流してしまうかも、いったんトイレに行って深呼吸しよう」
③根拠が正確かを考える
「話が盛り上がらなかっただけだ、言葉にして高卒を馬鹿にされたわけではない」
④別の可能性を考える
「興味をもって話を聞いてくれた、高卒にこだわっているわけではないのかも」
「高校の部活の話題はみんな楽しそうだった、その話は盛り上がっていたかも」
「僕の話をしっかり聞いてくれた、馬鹿にしていたわけではないかも」
⑤現実的に行動する
「高卒をバカにされたという根拠ない、盛り上がった話もあった、ひとまず今はこの場を楽しもう」
花子さんのプロフィール
・恋人の太郎君がいて好きでたまらない
・お付き合いして2年目
・太郎くんが最近転勤し遠距離恋愛に
状況
・転勤してから太郎くんからの連絡がない
・花子さんからの連絡にも返信が遅い
花子さんは太郎くんに対して、「私のことを嫌いになったに違いない」と考えてしまいました。花子さんは早とちりをして、太郎さんに喧嘩腰にメッセージを送信してしまいました。この花子さんの早とちりを、紹介した5つの治し方で捉え直してみましょう。
①自分を客観視する
②いったん距離をおく
③根拠が正確かを考える
④別の可能性を考える
⑤現実的に行動する
解答例
①自分を客観視する
「なんで連絡してくれないの!と思っているな」
「不安や悲しさ、憤りを感じているな」
「相手を問い詰めたくなっているな」
②いったん距離をおく
「今は冷静な判断ができないから、3日ぐらい連絡せずに様子を見よう」
③根拠が正確かを考える
「返信が遅いからと言って、嫌われたという確証はない」
④別の可能性を考える
「回数は減ったけど連絡をくれる、私を嫌いになったわけではないかも」
「連絡には必ず返信をくれる、私のことを気にかけてくれているのかも」
「話を聞いてくれることもある、私のことを大事に思ってくれているのかも」
⑤現実的に行動する
「連絡が少なくなって寂しいと素直に自分の気持ちを伝えよう、相手が忙しいならどこで折り合いをつけるしかない」
まとめ
繰り返しになりますが、早とちりしがちな人は、仕事や恋愛で非現実的な行動をしやすくなります。今回紹介した、冷静に自分を眺める練習や、現実的に考えることを是非試してみてください♪皆さんが健康的で、バランスの良い行動ができることを願っています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・早とちりを治す,冷静になるトレーニング
・落ち着く練習,マインドフルネス練習
・根拠は正しい?現実検討能力トレ
・健康的な人間関係を築く練習
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
*出典・参考文献
・金田一 京助(2017)例解学習国語辞典, 小学館 P.964