あがり症を克服したい,治し方を知りたい
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師川島達史です。今回は「あがり症を克服する方法」について、ご相談を頂きました。
相談者
30歳 男性
お悩みの内容
最近、私は主任に昇進しました。悩ましいことに月に1度50人の前で報告しなくてはなりません。元々内向的な性格で人前に立つ機会を避けてきたので気が重いです。
たかがあがり症と言いますが、正直会社に行きたくないぐらい悩んでいます。克服するにはどうすればいいのでしょうか?
人前に立つ機会があると、失敗したらどうしようと気が気ではないですよね。特に会社に行きたくない…と感じるぐらい悩みなので、症状としては重たいと感じました。当コラムでお悩みを改善するお手伝いをさせて頂きます。是非最後までご一読ください。
あがり症の仕組み
人前に立ったり好きな人と会話をすると、なぜあがってしまうのでしょうか?まずは体と心の仕組みを理解していきましょう。
心と体はつながっている
はじめに抑えておきたいのが、私たちの心と体はつながっているということです。心が緊張すれば体も緊張しますし、その逆で体が緊張すると心も緊張するのです。
心と体を繋げるメカニズムの1つに神経があります。神経は
交感神経
副交感神経
の2つがあります。
交感神経は不安、恐怖心、集中、などの心理と結びつき
体を戦闘状態にする
呼吸があらくなる
頭に血液をのぼらせる
集中力を高める
など体を興奮させる効果があります。
副交感神経は安心、落ち着き、楽観、などの心理と結びつき
呼吸を整える
筋肉を緩める
心拍数を落ち着ける
など体をリラックスさせる効果があります。
適度なあがり
適度なあがり症は交感神経が健康的に働いている証拠です。交感神経はあなたの集中力を高める味方です。適度に緊張するからこそ一生懸命話して、相手に気を使うことができるのです。
余談ですが、あがりの語源としては遊郭から来ていて、おちゃを挽いてお客さんがつかない遊女にお客さんつくと「あがり」と言っていたようです。日本料理は最後のお茶を「あがり」と言いますが、比較的ポジティブな意味になります。
トランプでいい手をあがる、地位があがる、テンションがあがるなど前向きな表現ですよね。あがり症も実はある意味で、あがっている↑のであり、これから頑張るぞ↑という意識の表れなのです。
過剰なあがり
一方で、あがりが過剰になると問題が出てきます。交感神経は働きすると逆に動きが悪くなり、
頭が真っ白になる
足ががくがく震える
声が震える
汗が噴き出す
などの症状が出てきます。その結果、スピーチで失敗する、スポーツでミスをしやすくなるなどの問題が起こるのです。
あがり症の最大の問題
1次被害は小さい
このような強いあがりによってパフォーマンスが低下する問題を、筆者の川島はあがり症の1次被害と呼んでいます。実は1次被害は一般の生活において致命傷になることはありません。
例えばプレゼンテーションであがってしまったとしても、大事なのは中味です。あがったからと言って評価を下げるような会社は少数派です。むしろ心理学の実験では、適度に緊張していたほうが好感を持たれるという研究もあったりします。
一瞬で勝負が決まるプロスポーツ選手ですと確かに、あがり症の1次被害は大きいですが、そのような仕事についている方はそこまで多くありません。
2次被害は大きい
問題となるのは2次被害です。2次被害はあがり症であることで、
人間関係で回避的になる
自己肯定感が低下する
対人恐怖心性が増加する
という問題が起こります。あがり症を気にするあまりチャレンジすることに回避的になり、経験値が不足し、スキルが落ちて、更にあがり症がコンプレックスになるという悪循環に陥りやすくなるのです。
重症化すると、社交不安障害、赤面症、視線恐怖症という問題に発展することもあります。このコラムを読む方も、1次被害よりも2次被害が問題になりやすいことをしっかりおさえておきましょう。
克服する4つの基本対策
あがり症を改善する手法はたくさんあるのですが、まずは入門編として以下の4つをおさえておきましょう。
①私的自己意識
②呼吸とリラックス法
③段階的な不安階層表
④森田療法を活用
克服① 私的自己意識を増やす
まずは①私的自己意識から解説します。
公的自己意識とは何か
あがり症と深い関係にあるのが「人の目を気にする」という心理です。
嫌われるのではないか
はじをかいてはいけない
馬鹿にされてはいけない
これらの心理には他人の目があります。これは心理学的に「公的自己意識」と呼ばれています。公的自己意識はあがり症に必ず伴うもので、強くなればなるほど緊張しやすくなります。
私的自己意識とは何か
この点を改善するには「私的自己意識」を増やしていくことが大事です。私的自己意識とは自分に意識が向いている状態です。
旅行に行った話がしたい!
良いアイデアがあるので伝えたい
はあ~愚痴を聞いてほしい
これらの心理には相手の目はほとんどありません。あくまで自分主体なのです。私たちは幼いころは私的自己意識の塊です。
周りの目など気にしないので、先生から「わかるひと~?」と言われると一斉に手を挙げて壮大に間違えまくります。
あがり症を改善するには強すぎる公的自己意識を減らして、私的自己意識の比重をあげていくことが極めて重要になってくるのです。詳しくは以下のコラムを参考にしてみてください。
克服② 呼吸とリラックス法
副交感神経を改善しよう
2つ目は呼吸法を学びましょう。冒頭でもお伝えした通り、あがり症は
緊張系の交感神経を緩める
安心系の副交感神経を働かせる
この2点が大事になります。副交感神経をはたらかせるには、体の力を抜く感覚が大事になります。
具体的には、呼吸法、自律訓練法、筋弛緩法…など様々な種類がありますが、入門としてはすぐにできて安全な「呼吸の仕方」を紹介したいと思います。方法は下記に折りたたんで記載してあります。クリックすると開きますので参考にしてみてください。
腹式呼吸
シンプルに行うとすれば腹式呼吸がおススメです。
・鼻から息を吸う
おなかを膨らませながら鼻から4秒吸いましょう。落ち着いた良い空気が入ってくるイメージがおススメです。
・息を吐き出す
口からゆっくり8秒近くかけて吐き出します。悪い空気が出ていくイメージがおススメです。
これだけです!1分程度で緊張は少しほぐれると思います。呼吸法は簡単かつ、効果的で、緊張がほぐすことに有効です。体がほぐれると心にもリラックス効果があります。
丹田呼吸法
もう1つの呼吸法として丹田呼吸法をお伝えします。
①丹田を意識する
臍(へそ)の下、握りこぶし一つ分のところに手を当てます。この部分が丹田です。
②姿勢を正す
あぐらをかき背筋を伸ばします。両手を丹田に置きます。
*椅子でもOKです
③丹田で息を吸う
鼻からゆっくりと息を吸います。丹田に空気が溜まっていく感覚を大事にします。
④ゆっくり息を吐く
丹田を意識し、口からゆっくり息を吐きます。
①~④の動作を20サイクル行います。ただし最初は難しいと思いますので、まずは5サイクルをめどに取り組んでみましょう!慣れてきたら、10サイクル、20サイクルと増やしていってください。
もっと練習したい方
呼吸法はこの他にもたくさんのやり方があります。ご自身にあったやり方を参考にすると良いでしょう。詳しく知りたい方は以下のリンクも参考にしてみてください。
深呼吸のやり方,効果
克服③ 段階的チャレンジ
解説が長くなっているので改めて目次を復習しましょう。
②私的自己意識
③呼吸とリラックス法
④段階的な不安階層表
⑤森田療法を活用
今回は段階的な改善を目指す不安階層表をお伝えします。
急な解決はNG
あがり症を抱える方は、悩みを改善するために過度の目標を立てることがあります。
・あがり症をゼロにしたい
・100人の前で緊張しないで話せる
・どんな時でも平常心になる
これらの目標は大概の場合うまく行かず失敗に終わります。
スモールステップが大事
心理学の研究ではモチベーションを持続させるにはスモールステップが有効であることがわかっています。具体的には、不安階層表を作成して段階的に練習していくのです。
こちらがスモールステップ、不安階層表の例です。こちらはかなりレベルの低いスモールステップですが、私が社交不安障害の頃に実際に行っていた訓練です。
あがり症を改善したい場合は、いきなり高い目標を掲げるのではなく、自分ができる範囲で少しずつチャレンジできる幅を広げていくことが大事になります。詳しくは以下のコラムを参考にしてみてください。ワークシートの作り方など詳しく解説しています。
克服④ 森田療法を活用
入門の最後として森田療法を紹介します。
森田療法とは主に神経症の治療法として開発された日本の心理療法です。森田療法はあがり症の改善にも有効です。その森田療法の中では、2つのキーワードが重視されています。
あるがまま
“あるがまま”とは、気分に関係なく行動するということを意味します。決して気分のままに行動するということではありません。あがり症ではあがってしまう症状はそのままにして、無理に打ち消そうとしない態度を重視します。
目的本位
目的本位とは気分にとらわれないで、やるべきことをやることを言います。例えば、スピーチであがってしまっても
・目の前の発言に集中する
・伝える気持ちに集中する
といった態度をとるようにします。あがり症を改善しようとする方は、とにかくあがりに固執しすぎて症状を悪化させてしまいます。森田療法はある意味、あきらめと受け入れの心理療法です。
長年あがり症の苦しみ続けてきた…という方は特におすすめの心理療法です。入門の仕上げとして、以下のコラムも参考にしてみてください。
あがり症と付き合う,森田療法
お知らせ・発展編
ここからは「お知らせ」と「発展編」をお伝えします。
講座のお知らせ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・緊張しやすい考え方を見直す
・身体のリラックス法を学ぶ
・人の目を気にする意識を改善
・場数を踏んで緊張場面に慣れる
仕上げ動画
あがり症について動画でも解説しました。仕上にご活用ください。
あがり症診断
以下の診断ではあがり症の強さを簡易的に把握することができます。客観的な指標で自己理解を深めたい方は参考にしてみてください。
赤面症
あがり症の方は赤面症、視線恐怖症という症状を持っていることがあります。顔が赤くなることが怖い、人の視線が怖いという方は下記のコラムを参考にしてみてください。
社交不安障害
会話をすると緊張で汗が止まらない、人と接する場面を徹底的に避ける、引きこもりがちである、これらに当てはまる方は社交不安障害の可能性があります。症状が重たい方は下記のコラムを参考にしてみてください。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
「あがり症診断」では「かなりあがる」と出ました。
特に人前にでると、頭が真っ白になるので、予測の見立てを立てて対処━事前準備をしっかりすることで対応できる様です。確かに友人の結婚式のスピーチでは、練習不足でしどろもどろになり当たって砕けました。今でも黒歴史です。
次の機会があれば、恐怖突入→目的本位→事前準備で乗り切りたいです。