リーダーシップを発揮する!心理学の基礎-入門②
当コラムでは、リーダーシップについて解説をしています。コラム全体の目次は以下の通りです。
今回は心理学から派生したリーダシップ論について解説をしていきます。以下の内容で解説をしていきます。
・ストローク理論
・ピグマリオン効果
・マズローの欲求の5段階設
・課題設定とフロー心理学
・X理論とY理論+Z理論
・交互作用でチーム力をつける
心理学のリーダシップ論を0から学びたいという方は、ぜひ最後までご一読ください。
①ストローク理論
リーダーシップを取る上で、「もっと部下を褒めた方がいいのか」はたまた、「もっと厳しく接するべきなのか」という悩みを抱くことも多いでしょう。まじめなリーダーであるほど、
・人に頼ってはいけない
・弱みを見せるのは恥だ
・厳しい状況を耐えぬくのが人生だ
などの信念を持っている方が多いように思われます。
もちろん、こうした信念は100%間違っているわけではありませんが、社会の根本にあるのは助け合いの精神です。そこで厳しく接するだけではなく、相手を肯定する気持ちも大切になります。
ストロークとは何か
相手を肯定する時に重要なのが、心理療法の1つであるストロークという概念です。ストロークとは「関わり方、人との接し方」を意味します。ストロークはさらに、
・条件付き肯定的ストローク
・無条件の肯定的ストローク
の2つに分けられます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
条件付きストローク
まずは「条件付きストローク」から見てみましょう。条件付きの肯定的ストロークとは、〇〇をしたから、与えてあげる愛情です。
具体的には、
・皆勤賞だから
・営業成績が上がったから
・ミスが少ないから
部下を褒めるというのは、すべて条件付きストロークですね。
たとえ、条件付きであっても肯定的ストロークをもらえるのは喜ばしいもの。ただ、条件付きには弱点があって、「その条件を満たせない時には、肯定してもらえない」という点です。
具体的には、
・会社を1日でも休んだらダメだ
・営業成績が下がったらクビになる
・1つでもミスをしたら人間失格だ
などと部下が考えるようになります。肯定されたいという気持ちが「条件」によって過剰になってしまい、人は損得がすべて、人は結果しか見ないという感覚になってしまいます。
無条件の肯定的ストローク
一方で無条件の肯定的ストロークとは、〇〇をしなくても、与えてあげる愛情です。
具体的には、
・応援しているよ!
・最近うまくやってる?
・おはよう!
などのコミュ二ケーションは無条件の肯定的ストロークに当たります。ポイントなのは、「どんな時でもあなたと私は肯定されている」という感覚があることです。
特別でなくても良いのです。〇〇だから・・△△だから・・・という理由はいらず、その人の存在自体を肯定してあげます。無条件に「自分は周りと同じように愛される存在だ」という気持ちを育てることが、リーダーシップを高める上でとても大切です。
無条件の肯定的ストロークの活用法
以下、無条件の肯定を使ったリーダシップの取り方を解説しています。気になる方は下記を展開して確認してみてください。
リーダシップを取る立場にいる方は、
おはよう
お疲れ様でした
などのあいさつは日常的に行っていると思います。無理なく無条件の肯定を増やすためには、あいさつにさらに無条件の肯定をする声掛けを加えると良いでしょう。
例えば、「おはよう!」だけで終わらせず、
おはよう!最近、調子はどう?
といった具合に、ひとこと加えるのです。このように普段、習慣になっていることに結び付けて行うと自然に無条件の肯定的ストロークををする回数が多くなっていきます。
ストロークには相手を否定するものも存在します。その中でも注意しなければならないのが、無条件の否定的ストロークです。代表的な例としては、
・人間性を否定する
・暴力や暴言を振るう
・嫌がるあだ名で呼ぶ
などが挙げられます。もし、部下を教育するために否定しなくてはならない場合は、条件付きで行いましょう。「遅刻をしたらダメだよ」といった具合に何がダメだったか部分的に否定するのです。
さらに、それを無条件の肯定でサンドイッチをすることが大切です。
「おはよう!(無条件の肯定)今日は10分遅刻だな~次から気をつけてな(条件付き否定)。一緒に今日も頑張ろう(無条件の肯定)」
こうすることで、注意しても部下から反感を買うことがなく、さらに無条件の肯定を増やすことができます。リーダシップを取るうえで「無条件の否定」はチームを壊すことにもつながるため注意が必要です。
ノンストロークとは、「全く関わろとしない姿勢」のことを意味します。
例えば、
・無視をする
・チームに存在しないような扱い
・仕事を与えない
このように、誰かを省くようなコミュニケーションはリーダシップに不信感をもたらしてしまいます。本当に忙しくて部下の対応ができない時は、無視せずに、
「今忙しいから後にしてくれる?」
としっかり相手に伝えるように心がけましょう。
ストロークをより深く知りたい方は下記をご覧ください。
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは
ピグマリオン効果とは、1964年に米国の教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱された理論です。ローゼンタールの実験は以下のような手順で行われました。
①テストの実施
子供たちに「ハーバード式突発性学習能力予測テスト」を行なう。
②成績が伸びる群、伸びない群
検査の結果と関係なく無作為に選ばれた児童の名簿を学級担任に見せて、この名簿に記載されている児童が、今後数ヶ月の間に成績が伸びる子供達だと伝えた。
③8か月後に再調査
8か月後成績を計ると、成績が伸びると言われた群は実際に成績が伸びた。
このように「人間は期待された通りの成果を出す傾向がある」ことを
ピグマリオン効果
と言います。
ピグマリオンというキプロス島の王が女性の彫刻像を愛し続け、本物の女性になった神話からこのような名前が付けられたようです。
ゴーレム効果とは
逆に、「期待をしていないと成果が出てにくくなる」ことを
ゴーレム効果
と言います。
ゴーレムとはユダヤ教の伝説にでてくる、呪文により動く泥人形を意味します。ゴーレムはマイナスの行動を再現なくしてしまうという意味で、あまりい意味では使われないことから、ゴーレム効果と名前が付けられました。
部下に期待することが大切
リーダーシップをとるうえでは、
「この人ならできる!」と期待をすること
がとても重要です。期待をしないいということは部下にとってはとてもがっかりする事で、モチベーションが低下してしまいます。
まずは期待している!と本人に伝える続けることがリーダーシップを発揮するには必要と言えます。
②マズローの欲求5段階説
マズローの欲求5段解説とは
マズローの欲求5段階説は、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した理論で人間の欲求を5つの階層で段階的に表したものです。
人の欲求は、自己実現を達成するまでに段階的に満たされていくものであり、
・生理的欲求
・安全欲求
・社会的欲求
・承認欲求
・自己実現欲求
の5段階で構成されると考えられました。
そして、マズローは、
5つの欲求はピラミッドのように構成されており、低階層の欲求が充たされると、より高次の階層の欲求を欲する
図にすると次のようになります。
マズローの考えの根底には、人間は自己実現のために絶えず成長する生き物だというものがあります。そして
「人の欲求は皆同じものではなく、それぞれの価値観や置かれた環境によって変化する」
という点がポイントとなります。
リーダーシップに活かすには?
仕事においても、入社したての新入社員と、数年間の実績を踏んだ中堅社員、管理職として業務に携わる人材とでは、モチベーションが向上する動機やインセンティブは異なってきます。
また、ライフスタイルによっても、できるだけ多くの賃金を求める人、休暇を大切にする人、立場や昇格に重きを置く人、様々タイプの人材がいて当然です。
例えば、
安定志向が強く、一緒に飲んでいる時に「貯金が欲しい」ともらしていた
→残業があるときは、一声かける
自己実現欲求が強く早く出世がしたい部下
→難易度の高い仕事を与える
このように、リーダーシップを発揮するには、部下がどのステージにいるかを把握してその階層にあった対応が大切です。
リーダーが、部下のやる気を引き出すためには、それぞれの環境や経歴、立場などを考えし、満たすべき欲求を見極めることが重要です。
マズローの欲求5段階説をより深く知りたい方は下記をご覧ください。
③課題設定とフロー心理学
フロー心理学とは
20世紀を代表する心理学者の1人であるミハエル・チクセントミハイが提唱した理論で、
「フロー状態=完全にのめり込んでいる状態」が最も成果を上げやすい
という考えです。フロー状態に入る条件はいくつかありますが、その中でも
・課題の難易度
・自分の能力
のバランスがちょうどいいことがとても大切です。
難易度とスキルの3つの領域
もう少し踏み込んで解説してみましょう。以下の図をご覧ください。
それぞれの領域を解説していきます。
1.ゾーンA
自分の能力が低く、難しい課題に取り組んでいる状態です。
例えば、
・小学生が高校生とサッカーをしている
・初心者がプロと対戦する
このゾーンでは、失敗が続き挫折感が多く経験します。そのため、自信を失ったり行動が消極的になります。
2.ゾーンB
自分の能力は高いのに、簡単な課題に取り組んでいる状態です。
例えば、
・高校生が、足し算や引き算をひたすらやる
・プロのスキ―選手がファミリーゲレンデで練習する
このゾーンは簡単すぎるため、飽きてしまったりやる気を維持できません。
3.ゾーンC
能力と課題がどちらも高く、課題がやや難しいぐらいの状態です。
例えば
・同じぐらいのレベルのチームと対戦
・自分のレベルより1つ上の学校を受験する
このゾーンが、フロー状態に入りやすいです。成果が適度に出せるため自信が付きやすくなります。また、失敗しても成功も経験できるので、モチベーションが維持がしやすく集中力も高くなります。
フロー状態でやる気アップ
フロー状態に入ると、
「人は幸福感に満たされ自分の持つ力を最大限に発揮できる」
といいます。
フロー状態は、スポーツの世界でよく耳にする言葉ですが、ビジネスや教育の場面においても非常に有効な概念です。リーダーシップにうまく取り入れることができれば、
・生産性が高まる
・短時間で成果が上がる
・やる気を維持できる
などのメリットがあります。
部下のやる気や能力を発揮するには、能力と課題が同レベル、もしくはやや難易度の高い挑戦をさせるように調整しましょう。
フロー状態をより深く知りたい方は下記をご覧ください。
X理論・Y理論とZ理論
リーダーシップを発揮するためにとても重要な「人のモチベーションを左右する」3つの経営理論です。それぞれの提唱者は以下の通りです。
・X理論,Y理論
1950年代後半に経営学者でマサチューセッツ工科大学教授のダグレス・マグレガー氏が提唱した、人間観・動機づけにかかわる2つの対立的な理論です。
・Z理論
ダグレス・マグレガー氏が開発し、1970年代に経営学者のウィリアム・オオウチ氏が完成させた理論です。
3つの理論の意味やメリットを比較してみましょう。
X理論(性悪説)
X理論とは、
人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしない
という性悪説的な考え方を前提にした理論です。一定の報酬を約束する代わりに命令や強制で管理し、管理・懲罰・給料といった「アメとムチ」によるマネジメント手法です。
メリットマズローの欲求段階説の「生理的欲求」や「安全や安定の欲求」など低次欲求によって働く人に有効とされています。
メリット
・目に見えるかたちでのご褒美や厳罰を与えることでモチベーションを維持することが可能です
デメリット
・指示や命令が強くればなるほど、部下は指示待ちになりやすい
・上司の指示・命令がおよぶ範囲でしか業績が上げられないという悪循環に陥りやすい
Y理論(性善説)
Y理論とは、
人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をする
という性善説的な捉え方をしている理論で、高次欲求(自己実現の欲求・承認欲求)が高い人に効果が期待できるネジメント手法です。個人の自己実現と組織の利益が合致するような目標設定を行うため、リーダーの見極め力が必要となります。
メリット
・適切な仕事環境を与え、魅力ある目標や責任などの「機会」を与えることでモチベーションの向上が期待できる
デメリット
・低次欲求が満たされない労働環境や高次欲求を持ちにくいルーティンワーク等の場合、有効がないケースがある
Z理論(性善・性悪説)
Z理論とは、
人間は本来進んで働きたがる生き物だが、同時に怠けたがる生き物で、バランスを取るためにコミュニケーションをすることが大切である
という日本企業とアメリカ企業を比較対照しながら展開した理論です。
上下や横のコミュニケーションを大切にするマネジメント手法で、企業への忠誠心、やる気、信頼関係が構築できている環境で効果が期待できます。
メリット
・温かなコミュニケーションがあることで、個人のモチベーションが上がり自発的な行動が促せる
デメリット
・社内文化に沿わない人材への評価が慎重になりやすい
Z理論は、X理論・Y理論の良いところを集めた考え方で、人材を生かしたリーダーシップを行うには、一番理想とする理論かもしれません。組織内で、積極的・建設的な良いストロークが日々交わされることで効果を上げることができるでしょう。
交互作用と作用でチーム力⇧
交互作用とは?
最後に、リーダーシップを取るうえで忘れてはいけない「交互作用」についてお伝えします。交互作用とは、
2つの異なる要素が組み合わさることで現れる相乗効果
のことです。例えば、特別能力が高いわけでもない人でも、他者との相性次第で大きなパワーや魅力を発揮することがあります。
1人だとパッしなかったり、マイナスにさえ思われる人でも、交互作用によって大いに輝き活躍する可能性を秘めているのです。
組み合わせが能力を飛躍させる
仕事でより高いパフォーマンスを生み成果を上げるには、組織編成やチームワークがとても重要になります。そのためには、
ひとりひとりの個性
持ち味をきちんと把握し、
活かすことができる
リーダーの采配センスが問われてきます。
ネギだけ食べて美味しい?
料理で言えば、ちゃんと味や栄養の調和がとれる具材を選んで合わせて調理することができるかということです。例えば、
ネギそのものの味だけで勝負するには限界があります。そこに
・醤油スープ
・ラーメン
・焼豚
加わることによって、ネギがさりげなくアクセントとなって、とっても美味しい「醤油ラーメン」が出来上がるのです。料理は同じ具材ばかりでは、まったくおいしくないのと同じように。組織も多様な人がいてこそ、大きな力を発揮します。
一見、明るく元気な人材ばかりを採用しても、会社はうまく行かないのです。リーダーシップを発揮するには、ひとりひとりの能力を上手く引き出しながら、交互作用を高めるチーム作りを目指しましょう。
まとめ+お知らせ
コラム② 心理学のリーダーシップまとめ
今回は心理学から派生したリーダーシップについてご紹介しました。いかがでしたでしょうか?心理学の観点からは主に
いかにメンバーをモチベートするか
いかに能力を最大限に発揮させるか
という部分を学ぶことができます。社員の生産性を高めたい、やる気を上げたい、目標を達成させたいという場合には、今回のコラムをご紹介した内容が役立つでしょう。ぜひ、実践に取り入れてみましょう。
コラム③ コミュ力とリーダーシップ
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