仕事が辛い時の過ごし方,対処法
皆さんこんにちは!公認心理師の川島達史です。私は現在こちらのコミュニケーション講座の講師として活動しています。今回は「仕事が辛い時の過ごし方」について解説させていただきます。
相談者
30歳 男性
お悩みの内容
私は現在、IT系の会社に勤めています。上司や同僚との折り合いが悪く、職場で孤立しがちです。残業も多く、心も体も疲れています。仕事で辛い時の対処法を知りたいです。よろしくお願いします。
頂いたお悩みから辛いお気持ちが伝わってきました。当コラムでは仕事が辛い時の対処法をしっかり解説していきます。是非最後までご一読ください。
仕事とストレスの社会問題
6割がストレスを抱えている
厚生労働省の調査[1]では、6割の方が仕事において強い不安や心理的問題を抱えていることがわかっています。「仕事が辛い」という悩みは個人を超えて、社会全体の問題と言えます。仕事は本来、人生を幸福にするためにあるものです。幸せに生きて行くために働くのに、ストレス抱え、心と体を壊してしまう人が多いのが現代社会の特徴なのです。
大きな原因は質と量
私たちはどのような原因で仕事が辛いと感じるのでしょうか。労働安全衛生調査の表[2]を見てみましょう。
このように一番大きな原因は、仕事の質・量で、そのあとに、仕事の責任や人間関係が続く形になっています。労働時間は2014年が平均45時間前後で、2021年は25時間前後という統計[3]もあり、改善傾向にありますがサービス残業などで統計的に把握しきれていない部分もあると思われます。
また仕事の質が悪いケースも注意が必要です。パワハラを日々される、集中力を過剰に要求される、過度の競争主義の職場などは、より慎重になるべきでしょう。
労働時間と精神疾患のリスク
労働政策研究(2005)[4]はホワイトカラー589人を対象に労働時間についての調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
上記のように超過労働時間が増えるほど、疲労感や抑うつ感が増えることがわかります。特に残業時間がゼロに対して労働時間が 45~50時間の精神疾患の相対リスクは 1.32、50時間以上は 1.36であることがわかりました。長時間労働は後述するうつ病や適応障害と診断され、自殺のリスクも出てくるので注意が必要です。
仕事が辛い時の7つの対処法
ここからは仕事が辛い時の7つの対処法を提案いたします。
①精神疾患の基礎をおさえる
②優先順位を決める
③限界設定をする
④アサーションで権利を主張する
⑤体のメンテナンスに気を配る
⑥ソーシャルサポートをもらう
⑦公的機関,法律家のサポート
ご自身の状況に活用できそうなものを組み合わせてご活用ください。
①精神疾患の基礎をおさえる
仕事が辛い時に、最も注意することは、心の病気のレベルにあるかということです。仕事がかなりつらい…と感じる方は、最低限以下の3つの知識を、おさえておきましょう。
仕事の環境が変わった
ストレスの原因がはっきりしている
抑うつ感がある
身体がだるい
睡眠が乱れている
これらにあてはまる方は適応障害の可能性があります。適応障害はストレスの原因がはっきりしているのが特徴で、原因さえ取り除けば改善しやすい精神疾患です。
のちほど提案する対策を是非参考にしてみてください。また適応障害の理解を深めたい方は以下のリンク先にある動画も参照ください。
ストレスの原因は必ずしも明確ではない
何もやる気がしない
身体がだるい
睡眠が乱れている
消えてなくなりたいと思う
これらにあてはまる方はうつ病の可能性があります。適応障害は理由がはっきりしている場合に診断されます。一方で理由がはっきりしていない場合、深刻度が高い場合はうつ病と診断されることもあります。
警察庁の平成29年の自殺統計[5]によれば、うつ病による自殺がもっとも多いことがわかっています。
また、下記は自殺者の立場や原因に関する統計資料です。
上図を見ると、労働者・自営業者全体では8,513人が自殺をしていて、そのうち2,337人が勤務問題が原因となっています。殺人事件が1件でも起きるとニュースで放映されますが、自殺については、もはや数が多すぎて社会問題として扱いが小さくなってしまっています。
うつ病の疑いがある方は以下のコラムを参照ください。またあてはまると感じる方は、心療内科か精神科の受診を視野に入れましょう。
精神的には一見健康に見える
身体がだるい
睡眠が乱れている
頭痛がする
肩こり
これらの問題を抱えている方は心身症の疑いがります。心身症の方は一見、元気に見えますが、実は心の問題を抱え、身体に症状が出ます。
現在の医学では、心の問題は体の免疫システムを破壊することが分かっています。ストレス状況が長く続くと、心臓の病気や、脳梗塞なども起こりやすくなるので注意が必要です。

②優先順位を決める
仕事が辛い時期は、様々な作業に振り回され、にっちもさっちもいかなくなり、結果的にミスが多くなってしまいます。
悩み事がたくさんある場合は、優先順位をきちんと決めることが大事です。何に悩んでいるのかを冷静に整理して、できることから丁寧にこなしていくことを意識しましょう。
自分の力量を超える場合は、思い切って保留することも大事です。全部の問題を抱え込まないようにしましょう。仕事の整理が出来ていない…という方は以下のコラムを参照ください。
③限界設定をする
優先順位を決めて悩みを整理できたら、自分の限界も明確にしておきましょう。できれば数字や環境を明確にしておくことをおススメします。例えば以下のような設定が挙げられます。
残業は月20時間を超えないようにする
休日出勤は何があってもしない
19時以降は会社支給の携帯を切る
などです。そして限界を超えたら、きちんと主張することが大事です。限界を超えての、仕事はそもそもの仕事の設計をしている経営者に責任があるのです。あなたが黙っていることは経営者にとってもマイナスです。
しっかりと限界を決めて、主張することも大事にしましょう。限界設定については下記を参照ください。
④アサーションで権利を主張する
もしあなたが、会社の都合を優先してしまい、自分の意思を表現できなくなっていたら、アサーションというを学ぶことをおすすめします。アサーションとは、
私たちは生まれながらに尊重してもらう権利がある
自分の考えを発言する権利がある
自他を尊重し建設的に話し合う権利がある
という意識を高めて行く心理療法です。あなたの身を守るのはあなた自身です。あなたは会社を大事にするだけでなく、自分自身も大事にしなくてはなりません。仕事が辛い状況でも声をあげることができない…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
⑤体のメンテナンスに気を配る
不眠が続いている、椅子に座りっぱなしである、太陽の光を浴びていない、食生活が安定しない…これらが長期化している場合、あなたの体が日に日に弱っています。
例えば、小山ら(2021)[6][7]の研究では、座り時間と死亡率の関係について調べています。研究では64,456 名の被験者を平均7.7年間追跡調査しました。その結果が以下のグラフです。
このように、資質異常症、高血圧、糖尿病などにおいての死亡リスクが高まることが示唆されています。
体の不調は、メンタルヘルスの悪化と明確に関連しています。休日はしっかりと睡眠をとり、健康的な生活をするように気を配ってください。体の不調については以下のコラムで改善法を解説しています。参考にしてみてください。
⑥ソーシャルサポートを得る
労働政策研究機構の調査では、新入社員が会社を辞める理由として、「相談できる上司・同僚がいない」が 85.0%という結果になっています。仕事が苦しい時に大事なことは、一人で問題を抱え込まないことです。
同僚 上司 家族 友人 恋人 SNS 産業医 産業カウンセラー
あなたのまわりに誰か話を聞いてくれそうな方はいせんか?周囲の人たちから得られる援助のことをソーシャルサポートと言います。困ったときはお互い様です。
一人ぼっちになることは要注意です。周りからのソーシャルサポートを得られる環境を大事にしましょう。
もう一度言います!一人で悩みを抱えないでたまには周りに甘えてください!もし悩みを周りに話す環境にないという方は下記のコラムを参考にしてください。
⑦公的機関,法律家のサポート
現在では2015年や2016年の電通自殺事件[8]を契機として、社会全体として働く人のメンタルヘルスに取り組む姿勢ができてきています。具体的には、以下のような制度や公的機関があります。ご自身にあったものを積極的に活用していきましょう。
*ストレスチェック制度
労働者のストレスの状況について定期的に検査を行い、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを主な目的としたもの
法律上は50人以上の会社は義務づけられています。ストレスの数値をご自身でも定期的にチェックをして悪化している場合は、対策を練るようにしましょう。
しかし、目立った罰則がないためにストレスチェックをしない会社もあります。もしあなたの会社が50人以上でストレスチェックをしていない場合は、社員のメンタルヘルスに相当鈍感である可能性があるため、人事の方などに提案するのもいいでしょう。
*産業医制度
産業医とは常時雇用する従業員数が50名を超える場合、月に1回以上訪問をするお医者様です。
法律上は、常時 50人以上の労働者を使用する会社は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならないことになっています。
産業医のお医者様は、ビジネスの現場のメンタルヘルスに詳しい方が多いので重要な支援の1つです。仕事が辛いと感じたり、ストレスチェックの結果が悪かった場合は、産業医にぜひ相談してみてください。
*EAP制度
EAPは、Employee Assistance Programの略で、心理面から社員を支援するプログラムです。
大手の会社では自社にEAPチームを結成し、カウンセリングルームで悩みの相談などをしている会社があります。また中小企業では、外部団体と契約して心の健康をサポートすることもあります。
こちらも原則として守秘義務があり、さらに、代金は会社負担であることが多いため、仕事が辛い状況が続いた場合は相談に行くと良いでしょう。
手厚い会社では、24時間の電話受付精度を採用している会社もあります。相談員は臨床心理士や産業カウンセラーが担当することが多いでしょう。会社にEAP制度がないか確認してみてください。
*労働基準監督署
労働者保護法規に基づいて、労働者が健康的に働けるように支援をする厚生労働省の出先機関です。
仕事が辛い時や制度がおかしな時は、労働基準監督所に相談しましょう。労働基準監督署のメリットはなんと言っても、国の機関からの指導が入るため、職場環境改善の力が強いという点が挙げられます。例えば下記のような状態は積極的に活用したほうがいいでしょう。
・会社が残業代を払わない
・有休の消化を認めない
・会社のマイルールで有休が発生しない
・解雇予告期間と解雇予告手当などが不適当
・産前産後の就労の基準が法律違反
労働基準監督署は「法律」への対処はかなりしっかり動いてくれます。証拠を集めて相談すると良いでしょう。
ただ、仕事が辛いといってもパワハラセクハラなどのややグレーな問題は動いてくれないことも多いので、その点は注意が必要です。
*労働組合
所属する会社の労働者が団結し、賃金や労働条件の改善を図るための団体です。
毎年春頃から、会社と労働組合が交渉している様子やストライキ等で団体行動を起こしている場面をニュースなどで見かけると思います。これらの団体行動での主張は、法律で保証された基本的な権利ですから、身心共に限界になってしまう前に相談をして利用したいですね。
労働組合への加入は、正社員はもちろん、派遣・契約社員、アルバイトやパートなど非正規雇用の方もできます。仕事が辛い状況に備えて加入しておくと安心です。
頼りになる労働組合ですが、日本の企業全体の約7割を占める中小零細企業で労働組合がある企業は3%以下と少ない状況です。そのため、労働組合がある会社に属している人の方が、珍しいかもしれませんね。
社内に労働組合がない場合は、ユニオン(合同労働組合・合同労組)に加入することで会社と団体交渉する事ができます。
*ユニオン
主に労働組合が無い中小零細企業の労働者が個人単位で加入する組織です。
加入することで、労働組合法や憲法に基づく権利について保護を受ける事ができます。
ユニオンへの加入は、個人単位のため一人で加入する事ができます。また、パートやバイト、派遣労働者など非正規雇用者も加入できるユニオンもあるので条件にあう団体を探して加入して利用したいですね。仕事が辛い時の強い味方になってくれるでしょう。
まとめ
多くの方にとって仕事は人生の半分近くを占めるものです。この仕事と健康的に向き合うことは、一度しかない人生で極めて大事なことです。
無理をして心と体を壊すよりも、少し勇気が必要ですが、周りに助けを求めたり、仕事量を制限するなどしてご自身を守るようにしましょう。心から応援しています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・自分を守る,アサーションと権利意識
・NGラインを明確に,限界設定をする練習
・ストレスマネジメント,心理学
・リラックスした人間関係を築くワーク
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→

名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連