劣等感に苛まれる,苦しい時の克服方法,簡易診断
皆さんこんにちは。
公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。
今回の相談
「劣等感に苛まれる」
相談者
27歳 男性
IT関連会社勤務
お悩みの内容
私には2つのコンプレックスがあります。1つは学歴です。私は一浪して大学受験をしました。しかし、第一志望に合格できず、いわゆる滑り止めの大学に入学しました。そのためかどうしても自分より学歴が高い人に対して劣等感を覚えてしまいます。
もう1つは容姿へのコンプレックスです。私は昔から、身体が小さく、背の順はいつも前から5番以内でコンプレックスになっています。背の低さを気にしてしまい恋愛に積極的になることができません。
どうすればいいでしょうか。
学歴や容姿に劣等感ががあると、どうしても消極的な気持ちになってしまいますよね。劣等感は私たちを苦しめるものと考える方が多いと思います。
しかし、アルフレッドアドラーは、劣等感をうまく使えば、プラスの側面が大きいと主張しています。
劣等感をプラスとして考えるとはどういう事でしょうか?本コラムでそのなぞ解きをしていきましょう。
劣等感の意味とは
自分で作り出している
例えば、私はカウンセラーとして、容姿のコンプレックスについて頻繁に相談を受けます。よくあるケースとして、相談される方は、一般的には、美人,美男な部類に入るのです。
美人がなぜ自分の容姿に劣等感を持つのか?これは極めて不思議な事態です。よく聞いてみると、自分の鼻の形がどうしても好きになれないというのです。でもその鼻の形は私から見ればどこからどう見てもその辺にある?!鼻の形なのです。
さて?この劣等感はいったい誰が作り出したのでしょうか?それは自分自身が作り上げたものなのです。
言い換えれば、自分自身で作り上げたということは、自分自身でそれを作り直すこともできますし、もっと言えば利用してしまうことすらできるのです。
劣等感と歴史
劣等感研究の第一人者である、オーストリア出身の医師アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)は劣等感は前向きに活かしていくべきと主張しています。
アドラーは、1870年ウィーンの郊外ルドルフスハイムで、6人兄弟の次男として生まれました。幼い頃のアドラーは、とても病弱だったことが知られています。
・声帯の異常
・骨格異常
・身長が低い
これらのアドラー自信、身体に強いコンプレックスを抱いていました。この幼少期の身体の弱さにより、アドラーは医師を志したといわれています。
人生を前向きにする劣等感
ウイーン大学の医学部を卒業したアドラーは、遊園地で診療所を開きます。遊園地には、曲芸師たちがたくさんいて、日々アクロバティックな演技を披露しています。
アドラーはある事実に気が付きます。それは曲芸師たちは、高い身体能力を持っているにも関わらず、幼少期には身体弱かった人が多かったのです。
その姿を見て、アドラーは劣等感という概念を着想し、劣等感は自分の能力を飛躍させるエネルギー源になるのではないか?と考えたのです。
古典的劣等感
アドラーは小さい頃からの身体的なコンプレックスを器官劣等性と名付け、その劣等性をエネルギー源として活き活きと活かして活躍していている状態を心理的補償と呼びました。
皆さんはいかがでしょうか。劣等感は自分のエネルギー源として活用されている感覚はありますでしょうか。
劣等感を味方にする7つの方法
ここから先は劣等感を味方にする方法をお伝えします。
①直接劣等感を改善
②別のエネルギーに変える
③困っている人のために活かす
④長所として捉えなおす
⑤比較癖を改善
⑥理想を見直す
⑦ミスより成長に目を向ける
ご自身に合いそうなものがありましたら是非ご活用ください。
①直接劣等感を改善
繰り返しになりますが、劣等感は前向きなエネルギーに変えることができます。これは心理的補償と言われています。具体的なやり方としては2つの方法があります。
まず1つ目は直接補償と呼ばれるやり方です。直接補償は劣等感の対象をそのまま跳ね返すように頑張ることを意味します。
例えば、
身体が弱い
→身体を鍛える
学歴コンプレックス
→大型資格を取る
容姿のコンプレックス
→化粧の練習をする
などが挙げられます。筆者の川島は、元々対人恐怖症だったのですが、会話の練習をすごくして克服しました。これは直接補償だと思います。
直接補償は、劣等感をそのまま前向きな活動に活かすことができます。1つの選択肢として視野に入れておきましょう。
②別のエネルギーにぶつける
劣等感をエネルギに変える方法としては間接補償というやり方があります。間接補償とは、劣等感がある対象とは別の対象にエネルギーをぶつけていく方法になります。
劣等感は直接改善しようとしても現実的に難しいことがあります。例えば容姿の劣等感などは持って生まれたもののこともあり、改善が難しいこともあるでしょう。
その場合は別の対象にぶつけることで劣等感を活かしていくこともできます。
例えば、
身体が弱い
→勉強を人一倍頑張る
学歴コンプレックス
→仕事で成功して克服する
容姿のコンプレックス
→人一倍内面を磨く
などが挙げられます。現場感覚では劣等感の克服方法として、もっと多くみられるやり方です。劣等感が大きいほど、その反動のエネルギーは大きなものになります。
是非前向きな行動に結びつけていきましょう。
③困っている人のために活かす
アドラーは、劣等感の前向きなエネルギーを「共同体の中で努力する姿勢が大切」としています。共同体への努力とは、自分が所属する共同体全体が良くなるためにエネルギーを使うという事です。
たとえば曲芸師は、体のコンプレックスをバネにして、みんなに楽しんでもらうために劣等感を使っています。アドラーは劣等感はこのような皆のために使うと良いと提案しています。
そして以下の2点を強調しています。
・優越への努力はNG!
優越への努力とは「人に勝ちたい、優れていたい」という考え方で、さまざまな問題を引き起こします。
たとえば、
・人間関係の破滅的
・対人恐怖の傾向が強くなる
・抑うつ感
勝ち負け思考にこだわると人間関係が安定せず、心理面も不安定になりがちです。劣等感は、誰かに勝つために使わないことが大切です。
・承認を求めない
そして共同体の中で努力をする時には、承認を求めてはいけません。
他者から承認されることは、うれしいものです。しかし私たちは、他者の期待を満たすために行動しているわけではありません。
そして行動に対して、相手が思うとおりの反応をしない時や、批判の声が集まることもあります。努力できている状況を大切にしましょう。
この承認を求めないという考え方は、書籍「嫌われる勇気」のベースになった、有名な考え方です。
たとえば、ゴミ拾いのボランティアをしている花子さんは、普段は事務仕事をしています。
彼女は「社会のために役立っていない…」という劣等感があり、その気持ちを前向きに活かすためボランティアをはじめました。
しかし、そんな女性の行動には批判の意見もありました。
偽善だ!
結局は自分のためでしょ!
そんな声が聞こえてきました。一方でアドラーは、承認を求めないことが大切としています。花子さんの場合なら、社会貢献のために努力ができていれば、OKとする!これが大切です。
誰かの承認を求めるためにやるのではなく、自分のエネルギをーを前向きに社会に還元していければOKと大きな心で活動することが大事なのです。
④長所として捉えなおす
劣等感をもつ人は、自分には短所しかないと考えがちです。しかし短所は、長所と表裏一体ともいえます。
心理学には、短所を長所に置き換える「リフレーミング」という心理療法があります。リフレーミングは、ひとつの出来事に対して、さまざまな角度から捉え直すことで、前向きな思考を取り入れることを意味します。
たとえば、
口下手 →控えめ、聴き上手
飽きっぽい →好奇心旺盛
頑固 →信念がある
一見、短所と思えることでも、違った角度から捉える事で、長所に変わるのです。皆さんの劣等感も実は、長所の1つであるのです。
お時間があるときに以下の練習問題にチャレンジしてみてください。
練習①
太郎さんは「内向的な性格」を短所と考えています。「内向的な性格」をリフレーミングしてみましょう。
内向的な性格
↓
リフレーミング
↓
・問題発見力
・論理的思考
心理学の研究でも、内向的な性格の人は、論理的な思考が得意なことが分かっています。
練習②
花子さんは、腕のアザにコンプレックスがあります。「腕のアザ」をリフレーミンしてみましょう。
腕にアザがある
↓
リフレーミング
↓
・医療の道に進もう
・化粧品メーカーで活躍しよう
アドラーのように、自らのコンプレックスを乗り越えて人の力になることもできます。
練習③
「個性的すぎて学校で浮いてしまう…」という二郎さんの考え方をリフレーミングしてみましょう。
個性的すぎて浮いてしまう
↓
リフレーミング
↓
・服飾業界に進もう
・YouTuberになってみよう!
自分の個性を発揮できる場所が分かると劣等感をプラスの力に変えられます。
リフレーミングを、もっと練習したい方は下記を参照ください。
リフレーミングの意味とは?やり方・種類
⑤比較癖を改善する
劣等感が強い人は「周りができるのに自分はできない・・・」など、周りとの過剰な比較をする傾向があります。
この「比較癖」は、いつの間にか自分で自分を追いつめ、劣等感を強める原因になってしまいます。
周りと比較して物事を決めるのではなく、自分自身がどうありたいか?を基準に考えたり、行動できるようになると劣等感は改善されていきます。
具体的に、過剰な比較癖は、認知療法のABCシェマという手法で改善することができます。練習したい方は以下のコラムを参考にしてみてください。
⑥理想を見直す
心理学者の中村(2016)は、大学生278人を対象に、劣等感が与える影響を調査しました。その結果、劣等感は、理想と現実のギャップから生まれ、理想を持つほど現実とのギャップから劣等感を強めることが分かりました。
もし劣等感が強すぎると感じたら、
こうなりたい
ああなりたい
ほんとうはこうすべきだった
という理想を一度見直してみることも大事です。あきらめるとはあきらかになるという意味もあります。達成できない理想で人生を悩み苦しむのではなく、一度現実的な理想を考え直すことも視野に入れましょう。
⑦失敗よりも成功に目を向ける
髙坂(2008)は、中学生、高校生、大学生の計609名を対象に、完全主義と劣等感に関する質問紙調査を行いました。
調査では、ミスを気にする傾向が「低い群」と「高い群」で劣等感を比較しています。その結果の一部が下のグラフです。
以下は「学業成績の悪さへの劣等感」を比較しています。グラフが高いほど学業成績の低さへの劣等感が高いことを示しています。ミスを気にする人と比較して、気にしない人の方が劣等感が低い傾向にあることがわかります。ミスをしないことに注力するよりも、できたことに目を向けることもぜひ大事にしてください。
仕上げ動画とお知らせ
アドラー心理学の克服法
筆者の川島達史が劣等感の活かし方について動画で解説しました♪発展編として参考にしてみてください。
お知らせ
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・リフレーミング力をつける
・心理療法の基礎
・暖かいコミュニティに所属して助け合う
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
ブログ→
YouTube→
Twitter→*出典・参考文献
・高坂 康雅,自己の重要領域からみた青年期における劣等感の発達的変化,教育心理学研究 56(2), 218-229, 2008-06
・中村 純子,理想自己と現実自己の差異と自己注目が劣等感に与える影響,人間生活文化研究 Int J Hum Cult Stud.2016.26.168-172
・森津 誠,学生のネガティブな反すうと劣等感および自尊心との関係–「やる気」理解のための一考察,国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要2007,20,2,63 – 70
・ファンデンボス,G.R.,2013,APA,心理学大辞典,p233
・長谷川晃・根建金男(2011),「抑うつ的反すうとネガティブな反すうが抑うつに及ぼす影響の比較」, パーソナリティ研究,19(3),p270-273.
・落合良行(1985),「青年期における孤独感を中心にした生活感情の関連構造」,教育心理学研究,33(1),p70-75.
わかりました