劣等感が強い人,克服する方法
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「劣等感を克服する方法」についてご相談を頂きました。
相談者
27歳 男性
お悩みの内容
私には2つの劣等感があります。
1つは学歴です。私は一浪して大学受験をしました。しかし、第一志望に合格できず、いわゆる滑り止めの大学に入学しました。そのためかどうしても自分より学歴が高い人に対して劣等感を覚えてしまいます。
2つ目は容姿へのコンプレックスです。私は昔から、身体が小さく、背の順はいつも前から3番以内でコンプレックスになっています。背の低さを気にしてしまい恋愛に積極的になることができません。
どうすればいいでしょうか。
学歴や容姿に劣等感があると、どうしても消極的な気持ちになってしまいますよね。当コラムでは劣等感への対処法を解説していきます。是非最後までご一読ください。
劣等感とアドラーの思想
劣等感とアドラー
劣等感研究の第一人者である、アルフレッド・アドラーは、
劣等感は前向きに活かしていくべき
と主張しています。
アドラーは、1870年ウィーンの郊外ルドルフスハイムで、6人兄弟の次男として生まれました。幼い頃のアドラーは、とても病弱だったことが知られています。
・声帯の異常
・骨格異常
・身長が低い
アドラー自身、身体に強いコンプレックスを抱いていました。この幼少期の身体の弱さにより、アドラーは医師を志したといわれています。[1]
人生を前向きにする劣等感
ウイーン大学の医学部を卒業したアドラーは、遊園地で診療所を開きます。遊園地には、曲芸師たちがたくさんいて、日々アクロバティックな演技を披露しています。
アドラーはある事実に気が付きます。それは曲芸師たちは、高い身体能力を持っているにも関わらず、幼少期には身体弱かった人が多かったのです。
その姿を見て、アドラーは劣等感という概念を着想し、劣等感は自分の能力を飛躍させるエネルギー源になるのではないか?と考えたのです。
心理的補償とは何か
アドラー(1917)[2]は小さい頃からの身体的なコンプレックスを器官劣等性と名付け、その劣等性をエネルギー源として活き活きと活かして活躍していている状態を心理的補償と呼びました。
皆さんはいかがでしょうか。劣等感を自分のエネルギー源として活用されている感覚はありますでしょうか。
劣等感は、うまく活かせばあなたの味方にもなることをまずは大枠としておさえておきましょう。
劣等感を克服する9の方法
ここから劣等感を味方にする方法をお伝えします。
①直接的に活かす
②間接的に活かす
③勝つために使わない
④困っている人のために活かす
⑤承認をもとめない
⑥長所として捉えなおす
⑦理想を見直す
⑧ミスより成長に目を向ける
ご自身に合いそうなものがありましたら、組み合わせてご活用ください。
①直接的に活かす
繰り返しになりますが、劣等感は前向きなエネルギーに変えることができます。これは心理的補償と言われています。具体的なやり方としては2つの方法があります。
まず1つ目は直接補償と呼ばれるやり方です。直接補償は劣等感の対象を、そのまま跳ね返すように頑張ることを意味します。例えば以下の例が挙げられます。
身体が弱い
→身体を鍛える
学歴コンプレックス
→大型資格を取る
容姿のコンプレックス
→化粧の練習をする
筆者の川島は、対人恐怖症だったのですが、会話の練習をすごくして克服しました。これは直接補償だと振り返っています。直接補償は、劣等感をそのまま前向きな活動に活かすことができます。1つの選択肢として視野に入れておきましょう。
②間接的に活かす
劣等感は直接改善しようとしても現実的に難しいことがあります。例えば容姿の劣等感などは持って生まれたもののこともあり、改善が難しいこともあるでしょう。
その場合は別の対象にぶつけることで劣等感を活かしていくこともできます。これは間接補償と呼ばれています。例えば以下の例が挙げられます。
身体が弱い
→勉強を人一倍頑張る
学歴コンプレックス
→仕事で成功して克服する
容姿のコンプレックス
→内面を磨く
などが挙げられます。現場感覚では劣等感の克服方法として、もっと多くみられるやり方です。劣等感が大きいほど、その反動のエネルギーは大きなものになります。
是非前向きな行動に結びつけていきましょう。なお、間接補償、直接補償については動画でも解説しました。理解を深めたい方はこちらを参照ください。
③勝つために使わない
アドラー(1927)[3]は「人に勝ちたい、優れていたい」という考え方で、劣等感を克服することを優越の努力と呼んでいます。そして優越の努力はさまざまな問題を引き起こすと主張しています。例えば、
家柄が人よりも良いと思われたい
→服装を着飾る
人よりも人気者であると思われたい
→イイネを集めるため、身分不相応な生活を装う
などが挙げられます。このように劣等感があるからと言って、勝ち負け思考にこだわると、心理面も不安定になりがちです。劣等感は、誰かに勝つために使わないことが大切です。
④困っている人のために活かす
アドラーは、劣等感の前向きなエネルギーを
共同体の中で活かせるよう努力しましょう
と主張しています。共同体の中で活かすとは、劣等感を周りの人が喜ばせたり、助けたりするために活かすという事を意味します。
たとえば曲芸師は、体のコンプレックスをバネにして、みんなに楽しんでもらうために劣等感を使っています。アドラーは劣等感はこのような皆のために使うと良いと提案しています。
⑤承認をもとめない
他人に認められたり、承認されたり、見返りを求めるために、共同体の中で努力をする必要はありません。承認を求めないという考え方は、書籍「嫌われる勇気」[4]のベースになった、有名な考え方です。
あなたの行動には、時に批判的な人が出てくることもあります。せっかくあなたが行動しても、誰もその行動に気がついてくれない時もあります。
あなたはそんな時でも堂々としていればいいのです。あなたは誰かの承認のためのその行動をしているのではないのです。誰かのために役立っていればそれで十分と考え、前向きに努力するようにしましょう。
花子さんは、普段は事務仕事をしています。彼女は「社会のために役立っていない…」という劣等感があり、その気持ちを前向きに活かすため、ボランティアをはじめました。
しかし、そんな女性の行動には批判の意見もありました。
偽善だ!
自己満足だ!
時間の無駄!
そんな声が聞こえてきました。ですが花子さんは誰かに認めて欲しくて行動しているわけではありません。花子さんは、社会貢献のために努力ができていればOKと堂々としていました。
繰り返しになりますが、劣等感は承認を求めるためにやるのではなく、自分のエネルギをーを前向きに社会に還元していければOK♪と大きな心で活動することが大事なのです。
もし承認欲求が強い…と感じる場合は以下のコラムを参照ください。承認欲求を減らすコツを解説しています。
⑥長所として捉えなおす
劣等感をもつ人は、自分には短所しかないと考えがちです。しかし短所は、長所と表裏一体ともいえます。心理学には、短所を長所に置き換える「リフレーミング」という心理療法があります。
リフレーミングは、ひとつの出来事に対して、さまざまな角度から捉え直すことで、前向きな思考を取り入れることを意味します。例えば、以下のようなリフレーミングが挙げられます。
口下手
→控えめ、聴き上手
飽きっぽい
→好奇心旺盛
頑固
→信念がある
皆さんが持っている劣等感は実は、長所の1つであるのです。自分の嫌だなと思う部分を下記出し、前向きに捉えなおすという視点も持つようにしましょう。
リフレーミングについては以下のコラムで解説しています。中盤に性格リフレーミングというコーナーがあるので参考にしてみてください。
⑦理想を見直す
心理学者の中村(2016)[5]は、大学生278人を対象に、劣等感が与える影響を調査しました。その結果、理想と現実のギャップが大きいほど劣等感が強くなることが分かりました。
もし劣等感が強すぎると感じたら、
こうなりたい
ああなりたい
ほんとうはこうすべきだった
という理想を一度見直してみることも大事です。「あきらめる」とは「あきらかになる」という意味もあります。達成できない理想で人生を悩み苦しむのではなく、現実的で達成可能な理想に修正することも視野に入れましょう。
⑧失敗よりも成功に目を向ける
髙坂(2008)[6]は、中学生、高校生、大学生の計609名を対象に、劣等感の調査が行われました。その結果の一部が下のグラフです。
この図には
ミスを気にしない「低い群」は学業成績の劣等感が小さく
ミスを気にする「高い群」は学業生成期の劣等感を大きい
という意味があります。
私たちは何かにチャレンジをすれば、ミスをするものです。この時、必要以上にミスした自分を責めないようにして、うまく行ったことに目を向けることが大事になるのです。失敗に目がいきやすい…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
お知らせ・発展編
ここからは「お知らせ」と「発展編」になります。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・劣等感の改善,アドラー心理学
・劣等感を前向きな力に変えるワーク
・比較癖をやめる,認知療法
・自分の長所の発見,ストレングスワーク
体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^)
アドラー心理学と劣等感克服法
筆者の川島達史が劣等感の活かし方について動画で解説しました♪発展編として参考にしてみてください。
アドラー心理学
アドラー心理学の理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。劣等感の性質、共同体感覚、補償についてより詳しく解説しています。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1]岸見一郎(1999).アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために ベストセラーズ[2]Adler, A. (1917). Study of organ inferiority and its psychical compensation. (S. E. Jelliffe, Trans.). Nervous and Mental Disease Publishing Co.[4]岸見一郎, 古賀史健(2013).嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え ダイヤモンド社[5]中村 純子(2016).理想自己と現実自己の差異と自己注目が劣等感に与える影響,人間生活文化研究 Int J Hum Cult Stud.26.168-172[6]高坂 康雅(2008).自己の重要領域からみた青年期における劣等感の発達的変化,教育心理学研究 56(2), 218-229,
わかりました