誹謗中傷する人の心理や原因,対策
皆さんこんにちは。
公認心理師の川島達史です。私は現在、初学者向け心理学講座を開催しています。
今回のテーマは
「誹謗中傷」
です。

- 全体の目次
- 入門①誹謗中傷と統計
- 入門②加害者の心理
- 入門③被害者-6つの対処
- 入門④加害者-6つの対処
はじめに
インターネット上での誹謗中傷が、世界的な社会問題になっています。
ネット上に根拠のない悪口や他人を傷つける発言を書き込み、相手を心理的追い込んだり、最悪の場合には命を奪ってしまったり、という悲しい事件も起きています。
誹謗中傷は、なぜ絶えないのでしょうか?本コラムでは、公認心理師が、心理学の見地から「誹謗中傷」の仕組みや心理を解説していきます。
誹謗中傷と統計
誹謗中傷の仕組みや心理をするうえでは、キーポイントになる数字があります。誹謗中傷を理解するうえで、とても大切な数字です。
それぞれの数字が何を表しているか?クイズ形式で解説していきます。予想したら展開してみてください。
誹謗中傷する可能性が高い人
加納(2013)は、20~49歳を対象に3,620人(有効回答数1,120人)にインターネット調査を行い、以下の質問をしています。
質問
人が不快に思う情報をネット上に流出させないように配慮していますか?
こちらが結果です。
94.5%の方は何らかの配慮をしていることがわかります。大多数の人は、ネット上でも良識的に振舞っていると言えそうです。
一方で「あてはまらない」という人は5.5%います。この5.5%の方が、いわゆる誹謗中傷の予備軍と言えそうです。この研究では「あてはまらない」と回答をした人について、年代別での統計も取っています。ネット上に不快な情報を流す傾向が最も高い年代は20代でした。
書き込みは、いずれの年代もしていたものの、40代と比較すると20代は4倍の割合です。この結果から、誹謗中傷の問題では若者が中心になっていることが多いと推測できるのです。
炎上コミュティ占有率
Surijan Kumar(2018)らは、ネット炎上とコミュニティの相互作用について、REDDIT(レディット)にある36,000のコミュニティで分析をしました。
REDDITは、日本ではあまり知られていませんが、約1億人が利用している英語圏のコミュニティサイトです。この調査では、炎上の概念図が示されています。まずは全体を眺めてください。
青色は健康発言
赤色は問題発言
ほとんどのコミュニティは、健康的な運営がされていると分かります。一方で、赤色の問題発言で炎上している部分は、とても偏りがあることが分かります。
図にある点線の楕円はコミュニティと捉えてください。たとえば、
心理相談(Psychology/Advice)
議論計コミュニティ(Controversial Topics)
は、炎上しやすいと推測できます。
さらに、以下のグラフをご覧ください。横軸がコミュニティ数、縦軸が問題発言の累計を表しています。少し難しいですね。このグラフでは、36,000コミュニティの1%(360くらい)がネガティブな出来事の74%を占めていると示されています。
わずか1%のコミュニティが、ネガティブな情報をほとんど占めているということです。逆を言うと、99%のコミュニティは健康的に運営されているといえます。つまり炎上はごく少数の部分で起きている可能性がとても高いのです。
マスコミは、炎上だけに焦点をあてた情報発信をするため、SNS=炎上するというイメージを抱いてしまうかもしれません。しかし、99%のSNSは穏やかに運営されていると考えられます。
フォロワー数
小山ら(2019)は、Twitterを1年間(2018年~2019年)調査し、炎上について詳細な分析を行いました。
調査では、1年間にあった6回の炎上について
・炎上に何回参加したか
・参加した影響力のある人がどれくらいの割合でいたか
・影響力のある人は5000フォロワー以上
を調べています。結果は以下の通りです。
炎上の回数が増すごとに、影響力のある人の割合が高くなることが分かりました。この結果から、以下の仮説を立てることができます。
影響力のある人が炎上の火付け役になっている可能性
有名人はそれだけ多くの人とつながっています。一般の方がマッチだとしたら、影響力のある人は、火炎放射器を持っているようなものなのです。
過激発言→クラスター化の仕組み
過激発言は、フォロワーが肥大化してクラスター化するため注意が必要です。
たとえば、有名人が過激発言をしたとしましょう。
私たち人間は、過激発言をみると大変興味をそそられるものです。この状態を心理学の世界では、フロー状態と言います。「これからどうなるんだろう?」という好奇心から、フォロワーがリツイートし、過激発言の波紋が広がります。
そして、過激発言がいろいろな人の目に触れることで、一定数の人がフォロワーになり、過激発言によるクラスター肥大化が起きてしまうのです。
・フォロワーが多い人(有名人)
自分の発信が、炎上源になってしまうリスクも自覚することが必要です。誰かを批判したときには、フォロワーまでもその人を攻撃する可能性があるので注意した方がいいでしょう。
・閲覧者
誰かをフォローをする時には、誹謗中傷による面白さからのフォローは避けた方がいいでしょう。誹謗中傷を助長してしまう可能性があります。フォローは、冷静に批判できる人・建設的な議論ができる人という基準を、フォローの判断基準のひとつとして持つといいでしょう。
加害者の心理
誹謗中傷の問題を根本的に解決するには、被害者の心理をしっかりと理解することが必要です。今回は4つの視点から解説していきます。気になる項目を、クリックしてみてくださいね。
誹謗中傷が起きる背景には、3つの条件「意図性・動機が不純・制御可能」があります。まずは、以下の図をご覧ください。
自らの意思(意図性)で、不純なこと(動機が不純)をやっている。しかも、色々な選択肢がある中(制御可能)であえて、やっていると状況があると攻撃性が刺激されます。
このような3つの条件がそろうと、正義マンが登場し、誹謗中傷が増えてしまうのです。
たとえば、不倫で考えるとイメージがしやすいと思います。不倫は、自分の意識(意図性)で行っていて、社会一般的に良いものとされていません(動機が不純)。そして、大多数の方が不倫はしないため、制御ができる(制御可能)とみられます。
不倫が誹謗中傷の対象となることが、3つの条件から理解できると思います。
3つの条件がそろった場合でも、誹謗中傷をする人としない人がいます。どのような差があるのでしょうか。
誹謗中傷をする人の特徴について、細田ら(2009)が、中学生305人を対象に行った調査から解説します。
この調査では、自己肯定感と他者肯定感が正の相関にあることが分かりました。
他人を肯定できる人は、自分を肯定できるし、その逆も同じです。自分の心に余裕ができると、他人にも優しくなれるといえます。そしてこの調査結果は、自己否定的な人は他者否定的になりやすいと捉えることもできます。
自分のことが嫌いな人はが人に対して攻撃的になりやすいと推測できます。つまり誹謗中傷する人は、自己肯定感が不足している可能性が高いと読み取ることもできます。
関口ら(2011)は、大学生175名(男性71名,女性104名)を対象に、自己表現と対人ストレスに関して調査が行われました。
調査は、自己表現を「攻撃的・非主導的・アサーティブ」の3つに分けています。
攻撃的タイプ
自己主張が強く誹謗中傷をしやすいグループ
非主導的タイプ
おとなしい・控えめなグループ
アサーティブタイプ
主張と傾聴のバランスが取れたグループ
グループ別による対人ストレスの割合を見てみましょう。以下は「対人葛藤」の結果です。
人間関係で、最も悩みやすいのは、誹謗中傷をしやすい攻撃的グループと読み取れます。つづいて「対人劣等」の結果です。グラフが高いほど、劣等感を持ちやすいことを示しています。
こちらも、攻撃的タイプが対人劣等を抱きやすいと言えます。
最後は「対人摩擦」の結果です。対人摩擦の傾向が高いと、人間関係でトラブルを起こしや少なります。
攻撃的タイプが、最も高い結果になっていますね。
これらの結果から誹謗中傷を書き込み人は、現実の人間関係でも問題を抱えている可能性が高いと推測できます。
永浦(2009)らが、中学生4,868名を対象に行われた研究から見ていきます。この研究では、ネットいじめやリアルのいじめが心理面にどのような影響を与えるかを分析しています。
研究のひとつに以下の結果があります。いじめ経験がないグループは、加害反応3.07だったのに対して、いじめ被害がったグループは加害反応5.3と大きくなっています。
つまり、いじめ被害にあうと攻撃心が刺激されるため、いじめの加害者になりやすいという事です。
この結果から、誹謗中傷する人の中には、学校でのいじめや家庭で罵倒された経験を持つ人がいる可能性があります。自分自身がなんらかの形でだれかから誹謗中傷をうけていたことから誹謗中傷をしてしまっているかもしれません。
誹謗中傷してしまう人の心理が改善されないと、誹謗中傷の問題は残ってしまいます。加害者の心理も理解して対処していきましょう。
被害者-6つの対処法
まずは誹謗中傷の被害者になってしまった場合の対処法を見ていきましょう。
①助けを求める
周囲に助けを求めましょう。孤立をさけ、問題を抱えないようにすることが大切です。
②応援団に目を向ける
誹謗中傷を書き込む人、炎上する人はごく一部です。大事なのは身近にいる人です。統計的に考えても、応援団になる人は現れるものですから、応援する人に目を向けましょう。
③芯の否定ではない
ネット上の自分は、自分自身のわずかな部分です。自分自身をすべて否定されたわけではありません。あくまで否定されているのは一部分だと捉えて行動するようにしましょう。
④批判と中傷を分ける
批判も中傷もそのまま受け取っては苦しくなってしまいます。批判と中傷を分けて考えるようにしましょう。
批判は建設的な意見です。基本的には受け取って、より良くなるように工夫するといいでしょう。一方で中傷は、逃げ場のない発言ですから、ブロックして自分を守るようにするといいでしょう。
⑤反すうしない
反すうは、ひとつの体験を何度も体験する事です。ありもしない誹謗中傷をネット上に書き込まれると、何度も確認したり頭の中をぐるぐる巡らせてしまいがちです。気分が悪くなるような誹謗中傷は、1回みたら確認しない!というルールにするなど、反すうしないようにしましょう。
⑥ブロック機能を多用
SNSにあるブロック機能などを上手に使いましょう。自分の心と相談してルールを決めていけるといいですね。
講師の見方
私川島の個人的な考えになりますが、私が誹謗中傷をどんなふうに捉えているかを紹介します。参考としてみてもらえるとうれしいです。
・助けてアピール
誹謗中傷は、相手を責めているような言葉ですが、自分の弱さの主張していると捉えることもできます。
・わさび
そして他人の批判や中傷をわさびと捉えています。誹謗中傷を新たな価値を生みだす機会と考えることもできます。
・心理学として考える
誹謗中傷を学問として捉えると防衛できます。これは、知性化という防衛機制になります。誹謗中傷する人の心理を分析すると、自分の気持ちを整えることができます。
・統計学で考える
統計学には正規分布という考え方があります。すべての人が同じ考えになることはありません。必ず一定数の外れ値が存在します。誹謗中傷を外れ値と捉えることもできます。
・おいしいコンテンツ
誹謗中傷の自分にとっておいしいコンテンツと捉えて、意見をくみかわすのもいいかもしれません。
・器の大きさを見せつける
相手と議論する場をオープンにすることが、自体の器の大きさを示すことにもつながります。
加害者-6つの対処
私たちは感情的になることがあり、時には誹謗中傷をしたくなることがあるかもしれません。そんな時には以下の6つを思い出してください。
①礼儀をわきまえる
顔が見えないからこそしっかりと礼儀をわきまえるようにしましょう。相手へ挨拶をすること、肯定の次に否定、最後は肯定など、リアルでも通用するマナーをわきまえることが大切です。
②リスクを考える
ネット上に書いた情報は、基本的に残ります。ネガティブな発言が、ネット上に長く残るリスクを考えて発言するようにしましょう。
③2重投稿は控える
批判をしたいと思った時に、別の人が先に同じ内容の批判を書き込んでいたら、それで十分と考えた方がいいでしょう。
何度も同じことを書かれると、小さな批判でも大きな塊になり心が萎えてくるものです。相手に対して愛情をもって対処したいですね。
④他者否定は自己否定
誹謗中傷は罪悪感が残り、自分を嫌いになりやすくなります。誹謗中傷は、自分をディスっていると同じと意識するといいでしょう。
⑤文化の衝突に注意
世の中には、悪口に対する耐性がある人も、耐性が無い人もいます。育ってきた環境によって、さまざまな価値観や捉え方があるのです。
たとえば、丁寧に生きてきた人に自分の文化を押し付けてしまったことで、誹謗中傷につながることもあります。逆に、相手の文化によっては、否定的なことを言っても笑って許してくれる可能性もあるのです。相手の文化に合わせたコミュニケーションが必要です。
⑥対人スキル
ネット上とはいえ、リアルの人間関係の延長です。目の前にいる人と丁寧にコミュニケーションをしていく事が大切です。リアルの対人スキルもしっかりと磨いていくといいでしょう。
仕上げ動画・まとめ
仕上げ動画
誹謗中傷する人の心理については動画でも解説しています。仕上げとしてご活用ください。
まとめ
インターネットは、便利でとても素晴らしい世界です。しかし、誹謗中傷などで炎上をすることもあり、自分の攻撃性が世界中に広がる危険もあります。
インターネットの世界もリアルと同じです。相手にやさしい気持ちを持って接するようにしていきましょう。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
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*出典・参考文献
・加納 寛子,インターネット上における誹謗中傷に関する世代差と性差について, 日本科学教育学会年会論文集,37 ,2013
・Srijan Kumar, William L. Hamilton, Jure Leskovec, Dan Jurafsky,Community Interaction and Conflict on the Web、2018
・小山 耕平, 浅谷 公威, 榊 剛史, 坂田 一郎,ネット炎上におけるユーザーの共振構造 ,人工知能学会全国大会論文集, 第33回全国大会,2019
・細田 絢, 田嶌 誠一, 中学生におけるソーシャルサポートと自他への肯定感に関する研究,心理学研究2009, 57,3, 309-323
・関口 奈保美, 三浦 正江, 岡安 孝弘、大学生におけるアサーションと対人ストレスの関連性:自己表現の3タイプに着目して,ストレス科学研究/26 巻 (2011)/書誌
・永浦 拡,寺戸 武志,冨永 良喜,中学生におけるネットいじめと身体反応との関連,日本教育心理学会総会発表論文集,第53回総会発表論文集,P7-49,2011