自責の念に駆られる時の対処法,克服方法
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。今回は「自責の念への対処法」についてご相談を頂きました。
相談者
37歳 男性
お悩みの内容
私は、昔から意志が弱く、一度決めたことをすぐに覆してしまいます。例えば、減量をしようと思っても、次の日にはすぐに再開してしまいます。ギャンブルや酒もやめられません。
自分に対してイライラする気持ちを、周りに出してしまって、同僚に対して強い口調で怒ってしまうこともあります。そのたびに強い自責の念に駆られます。
もうやめよう、ちゃんとしようと思っても、一瞬の気のゆるみが治りません。どうすれば意志を強く持って、正しく行動できるようになるのでしょうか。
気が付くと、感情のコントロールが効かず、本当はしてはいけない行動をしてしまうのですね。
一方で、ご相談の内容から、正しく生きたいというお気持ちが伝わってきました。当コラムでは自責の念への対処法をお伝えします。是非最後までご一読ください。
自責の念は2種類ある
まず初めに自責の念の理解から初めていきましょう。心理学の解釈では自責の念には2種類あると言われています。
ポジティブ行動をしなかった
ポジティブな行動を本来ならすべきだったたのに、できなかった時に芽生える自責の念です。
・好きな人に気持ちを告げなかった
・親孝行をする前に親が他界をした
・謝罪すべき人から逃げた
・今日の仕事のノルマをサボってしまった
などが挙げられます。
ネガティブな行動をしてしまった
自分や相手にとってネガティブな行動をしてしまったときも自責の念が芽生えます。
・つい暴言を吐いてしまった
・1夜の浮気をしてしまった
・自分を止められず犯罪をしてしまった
・ギャンブルで散財してしまった
などが挙げられます。実際はやってはいけないことをやってしまったという状態です。
皆さんが抱えている自責の念はおそらくどちらかに分類されるのではないでしょうか?
健全な自責の念の必要性
自責の念は私たちの心にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
プラス面① 未来への反省機能
心理学者の久崎(2002)は自責の念と近い概念である罪悪感の機能を
「自分の過失を修復するため」
「過失を今後しない意思を持ち続けるため」
「自省や抑制できるようになる」
と主張しています。私たちは自責の念を持つからこそ、未来に同じ過ちをしないよう反省できるのです。
プラス面② 誠実さが育っている証拠
もしあなたが他人を傷つけたときに自責の念があるとしたら健全な精神が育っている証拠とも言えます。
有光(2001a)は性格特性の研究の中で、罪悪感は「誠実性」や「調和性」に関連していることがわかりました。下図をご覧ください。
罪悪感が強い方はそれだけ誠実であり、調和がとれることが分かります。悪いことをしたら、反省する心は社会人として大事になるのです。
プラス③ 社会活動が健康的になる
有光(2001b)は、罪悪感と健康について調査しました。その結果罪悪感がある人は、社会活動を健全に営むことができることが分かっています。
例えば、あなたが友人と待ち合わせをしてハイキングに行くとします。この時寝坊をしてしまい、1時間遅れてしまったとしましょう。この時あなたが、きちんと反省できるのあでれば
「本当にごめん…帰りの夕飯はおごるよ!」
と、謝罪をする、埋め合わせをするなどの行動を取ると思います。このように自責の念を持つ人は、人間関係をきちんと築くことができるのです。
過剰な自責の念の危険性
一方で、過剰な自責の念はメンタルヘルスに深刻な状況をもたらすこともあります。
危険性① 自尊心が下がる
自分を責める気持ちを、長期間何度も思い出すことは危険です。心理学の研究では、嫌な出来事を何度も思い出すと、自尊心が低下し、前向きに物事を考えることができなくなることがわかっています。
危険性② 閉鎖的になる
自責の念が過剰な方は、自分は罰せられるべき、人と接する資格がない人間だと考えます。屈託のない会話で楽しむことすら、違和感を感じ、心の平穏を保つような人間関係を築けなくなります。
危険性④ うつ病のリスク
うつ病の症状の中には自責の念があります。うつ病の時は、家事などもできなくなることもあり、自分には生きる価値がない、役立たずだ、ダメ人間だと責める方が多いです。
自責が強く出ている方は、うつ病の可能性があるので要注意です。
危険性④ 自傷行為
自傷行為に走る人の多くが自責の念を抱えています。自責の念が過剰になると、自分は傷つくべきだと考え、リストカット、暴飲暴食、乱れた性生活などを行うことがあります。
罪の意識を持つことは悪いことではないですが、自傷行為で改善しようとしても、誰も喜びません。別の形で解消するようにしましょう。
自責の念‐5つの対処法
ここからは過剰な自責の念についての対処法を5つ提案させて頂きます。
①反省すべきは反省‐省察する
②現実的な自責をする
③独りで抱え込まない
④前向きな行動に繋げる
⑤自分認めタイムを作る
ご自身の生活に活かせそうなものがありましたら参考にしてみてください。なお5つの提案は精神疾患レベルは対象としていないのでご了承ください。
①反省すべきは反省‐省察する
マイナスの行動をしてしまったら、誠実に反省することは大切です。NGなのは、ただ感情に任せて自暴自棄に反省をすることです。
自分なんていなくなればいいんだ!
消えてなくなるべきだ!
もうダメだ…取り返しがつかない!
このような感情に任せた反省は何も生み出しません。大切なのは、マイナスの行動を起こしてしまった自分を客観的に捉え、冷静に反省していくことです。
これは心理学の世界で「省察」と言ったりします。
マイナス行動をした背景は?
その時の自分の心理状態は
我を忘れやすくなるきっかけはなにか
同じことが起こったらどう対応すべきか
など、自分を客観的に分析していくようにします。反省すべきは反省すべきですが、感情に任せるのではなく、省察の視点も必ず持つようにしてみてください。
②現実的な自責をする
過剰な自責の念に駆られる方は、必要以上に自分を責めてしまう傾向にあります。強い自責の念で、自暴自棄になりそうになったら、
その自責は現実的なのか?
過剰になっていないか?
全ての責任が自分にあるのか?
このように、現実的に考える視点を持つようにしましょう。これを心理学の世界では現実検討と言います。現実検討力をつけると、頭の中だけでなく、事実や因果関係を大事にしながら、責任の所在を考えていくことができます。
将来の健全な行動にも結び付きやすくなります。自分の頭の中だけで、どんどん自責が膨らんでいく…という方は下記のコラムも参考にしてみてください。
③抱え込まない
もしあなたが自責の念をすべて自分の中で処理しようとしていたら注意が必要です。特に自責の念が強い方は、心内を人に話して迷惑をかけてはならないという感覚になりがちです。
人に語ることで、心が整理されていきます。また受けてもらうことで、気持ちがほぐれることもあるでしょう。あなたの状況を語ることで、あの人に迷惑をかけてはならない…・と次の自暴自棄な行動へのストッパーにもなるかもしれません。
自責の念を一人で抱え込んでしまうと感じる方は下記を参照ください。
④前向きな行動に繋げる
自責の念は、言い換えると、もっと前向きな行動をとれるはず!という感情でもあります。その意味で自責の念は、あなたをより輝かせる感情としても活用できるはずです。
例えば、
暴飲暴食をしてしまった
→健康アプリを入れる
家族に財布を預ける
ジョギングをはじめる
投資が失敗して散財してしまった
→新しい仕事を上司にもらいボーナスを狙う
→副業の勉強をはじめ行動する
恋人を傷つけてしまった
→やさしい人間になることを誓う
→心を込めて手紙を書く
など様々なやり方があります。自責の念を自責として終わらすのではなく、前向きな人生のためのきっかけにしていきましょう。
⑤自分認めタイムを作る
自責の念が強い方におススメなのが、自分認めタイムを作ることです。反省すべき点を反省したら、心を休め、前を向いて行かなくてはなりません。
NGな行動から学んだことや、自分なりに努力できた面も把握するようにしましょう。
私の例ですが、私は寝る直前は自分認めタイムにしています。目をつぶって、布団に横たわったら、
努力できたこと
自分を慰める
成長した点
勇気を出せた点
を確認して寝るようにしています。
そうすると、自責の念もいくばくかは緩んでいくと思います。自然と睡眠も安定するのがメリットです。皆さんもぜひ自分認めタイムを作ってみてください。
まとめ
繰り返しになりますが、自責の念は健康的な感情です。ゼロにする必要は全くありません。一方で、過剰な自責は、自分を傷つけるだけでなく、周りの人が喜ぶわけではありません。
大事なことは、反省を次に活かし、健康的で前向きな行動に活かしていく行くことなのです。当コラムで紹介した手法で使えそうなものがありましたら試してみてください。
応援しています!
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
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出典・参考文献
上市 秀雄, 楠見 孝(2004)後悔の時間的変化と対処方法意思決定スタイルと行動選択との関連性 The Japanese Journal of Psychology, Vol. 74, No. 6, 487-495
自己の否定的評価に関わる恥・罪悪感の覚知と心身健康との関連
佐伯素子 – 感情心理学研究, 2008