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基本的信頼感の意味と回復する方法

日付:

基本的信頼感の意味と回復する方法

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「基本的信頼感を回復させる方法」についてご相談を頂きました。

相談者
40歳 女性

お悩みの内容
私は小さい頃、家庭環境が不安定で人間不信になっていました。いつもびくびくしていたので、小学生の頃はいじめにもあいました。そのせいか、今でも人を信じることができません。

検索していたところ「基本的信頼感」という用語があることを知りました。私はどうすれば、基本的信頼感を回復することができるのでしょうか。詳しく教えてください。

子供の時に家庭でも学校でも辛い思いをされてきたのですね。人生を通して不安が大きかったのだろうと感じました。当コラムでは、基本的信頼感を回復させるアイデアを提案させて頂きます。是非最後までご一読ください。

基本的信頼感の意味とは

まずは「基本的信頼感」の意味から抑えていきましょう。

エリクソンの定義

基本的信頼感(sensesofsbasicstrust)は、アメリカの心理学者であるエリクソン (Erikson, E.H.) のライフサイクル論の中で提唱された概念です。エリクソン(1959)[1][2]は、基本的信頼感を以下のように定義しています。 

社会や他者に対する筋の通った信頼 、 自己の存在を肯定的に捉えられる感覚

以下の図はエリクソンの発達段階を図にしたものです。

アイデンティティ

基本的信頼感は、生まれてから1年間に原型ができるとされ、その後の心理的な発達に広く影響されるとされています。

母子関係と基本的信頼感

エリクソンは、基本的信頼感を育てる段階は、0~1歳半の乳児期と考えました。母親が繰り返し温かく接すると、その肯定的な感覚が子供に反映されます。これが信頼の基盤となります。

成功すれば、赤ちゃんは信頼感を築き、アイデンティティの基礎を形成します。親などの養育者から十分な愛情を得られれば「自分はなんとかやっていける」という信頼感が得られます。信頼が育たない場合、恐怖感や予測不可能な世界の感覚が生じるとされています。

基本的信頼感と尺度

谷 (1996)[3][4]は「基本的信頼感尺度」を作成しています。

1.失敗しても自分を隠さない
2.自信がなくなることはない
3.見捨てられたかもとは思わない
4.人生に対して不安はない
5.すぐに立ち直ることができる
6.自分を十分に信頼している
7.困った時には援助が期待できる
8.人は関わり合いで生きている
9.人間は信頼できるものである
10.周囲の人々に支えられている
11.頼りにできる人が多い

皆さんは上記にどれぐらい当てはまるでしょうか。項目が多ければ、基本的信頼感が高いといえます。なお、上記の尺度はわかりやすくするため一部改変しています。正確に理解したい方は出典をご覧下さい。

カウンセラーの経験則

エリクソンの理論では、基本的信頼感は特に赤ちゃんの頃に重要とされていますが、筆者の経験側では思春期ぐらいまで、特に重要な時期と感じています。

お悩みを相談して頂いた方は「いじめにあっていた」とおっしゃっていますが、このような壮絶な体験は基本的信頼感を低下させる大きな原因となります。

基本的信頼感の種類

基本的信頼感は大きく2つの種類があるとされています。

他者に対する信頼

1つ目は

他者に対する信頼
reasonable trustfulness 

です。これは社会や他人に対する信頼感です。

皆さんは、人間は信じられる、根っこの所では善人だ、困った時は誰かが助けてくれる、という感覚はありますでしょうか。もしある場合は、他者に対する基本的信頼感がしっかり育っていると言えるかもしれません。

自己に対する信頼

基本的信頼感にはもう1つ種類があります。それは

自己に対する信頼
trust worthiness 

です。自己に対する信頼とは、私には生きる価値がある、私には愛される価値があるといった感覚です。

困難な状況でも乗り越えられる、自分ならやっていける、という感覚はありますでしょうか。もしある場合は、自己に対する信頼がちゃんと育っていると言えそうです。

信頼の定義

基本的信頼感の心理的影響

基本的信頼感は、心理的にどのような影響があるのでしょうか。実はたくさんのメンタルヘルス指標に影響があることがわかっています。

三好(2007)[5]は、大学生285名を対象に、質問紙を用いて精神的健康と基本的信頼感など項目の関わりを調べました。その結果は以下の通りです。

抑うつが少ない

下図のように、基本的信頼感と抑うつは、マイナスの相関関係にあることが分かります。つまり、基本的信頼感が多い人ほど、抑うつも弱い傾向があると言えます。

基本的信頼感と抑うつ

落ち込んだ時や挫折した時、世の中に対する信頼感があれば、「きっとなんとかなる!」という気持ちが湧き、メンタルヘルスの悪化を防ぐことができると言えそうです。

敵意を持ちにくい

下図のように、基本的信頼感と敵意の関係においても、マイナスの相関関係にあることが分かります。つまり、基本的信頼感が多い人ほど、敵意も少ない傾向があると言えます。

基本的信頼感と敵意

基本的信頼感が強い方は、世の中はなんやかんや言って味方が多いという感覚があります。そのため、わざわざ敵意を出して警戒する必要はなく、穏やかに人間関係を築くことができます。

活発になる

下図のように、基本的信頼感と活動的快にはプラスの相関関係があります。つまり、基本的信頼感が多い人ほど、活動的快も強い傾向があると言えます。

基本的信頼感と活動的快

世の中全般に対する信頼がある方は、必要以上に警戒をしないので、行動の幅が広くなります。私のことを受け入れてくれる人がいるという感覚があると、仕事や恋愛で積極的になることができます。

このように基本的信頼感は、メンタルへルスを安定させ、人間関係を向上させるだけではなく、活気まで湧いてくるという優れた性質があるようです。

時間的展望が良好になる

浦尾(2004)[6]は大学生258名を対象に、基本的信頼感と時間的展望について調査を行いました。時間的展望とは、過去や未来に対して、前向きな態度を持っている感覚を意味します。結果は以下のようになりました。

基本的信頼感 明るい時間展望

このように、基本的信頼感が高い人ほど過去や未来に対して明るい気持ちになりやすく、悲観的になりにくいことがわかります。

自殺リスクを下げる

田名場ら(2000)[7]は大学生1,100名を対象に基本的信頼感について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。

基本的信頼感 自殺

こちらは基本的信頼感を持ったことがある人ほど、自殺しようと感じたことが少ないと解釈することができます。基本的信頼感がある人は、世の中全般を信頼しているため、生きやすく感じると言えそうです。

基本的信頼感,回復

回復する5つのコツ

基本的信頼感の獲得は、幼少期の人間関係がベースになると言われています。この点、大人になってから回復できるか?という疑問が上がりますが、これは残念ながら研究があまりありません。その上で、公認心理師としての経験則も踏まえ、5つのやり方を提案させて頂きます。

①サポートを受けられる環境を作る
②温かいコミュニティに所属する
③まずは「形」だけでも信頼してみる
④アサーティブコミュニケーションを学ぶ
⑤アダルトチルドレンの知識をつける

①サポートを受けられる環境を作る

心理学の研究では、ソーシャルサポートを受ける環境が充実している人ほど、自己肯定感が高いという研究があります。自己肯定感と基本的信頼感は近い概念なので、効果があると推測できます。

もし家庭で問題があったとしても、家庭以外の部分で暖かい触れ合いが多かった方は、安心感が強くなる傾向があります。

おじいちゃんに愛された、恩師に認めてもらった、職場で尊敬できる上司に認めてもらった・・・こういったソーシャルサポートを受けた体験は、基本的信頼感の回復につながると思います。

私の経験則もありますが、基本的信頼感を一人で回復させるのはかなり難しいと思います。悩みを抱えたときに、相談できる人がいる環境を作ることが回復のカギになります。

以下のコラムは、ソーシャルサポートが不足している方向けに書いたコラムです。周りに相談できる人がいない…と感じる方は参考にしてみてください。

ソーシャルサポートを受けるコツ

 

細田ら(2009)[8]は、中学生305名を対象に、以下の3つのソーシャルサポートと自己肯定感の関係について調査しました。

その結果が以下の図です。数字は相関係数といい、数値が大きいほど関係が強いことを意味します。

ソーシャルサポート 効果

図を見ると、父親、母親、友人、教師のいずれのソーシャルサポートもプラスになっていることがわかります。ソーシャルサポートに満たされた人は、自己肯定感が高くなりやすいという結果になっています。

 

②温かいコミュニティに所属する

基本的信頼感は、1日2日で回復できるものではありません。何気ない肯定的な日常を繰返すことで回復していくものです。

この時大事なのが、温かいコミュニティに所属することです。上下関係が少ない、成果を求められない、ユーモアがあるようなコミュニティに長期的に所属していくと、基本的信頼感が回復しやすくなると思います。

以下のコラムでは具体的なやり方まで解説しています。参考にしてみてください。

温かいコミュニティを探す方法

③まずは形だけでも信頼してみる

心理学では「返報性の原理」という用語を使うことがあります。返報性の原理とは、自分がされたことを相手にもしたくなるという原理です。

基本的信頼感が不足している方は、人と関わるときに最初から疑いながら接してしまうため、相手もそれを敏感に感じ取り、あなた自身も信頼されにくくなります。

例えば、基本的信頼感が不足している方は、自己開示を極端に嫌う傾向がありますが、これでは相手も不信に感じてしまうのです。

まずは形だけでも相手を信頼しているように行動してみる事です。自己開示を積極的にしてみる、あれやこれやと詮索しない、多少いやなことがあってもすぐに人間関係切らない、などが挙げられます。

そのような相手を信頼する行動をすると、あなた自身も信頼され、結果的にその信頼されたという感覚が基本的信頼感の回復につながるのです。

信頼関係を築く方法

温かいコミュニティ

④アサーティブコミュニケーションを学ぶ

基本的信頼感を回復させるのに適した心理療法として、アサーティブコミュニケーションをおススメします。アサーティブコミュニケーションでは

・自分は大事にされる権利がある
・自分は肯定される権利がある
・自分の発言は尊重される権利がある

このような精神を大事にする心理療法です。基本的信頼感の土台を整える上で適していると言えます。興味がある方は以下のコラムを参照ください。

アサーティブコミュニケーションの基礎

⑤アダルトチルドレンの知識をつける

幼少期に基本的信頼感の獲得を失敗すると、対人関係で問題を抱えやすいと言われていますが、これはアダルトチルドレンの問題と非常によく似ています。

アダルトチルドレンとは、家庭環境が悪く、精神的に不安定な状態で育った人を意味します。当コラムと合わせて読んで頂くとより理解が深まると思います。

幼少期の家庭環境が悪かったと感じる方は、こちらのアダルトチルドレンコラムも参照ください。

まとめ

現場感覚となりますが、やはり幼少期の家庭環境が悪かった方は、比較的基本的信頼感が低いように感じています。人を信じることができない、自己開示が怖い、これらの問題の根っこの部分に家庭環境があると感じています。

一方で、

仲の良い友人ができた
信頼できるパートナーができた
面倒見の良い上司と出会った

これらの肯定的な出会いと体験を繰返していくことで、基本的信頼感を回復される方を何人も見てきました。基本的信頼感は永続的なものではなく、回復可能と実感しています。

基本的信頼感回復

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・基本的信頼感を回復,無条件の肯定
・自己肯定感を回復させるワーク
・自分の価値を認識,アサーション練習
・健康的な人間関係を築く実践練習

🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)


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助け合い掲示板

1件のコメント

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    • グラス
    • 2019年9月17日 7:17 PM

    基本的信頼感は低いですね。
    人生に対して不安はありますね。
    困った時に援助が期待できる、頼りにできる、信頼できる人は少ないです。
    周囲の人々に支えられているとは思いますね、人は関わり合いがあるから生きていけると思います。
    自分を十分に信頼できずに自信がなくなることもありますし立ち直ることができない事もありますね。
    自分から相手を信頼してみようと思います。

    返信する

コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1]Erikson, E.H. (1994).  ldentity and the Life Cycle.  NewYork, NY: Norton. 
 
[2]Erikson, E.H. (1959).ldentity and the life cycle. Selected papers.Psychological Issues, 1, 1-171.
 
[3]谷 冬彦 (1996). 基本的信頼感尺度の作成  日本心理学会第60回大会発表論文集, 310.
 
[4]谷 冬彦(1998). 青年期における基本的信頼感と時間的展望  発達心理学研究, 9, 35-44.
 
[5]三好 昭子(2007). 人格特性的 自己効力感と精神的健康との関連 青年心理学研究,19, 21−31.
 
[6]浦尾 洋旭(2004).基本的信頼感の現れとしての楽観的な時間的展望とアイデンティティの関連 Japan Society of Youth and Adolescent Psychology
 
[7]田名場 美雪,佐々木 大輔,佐藤 清子(2000).青年期における基本的信頼感と対人関係 弘前大学保健管理概要 (21), 11-15
 
[8]細田 絢・田嶌 誠一 (2009). 中学生におけるソーシャルサポートと自他への肯定感に関する研究  教育心理学研究, 57, 309-323.