子どもの愛着障害,診断基準,治し方
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。今回は「子供の愛着障害と治療法」についてご相談を頂きました。
相談者
30代 女性
お悩みの内容
現在5歳の子どもがいますが、私に対する警戒心が強く悩んでいます。保育園に迎えに行っても、喜んでくれません。精神科では愛着障害の可能性があると言われました。母親としての自信を失っています。
夫も私も、仕事に時間を取られ、しっかり交流する時間が取れなかったのが原因なのか…と感じてます。子供の愛着障害について詳しく知りたいです。
お子様がなついてくれないと不安になりますよね。当コラムでは愛着障害の基本的な知識と対策を解説しました。是非最後までご一読ください。
愛着とは何か?
まずはじめに愛着とは何か?について抑えておきましょう。
意味
愛着には以下の意味があります。
深く心を惹かれ離れがたいと感じる心理的な結びつき
私たちは健康的な親子の交流通して、お互い深く離れがたいと感じるものです。一方で、親を拒絶したり、逆に異常にべったりする幼児は愛着障害と診断されることがあります。
ボウルビィの研究
児童心理学の専門家であるボウルビィは、幼少期の母子の愛着形成がとても大事であることを主張しています。ボウルビィは元々戦争で被災した孤児と関わっていました。その結果、戦争孤児は
すぐにかんしゃくを起こす
人との交流に無関心になる
攻撃的になりやすい
見捨てられ不安が強い
という心理的な問題を抱えることが分かったのです。
養育環境に問題
ボウルビィはなぜこのような問題が起こったのか?と疑問を持ちました。そして戦争孤児をよく観察したのです。その結果、戦争孤児には
泣いたときにあやしてもらえない
適切なタイミングでミルクをもらえない
充分な愛情が注がれていない
という問題があることがわかったのです。その後、世界中の心理学者が愛着について研究を行いました。その結果、ネグレクト、情緒的交流がない状態、安定した保護者がいない、このような状況が続くと、愛着不安が強くなることがわかりました。
2種類の愛着障害
愛着障害には大きく分けて以下の2種類があります。
反応性愛着障害
反応性愛着障害とは
・励ましても素直に喜ばない
・親への警戒や悲しみがある
・人と目を合わせず抱き着く
などの特徴がみられる障害です。直感的な表現では、警戒心があり、素直に甘えることができないような状態の幼児が当てはまります。
脱抑制型対人交流障害
脱抑制型対人交流障害とは
・過剰な愛情要求
・誰とでも愛着を求める
・過度になれなれしい
などがみられる障害です。直感的には、通常の人懐っこさを超え、過剰な愛情要求がみられる幼児に診断されることがあります。
有病率の実態
実は医療機関で診断されることは稀で、虐待などの環境下でも、愛着障害と診断される方は実際の10%程度という説もあります。
一方で平成30年度、児童虐待相談対応件数によると、相談件数は16万件前後であり、相当な数の子供が潜在的な愛着障害の可能性があると考えられます。
発達障害との混同
愛着障害は発達障害と混同されることがあります。なぜなら、ADHDや自閉症スペクトラムなどと同じような行動をとることがありからです。
しかし、発達障害と愛着障害は対応の仕方が大きく異なります。発達障害は、生物学的な要因で起きた先天的脳機能の障害と考えられている一方で、愛着障害は、後天的な心理社会的要因によるものが大きいとされています。
山本・米澤(2018)[1]は、愛着障害が根底にあるにもかかわらず、発達障害として対応しているケースが存在することを指摘しています。
その結果、抱えている問題が長期化しやすく、1つの問題を解決しても新しい問題が浮上すると主張しています。
大人になってからの影響
愛着障害は基本的には子供につく診断名ですが、その影響は生涯にわたります。成人になってからの影響について、1つ例を挙げたいと思います。
丹羽(2005)[2]は、大学1年生628名を対象に、大学入学時の「対人関係の不安」と「愛着不安」について調査を実施しました。
丹羽は大学生を
愛着不安が高い群
→親などとの重要な他者と情緒的に問題を抱える群
愛着不安が低い群
→情緒的に健康的な関係を築いている群
2つグループに分けました。
その後、2つのグループが大学にうまくなじめているかを調査しました。その結果、以下のような特徴があることがわかりました。
図を見てもわかるように、入学直後は、愛着不安高群が対人不安が強く、その傾向は3か月後も持続していることがわかります。このように、愛着は実際に社会適応の土台になっていると考えられるのです。
私はこれまで様々な方のカウンセリングを行ってきましたが、これは現場感覚でも非常に強く感じています。
愛着が安定する5つの対策
ここからは健康的な愛着形成のための子育てのコツを5つ提案させていただきます。実は筆者の私も、7歳、5歳、3歳の子育て期間中です。公認心理師の私自身も心がけていることです。
子育て期間中の方、独身の方も将来役に立つと思います。よかったら参考にしてみてください。
試行錯誤の重要性
親になると、子供と一緒にする作業がたくさんあります。抱っこ、おむつ替え、お着替え、歯磨き…たくさんあって大変ですが、この何気ない共同作業が愛着の土台となります。
親子は、これらの日常の動作がうまくできるように、無意識のうちにお互いが試行錯誤を始めます。例えば、抱っこをするときは、赤ちゃんは体を揺らし、親は重心をずらしたりします。
この共同作業によって安心した位置を獲得できると、私たちはお互い信頼できる・・・という愛着を形成することができるのです。
輸送反応とリラックス
Espositoら(2013)[3]はマウスを使った子育ての実験を行っています。ほ乳類が子育てをするときによく見られる行動に、口で子どもを加えて運ぶ「輸送反応」があります。
この動きを実験者がまねて、子供マウスの首の後ろをつまむと、マウスは体を丸めて、運びやすくなる姿勢をとるのです。
親が運びやすいように子どもが子育てに協力している表れだと解釈しています。この時、子供マウスは心拍数の低下がが見られ、リラックスしていることがわかりました。
しっかり体を丸めるには子どもも練習が必要で親が何度も運んでくれるに従って上手く体を丸めて運ばれる姿勢を取れるようになるということです。
試行錯誤の重要性
親にとっても、子育てははじめてのことです。親も子も反復的な練習をして、「育てる」「育てられる」ということをお互い行うことで、愛着の源を作り上げていくのです。
自分に完璧を求めず、子供と一緒に成長していく意識を持つようにしましょう。
抱っこの効果
2つ目は抱っこでお出かけ大作戦です。子育てにおいて抱っこが重要であることは、言うまでもありません。是非たくさん抱っこしましょう。
さらに言えば、ただ抱っこするだけでなく、どこかに移動することが効果的です。ここで「抱っこ」と「移動」が組み合わさると、どれぐらいリラックスするのか?研究データを見ていきましょう。
Espositoら(2013)[3]は生後6か月の子どもを持つ母親13組を対象に研究を行いました。
具体的には母親が赤ちゃんを腕に抱いて、約30秒ごとに「座る・立って歩く」という動作を繰り返し、泣く量を測定しました。その結果を図に示しました。
母親が歩いている時は、座っている時に比べ、泣く量(%)が約10分の1に低下することを見いだしました。
続いて、赤ちゃんの自発的運動の変化を見ていきましょう。自発的な動きとは、遊び、観察歩行、癇癪などが挙げられます。以下の図をご覧ください。
この図からもわかるように、自発的な動きが約5分の1に減少することを証明しました。泣く量や自発的な動きが減少するということは赤ちゃんがリラックスしたという証拠です。
Espositoらの研究グループでは、赤ちゃんが泣いたときに抱いて5分間歩くことがお勧めされています。
抱っこの効果
子育て期間中は、家事労働、仕事に追われ、意外とゆったり抱っこしてお出かけする時間を捻出できないものです。
ただ、1日少しでもいいので、抱っこして公園でゆったり過ごすなどお出かけする時間をとってみてください。そうしたゆったりとした母親と子供の関係が愛着をじっくり育てることにつながるのです。
ストロークとは何か
ストロークとは「人との関わり方」を意味します。あいまいな概念なので、解説を読みながら感覚をつかんで頂けると幸いです。
ストロークは
「条件付き肯定的ストローク」
「無条件の肯定的ストローク」
の2つに分けられます。まずは「条件付きストローク」について説明します。条件付きの肯定的ストロークの例を挙げます。
・泣き止んだから褒める
・片づけをしから褒める
・おしっこをトイレでしたことを褒める
これらはすべて「条件付き」ストロークですね。条件付きでも肯定的ストロークは嬉しいものです。褒められるポイントがある場合は相手に伝えましょう。
条件つきは不安-無条件は安心
しかし、条件付きにはデメリットがあります。それは「条件付きのストロークでは真の安心は得られない」
という点です。
例えば、トイレでおしっこをしたときだけ抱っこをして、トイレでおしっこをしなかったときに抱っこをしなかったとしたら、子どもは「おしっこができない僕は愛されていないのかも・・・」と感じとってしまうかもしれません。
少々極端な例ですが、〇〇したから褒めてくれる…という行動が多いと、子供は本当の意味での安心を得ることができないのです。
これに対して「無条件の肯定的ストローク」は存在自体を肯定するため、「僕はここにいていいんだ」という感覚を育てることができます。無条件の肯定的ストロークには条件が必要です。
「どんな時でもあなたと私は肯定されている」
という感覚です。どんな時でも・・・というのがカギですね。何か特別なことしなくても良いのです。〇〇だから・・△△だから・・・という理由はいらないのです。
無条件に「人と自分は同じく愛される存在だ」という気持ちを育てることが愛着障害を予防してくれます。
ここで典型的な無条件のストロークと条件付きのストロークを列挙してみます。参考にしてみてください
・感謝
小さなことでも
ありがとうと伝える
・存在の肯定
抱きしめる
うなづく
だっこ
・非言語の褒める態度
微笑む
相手の目を見る
二の腕に触れる
・傾聴態度
論理的に正しくなくても
相手の話をひとまず聞く
相手の話を受け止める
・価値観の尊重
頭ごなしに否定しない
なるほど〇〇という考えがあるのか
○○ちゃんはそう感じているのね。
・条件つき感謝
おかたずけをうまくできたときだけ感謝する
何もしてくれない時は感謝しない
・条件付き存在の肯定
ちゃんと着替えられた時だけ
ニコニコ接する
日によって反応が変わる
・条件つき非言語
手伝ってくれた時だけ頭をなでる
勉強した時だけ目を見る
・傾聴態度
論理的に正しいことだけ肯定する
間違っていたらすべて否定
・価値観の尊重
相手の考えを尊重しない
論理的な正しさのみ肯定する
当コラムで紹介させて頂いたストロークについて理解深めたい方は以下のコラムを参照ください。
安定した愛着のためには、夫婦が仲良くすることも大事です。
夫婦関係と子供の抑うつ
菅原ら(2002)[4]の研究では、1360名の母親を対象に、夫婦関係が子どものメンタルヘルスにどのような影響を与えるか調査をしました。
その結果、上図のように「父親と母親がお互いに愛情を持っている」場合、家族の雰囲気がよくなり、子どもの抑うつ傾向が低くなることが分かっています。
また、母親が父親に対して愛情を持っていると、子どもに対しても暖かく接することができ、その暖かさが子どもの抑うつ傾向を下げるのです。
お互いを大事にしよう
子どもは夫婦関係をよく見ています。夫婦同士が冗談をいったり、愛情を交換し合うことで、子供も安心して育っていくことができるのです。
子育ての基盤は円満な夫婦関係にあります。パートナーと険悪になりやすい…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
夫婦喧嘩,仲直り法
愛着障害は基本的には幼児向けの障害です。大人になってから診断を受けることはありません。しかし、心理学の世界では子供の頃の養育環境が大人になっても影響することがわかっています。
虐待やアダルトチルドレンの問題は世代間で続いていく可能性があります。自分自身の愛着に関する問題も整理しておく必要があります。
もしご両親の養育環境に問題があったかもしれないと感じる方は、以下のコラムを参考にしてみてください。
まとめと講座のお知らせ
まとめ
今回は子供の愛着障害について対策をお伝えしました。
・抱っこをたくさんする
・無条件の肯定をたくさんする
・夫婦関係を大事にする
・親も未完成,一緒に成長する
・自分の愛着不安を改善
この5つを守ればきっとお子様はすくすくと健康な心をもって育っていくと思います(^^)私も子育て頑張ります!
講座のお知らせ
最後にお知らせがあります♪
子育てを健康的にするには、親である自分自身の心を安定させておく必要があります。公認心理師,精神保健福祉士など専門家の元でしっかり心理学を学習したい方場合は、私たちが開催している心理学講座をオススメしています。講座では
・無条件の肯定,ストロークのコツ
・感情をゆったりさせる深呼吸法
・イライラしやすい考え方をほぐす心理学
・話を受け止める傾聴技法
など練習していきます。興味がある方は下記のお知らせをクリックして頂けると幸いです。是非お待ちしています。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
夫婦関係と児童期の子どもの抑うつ傾向との関連 家族機能および両親の養育態度を媒介として 教育心理学研究50 巻 2 号 p. 129-140