過干渉,過保護な親や上司への対策,子供への接し方
皆さんこんにちは。こちらのコミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「過干渉,過保護」です。
皆さんは、子育てや職場で「過干渉」や「過保護」に悩んだことはありませんか?
子供が心配で口を出しすぎてしまう
部下に対して過度に気を使ってしまう
若手社員に仕事を任せられない
など、多くの方が経験する悩みです。今回は、過干渉・過保護の本質から、その影響、そして具体的な対策まで、心理学の研究に基づいて詳しく解説していきます。
目次は以下の通りです。
過干渉・過保護とは?
過干渉・過保護が心に与える影響
過干渉・過保護への対策:親・上司向け
過干渉・過保護への対策:受ける人向け
過干渉,過保護にお悩みの方は、ぜひ最後までご一読ください。
過干渉・過保護とは
まず始めに、過干渉と過保護の定義について見ていきましょう。この分野では、小川(1994)[1]のPBI(Parental Bonding Instrument)尺度を使った研究が非常に参考になります。
過干渉・過保護の分類
小川先生は、以下のように母親の養育態度を「愛情」と「干渉」という2つの軸で分類しました。
愛情の軸では、
・温かい声がけをする
・よく微笑みかける
・よく話し合う
といった行動が評価されます。一方、干渉の軸では、
・したいことをさせない
・プライバシーを侵す
・自由を与えない
・親の思い通りにさせる
といった行動が評価されます。
4つのタイプの意味
この2つの軸から、以下の4つのタイプに分類されます。
①無関心型(干渉しない×愛情なし)
親が子育てに全く関与せず、愛情表現も示さないスタイルです。典型的な例として、親が自分のスマートフォンに夢中で子供に無関心、子供の運動会や授業参観といった行事にも参加しないなどが挙げられます。
②過干渉型(干渉する×愛情なし)
子供に対して愛情表現が乏しい一方で、行動への制限や干渉が強い育て方です。子供に対して温かい言葉をかけたり、スキンシップをとったりすることはほとんどありませんが、子供の行動に対しては細かく指示や批判をします。
③過保護型(干渉する×愛情あり)
子供への愛情は十分にある一方で、必要以上に干渉してしまうタイプです。最近では「ヘリコプターペアレント」とも呼ばれ、常に子供の様子を気にかけ、些細なことまで心配して、子供の行動を過度に管理しようとする傾向があります。
④自律承認型(干渉しない×愛情あり)
子供への愛情表現が豊かで、かつ適切な自主性も認める理想的な育て方です。子供の成長に必要な失敗も経験させながら、できたときは心から褒め、うまくいかないときも一方的な叱責ではなく、子供の気持ちに耳を傾けます。
過干渉・過保護が心に与える影響
過干渉や過保護が与える影響について、複数の研究から重要な知見が得られています。これらの研究結果は、私たちの子育てや職場での関係性を見直す重要な示唆を与えてくれます。
自尊心への影響
山下ら(2010)[2]の研究では、学生306名を対象に、それぞれの養育タイプと自尊心の関係について調査が行われました。この研究では、各養育タイプが子供の自尊心にどのような影響を与えるのかを調べました。
以下の図のような結果となりました。
このように最も自尊心が高かったのは、子供の自律性を認めながら愛情も十分に与える自律承認型でした。一方、無関心型は愛情は不足するものの、自力で課題を解決する機会が多いため、ある程度の自尊心は育ちます。
過保護型は愛情はあるものの、自己達成の機会が少なく、過干渉型は愛情も自律性も制限されるため、最も自尊心が育ちにくい環境となることが示されています。
情緒的症状への影響
伊藤ら(2014)[3]の研究では、公立小学校・中学校の7,208名の保護者を対象に、過干渉と情緒的症状の関係が調査されました。過干渉の具体例としては、テストの点が悪いと説教される、塾に無理やり行かされる、友人関係に口を出されるなどが挙げられます。
その結果が以下の図です。
このように、親からの過干渉は子供の心理面に深刻な影響を及ぼすことが分かっています。具体的には、子供は気分が落ち込みやすくなり、沈んだ感情が続きやすくなります。さらに、自分で人生を選択し、歩んでいるという実感が持てなくなってしまいます。
行為問題への影響
伊藤ら(2014)[3]の研究では、過干渉と行為問題(喧嘩やいじめなど)との関連性も調査されました。この研究では、過干渉を受けている子供たちに、どのような行動上の問題があるかを調べました。
その結果が以下の図です。
過干渉を受ける子供たちの日常生活への影響が明らかになっています。本来、家庭は学校での疲れやストレスを癒す安全な場所であるべきですが、過干渉のある家庭では、子供が心を休める時間や空間を十分に確保できません。
その結果、子供たちは常にストレスを抱えた状態となり、イライラした感情を持続的に感じやすくなります。このストレスは、時として学校での喧嘩やトラブルといった問題行動として表れることがあります。
世代間伝達の影響
金政(2007)[4]の研究では、209名の親子を対象に、過保護的な養育態度が世代間でどのように引き継がれていくのかが調査されました。この研究の特筆すべき点は、親の持つ「関係不安」という心理的特性に着目したことです。
上図のように人間関係に不安を抱える親が、不安を子育てを通じて次の世代に伝えていく傾向が明らかになりました。これらの親は、自分が孤独になってしまうのではないかという強い不安や、親しい人との関係が途切れてしまうことへの過剰な心配を抱えています。
結果的に子供を必要以上に保護し、干渉してしまう傾向があります。言わば、親の関係不安が過保護という形で表れ、それによって子供も同じような不安を持つようになるという連鎖が起きているのです。
過干渉・過保護への対策:親・上司向け
過干渉や過保護になりがちな立場にある方々に向けて、具体的な対策を見ていきましょう。これらの対策は、心理学的な研究に基づいており、実践的な効果が期待できるものです。
自律性の尊重
相手の選択や判断に過度に干渉するのではなく、自主性を尊重し、失敗や挑戦から学ぶ機会を提供していくことが重要です。特に、致命的な失敗でない限り、小さなリスクについては思い切って失敗させることも、時には必要な愛情表現となります。
効果的な自律性の尊重には、以下のポイントが大切です。
相手の判断を最優先に考える
失敗を学びの機会として捉える
必要最小限のサポートにとどめる
このような姿勢を保つことで、相手の自主性と責任感を育てることができます。ただし、これは放任とは異なり、必要な時にはサポートできる態勢を整えておくことも重要です。
強制ではなく提案を意識する
過保護になりがちな方は、自分の意見を押し通して、強制的に行動させてしまう傾向があります。しかし、これは控えるべき行動です。
どうしてもして欲しいことがある場合でも、意見や助言を提案程度にとどめ、最後の選択は相手に委ねることが大切です。具体的には、以下のポイントを意識しましよう。
選択肢を与える形で意見を伝える
相手の意思決定を尊重する
強制や命令は避ける
こうした点を抑えておくことで、相手の自主性を損なうことなく、建設的な関係を築くことができます。
課題の分離
アドラー心理学の重要な概念である「課題の分離」について説明します。これは、誰の問題であるかを明確にし、結果に対する責任はそれぞれが負うという考え方です。
過保護な人は、相手の問題に必要以上に介入し、本来相手が負うべき責任まで自分で背負ってしまう傾向があります。そこで以下のポイントを意識するようにしましょう。
問題の所在を明確にする
責任の所在を明確にする
相手の成長機会を奪わない
このような意識を持つことで、過度な介入を避け、相手の自立を促す関係性を築くことができます。
複数のコミュニティへの所属
先ほどの金政先生の研究でも示されたように、周りの人がいなくなってしまうことへの不安が大きいほど、過保護な行動が増加する傾向があります。さらに、人間関係が希薄であればあるほど、残された人への執着が強まり、その人の行動に過度に干渉してしまいがちです。
そこで以下のような対策を取ることが大切です。
さまざまな社会的活動への参加
多様な人間関係の構築
特定の関係への依存度を下げる
このように複数のコミュニティに所属することで、心理的な余裕が生まれ、過保護な行動を抑制することができます。
コミュティへの所属について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
過干渉・過保護への対策:受ける人向け
過干渉や過保護を受ける立場の方々に向けて、具体的な対策を説明します。
主体的に決める癖をつける
過保護な環境で過ごしていると、いつの間にか敷かれたレールの上でしか生きられないような感覚に陥りがちです。この状態から抜け出すには、相手の意見はあくまで参考程度にとどめ、最終的には自分で決定する習慣を身につけることが重要です。
具体的な実践方法として、
日常的な小さな決定から始める
失敗を恐れない姿勢を持つ
自分の判断に責任を持つ
このような習慣づけにより、徐々に自立的な判断力を養うことができます。
限界設定をする
過保護は相手の問題が大きく影響します。自分がいくら努力しても、相手の心理状態が改善されない限り、干渉は続く可能性があります。この状況で重要となるのが「限界設定」です。
これは、自分のNGラインを明確に設定し、それを超えた場合の対応を具体的に決めておくことを指します。
効果的な限界設定のポイントは以下の通りです。
明確なラインを設定する
具体的な対応方法を決める
限界を決めたら必ずそれに従う
例えば、最近ですと独身の人が増えてきていますが、独身の方がよく悩むのが親に「早く結婚しろ」と言われるということを悩んでる方すごく多いです。
こんな時は、「自分の人生は自分で決めるものだから、次に結婚しろと言ったらもう実家に1年間帰らない」といった感じで限界設定をしていきます。
限界設定について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
底つき感を待つ
過保護になってしまう方は、基本的にはメンタルヘルスにどこか問題を抱えてる方が多いです。そんな方に限界設定をすると、大概の場合は精神的に乱れることがすごく多くなります。
場合によっては罵倒されたり、自責の念に変えて「もう私なんていなくなればいいの」みたいな状態になったりすることが多いです。しかし、そこで妥協して限界設定のラインを変えると、また再び過保護や過干渉が始まってしまいます。
ここで重要なポイントは、以下の通りです。
感情的な反応に流されない
一度決めた限界設定を守り続ける
相手の変化を待つ姿勢を持つ
相手が精神的に乱れている時期というのも実は終わりがいつかきます。我慢してずっとそういった状態を保っていくと、相手がどこかで心を整理する時期がきます。これを底つき感といいます。
相手が自分自身の心と向き合って整理をして、また関係を再構築できる時期が来ると思います。そういった底つき感を是非待つようにしてみてください。
環境を変える
最後の手段として、環境を変えるという選択肢があります。特に、実家暮らしの場合など、物理的な距離が近い状況では、どんなに努力しても関係性の改善が難しい場合があります。このような状況では、一時的に距離を置くことも、有効な対策となり得ます。
具体的には、以下のような方法が挙げられます。
実家を出て独立する
職場環境の変更を検討する
物理的・心理的な距離を確保する
最後の手段ではありますが、努力をしつつもなかなか問題解決できない場合は、思い切って実家を出てしまうのも1つ手です。また、上司がしっかりと自律を尊重してくれるような職場に転職することも考えておくとよいかもしれません。
以上、過干渉・過保護に関する様々な対策を見てきました。与える側も受ける側も、それぞれの立場で実践できる具体的な方法を実践していくことが大切です。一朝一夕に改善を求めるのではなく、段階的に、そして着実に関係性を改善していく姿勢を持って乗り越えていきましょう。
まとめ
過干渉,過保護の対策については動画でも解説しました。仕上げとしてご活用ください。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連