脱フュージョンとは?意味,やり方,エクササイズを解説
みなさんこんにちは!
公認心理師,精神保健福祉士の川島です。私たちは現在、初学者向け心理学講座の講師をしています。
今回のテーマ
「脱フュージョン」
心理学の世界で、近年よく耳にするようになった脱フュージョン。聞いたことがあるけれど、
「具体的な手法がわからない」
「ワークや技法を知りたい」
こういった方も見えると思います。そこで当コラムでは、脱フュージョンの歴史から技法まで具体的に解説していきます。
脱フュージョンとは,意味
まずは、脱フュージョンとは何かについて、意味を詳しく解説していきます。
意味
脱フュージョンとは、スティーブン・C・ヘイズ博士によって創設されたアクセプタンス&コミットメント・セラピーによってつくられた造語です。
ヘイズ博士(2014)は脱フュージョンを以下のように定義しています。
①思考は自動的に行動に影響を及ぼすことがある
②思考の影響を減らし
③言語以外の行動基準を効果的に機能させる
意味は理解できますでしょうか?難しいですよね(^^; それぞれ詳しく解説していきます。
①思考は行動に影響する
私たちの思考は現実世界との混同を起こすことがあります。例えば、SNSで、ある一人が、自分を批判してきたとしましょう。この批判が強かったために、
「私はみんなに批判されている」
と心の中でつぶやいたとします。そうしてその言葉を繰り返すうちに、周りがみんな敵に見えてきました。
この思考がおかしいことはすぐわかりますね。
しかし、繰り返し続けると、思考の世界と、現実世界がごっちゃになってくるのです。これを認知的フュージョンと言います。
②思考の影響を減らす
ヘイズ博士の定義には、「思考の影響を減らす」という文言があります。思考は現実世界に影響を及ぼし、時に私たちの行動を制限することがあります。
この言葉の世界から脱し、現実的な感覚を強くすることが、脱フュージョンの鍵となります。
③言語以外の行動基準
私たちは、思考することで、よりよく生きているつもりでも、時に思考は暴走し、自分を苦しめます。
そんなときは、現実を正しく見て、自分の世界だけではなく、俯瞰をし、現実を正しく認識した上で行動していくことが必要になるのです。
ACTの哲学
ACTとは何か
脱フュージョンを理解するには、ACTの哲学を理解することが近道になります。ACTでは以下の生き方を目指します。
「不安を受け入れて、価値のある人生に向かって行動する」
困難な気分を排除するのではなく、むしろオープンな態度を取ります。さらには、不快な気持ちと共に、価値づけられた行動を取れるように促していきます。
このような心理状態のことを「心理的柔軟性」と呼びます。以下の図は、ACTの6つのコアプロセスを示したものです。
このように、心理的柔軟性を獲得するために「脱フュージョン」が用いられるのです。自分の思考を観察し、現実と思考を分けることで、不安に囚われない心を作ることができます。
・1982年
これまでの認知行動療法は、マイナスで極端な”思考を修正する”ことが主な目的でした。しかし、この手法に限界を感じたヘイズは、”思考を観察する”方法を研究し、ACTを考案しました。
・2008年
2008年までは、ACTの信ぴょう性は示されておらず、「効果を裏付ける根拠はごく一部で、解析方法に問題がある」という結論にどどまります。(Öst, Lars-Göran,2008)
・2015年
それから7年後、ACTは一般的な治療よりも優れていることが報告されます。その効果量は、これまでの認知行動療法と変わらないほどでした。(A-Tjak, JGら,2015)
この時期から新しい認知行動療法の1つとしてACTが注目され始めます。
認知的フュージョンとの違い
脱フュージョンと対立する用語として、認知的フュージョンがあります。
思考と現実の混同
認知的フュージョンとは、自分の「考え」と「現実」を混同してしまうことを意味します。フュージョンとは「混ざる、混同」という意味があります。ドランゴンボールでそんな技がありましたよね。
・考えすぎて苦痛を感じる
・過剰なマイナス思考
・思い込みの修正が困難
上記のような状況が思い当たる人は、認知的フュージョンに該当するかもしれません。(嶋, 柳原, 川井, & 熊野., 2014)。認知的フュージョンの状態では、考えと現実の区別がつかなくなります。
両者の違い
ここで、認知的フュージョンと脱フュージョンの違いを見ていきましょう。以下の図をご覧ください。
このように、緑と黄色が混ざって、黄緑になるように、思考と現実が入り交ざってしまうのですね。現実的にはありもしない考えを膨らませ、不安や恐怖に支配されやすい状態と言えます。
脱フュージョンは、現実と思考を分ける方法でしたね。一方で、認知的フュージョンは以下のような状況になります。
脱フュージョンの技法
それでは、実際に脱フュージョンの技法をご紹介していきます。具体的には
① マインドの確認
② 価値の確認
ACTの手順は本来はもう少しプロセスがありますが入門として簡略化しています。当ワークは、「よくわかるACTアクセプタンス&コミットメントセラピー(2012)」を参考にしています。
1.マインドの確認
脱フュージョンでは、現実と感情や思考を区別するために、感情や思考は、”マインド”として扱います。
①自分の中のマインドは今何と言っている?
②それについてどんな意見を持っているか
③今この瞬間自分が何を考えているのか、意識できるか
④自分のマインドが今何をしているのか意識する
少し難しいですが、「マインド」はあくまで「マインド」であることに気がついて、現実と混同しないようにする感覚です。
2.マインドの有効性に目を向ける
次に、マインドの考えがどれだけ有効的なものか、自分に問いかけていきます。
①その考えにしがみついていると、メリットはあるか。
②思考の言うことに従って行動すれば、豊かで充実した生活が手に入るか
③マインドに従えば、自分の人生は変わるか?それとも、今までのように行き詰ったままか
自分の考えが、人生にとって本当に意味があることなのか?冷静に確かめていきます。
日常生活での使い方
先程挙げたトレーニング法は抽象度が高いのでいまいちピンとこない方もいると思います。そこで、日常生活での具体例をお伝えしたいと思います。
<例題>
・太郎さん 社会人3年目
・大学時代に花子さんと出会い付き合いはじめる
・花子さんから突然、見た目が嫌いとふられる
・自分の容姿が気になるようになる
1.マインドの確認
脱フュージョンの基本はまずは自分の思考を確認することが大事です。太郎さんは自分の考えを紙に書き出しました。
「女性は見た目で判断する」
「僕の見た目は悪いに違いない」
「僕は女性と二度と恋愛できない」
という考えがあることに気が付きました。そうして、その考えがあることで、異性とまともに話すことができないこともわかりました。
2.思考の有効性に目を向ける
太郎さんはこれらの考えが自分の人生にどのような影響を与えるか?考えました。
この考えを持つ限りは、自分の見た目にコンプレックスを持ち続けることになります。今後も異性と話すことはできなそうです。
自分のマインドは、現実の自分も苦しめ、幸せになれそうではありませんでした。
太郎さんは冷静に脱フュージョンすると、現実を再検討しはじめました。「女性は見た目で判断する」これは正しいことでしょうか?現実的でしょうか?太郎さんは考えました。
街中に出ると、言葉は悪いですが、美女と野獣カップルがたくさんいることに気が付きます。そうして様々な検討を加えた結果、太郎さんは以下のような人生哲学を作り直すことにしました。
今回の彼女は見た目で判断されてしまった。これは1つの教訓として、自分磨きをしよう。ただ見た目だけがすべてではない。自分自身の価値観を磨いて、女性に好かれるように成長していけばきっと新しい女性ができるはずだ。自分のマインドに支配されず、幸せになる行動をしよう。
脱フュージョンは特に混乱しているとき、不安に駆られているときに有効です。自分の考えに気が付き、その有効性を冷静に考えてみてくださいね。
発展編
ここからは発展編です。脱フュージョンについては、心理学の世界ではいくつかの類似概念があります。以下のコラムや動画を参考にするとより理解が深くなると思います。
マインドフルネス
ACTと非常に近い心理療法としてマインドフルネス認知療法があります。エクササイズも豊富にあるので、もっとトレーニングをしたい!という方はこちらの動画も参照ください。
メタ認知
脱フュージョンと非常に近い考え方として、メタ認知という言葉があります。メタ認知は、感情や思考を、客観的に考える手法です。
メタ認知を理解するとより深く脱フュージョン力が付くでしょう。こちらのメタ認知コラムでもトレーニングや練習問題がありますので参考にしてみてください。
お知らせ
今回のコラムを読んでみて専門家からしっかり学びたい!という方は下のお知らせをクリックして頂けると幸いです。私たちが講義をしている心理学の講座となります。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
ブログ→
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・Öst, Lars-Göran (2008). “Efficacy of the third wave of behavioral therapies: A systematic review and meta-analysis”. Behaviour Research and Therapy 46 (3): 296–321. doi:10.1016/j.brat.2007.12.005. PMID 18258216.
・A-Tjak, JG; Davis, ML; Morina, N; Powers, MB; Smits, JA; Emmelkamp, PM (2015). “A meta-analysis of the efficacy of acceptance and commitment therapy for clinically relevant mental and physical health problems.”. Psychotherapy and psychosomatics 84 (1): 30–6. doi:10.1159/000365764. PMID 25547522.
・画像出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Steven_C._Hayes
ラス・ハリス(2012)よくわかるACTアクセプタンス&コミットメントセラピー明日からつかえるACT入門
ヘイズ,S. C.,ストローサル,K. D.,&ウィルソン,K. G.
武藤 崇・三田村仰・大月 友(監訳)2014 アクセプタンス&コミットメント・セラピー 第2版 星和書店