コンプレックスを克服,解消する方法
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「コンプレックスを克服,解消する方法」についてご相談を頂きました。
相談者
28歳 男性
IT関連会社勤務
お悩みの内容
私には学歴コンプレックスがあります。学生時代は部活を感張り、全国大会などに出ていました。そのおかげで安定した企業に入ることができたのですが、会社内では一番下の学歴で、肩身が狭いです。
いわゆるFランクの大学卒なので、掲示板などで揶揄されるのを見るたびに、もっと勉強しておけば良かったと後悔しています。
また私は一般的な男性に比べると低身長で、顔も一重で華がありません。容姿のコンプレックスもあります。どうすればいいでしょうか。
学歴や容姿にコンプレックスがあると、消極的な気持ちになってしまいますよね。特に周りの学歴が高いとのことで、余計に比較してしまうと思います。
当コラムでは、コンプレックスとは何か?どうすれば活かしていけるのか?について解説していきます。是非参考にしてみてください。
コンプレックスとは何か
まずはじめにコンプレックスの理解から深めていきましょう。
コンプレックスの意味
心理学辞典(1999)[1]によると、以下のように定義されています。
無意識下で自我を脅かすような心的内容が絡み合って構成されるまとまりのこと
よくわからないですよね(^^; 昔の人はかくも難しい言葉を使って定義をしていました。
もう少し簡単にすると、
自分の考えや行動に影響を与えている、心の深い部分にあるわだかまり
と考えるといいでしょう。本来、コンプレックスには様々な種類がありますが、口語的なやり取りでは「劣等感」や「劣等コンプレックス」同じ意味として使われる傾向にあります。そこで本コラムでは劣等コンプレックスを前提として進めていきます。他のコンプレックスの理解を深めたい方は以下を参照ください。
劣等感とは
劣等感は、アドラー (Adler, A.)(1870-1937)という心理学者が提唱しました。簡単にアドラーの紹介をします。アドラーは7人兄弟の次男として1870年に誕生しました。
アドラーは幼少期から病気がちで、声や骨格の異常で苦悩してきました。身長は150センチと、他の兄弟よりも低かったようです。これらの身体的なハンデで悩んできたと言われています。
ただし、アドラーはその劣等感を、単純に悪いものとは考えなかったようです。アドラーは、人が何かをする上で劣等感は大きな動機となっており、エネルギーの源泉とすることで成長していける、と考えたのです。
劣等コンプレックスとは
一方で、アドラーは劣等感をうまく処理できず、心のわだかまりとして混乱を引き起こしている状態を、劣等コンプレックスと名付けました。
日本では両者が同じ意味で使われることも多い状態です。当コラムでも基本的には同じ意味として区別せず解説を進めていきます。
善玉と悪玉
私はこれまで1000人近くの方の相談をお伺いしてきましたが、コンプレックスは善玉にも悪玉にもなると感じています。
善玉コンプレックス
アドラーの主張のように、コンプレックスはむしろ活力として役立つこともあります。例えば
試合で負けた ⇒ 練習に打ち込む
昔貧乏だった ⇒ 起業して頑張る
失恋した ⇒ 自分磨きをする
こうしたコンプレックスは、人生をより充実させてくれます。コンプレックスが強ければ強いほど、燃え上がる方もいます。皆さんはいかがでしょうか。
コンプレックスが活動のエネルギーになっている感覚はありますでしょうか。
悪玉コンプレックス
一方でコンプレックスは、日々の生活にトラブルをもたらすこともあります。例えば
試合で負けた ⇒ 暴飲暴食する
昔貧乏だった ⇒ お金持ちに嫉妬する
失恋した ⇒ 相手を恨む
などが挙げられます。このように、同じコンプレックスでも、善玉にも悪玉にもなるため、できれば前向きな活力にしていきたいものです。
劣等コンプレックスと研究
ここで、心理学の研究をいくつか紹介します。
目をそらすと悪化する
高坂(2009)[2]は中学生228名、高校生190名を対象に、劣等感について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
上記の、否定性直視への抵抗は、自分の嫌なところを見たくない、ネガティブな面を考えないようにする感覚を意味します。例えば、自分の学業成績について、無理に何も考えないようにすると、かえって勉強への劣等感を高めてしまうリスクがあると言えます。
深く向き合うと軽くなる
高坂(2009)[2]の別の結果も見てみましょう。
上記の、内省水準の深さは、自分についてじっくり考える、集中して考えられる、などが挙げられます。劣等感が少ない人は、自分と深く向き合い、前向きに解釈していると推測されます。
切替も大事
高坂の研究では、自分と深く向き合うことが前向きな効果を発揮するとされていますが、注意点として以下の研究も見てみましょう。森津(2007)[3]は、学生450人を対象に、劣等感や自尊心の関係について調査を行いました。結果の一部が下図となります。
ネガティブな思考を頭の中で何度も考えると、劣等感を感じやすくなり、自尊心も低下することがわかります。劣等感と向き合うことは大事ですが、四六時中考えすぎると、メンタルヘルスに悪影響が出てくる可能性も示唆されています。劣等感と向き合う際はメリハリが大事であると言えそうです。
克服する6つの方法
それではいよいよ、コンプレックスを克服する方法について考えていきましょう。当コラムでは以下の6つを提案させて頂きます。
①直接的なエネルギーに変える
②間接的なエネルギーに変える
③短所をリフレームする
④本棚セラピーを試す
⑤受け入れる,固執しない
⑥暖かいコミュニティに所属する
ご自身の状況に合いそうなものがありましたら取り入れてみてください。
①直接的なエネルギーに変える
アドラーは、コンプレックスの活かし方を2つ挙げています。1つは直接補償と言われるやり方です。直接補償とは、劣等感を直接的なエネルギーに変え、コンプレックスを持っているジャンルそのもので活発に行動するやり方です。
例えば、昔は病弱で体が弱く、弱虫とからかわれていた方がいたとします。この方が自分を変えようと、
ボクシングの練習をはじめる
スパーリングを繰り返し自信をつける
このようなやり方は直接補償にあたります。
今回の相談者の方の場合、学歴コンプレックスをバネに
大型資格を取る
TOEIC800点を目指す
商品知識を誰よりも勉強する
などの勉強意欲に活かすことが挙げられます。
②間接的なエネルギーに変える
アドラーはもう1つのやり方として、間接補償も提唱しています。間接補償とは、劣等感を持つジャンルとは別の分野で活発に行動するやり方です。
例えば、病弱で体が弱い過去を持っていた方が、
人の気持ちに寄りそえるカウンセラーを目指す
周りを明るい気持ちにするコメディアンを目指す
これは間接補償にあたります。
今回の相談者の方は、容姿のコンプレックスを抱えています。間接補償としては、
接客態度で社内NO.1を目指す
人一倍オシャレには気を配る
副業で収入を上げて自信UP
などが挙げられます。
③短所をリフレームする
自分の欠点だと思う部分は、長所であることもたくさんあります。例えば、「緊張しやすい」方は「共感性が高い」傾向があることが心理学の研究で分かっています。
長所として捉えなおす訓練として、リフレーミングという手法をよく使います。リフレーミングとは、ある枠組み(フレーム)で捉えられている物事を、違う枠組みで捉えなおすことを指します。
例えば、「身長が低い→親しみを感じる」というように見方を変えていきます。リフレーミングはカウンセリングの中で問題解決を目標としたセラピーで主に用いられている技法です。
具体例として、以下の折り畳みで解説しました。自分のコンプレックスを長所として捉えなおしてみたい方は下記を参照ください。
④本棚セラピーを試す
本棚セラピーとは、自分の長所や資源に目を向けていくことでコンプレックスを克服していくワークです。例えば、こんな感じの本棚をイメージします。
これは自分本棚です。ここにたくさんの知識や長所を入れていきます。
↓本棚を埋めてみる!
Aさんの例
Aさんには学歴にコンプレックスがあるため、社会的地位のところは埋められませんでした。しかし、その他の棚にはたくさん入っています。こうして見ていくと、コンプレックスはあるものの、意外と自分自身にもステキなところがたくさんある事に気づけます。
以下のコラムで長所を探す練習をしていきましょう。
⑤受け入れる,固執しない
コンプレックスの中には、自分ではどうしようもないものもあります。例えば、
ハーフなど出生コンプレックス
親が問題を抱えている
持病がある
障害がある
これらのコンプレックスは、自分の責任ではなく、運命の1つとして自分にあるものです。私たちはそれぞれ変えようのない運命と折り合いをつけ、受けいれながら生きていかなくてはなりません。
選択肢の1つとして「受け入れる」ということも大事にしましょう。自分を受け入れることが苦手な方は以下のコラムを参照ください。
⑥暖かいコミュニティに所属する
心理学の研究では、人に受けいれてもらった経験がコンプレックスの改善に役立つことが分かっています。もしあなたの所属しているコミュニティが殺伐としていて、蹴落しあうような環境にある場合、コンプレックスはすごく刺激されやすいと思います。
大事なことは、上下関係がなく多様性を認め合えるような、懐の深いコミュニティに1つは所属しておくことです。お互いを受け入れるような体験は、きっとあなたのコンプレックスを和らげてくれるはずです。
今所属しているコミュニティが殺伐としている…と感じる方は下記のコラムも参照ください。
以下、私が実際にカウンセリングをした事例でコンプレックスが解消された花子さんの例をお伝えします。興味がある方は展開してみてください。
お知らせ・発展編
ここまで、コンプレックス克服の基礎について解説をしてきました。ここからは「お知らせ」と「発展編」になります。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・コンプレックスを力に変える心理学
・劣等感の改善,アドラー心理学の基礎
・短所を長所にリフレーミングワーク
・自己受容の方法
体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^)
アドラー心理学の克服法
筆者の川島達史がコンプレックスの活かし方について動画で解説しました♪発展編として参考にしてみてください。
アドラー心理学
劣等コンプレックスを克服するには、第一人者であるアドラーが提唱したアドラー心理学を学習することをおススメします。以下のコラムでは、その基礎から実践法まで解説しています。是非参考にしてみてください。
2件のコメント
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コラムを読み、改めてコンプレックスは厄介だと思いました。
自分を客観視し気づきを得ることができないと、なかなかこの価値観から逃れられません。さらにネガティブ反芻を繰り返し、布団かぶっているしかできません。
私もかつて容姿コンプレックスが強く、鏡を見られない時期もありました。
コラムを読んで思うに、周囲の評価へ過剰反応していたようです。
歳を重ねるごとに、少しずつ考え方を修正していったんでしょうね。自覚はありませんが。コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[2]高坂康雅(2009).青年期における内省への取り組み方の発達的変化と劣等感との関連 青年心理学研 究 21,83−94[3]森津誠(2007).学生のネガティブ反すうと性格特性および自尊心との関係 国際研究論叢 20(2):67-70
同じ失敗を繰り返し、へこんでいる時にこのサイトにたどり着きました。
川島先生の動画で、スッと楽になれました。
劣等感の克服法として共同体努力というのは
特に参考になりました。
ありがとうございました。