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同調圧力に屈しない方法,心理学

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同調圧力に屈しない方法,心理学

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「同調圧力」です。

相談者
35歳男性 会社員

お悩みの内容
職場では上司に従うことが当たり前になっているため、私もYESマンになってしまいます。友人関係でも、たくさん食べないのに周囲に合わせてしまい割り勘負けをしてしまうことがあります。自分自身が周囲に屈しない強い人間になりたいと思っています。

周りの意見に合わせてしまい、後悔することもありますよね。今回は同調圧力に屈しない強いための方法がわかります。ぜひ最後までご一読ください。

同調圧力とは

同調圧力とは

同調圧力は以下の意味があります。

集団意思決定の際に、周囲の意見と同調させるように作用する無形の圧力
(青木ら,2004)[1

私たちは、会社であれ、友人関係であれ、なんらかの集団に属しています。集団にはルールがあり、その集団に属している人は、その規範に従うことが期待されます。

例えば、ある社交場での服装やマナー、学校内でのルールなどがこれに当たります。集団内での規範に従わない場合、周りの人から否定的な評価を受けるおそれがあるので、自分の考えや行動を変えることがあります。

 同調圧力に関する実験

同調圧力については様々な実験があります。以下折りたたんで解説したので興味があるものを参考にしてみてください。

アッシュの同調実験は、心理学者ソロモン・E・アッシュ(1951)[2]によって行われた有名な同調行動の実験です。実験は、ワースモア大学の男子大学生50名を対象に行われました。

実験の前提
まず実験室に8人を集めます。このうち7人が「サクラ」で、残りの1人が被験者です。
実験の進め方
実験では、全員に基準の直線(図1)と、3本の直線(図2)を提示し、3本の直線のうちどれか基準の直線と同じ長さであるかを1人ずつ口頭で答えさせます。

図2の3本の直線であれば、図1の基準の直線と同じ長さは明らかに『C』です。『A』や『B』と答える人は99%いないでしょう。

実験では、まずは「サクラ」が6人回答し、次に被験者、最後に「サクラ」の順で回答をします。「サクラ」は全部で12回、わざと間違えた回答を行い、被験者の回答にどのような影響を与えるかを調べています。

実験の結果、本音を隠して同調したとみられる学生は50人中37人の74%に上り、同調した回数は平均で3.84回でした。真実の意見が本来あるにも関わらず、同調圧力で意見を変えてしまった人が74%もいたのです。同調圧力が、いかに強烈であるかがこの数字から読み取ることができます。

アメリカ人といえば、”個人主義的”で”自分の意見を主張する”ことが善とされるイメージがありますが、実はそうでもないじゃないか説がでてきます。

日本で行われたアッシュの同調実験について見ていきます。

日本でのアッシュの同調実験は、ハーバード大学に在籍をしていたロバートフレイガー(1966)[3]によって行われました。日本人128人を対象に行われた調査の結果は、アメリカと全く同じ比率で74%で、同調回数はアメリカより少ない2.92回でした。

アッシュの同調実験を日米で比較すると、屈する確率は同じですが、同調回数は日本の方が少ない結果になっています。つまりアメリカ人と比べ、日本人の方が同調圧力に弱くないという傾向がみられるといえます。

橋本の協調性研究 おりたたみ3

橋本ら(2015)[4]は、アメリカ人大学生112名と日本人大学生118名を対象に、同調に関する研究を行いました。

グラフの左「independence self-expression(自己表現の独立性)」は、日本人がやや低い結果になっています。右の「independence rejection avoidance(排除回避の協調性)」は、日本人がやや高い結果になっています。

この結果から、日本人の方が「排除されたくないから協調する」感覚が強いことがわかります。この「排除されたくないから協調する」感覚は、同調圧力に近い表現です。日本人の方が同調圧力には屈しやすいと読み取れます。グラフの右「independence harmony seeking(調和追求の協調性)」は、アメリカ人の方がやや高い結果になっています。

この結果から、アメリカ人の方は排除されたくないから同調するいうよりも「みんなと仲良くしたい」や「みんなとチームワークをしっかりと組みたい」という前向きなイメージで同調しやすいといえます。

表を見ると日米で大きな差があるように見えますが、実質的には10%ぐらいです。この図から、日本人が同調しやすいとまでは言えないので、若干の傾向があるくらいの感じに捉えるといいでしょう。

 

同調圧力に屈しやすい性格

同調圧力に屈しやすい人にはどのような性格傾向があるのでしょうか。荻野ら(1996)は首都圏の大学生662名を対象に性格に関する調査を行いました。その結果は、それぞれ以下のようになりました。

劣等感があるほど同調する

 

同調圧力 劣等感

このように、劣等感が高いほど同調しやすいことが分かります。自分を劣っていると感じる人は、周りに合わせようとしてしまう傾向にあるようです。

劣等感があるほど譲歩する

 

同調圧力 譲歩

上図のように、劣等感が高いほど譲歩していることが分かります。自分を低く見積もる人は、他人からの要求に応じやすい傾向があると言えるでしょう。

優しい人ほど同調する

同調圧力 攻撃性このように、攻撃性が低いほど同調しやすいことが分かりました。優しい人ほど周りの影響を受けやすく、我を通そうとしない傾向があると言えそうです。

6つの屈しない方法

ここからは、周囲の圧力に屈しない6つの方法を提案します。

①合理的か確認する
②アサーション権意識を持つ
③アメリカのことわざから学ぶ
③やわらかい言い方を大事に
④限界設定をする
⑤課題の分離

ご自身でも使えそうなものを中心にご活用ください。

①合理的か確認する

1つ目は「その圧力に合理性正当性があるか」を考えます。周囲からの圧力に筋が通っているなら、謙虚に受け止めることも必要でしょう。

・会議に遅刻しないように注意を受ける
・親睦を深めるため年1回の食事会への参加
・社運がかかっているプロジェクトの残業
 →協力するとボーナスが倍になる

このような圧力は一定の合理性があるものです。時には折れる姿勢も大事になるでしょう。一方で筋が通っていない時には、しっかり主張をして結論を出すことが大事です。

・法律違反を強要してくる
・人の悪口を無理やり言わされそうになる
・パワハラを受け入れる会社の文化

このような圧力に屈せず正当な意見として声を出すことが大切になってきます。

②アサーション権意識を持つ

心理療法の1つにアサーティブコミュニケーションという分野があり、その中で「アサーション権」が大切にされています。アサーション権とは以下の意味があります。

誰しもが自分の考え、価値観を主張することができ、建設的に話し合う権利

アサーティブコミュニケーションでは、違う意見を持つことはとても自然で、それを表現する権利があると考えるのです。

もしあなたが、自分の考えには価値がない、主張しても失敗するに違いない、と感じていたら、アサーションをしっかり学ぶことをおすすめします。詳しくは以下のコラムで解説しました。参考にしてみてください。

アサーティブコミュニケーションの基礎

 

③アメリカのことわざから学ぶ

アメリカには『Squeaky wheel gets the grease』ということわざがあります[5]。『Squeaky wheel gets the grease』は、直訳すると”キーキー音を立てる車輪は油をさしてもらえる”ですが、”黙っていたら注目されない”という逆の意味もあります[6]。

同調圧力に弱い方の中には、自分の意見を主張しなくても「自分の気持ちを相手に分かってほしい」と思う人は少なからずいるでしょう。しかし黙っていては分からないので、自分の考えを率直に伝えることが大切です。

④やわらかい言い方を大事に

人間同士なので一方的に主張するだけだと、相手も納得できないことが多くなりトラブルにもつながりかねません。主張する時には、相手にとってどんなメリットがあるのかを考えて伝えるようにしましょう。

たとえば、残業をしないと決めた日に上司から「今日残業してくれないか?」と言われたとしましょう。この場合、残業しない事での上司のメリットを考えて伝えます。残業しないで帰ると集中力がアップしてより良い仕事ができる場合なら、

今日は疲れているのでこのままだとミスが連発しそうです。早めに帰ってしっかり寝て体力を回復させます。明日は、体調万全にしてバリバリ仕事をします!

このような伝え方をすると、上司としても早く帰って休んでもらった方がパフォーマンスが上がるかな?っていう気持ちになると思います。

自分の意見を伝える時は、相手が自分の主張を受け入れてくれた場合にどんなメリットがあるのかもワンセットで伝えていくことをオススメします。ついつい口調が厳しくなってしまう…という方は、以下のコラムを参照ください。

柔らかい主張法,DESC法

⑤限界設定をする

屈しない方法の3つ目は「限界設定をする」です。「限界設定」は、NGなラインの線引きをしっかりとすることです。たとえば、筆者は3人の子どもがいるため、行事が重なることが結構あります。そこで夫婦で話し合い、地域の行事は最大2時間までと決め、超える場合は断るようにしています。

ルールがあると、自分自身が安心できますし、断る時の判断材料になります。断るラインを決めておくと、自分としても納得がしやすいのでおすすめです。詳しくは以下のコラムを参照ください。

限界設定のやり方

⑥課題の分離

アドラー心理学の「課題の分離」が参考になります。「課題の分離」は、人間関係のトラブルが起きた時に、自分の課題なのか相手の課題なのか、切り分けて考えるというものです。

同調圧力に対して、自分の主張をした場合、話し合いがうまくいかず、相手が不快に思うことがあるかもしれません。しかし、もしあなたの主張に正当性があるなら、その主張に対して機嫌を損ねるのは相手の問題と割り切ることも時に大事になります。

必要以上に相手の機嫌を気にしすぎてしまう方は、以下のコラムの課題の分離を学習することをおすすめします。

アドラー心理学,課題の分離

まとめ

今回は同調圧力への戦い方について解説をさせていただきました。「自分がやりたくない事だけど周りがやってるからやる」という感覚が習慣化されると、メンタルヘルスを崩してしまうこともあります。深刻な場合、ご紹介した5つの方法を参考に屈しない心を養ってください。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・同調圧力にから身を守るトレーニング
・周りに合わせすぎない練習
・ストレスから身を守る,アサーション
・健康的な人間関係を築く練習

🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^) 

同調圧力に屈しない方法,心理学,コミュニケーション講座

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1]青木 俊明,星 光平,佐藤 崇(2004)他者情報提示型の同調圧力の作用下における利害関係者の賛否態度の形成 建設マネジメント研究論文集Vol.11,p27
[2]山際 和明(2013)Aschの同調実験を用いた技術者倫理教育の取組 工学教育研究講演会講演論文集 第61回年次大会(平成25年度)セッションID: 1-333
[3]我妻洋《社会心理学入門(上)》第2表「アッシュの実験」における同調行動」より引用 
[4]橋本 博文, 山岸 俊男(2015) 適応論的視点にもとづく独立性と協調性の日米差の検討 日本心理学会第79回大会 セッションID: 3AM-016 
[5]高嶋悠暉(2020)日本人の同調圧力について 小関隆志研究室 明治大学経営学部 
[6]目黒沙弥(2016)「日本と海外のことわざの違い4選。ことわざで国民性がわかる!?」TABIZIN(タビジン)
 
荻野七重・斉藤勇(1996).社会的・心理的欲求と性格特性との関係: YG性格検査の性格特性と欲求・行動・欲求-行動間ギャップの関係について 白梅学園短期大学紀要 32: 81-101