憂鬱な気分を晴らす方法
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「憂鬱な気分を晴らす方法」についてご相談を頂きました。
相談者
31歳女性
かんみの内容
私は元々、おとなしい性格で、落ち込みやすい方だと思います。皆でワイワイ騒ぐのが苦手で、考え事があっても内に秘めるタイプです。
悩みも抱え込んでしまうので、最近憂鬱になることが多くなっています。最近は不眠で食欲もなくなってきています。原因と対処法を知りたいです。
日々の生活で元気が出ないのは辛いですね。当コラムでは憂鬱な気持ちを改善する方法を解説します。目次は以下の通りです。
①病気のレベルに注意
②生理‐心理‐環境の面から
③生理的な対処法
④心理的な対処法
➄環境の調整をしよう
ご自身にあてはまる方法を中心に参考にしてみてください。
①病気のレベルに注意
憂鬱な気持ちは個人差があり、とても幅のある感情です。同じ憂鬱でも、その大きさによって、病院に行く必要があるのか、自力で改善できるのか、が変わってきます。そこで、まずは病気のレベルかどうか把握するところから始めていきましょう。以下、簡易的な診断を紹介します。
簡易抑うつ症状尺度
簡易抑うつ症状尺度(QIDS -J)は、16 項目の自己記入式の評価尺度で、うつ病の重症度を評価できる尺度です。精神科医 John Rush 先生によって作成され、厚生労働省の公式サイトでも掲載されている信頼できる尺度です。16点以上の方は、精神科を視野に入れるようにしましょう。
メンタルヘルス診断
憂鬱な気持ちは、複合的な感情です。抑うつ感、孤独感、不安感、認知的健康度などが、影響していきます。以下の診断は筆者が監修をしたWHOの基準を元にしたメンタルヘルス診断です。ご自身の状況を総合的に把握したい場合は、参考にしてみてください。
心の病気を抑える
診断をしてみて、もし点数が悪い場合は、心の病気になっている可能性があります。病院の助けを得ることも視野に入れてみてください。なお、憂鬱な気持ちと関連する心の病気は以下が代表的です。事前の知識として把握しておいてください。
日常生活全般に対してやる気が起きなくなり、自分は無価値な人間だと感じます。やらなきゃいけないとわかっていても体と心が鉛のように重く感じます。
これから解説する、憂鬱な気分への対処法は、病気の方でもご活用いただけますが、お医者様としっかり話し合いながら試してみてください。健康的なレベルの憂鬱の方は、ご自身に活用できそうな対処法を中心に組み合わせてみてください。
②生理‐心理‐環境の面から
1977年になると、ジョージ・エンゲルが、BPSモデル(Bio-Psycho-Social Model)を提唱しました[1]。BPSモデルでは、生理的機能(Body)、心の状態(Mind)、そして環境(Social)の3つに注目して、健康や病気を理解しようとする考え方を意味します。
生理的な対処
私たちの心と体はつながっています。これは心身相関と呼んだりもします。憂鬱な気持ちの時は、からだの面で対策ができないか中で何が起きているか考えていきましょう。具体的には以下の対策が挙げられます。
睡眠の質を上げる
適度な運動を心がける
バランスのとれた食事
アルコールを控える
心理的な対処
心理的なアプローチも、落ち込んだ状態から抜け出すために有効です。自分自身を責めたり、悪い考えに囚われず、前向きな気持ちを取り戻すための方法を探しましょう。
現実的な考え方を身に着ける
達成可能な小さな目標を設定
今に意識を向ける
リフレーミング力をつける
環境の調整
周囲の人との交流や社会との関わりも、精神的な回復に役立ちます。孤立感や孤独感を解消し、支えを得られる環境を整えましょう。具体的には以下の方法が挙げられます。
家族や友人との交流
コミュニティを増やす
サポートを増やす
転職やキャリアチェンジ
③生理的な対処
睡眠の質を上げる
睡眠不足は心身に悪影響を与え、集中力低下やイライラ、免疫力低下などを招きます。良質な睡眠は、心身をリラックスさせ、脳を休ませ、疲労を回復させてくれます。
そのため、憂鬱な時は、まず睡眠時間を確保し、質の高い睡眠を取るように心がけましょう。具体的な対策としては、以下の方法があります。
寝室を暗く静かな環境に整える
寝る前のスマホやパソコンの使用は控える
深呼吸で心を落ち着かせて入眠する
質の高い睡眠をしっかりとることで、心身のリフレッシュ効果が得られ、憂鬱な気分を改善できます。睡眠が不安定…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
適度な運動を心がける
憂鬱な気持ちを解消するためには、運動がとても有効です。運動は、ストレス解消や気分転換に効果があり、脳内物質であるセロトニンやエンドルフィンを分泌させ、幸福感をもたらします。
甲斐(2011)[2]の研究では、IT関連企業の2952人の従業員を対象に調査が行われました。この研究では、1週間に運動する時間が
・135分未満のグループ
・135分以上のグループ
に分けられ、それぞれのメンタルヘルスが比較されました。その結果、以下の図です。
このように、135分以上運動している人々と比較して、135分未満の人々の抑うつ感が2倍以上になることが明らかになりました。具体的な対策としては、
毎日公園を朝ウォーキングする
週3回近所の川をジョギングする
休日はヨガのクラスに参加する
など、自分に合ったものを選びましょう。無理のない範囲で、週に3~5回、30分程度運動するのが理想です。
運動をすることで、気分がリフレッシュされ、前向きな気持ちになれます。また、運動習慣をつけることで、生活にメリハリがつき、規則正しい生活を送れるため心身とも健康になれる方法です。具体的に知りたい方は下記をご覧ください。
バランスのとれた食事
心と体は密接に繋がっています。私たちは日々、さまざまな感情やストレスを抱えながら生活しています。憂鬱な気持ち、イライラ、元気が出ない…そんな時こそ、食卓に目を向けてみましょう。
具体的な対策としては、以下のような食生活を心がけてみましょう。
ビタミンとミネラルを含んだ野菜を採る
肉だけではなく魚介類も適度に食べる
ジャンクフードは週1回までにする
毎日の食事に、野菜、果物、魚介類、肉、卵、乳製品などをバランス良く取り入れることで、心身ともに健康的な生活を送ることができます。
アルコールを控える
アルコールを摂取すると、脳内ではドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が分泌されます。ドーパミンは、幸福感や高揚感をもたらす物質です。そのため、お酒を飲むと、一時的に気分が良くなり、楽しい気持ちになれます。
しかし、ドーパミンの効果は一時的なものです。そして、ドーパミンの効果が切れると、反動で更なる落ち込みや憂鬱感を感じやすくなります。
具体的に対策としては以下の通りです。
ビールは1日1缶(500m)までにする
日本酒に1日に1合(180ml)までにする
ワインは1日グラス2杯(120ml)までにする
しかし、これはあくまで目安であり、体格や体調によって適量の量は異なります。女性や体格が小さい人は、男性よりも少ない量で酔ってしまうことがあります。また、体調が悪い時や薬を服用している時は、お酒を控えるべきです。
お酒を控えることは、心の健康にとっても重要です。飲みすぎて憂鬱な気分になることがある…という方は上記の対策を試してみてください。
③心理的な対処法
現実的な考え方を身につける
メンタルヘルスを獲得する手法としては、心理療法が挙げられます。心理療法には様々な種類のものがありますが、代表的な手法の1つに認知療法があります。
認知療法は考え方の偏りを発見し、健康的な考え方に修正することで、心を安定させる手法です。落ち込んでいる時は、物事を悪い方向にばかり考えてしまいがちです。
しかし、実際にはそこまで悪い状況ではないことも多いものです。そこで、まずは冷静に状況を分析し、客観的な視点から物事を見るように意識しましょう。具体的には、以下のように考えていきます。
私は何もできない
⇒いくつか良いところもあったはずだ
・
どうせ何をやってもうまくいかない
⇒試しに1回だけやってみよう
・
私はいつも嫌われる
⇒毎回嫌われてるわけじゃない
上記のように、極端な思考を柔軟にすることで憂鬱な気持ちに支配されることが少なくなります。いつもマイナスな思考にとられている…という方は以下のコラムを参考にしてみてください。
今に意識を向ける
未来の出来事に縛られてしまうと、憂鬱になりやすくなります。もちろん建設的に将来について考えることは大事です。しかし、もしそれが憂鬱の原因になっているのなら、もったいない事です。
憂鬱な気持ちを晴らすうえで大切なことは、今この瞬間に目を向け集中することです。「今ここを生きる人」は悩みがとても少ないです。
今、目の前にあるご飯をしっかり味わう
今、目の前に集中して作業をする
今、目の前にいる人との関係を楽しむ
このように、今この瞬間に集中できるようになると、未来や過去の憂鬱と距離を置けるようになります。以下のコラムでは、今ここエクササイズを紹介しています。参考にしてみてください。
リフレーミング力をつける
神谷・幸田(2016)[3]は「ネガティブ思考」がもたらす心理的な影響について研究しました。その中で、悲観的に考える人は、抑うつ気分が強くなることが分かりました。悲観的思考の改善に有効なのが、リフレーミング力をつけることです。
リフレーミングとは、出来事の捉え方(フレーム)を変えて、出来事に別の視点を持たせることです。たとえば、同じ雨の日だとしても、
ああ…雨か…今日は外に出れないな・・・つまらない…
と考える人は憂鬱になりますが、
今日は雨か~
見たかったドラマをまとめ視聴しよう
スナック菓子を用意してまったりするぞ♪
と考えると、わくわくした気持ちになれます。リフレーミング力が付くと、物事を多角的な視点で見られるようになり、困難をしなやかに乗り越えていけるようになるでしょう。以下のコラムで様々な考え方の引き出しを紹介しています。悲観的に考える癖がある方は取り組んでみてください。
④環境の調整
家族や友人との交流
何気ない会話や一緒に過ごす時間は、心の支えとなり、生きる活力となります。家族や友人と過ごす時間は、肩の荷物を下ろし、ありのままの自分を受け入れてもらえる貴重な時間です。
互いの話をじっくりと聞き、共感することで、心が温まり、気持ちが軽くなります。
家族と会話する時間を作る
友人に悩みを打ち明けてみる
家族や友人と旅行に出かけてみる
このような体験は、憂鬱な気持ちをほぐし、柔軟な心を作るきっかけとなります。
孤立感や孤独を感じている場合は、ぜひ一歩踏み出し、家族や友人に連絡を取ってみてください。きっと心の支えとなる温かい出会いが待っているはずです。
サポートを増やす
精神的な回復において、サポートの存在は非常に重要です。自分一人で抱え込まず、周囲の人々の助けを借りることで、心の負担を軽減し、回復を加速させることができます。
サポートには、様々な種類があります。代表的なサポートは以下になります。
①情緒的サポート
周りの人に、話を聴いてもらったり、共感してもらうことを意味します。私たちは気持ちを共有し合うことで精神的に支え合っています。
・
②道具的サポート
問題を解決するために物理的な支援をもらうことを意味します。金銭的に余裕がない時に親から援助をもらったり、公的機関を頼ることが挙げられます。
・
③情報的サポート
問題を解決するための情報による支援を意味します。仕事を失った時に、転職に役立つ情報を知ることなどが挙げられます。
・
④評価的サポート
行動や考えに対する客観的な評価を意味します。「よく頑張ってるね!」など、肯定的な評価を得ることが挙げられます。
こうした周囲からのサポートは、心理学ではソーシャルサポートと呼ばれます。周りからの助けが多いほど精神的に安定し、憂鬱な気持ちの改善も早くなります。一人で抱え込まず、周りの人の助けを借りながら、一歩ずつ歩んでいきましょう。
周囲に相談できる人がいない…という方は下記のコラムを参考にしてみてください。
コミュニティを増やす
心理学の研究では人間関係の不和はメンタルヘルスの悪さに結びつきやすいことがわかっています。休日いつも一人、家族と会話がない、疎外されている感じがする、リモートワークが長期化などの状況にある方は、危険な兆候かもしれません。
西野(2007)[4]の研究では、疎外感を受けると自己価値が下がることが分かりました。
のけ者にされていると感じると、「自分なんていらない」「自分には価値がない」という感覚が増えるので注意が必要です。一方で、良好な人間関係を構築できれば、屈託のない会話でストレスを解消したり、悩みをお互い相談して助け合ったりすることができます。
家族と食事をするときはテレビを消す
趣味のサークルを探す
友人と喫茶店でくだらない話をする
会社の同期と久々に語り合う
など、人間関係のあり方を見直しましょう。
もちろん、そもそも人間関係を築く場所がない…と言う方もいらっしゃると思います。以下のコラムでは温かいコミュニティを探す方法を解説しています。人と接する機会を増やしたい方は、下記のリンクを参照ください。
生活の環境を変えてみる
私の心は、環境の影響を受けます。思い切って環境を変えることで、心がリフレッシュし、新たな活力を得られる可能性があります。
まとめ
最後に私の憂鬱な時期の過ごし方を紹介します。私の場合、憂鬱なときはその時なりの過ごし方をするようにしています。
たとえば、私はトイレを掃除すると気持ちが整理され少し楽になれます。憂鬱なときには、ブラシと洗剤を新調してゴシゴシ洗い、気持ちがほぐれた後には、紹介した方法で自分の心と向き合っています。参考まで♪
憂鬱な日々には、必ず終わりがあります。心身共に健康で充実した日々となるよう心から祈っています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・憂鬱な気分を改善,心の整理法
・ネガティブを見直し,リフレーミング法
・健康的な人間関係を築くワーク
・今ここを生きる,ありのままを大事に
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1件のコメント
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気分がのらなくて何のやる気も起きません。でもこれがただの落ち込んでいるだけなのかうつ病なのか判断出来ないし病院にも行きづらいです。誰かに助けて欲しい
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1]The Need for a New Medical Model: A Challenge for Biomedicine, Science,New Series, Vol. 196, No. 4286 (Apr. 8, 1977), 129-136.[2]甲斐 裕子・永松 俊哉・山口 幸生・徳島 了 (2011). 余暇身体活動および通勤時の歩行が勤労者の抑うつに及ぼす影響 体力研究, 109, 1-8.[3]神谷慶,幸田るみ子(2016). 大学生の抑うつにおける自動思考とネガティブな反すうの関連. ストレス科学研究, 31, 41-48.[4]西野 泰代(2007).学級での疎外感と教師の態度が情緒的な問題行動に及ぼす影響と自己価値の役割 発達心理学研究18巻3号p. 216-226.
コメントさせて頂きます。
気分がのらなくて何もやる気が起きないときは無理をしなくても良いと思います。
なぜ病院に行きづらいと思っているのかを考えてみるのもよいかもしれませんね。
自分は今どんな気分なのかをノートやメモ帳に書いてみると自分の気持ちと向き合うことができるかもしれませんよ。
もし動けるようであれば、少し部屋の掃除をしてみると気分がスッキリするかもしれませんよ。