信頼関係を構築する,築く方法
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「信頼関係を構築する方法」です。
相談者
31歳 男性
お悩みの内容
私は20代の後半から、あるサークルに所属していたのですが、信頼できないと言われ、参加ができなくなってしまいました。確かに自分勝手な言動が多かったと反省しています。
また別のサークルに参加しようと考えているのですが、今度は信頼関係を大事にできるようにしたいです。アドバイスをよろしくお願いします。
信頼できないと言われるのはショックですね。当コラムでは、信頼関係の心理学的な意味と、構築する方法をしっかり解説していきます。是非最後まで御一読ください。
信頼関係の意味とは
意味
信頼関係を辞書で調べると、以下のように定義されています。
お互いを疑わず、信じて頼りにすること
この定義からわかることは、信頼関係には
・疑わないこと
・お互いを頼ること
の2つがあることがわかります。
例えば、スポーツではお互い信頼関係を築いているチームほど強くなります。サッカーでは、お互い疑いあっていては、自分よがりなプレーが増えます。一方で、お互いの動きを信じるからこそ、パスを出し合い、シュートをたくさん打つことができます。
ビジネスの世界では、お互い疑いあっていると、ルールが増え、窮屈な会社になり、ストレスでプロジェクトが停滞していきます。信頼関係があるからこそお金の管理を任せたり、重要な仕事を任せることができるのです。
信頼感関係と研究
信頼関係は心理学の世界で古くから研究されてきました。以下、気になるタイトルがありましたら、展開してみてください。
[toggle title=”他人への信頼感と幼少期の経験” load=”close” suffix=”1″]信頼関係に近い概念に、基本的信頼感があります。これはアメリカの心理学者であるエリクソン(1959)[1][2]によって提唱された概念で、以下のような意味があります。
生後1年の経験から獲得される、社会や他者に関しての筋の通った信頼 、自己に関する信頼する価値、という感覚(一部簡略化)
基本的信頼感は、生まれてから1年間に原型ができるとされ、その後の心理的な発達に広く影響されるとされています。以下の図はエリクソンの発達段階を図にしたものです。
図のように、乳児期の0~1才半の間に、基本的信頼感は構築されるのです。この時期に母子関係から十分な愛情を得られると、「人を信じる」という基本的な精神性が得られると考えられています。
[/toggle] [toggle title=”信頼する人は抑うつになりにくい” load=”close” suffix=”2″]三好(2007)[3]は、大学生285名を対象に、質問紙を用いて、精神的健康と基本的信頼感など項目の関わりを調べました。その結果は以下の通りです。
基本的信頼感が高い人ほど、抑うつが小さいことがわかります。人を信頼するとメンタルヘルスにも好影響となるのです。
三好(2007)[3]は、大学生285名を対象に、質問紙を用いて、精神的健康と基本的信頼感など項目の関わりを調べました。その結果は以下の通りです。
基本的信頼感が高い人ほど敵意が低いことがわかります。相手を信頼できる感覚を持つと、怒りを抑える効果があると言えそうです。
[/toggle] [toggle title=”信頼関係があるとお互いルールを守る” load=”close” suffix=”4″]中井ら(2008)[4]は、中学生457名を対象に、中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連を調査しました。中学3年生を対象とした結果の一部が下図となります。
こちらは、教師に対する不信感が少なく、信頼している人ほど、ルールを守ることに前向きであることを意味しています。日常の人間関係にあてはめた場合、お互いを信頼していると、約束や契約を守り、裏切りにくいと推測できます。
[/toggle]
[toggle title=”信頼関係があると意欲的になる” load=”close” suffix=”5″]
中井ら(2008)[4]は、中学生457名を対象に、中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連を調査しました。その結果の一部が下図となります。
こちらは、教師に対する不信感が少なく、信頼しているほど、学習意欲が高くなりやすいことを意味しています。仕事にあてはめると、お互いを信頼している職場ほど、意欲的に活動できると推測できます。友人関係でも、信頼関係がある友人ほど、何らかの活動をするときにやる気が出ると言えそうです。
[/toggle]
信頼関係を構築する8つの方法
ここからは信頼関係を築くコツを8つお伝えします。
①肯定的なストロークを増やす
②何気ない会話を大事に
③アサーティブに接する
④拘束しすぎない
⑤先に信じる
⑥人によって態度を変えない
⑦投影の心理に注意する
⑧誠実なコミュニティに所属
ご自身の状況に合わせて参考にしてみてください。
①肯定的なストロークを増やす
信頼関係は「肯定的なストローク」を積み重ねていくことで構築されていきます。ストロークとは人間関係の関り方を意味します。
例えば、日々の挨拶があります。機嫌が良い時も、悪い時も、喧嘩をしたときも、ひとまずあいさつだけはする。これが肯定的なストロークです。
目があったら微笑む
ありがとうを増やす
助かったよを増やす
誕生日をお祝いする
落ち込んでいそうな時に声をかける
このような態度を継続していくと、信頼関係の土台が整っていきます。もし今、信頼関係が崩れていると感じる方は、以下のコラムを参照ください。
②何気ない会話を大事に
信頼関係の基礎は日々の会話の中にあります。1つ参考になる例をお伝えします。私の同僚に、引きこもり支援をしている方がいます。
引きこもりの方は、警戒心が強いため、話し合いにならないことがあります。そこで、援助者はまずは雑談から始めていきます。引きこもりの方がはまっている漫画、ゲーム、テレビの話を聴き、実際にこれらを読んだり、ゲームをしてみたりして、意見を交換していきます。そうして何気ない会話を通して、お互いのリズム感を理解して、信頼関係を深めていくのです。
食事を一緒にして雑談する
休憩室で近況を報告し合う
エレベーターで小話をする
趣味の話をする
お互いの健康の話をする
こうした目的のない会話が信頼関係構築には大事なのです。会話が苦手…というお悩みがありましたら下記のコラムも参照ください。
③アサーティブに接する
信頼関係を築くには、アサーティブにコミュニケーションを取ることが大切です。アサーティブとは、「相手の意見も自分の意見もしっかり主張し合い、正々堂々と話しあえる姿勢」を意味します。
アサーティブに主張できる人とそうでない人を比較してみましょう。
非アサーティブ
本音を言わず,お互い偽る
偽りあうので疲れる
信頼関係を築けない
アサーティブな人
互いの本音を伝えあう,その上で譲り合う
本音がわかるので,お互いにストレスにならない
信頼関係ができる
このような違いがあります。
松永ら(2008)[5]は、大学生228名を対象に、青年の友人関係に関する調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
こちらの図は数字が大きいほど対人信頼感が大きいことを意味しています。すなわち本音で話す人たちは、うわべで話す人達よりも、相手を信頼していると言えます。もう1つ図を見てみましょう。
こちらの図は点数が大きいほど精神的健康度は悪いことを表します。すなわち、精神的健康度としては本音群の方が高いという結果になりました。
アサーティブでいることで相手や自分に対して正直でいられ、お互いにとって納得できる状態を導き出すことができます。自他尊重の姿勢を大切に、対立が起きたら話し合うようにしましょう。
アサーティブをより深く知りたい方は下記をご覧ください。
④拘束しすぎない
不信感が強い方は、相手の行動を、詮索、約束、契約、で縛ろうとしてしまいます。例えば、少額のやりとりでも契約書を交わす、どこに行くか詮索する、細かいところまで条件を設ける、このような態度をとられ続けると、相手は信用されていない…と感じ、リラックスした関係を築けなくなります。
逆に、少額なら口約束でやりとりする、どこに行こうがいちいち詮索しない、条件はある程度ふわっとさせておく、このようにある程度の自由度をお互いあ持たせた方が、お互い信頼されていると感じるのです。
信頼関係を構築する上では、相手との関係で保険をかけすぎない!ということを意識しておきましょう。以下具体例を折りたたんで解説しました。理解を深めたい方は参考にしてみてください。
[toggle title=”保険をかける→信頼していない証拠?” load=”close” suffix=”6″]例えば、あなたは画期的なアイデアを思いつき起業をすることにしました。しかし、残念ながら最後の20万円が足りません。この時、お金を貸してくれる人が2人いたとしましょう。
保険がないと貸してくれないAさん
・退職金を担保にして20万円貸してくれた
・ただ、もう担保はなくなってしまいました
・もう少し貸して欲しかった
・Aさんが担保がないなら諦めてくださいと言ってきた
保険無しで貸してくれるBさん
・素晴らしいアイデアだ!
・誠実な人柄も信頼できる
・この20万円を自由に使ってOK
・担保はなくてもいい
・伸び伸びと事業をしてね
ここで皆さんに質問です。この2つの貸主のどちらをあなたは信頼するでしょうか?おそらく、信頼してくれるBさんだと思います。
もちろんAさんにも感謝をしますが、自分のアイデアや人柄を無条件に信頼してくれた投資家の方が、より感謝の度合いも大きいでしょう。本当に成功したら、Bさんにはより大きな恩返しをしたいと感じる方が多いでしょう。
今回は極端な例でしたが、「信頼」は無条件に相手をなるべく信用しようとする行為です。人は信頼されると、信頼された方をまた信頼します。こうして信頼関係は強くなっていくのです。
[/toggle]
⑤まずは信頼する
社会心理学の実験ではお互いの利益がぶつかり合う、「囚人のジレンマ」という葛藤状況で
相手を信じて行動するのが効果的か
相手を疑って行動するのが効果的か
という論点で研究が盛んにおこなわれてきました。その結果、「TFT戦略」が最も効果的であることがわかりました。TFT戦略とは「Tit for tat」の略称で「しっぺ返し戦略」と言われています。
具体的には以下のようなスタンスで人と接する戦略です。
まずは信頼することを基本とする
その後、裏切られたら信頼を止める
その後、再度相手が心を改めたら信頼する
TFT戦略ではまずは信頼するスタンスを大切にしていて、実際に最も効果があるとされています。ビジネスで大金が絡むときなどは、慎重にいくケースもある思いますが、そこまでリスクがないときやプライベートではTFT戦略がおすすめです。
もちろんたまに失敗することもありますが、うまく行くことが多いですよ。もっと詳しく実験内容が知りたい方は、以下のコラムを参考にしてみてください。
⑥人によって態度を変えない
人から信頼されるには、誰でも一貫した付き合い方をすることが大事です。肩書が偉い人、上司、収入が高い人にはぺこぺこして、自分より下の人と見るや尊大な態度をとるような人は信頼されません。
社会的にどのような立場の人であれ、一貫して公平に接していくことが信頼される人物の特徴になります。ありのままの相手を認める方は、どのような環境であれ、ちゃんと向き合ってくれると相手は感じ取り、信頼関係を築きやすくなるのです。
⑦投影の心理に注意する
カウンセリングをしていると、相手への不信が強く、信頼関係を築けない人の特徴として、投影の心理がある方がいます。投影とは以下の意味があります。
自分の心理状態をいつの間にか相手に映し出してしまうこと
例えば以下のような例が挙げられます。
「この人は陰で悪口を言っているに違いない」
→実は自分自身が陰でよく悪口を言うために、人は陰で悪口を言うものだという世界観を作り、他人のその心理を映し出している
「人は平気でうそをつく、信用ならない」
→実は自分自身が嘘をついてしまう癖があり、人は嘘を当たり前のようにつくという世界観を作り、他人のその心理を映し出している
このように人は裏切る、人は見捨てる、という感覚がある方は、自分自身の心を相手に映し出していく可能性があるのです。投影の心理がある場合は、まずはそのことに気がつき、心を整理していく必要があります。思い当たる節がある・・・と感じる方は以下のコラムを参照ください。
⑧信頼できるコミュニティに所属
競争が激しいコミュニティ、個人プレーが多いコミュニティ、悪口やこけおろしが横行しているコミュニティに長くいると、人は信用できない…という気持ちが増えていきます。
一方で、お互いを支えあうコミュニティ、チームプレーが重視されるコミュニティ、お互いを認め合う発言が多いコミュニティに長くいると、自然と「人は信用できる」という心を育てていくことができます。
もし日々の生活の中で前者のコミュニティにいることが多く、心がすさんでいるとしたら、少し距離を取る勇気も必要です。そして、後者の誠実で信頼できるコミュニティを探してもいいかもしれません。コミュニティの探し方については以下のコラムを参照ください。
まとめ
ここまで信頼関係を築くためのコツをお伝えしてきました。実はカウンセラーの私自身、若いころは不信感の塊になってしまった時期がありました。
しかし、そうした不信感は相手に伝わり、結局お互いの信用できず苦しい関係にしかならないことに気が付きました。今は心から信頼できる仲間に囲まれ、充実した感覚がすごくあります。
もしかしたらいつかは裏切られることもあるかもしれないですが、それでも私は自分から相手を信じようと思っています。良かったら参考にしてみてくださいね(^^)
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・信頼関係を築く,コミュトレ
・信頼関係の土台,ストローク練習
・会話力をつける,心を通わせる
・アサーティブに信頼関係を築く
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
2件のコメント
コメントを残す
信頼関係を構築する5つの方法のほとんどが精神論なんですが・・・
人を信頼できない人に「まずは信頼してみる」ってそれが出来ないから悩んでいるのでは?コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1]Erikson, E.H. (1994). ldentity and the Life Cycle. NewYork, NY: Norton.[2]Erikson, E.H.(1959).ldentity and the life cycle.NewYork : sychological issues, v. 1, no. 1. Monograph 1 International Universities Press[3]三好 昭子(2007).人格特性的 自己効力感と精神的健康との関連 青年心理学 研究,19,21−31[4]中井大介 庄司一子(2008). 中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連 発達心理学研究 第19巻[5]松永真由美,岩本澄子(2008).現代青年の友人関係に関する研究 久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research 7 77-86,03-31 久留米大学大学院心理学研究科
「保険をかける→信頼していない証拠?」を読みましたが、さすがにリスクを度外視してお互い無条件に信頼し合えばよいというのはナイーブすぎるのではないでしょうか…