入門ラポールを形成する方法,心理学,看護
みなさんこんにちは!コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「ラポールを形成する方法」です。当コラムではラポール形成の基礎技術を専門家の立場からお伝えします。
福祉に関わる仕事をしている
医療関係の仕事をしている
悩みの相談を受けることが多い
警戒心を解きたい人がいる
上記にあてはまる方は、是非最後までご一読ください。
ラポールの意味とは
歴史
ラポールは来談者中心法の提唱者であるカールロジャーズ(1940)[1]が、カウンセリングの基礎にはラポールの形成が重要であると主張したことで、カウンセリングや援助職の中で広がり、現代では日常の人間関係やビジネスの現場でも使われるようになってきた用語です。
意味
ラポールには以下のような意味があります。
相互に理解し合う、受容し合う、共感し合う、温かくてリラックスした関係 (心理学大辞典,2013)[2]
共通の関心や感情を分かち合っているという感情的な共振れ、共感が成立する相互に理解し合う、受容し合う、共感し合う、温かくてリラックスした関係 (新版精神医学事典,1993)[3]
ラポールが築かれている状態では、お互い警戒心がなく、安心して、考えや感情を交流させることができます。悩みを抱える人を援助させる土台になるのです。
3つの基礎要素
心理学者のTickle(1990)[4]はラポールの形成には3つの要素があると言えます。
肯定的な感情を示す
ポジティブな感情を示すことは援助者の基本的な姿勢と言えます。笑顔で微笑む、相手の話を暖かく返す、ユーモアのある返しをする、これらの意識を大事にします。
相手の存在を認める
クライアントを1人の人間として認め、その存在に気を配り、しっかりと確認することが大事です。例えば、なるべく目を合わせる、困っていないか確認する、表情や声の抑揚を確認する、などが挙げられます。
動きの同調
ラポールを形成するには、クライアントの動きに合わせたやり取りが大事です。例えば、子供にはかがんで話する、話す速さを合わせる、微笑んでくれたら微笑み返す、などが挙げられます。
ラポール形成の効果
安心感をもたらす
悩みを抱える人は、最初は警戒心があり、心を閉ざしてしまう方が多いです。このような状態では、どんなことに苦しんでいるのかわからず、援助が停滞してしまいます。ラポールを築く力がある方は安心感のある雰囲気をもたらし、援助の入り口に入ることができます。
自己開示を促す
ラポールが形成されると、相談者の方が、心を開いて悩みを相談できるようになります。私たちは「この人は安心できる」「深い悩みを相談しても否定しない」と感じる人には、苦しい心持を聞いてほしいと願うものです。ラポールを形成できる人は、相談者が深い自己開示ができる環境を提供することができるのです。
自己肯定感が高まる
私たちは、ラポールを形成した人に、自己開示をして、充分受け止めてもらえると、「こんな自分でもOKなんだ」「人は私を大事にしてくれる」という自己肯定感を育てていくことができます。自己肯定感は全ての行動のエネルギーの源泉です。あなたのラポールを築く力が、相手の積極的な行動につながるのです。
ラポール形成の方法
ここからは具体的なスキルの説明をしていきます。ラポール形成には様々な技術がありますが、入門として以下の10の技術を抑えておきましょう。
①ラポール形成と大局観
②環境作り
③温かい笑顔が土台
④アイコンタクトをとる
⑤丁度よい距離
⑥あいづちをしっかり打つ
⑦ゆったりした話し方
⑧共感力をつける
⑨無条件の肯定ストローク
⑩ユーモアを持つ
ご自身で不足しているな…と感じる項目について重点的に学習してみてください。
①ラポール形成と大局観
ラポール形成は出会いの段階から、関りがなくなるまで絶えず続くものです。出会いの段階から、すぐに形成されることは稀で、嵐のような苦しい時期が訪れることもあります。しかし、辛抱強く関り続けると、いつか霧が晴れたように、お互いの信頼が醸成されていきます。ぜひ、大局観をもって援助をするように心がけましょう。
専門職の方は、以下の折り畳みもぜひご一読ください。
J.Travelbee(1974)[5]の著書「人間対人間の看護」によると、看護は5つの段階に分けられるとされています。
1.初期の出会いの位相
看護師と患者が初めて対面する時、まずはお互いを「患者、看護師」といたカテゴリーで相手を認識します。そして、年齢、性別、成育歴などの情報を通して相手を把握します。
2.同一性の出現の位相
相手を「患者」「看護師」「病名」「年齢」といった表面的なカテゴリーで認識するのではなく、1人1人異なる物語を抱えた人間として見るようになります。
3.共感の位相
それぞれの独自の存在として距離を保った上で、お互いを理解しあっているような感覚になります。相手の独自性や個性が明確に知覚されるようになります。
4.同感の位相
同感とは、相手の感情に心を動かされ参加し、自分のことのように相手の気持ちを感じるプロセスを意味します。「同感」には距離がなくお互いに感情移入し合っている状態であると言えます。深い信頼関係を生み出す一方で、相手の感情に巻き込まれて傷つくこともあります。
5.ラポートの位相
最終段階に「ラポートの位相」です。初対面の時のような「看護師」「患者」といった枠組みは存在せず、お互いに「人間対人間(interpersonal)」の感覚を経験します。相手をひとりの人間として認識しあい、距離を取らずに触れ合うようになります。
講師の視点
私もカウンセリングをしていく中で、同じような体験をすることがよくあります。最初は心理検査の結果、精神疾患の罹患歴、年齢、家族構成などから相談者を理解していきます。しかし、カウンセリングが進んで行くと、そういった分析上の数値や病名が吹き飛び、人と人として対話している感覚になります。そうすると、相談者の方と深い部分でラポールが築かれた感覚になります。
Ivey(1971)[6]は種々のカウンセリングで共通する技法やプロセスを「マイクロカウンセリング」としてまとめました。マイクロカウンセリングではカウンセリングの過程を以下の5つに分類しています。
①ラポールの形成
②問題の定義化
③目標の設定
④選択肢の追求,自己不一致との対決
⑤日常生活への般化
ラポールの形成はカウンセリングの土台として最初から意識すべきものとして考えられています。そしてマイクロカウンセリングでは、ラポールの形成などに役立つ基本的な技法も考えられています。
*関わり行動
・相手に視線を合わせる
・身体言語(身振り手振りや姿勢など)に配慮する
・声の質(大きさ、トーン、スピードなど)に配慮する
・言語的追跡をする(話題を安易に変えない)
*積極的傾聴
・閉じた質問,開いた質問
・言語,非言語の観察
・励まし,言い換え,要約
・感情の反映
講師の視点
マイクロカウンセリングでは具体的な技法まで踏み込んでいるため、わかりやすく実践的です。カウンセリングにおいては最初から最後までラポールの形成が土台となります。特に初学者は一通り学習することをおすすめします。
②環境作り
心理学の重要な用語の1つに気分一致効果があります。気分一致効果とは、ポジティブな気持ちの時は、楽しい、うれしい、幸福、安心という気持ちになりやすく、ネガティブな気持ちの時は、否定的、閉鎖的、警戒、という気持ちになりやすいことを意味します。
この意味で、そもそもラポールを安心して築くことができる環境なのかを考えましょう。温度がちょうどよい、静かな環境である、適度に観葉植物を置く、机を木目調にする、時計をアナログにする、など空間作りからしっかり考えていきましょう。
③温かい笑顔が土台
温かい笑顔はラポールの土台です。笑顔には様々な種類がありますが、援助職の方は以下のアルカイックスマイルを基本としましょう。アルカイックスとは古代ギリシャの彫刻で見られる微笑を意味します。
具体的には、口角を軽く上げ、やさしく目じりを下げ、包み込むような微笑になります。できれば動画をとって練習してみてください。笑顔が堅い方は以下のコラムでトレーニングをしてみてください。
④アイコンタクトをとる
アイコンタクトは相手に注目をしている、向き合っている、しっかり聞いているというメッセージを送ることができます。相手の目を見て話すことはラポールを形成するうえでとても大事です。具体的に心がけることは以下の通りです。
目があったら2秒程度は維持する
視線はなるべく水平になるように
椅子を上げる,下げる,しゃがむなどで調整
凝視はしない半分ぐらいはそらしてもOK
などがあげられます。ただし、相手が緊張しがちな時は、視線をある程度、そらしたり、45度に座ったりすると話しやすくなるので柔軟に対応していきます。詳しくは以下のコラムを参照ください。
⑤丁度よい距離
ラポールを築く際にはちょうど良い距離感も大事になります。例えば、男女の場合、初対面で男性は近すぎると警戒心が勝ってしまい、会話に集中できなくなります。
また真正面で座ると緊張してしまう人もいるので、少し椅子をずらしたり、場合によっては横並びに近い形で話すようにしていきます。対人不安が強い方や、視線恐怖がある方に対しては、話やすい位置を、相談者の方に聞くのも良いでしょう。
⑥相槌をしっかり打つ
ラポールは日々の会話の中で育まれていきます。中でも相槌は基本的なスキルとなります。カウンセラーが基礎として学ぶのが、
はい ええ うん
の3つです。私川島の場合は、どうしても「はい」は気持ちを込めるのが苦手なので、「ええ」「うん」が多いです。一度動画を同僚同士で撮影するなどして、自分にあった相槌を練習することをオススメします。相槌をしっかり練習したい方はこちらのコラムも参照ください。
⑦ゆったり話す
精神的に参っている方は、頭が疲れていて、情報処理速度がおちている傾向にあります。この時、早口でまくし立てるように話されると、すごく疲れてしまいます。
話す速さは相談者の方が安心できるように、ゆったりゆったり話すことを心がけましょう。私自身は相談者の方の20%程度、速度を落として話すようにしていします。
参考資料として、カンセリングで有名なロジャーズの動画がありました。ゆったりとした暖かい雰囲気など参考にしてみてください。13分前後に相談者の方の手を握っています!これはびっくりしました。日本ではちょっと難しいですね。。
⑧共感力をつける
言語的な共感力も非常に大事になります。例えば、質問をするときは、5W1Hだけでなく、以下のように感情を入れてみてください。
最近お気持ちはどうですか?
楽しい旅行の思い出はありますか?
困ったことなどないですか?
このように感情を入れながら質問をすると、気持ちを表現しやすくなります。もし相談者の感情を表現してくれたらしっかり受け止めることも大事です。
それは嬉しいことですね!
充実したご飯だったのですか
残念でならないですね…
このように受け止めを大事にしてみてください。共感的に傾聴するのが苦手…と感じる方は下記のコラムを参照ください。
⑨無条件の肯定的ストローク
日々の業務のなかで心がけることは、無条件の肯定を原則とすることです。無条件の肯定とは、どんな理由や状況であれ、肯定的に関わっていくことです。難しそうに見えますがどうということはありません。
挨拶をする 目があったら会釈 細目にありがとうと言う 理由なく声をかける 屈託なく雑談をする
これはすべて無条件の肯定にあてはまります。相談者の方は、どんな時でも、温かく接してくれることがわかるとすごく精神的にほっとします。是非、無条件の肯定ストロークを大事にしてください。
⑩ユーモアを持つ
FitzGerald(2002)[7]は161名、104か国の会話を分析し、異文化におけるコミュニケーションの違いや共通点を調査しました。その結果、ラポールの形成にはユーモアが関わっていると主張しています。
ユーモアは相互のやり取りによって成立するある種の共同作業で、お互いが笑うということはラポールが成立している証拠でもあるのです。
具体的には、堅い雰囲気の時は、面接の初めに、少し雑談をしてほぐす、時事ネタで面白いものがあったら話す、自分のちょっとした失敗談を話す、などがあげられます。いつも堅い雰囲気になってしまうと感じる方は以下のコラムを参照ください。
まとめ
ラポール形成は患者さんの心のケアをする上で、欠かせない概念です。ラポールが形成されているか否かで、医療や福祉の効果が大きく変わってきます。
患者さんにとって、あなたは辛い状況を支えてくれる最後の砦でもあります。長期的な視点を持って、じっくり関係性を築いていきましょう。
また、援助職のすばらしいところは、援助そのものが仕事であるという点です。心理学の研究では、協調性や援助の発揮はメンタルへルヘルスに良いことがわかっています。
幸せな援助者であればあるほど、穏やかな空気感、安心感は伝わっていくものです。是非あなた自身の幸福感も感じられるように、一生に一度の仕事で幸せになってくださいね。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・ラポールの理解と形成技術
・温かいまなざし,アイコンタクト練習
・聞き上手になる,共感力トレーニング
・相槌のバリエーションを増やす練習
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1件のコメント
ありがとうございます!訂正させて頂きました。