ラポール形成の意味とは,6つの心構え介護,看護,カウンセリング
みなさんこんにちは!公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。
今回のテーマは
「ラポール」
についてです。
当コラムではラポール形成の基礎知識と6つの技術をお伝えします。目次は以下の通りです。
・ラポールの意味とは何か?
・ラポール形成の効果
・形成の6つの心構え
援助職の方は必須のスキルとなります。是非最後までご一読ください。
ラポールの意味とは何か?
意味
まずはラポールの意味や定義を見ていきましょう。心理学者のファンデンボス(2013)はラポールを以下のように定義していきます。
個人間で相互に理解や受容し、共感的に両立し合う温かくて、リラックスした関係
噛み砕くと信頼関係が築かれている状態という意味で捉えて良いでしょう。ラポールが築かれている状態では、お互い警戒心がなく、安心して、考えや感情を交流させることができます。
3つの基礎要素
心理学者のTickle(1990)の主張を参考にするとラポールの形成には3つの要素があると言えます。
1.肯定的な感情を示す
相手にポジティブな感情を示すことは援助者の基本的な姿勢と言えます。笑顔で微笑む、相手の話を暖かく返す、共通した価値観を認め合うなど様々なやり方があります。
2.相手の存在を認める
クライアントを一人の人間として認め、絶えずその存在に気を配ること、しっかりと観察することを意味します。例えば、病室に入ったらなるべく目を合わせる、困っていないか確認する、表情や声の抑揚を確認するなどが挙げられます。
3.動きの同調
「姿勢の模倣」や「身振りの一致」などです。同調的な行動はお互いの一体感を引き出す。一般的にラポールが構築されていくにしたがって、同調性は増加する傾向があります。
ラポール形成の効果
安心感をもたらす
悩みを抱える人は最初は警戒心があり、基本的に心を閉ざしてしまうことが多いです。その点、ラポールが形成されると徐々に相手に対して心を開き、安心感を持つようになります。
例えば、全く知らない人よりも、家族や友人の方が「安心感」が持てますよね。これは、家族や友人とラポールが形成されているためなのです。
自己開示を促す
ラポールが形成されるとお互いの自己開示が促進されます。一般的に人は、
・気持ちを受け入れてくれる
・この人は拒絶しない
・悩みを大事に扱ってくれる
という気持ちになり、悩みを打ち明けたり、自己開示しやすい状況を作ることができるのです。
自己肯定感が高まる
人はソーシャルサポートを受けると自己肯定感があがることがわかっています。ソーシャルサポートとは、簡単に言うと社会的なサポートのことを意味します。
安心感のあるつながりを提供し自己開示を充分していくと、自己肯定感が向上します。自己肯定感は全ての行動のエネルギーの源泉で、よりポジティブな行動を増やしてくれるのです。
形成の6つの心構え
ここからは具体的なスキルの説明をしていきます。ラポール形成には様々な技術がありますが、まずは基本として以下の6つを抑えておきましょう。
①ラポール形成と大局観
②あいづちをしっかり打つ
③非言語的態度の向上
④言語的な共感力をつける
⑤無条件の肯定ストローク
⑥援助者も幸せになる
①ラポール形成と大局観
ラポール形成は出会いの段階から関りがなくなるまで絶えず続くものです。そして出会いの段階からすぐに完全に形成することはほぼなく、基本的には長期的な視点をもってじっくり形成していくことが現実的です。
悩みを抱える人がすぐにあなたを信用することなど稀で、そこには嵐のような苦しい時期も訪れることもあります。しかし、辛抱強く関り続けると、いつか霧が晴れたように、お互いの信頼が醸成されることがあります。
是非大局観をもって援助をするように心がけましょう。以下の折り畳みもぜひご一読ください。
J.Travelbee(1974)の著書「人間対人間の看護」によると、共感は5つの段階に分けられるとされています。
1.カテゴリー理解(初期の出会いの位相)
「第一印象」や「雰囲気」を感じ取り、対人関係における手がかりの知覚や言語的・非言語的コミュニケーションをきっかけにします。
看護師と患者が初めて対面する時、お互いを「患者、看護師」といたカテゴリーで相手を認識します。
2.軽い共感(同一性の出現の位相)
相手のアイデンティティを認める始める段階です。相手を「患者」「看護師」といったカテゴリーで認識するのではなく、一人の人間として見るようになります。
ただ、共感と呼べるほど相手の深い部分を理解するところまではたどり着いていません。
3.深い共感(共感の位相)
共感はそれぞれの独自の存在として距離を保った上で、お互いを理解しあっているような感覚になります。相手の独自性や個性をより明確に知覚されるようになります。
この位相には必要条件があり、お互いに類似する出来事をすでに体験していることが必要となります。
例えば、サッカーの楽しさをあまり興味がない人に伝えるのは難しいでしょう。ただ、相手が運動する喜びを知っていれば、「体を動かす楽しさ」という部分で共感できるかもしれません。
4.感情移入(同感の位相)
同感とは、相手の感情に心を動かされ参加し、自分のことのように相手の気持ちを感じるプロセスを意味します。「同感」には距離がなくお互いに感情移入し合っている状態であると言えます。
信頼関係を生み出す一方で、相手の感情に巻き込まれて傷つくこともあります。
5.人間対人間(ラポートの位相)
最終段階に「ラポートの位相」です。お互いに「人間対人間(interpersonal)」とよればる関係を経験します。
初対面の時のような「看護師」「患者」といった枠組みは存在せず、相手をひとりの人間として認識しあい、距離を取らずに触れ合うようになります。
②相槌をしっかり打つ
ラポールは日々のコミュニケーションの中で育まれていきます。中でも相槌は基本的なスキルとなります。カウンセラーが基礎としてよく学ぶのが、
「はい」
「ええ」
「うん」
の3つです。私川島の場合は、どうしても「はい」は気持ちを込めるのが苦手なので、「ええ」「うん」が多いです。一度動画を同僚同士で撮影するなどして、練習することをオススメします。
相槌について深く知りたい方はこちらのコラムも参照ください。
③非言語的態度の向上
援助職の方は非言語的態度も非常に重要になります。穏やかな表情で優しく語り掛けてくれる方には相談者も安心して心を開いていきます。
カウンセリングにおいて最も有名なロジャーズの様子の動画がありました。生前のカウンセリングの様子はこちらです。暖かい雰囲気など参考にしてみてください。
13分前後に相談者の方の手を握っています!これはびっくりしました。日本ではちょっと難しいですね。。
非言語的態度で基礎として特に重要なのは、笑顔、アイコンタクト、ミラーリングの3つです。以下苦手な方は下記のコラムを参照ください。
④言語的な共感力をつける
言語的な共感力も非常に大事になります。基本は
・感情的な質問
最近お気持ちはどうですか?
楽しい旅行の思い出はありますか?
困ったことなどないですか?
・感情の受け止め
それは嬉しいことですね!
充実したご飯だったのですか
残念でならないですね…
このように質問や受け止めに感情を大事にしてみてください。感情交流を繰返すことで、信頼関係が構築されていきます。
もっと共感力を高めたい方は下記のコラムを参照ください。
⑤無条件の肯定的ストローク
日々の業務のなかで心がけることは、無条件の肯定を原則とすることです。無条件の肯定とは、どんな理由や状況であれば、肯定的に関わっていくことです。
難しそうに見えますがどうということはありません。何気ない日常を、当たり前に接する。挨拶をする、ありがとうと言う、声をかける、ちょっとした雑談をする。これはすべて無条件の肯定にあてはまります。
ぜひ、当たり前の人間同士の関係を職場でも大事にしてください。
無条件の肯定ストロークをより深く知りたい方は下記をご覧ください。
⑥援助者も幸せになる
援助職のすばらしいところは、援助そのものが仕事であるという点です。心理学の研究では、協調性や援助の発揮はメンタルへルヘルスに良いことがわかっています。
幸せな援助者であればあるほど、穏やかな空気感、安心感は伝わっていくものです。是非あなた自身の幸福感も感じられるように、一生に一度の仕事で幸せになってくださいね。
まとめとお知らせ
まとめ
ラポール形成は患者さんの心のケアをする上で、欠かせない概念です。ラポールが形成されているか否かで看護やカウンセリングが進捗度合いが大きく変わってきます。
まずは長期的な視点を持って、相手に共感するところから始めてみてください。
お知らせ
もし公認心理師,精神保健福祉士など専門家の元でしっかりコミュニケーション能力をアップさせたい場合は、私たちが開催している講座をオススメしています。講座では
・心理療法の基礎学習
・人間関係のトレーニング
・問題解決型コミュニケーション
など練習していきます。興味がある方はお知らせをクリックして頂けると幸いです。是非お待ちしています♪
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科修士
取材執筆活動など
- AERA 「飲み会での会話術」
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
- TOKYOガルリ テレビ東京出演
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*出典・引用文献
・ファンデンボス,G.R.(2013)APA 心理学大辞典 p905
・磯友輝子, 木村昌紀, 桜木亜季子, & 大坊郁夫. (2003). 発話中のうなずきが印象形成に及ぼす影響: 3 者間会話場面における非言語行動の果たす役割. 電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎, 103(410), 31-36.
・大塚容子. (2011). 初対面の 3 人会話におけるあいづち-ラポール構築の観点から. 岐阜聖徳学園大学紀要. 外国語学部編, 50, 85-95.
・Spencer-Oatey, H. (2000). Rapport management: A framework for analysis. Culturally speaking: Managing rapport through talk across cultures, 1146.
・Tickle-Degnen, L., & Rosenthal, R. (1990). The nature of rapport and its nonverbal correlates. Psychological inquiry, 1(4), 285-293.