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アイデンティティを確立!「過去の自分を受け入れる」⑨

アイデンティティを確立!「過去の自分を受け入れる」⑨

コラム⑧ではアイデンティティを確立するための「相手の価値観を洞察」について解説していきました。他人を知ることで、自分が見えてくることがありますよ。

今回はアイデンティティを確立させる「過去の自分を受け入れる」ついてお話していきたいと思います。

自己斉一性とアイデンティティ

アイデンティティの提唱者E.H.エリクソンは、アイデンティティが確立させるためには、以下の2つが大切だと述べています。

1.自己斉一性
自己斉一性とは、簡単に言うと、「過去の自分と現在の自分は同じである」という感覚のことを意味します。過去の自分とつながっているという実感か、自分らしさを確立させるには大切なのです。

2.連続性
「生まれた時から自分はいろいろな体験をしてきた中で今の自分がある」という連続性の感覚が持てていることが大切であることを述べています。

アイデンティティ 確立

これはつまり、過去の体験を自分なりに落とし込んで、これからの未来に向かって生きていく姿勢がとても大切であることをエリクソンは言っています。

皆さんはこのようなことを思ったことはありませんか?

・恥ずかしい思い出がある
・自分の過去に自信がない
・過去の自分を消し去りたい
・生まれ育った境遇が憎い

実は、まったく思ったことがないという人は本当にわずかではないでしょうか。それ以外の人は少なからず、上にあげたような体験をしたことがあるのではないでしょうか。もちろん、私自身も思うことがあります(笑)

しかし、過去の自分を受け入れるということは、アイデンティティを形成していくためには、非常に大切な作業です。

自己斉一性についての研究

ここからは、自己斉一性についての心理学的な研究をご紹介していきます。過去の自分を受け入れることにはどのような影響があるのでしょうか。

①アイデンティティは「充実感」「自信」に

谷(2001)は、390名の大学生を対象にアイデンティティの確立の度合いを測る質問紙を作成しました。アイデンティティは4つの要素から構成されており、その1つに自己斉一性が入っています。

谷は質問紙作成の際に、「自己斉一性」と「充実感尺度(大野,1984)」と関わりも調査しています。尺度とは、「基準」のことで充実感を測定するために用いられるものです。

その結果、充実感尺度の要素である「一般的充実感」や「自信」などと関連が見られました。

このことは、過去の自分を受け入れていくことが、精神的な健康やアイデンティティを確立した際の前向きな気分を生み出すこと示したと言えるのではないかと思います。

②自己斉一性が低いと人間関係⇩

山本・岡本(2008)は大学生180名を対象に、谷のアイデンティティを測る質問紙と対人関係の態度との関連について調査を行っています。

その結果、男性と女性ともに自己斉一性と、人付き合いに対して消極的な傾向を示す「閉鎖性・防衛性」との関連が示されました。男性は-.61、女性は-.28でした。

自分を見つけよう

このことは、過去の自分を受け入れることがあまりできていないと、他者と積極的にかかわることが難しい傾向があることを示しています。これまでの自分に自信がないと、人との関わり方にも迷いが生じてしまい、結果的に対人関係を避けてしまうと考えられます。

過去を受け入れることが大事

ここまで、アイデンティティ確立について「過去の自分を受け入れることが大事!」という内容を繰り返しお伝えしてきました。しかし、なかには、どうしても過去を直視したくない自分がいる・・・といった方もいらっしゃると思います。

ここで考えてもらいたいのは、

「1度も過去の失敗体験が、今の自分の長所につながっていると感じたことがないのか」

ということです。

皆さんは、自転車は運転できますか。おそらく多くの方が乗りこなすことができると思います。では、最初からは蛇行することなく、フラつくこともなく、完璧に運転できましたでしょうか。誰もが何度も転倒し、恥ずかしい失敗体験を積み重ねた上で、ようやく自転車を操縦できるようになります。

他にも、あるいはつらい思いをされた方が、「同じ思いをする人がいなくなるように」と思い、ほかの人とより優しい気持ちで関われるようになることもあります。

これと同じように、今ある長所は過去の失敗体験の上で成り立っていることが多いのです。そう考えると、少し恥ずかしい過去の体験やつらい体験は、自分自身の生き方や方向性を決定しうる有意義な体験ともいえるのではないでしょうか。

 

アイデンティティ形成とは、新しい自分を見つけるという印象がありますが、自分なりにこれまでの体験を整理して、将来を設計する心の作業なのです。それには過去の自分を受け入れるということも大切になります。

アイデンティティの確立の事例

それでは、具体的にどのように過去を受け入れていけば良いのでしょうか。事例を踏まえて解説していきます。

Aさんは27歳の男性です。最近、会社の都合で離職を余儀なくされてしまいました。昔から、学生時代少しいじめにあったこともあって、自分に自信が持てません。これからどういう仕事についたらいいかわからなくなっています。

1.Aさんの過去の嫌な体験
・会社を離職する羽目になってしまいました。
・地元が災害に巻き込まれたことがあります。
・学生時代、いじめを受けていました。

2.Aさんが嫌な体験の中で学んだこと・プラスに思えること
・会社を離職したこと    
⇒みんながもっと生き生きと働ける職場だったらいいなぁ。色々な心配をしないで働けるようになりたいな。あとは、これから良い会社に出会えるかもしれない。

・地方出身。数年前に災害。
⇒災害はどうしようもないけど、地元が元気になるといいなぁ。それ以外にも、地方が元気になるといいなぁ。そういえば、大学のゼミは地域の防災について勉強していたんだっけ。

・学生時代、いじめを受けていたこと
⇒もう年を取ったから、あのころよりはどうでもよくなっている部分もある。でも、みんな笑顔でできれば暮らせればいいなぁと思う。

その後、Aさんは自分の過去を整理して何か腑に落ちたようでした。

大学のゼミの先輩の紹介で、地元に近い会社に再就職されました。なかなか志望者も多い会社でしたが、ゼミを一生懸命やっていたことや前職の働きぶりが評価されて入社することができました。新しい仕事では、地方の街のコミュニティを作りを手助けする活動にに奔走しています。Aさんは「みんながつながるような街を作りたい」とお話されていました。

このように、過去の体験を整理していく作業を通して、Aさんのように自信が持てるようになったり、また新しい生き方を見つけることができることがあります。Aさんにとっては、過去の自分の体験に向き合うことが大切だったといえるでしょう。

ワークで実践!過去と向き合おう

皆さんにも、少し嫌な体験や恥ずかしい体験、あるいは思い出したくない体験がいくつかあると思います。少し嫌な作業かもしれませんが、書き出してみてください。

皆さん自身の例で実践してみてください。

1.あなたが過去の嫌な体験


3つくらいあげてみてください。

2.あなたが嫌な体験の中で学んだこと・プラスに思えること
それでは、その体験で何か自分が学べたことやその後プラスになった点を(無理矢理にでもよいので)あげてみて下さい。ネガティブな体験をポジティブに言い換えるイメージです。

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過去を受け入れて自分を確立!

皆さん、いかがでしたか?過去の自分を受け入れていくことということは、簡単なことではありませんが、自分自身のこれまでの色々な体験を自分なりに整理していくことは大切な作業であるように思います。

アイデンティティ形成というと、「まだ見ぬ自分」「新しい自分」というものを求めがちですが、実はそうではありません。今まで自分が生きてきた中で体験してきたことや感じてきたことなどが土台となり、それが皆さんのアイデンティティを形作るものだと思っています。

一方で、もし今回のワークなどをしてお辛い気持ちになられた場合は、無理に思い出そうとすることをせず、できる範囲で取り組んでください。

そして、どうしてもお辛い場合や眠れなくなってしまったなど健康に支障が生じたなどの場合によっては、医療機関やカウンセリングなどの場でご相談されることをお勧めします。

★人見知りは遺伝子や気質に影響される!

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目次

①確立・拡散の意味とは?
②アイデンティティの意味
③確立までの簡単な例
④アイデンティティ拡散の問題点
⑤アイデンティティ診断とチェック
⑥価値観を洞察で確立できる
⑦ライフチャートで人生の整理を
⑧確立!ポイントは2つの視点
⑨「過去の自分を受け入れる」

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科修士
  • 社会心理学会会員

取材執筆活動など

  • AERA 「飲み会での会話術」
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
  • TOKYOガルリ テレビ東京出演


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出典・参考文献
Erikson, E. H.(1959)Identity and life cycle: Psychological issues. New York: International Universities press.
大野久(1984)現代青年の充実感に関する一研究-現代青年の心情モデルに関する検討- 教育心理学研究 32 100-109
谷冬彦(2001)青年期における同一性の感覚の構造 -多次元自我同一性尺度MEISの作成- 教育心理学研究 49 265-273
山田彩留子・岡本祐子(2008) 大学生の親に対する態度と行動とアイデンティティ、対人態度の関連性 広島大学心理学研究 第8号 107-120