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モラトリアムの意味や語源とは?②

モラトリアムの意味や語源とは?②

コラム①では、モラトリアムについて概観していきました。重要な要素としては、「①意味や語源」「②メリットデメリット」「③モラトリアム脱却法」の3つでしたね。

今回は①意味や語源について解説していきます。

モラトリアムとは何か

モラトリアムとはどのような状態を意味するのでしょうか。心理学辞典(1990)によると、

災害や恐慌などの非常時において、債務の支払を猶予すること、あるいはその猶予期間を意味する。Erikuson,E.H.はこの言葉を青年期の特質を示すために用い、青年期を心理社会的モラトリアムとよんだ。

と定義されています。

モラトリアムとは、元々経済学の用語でした。戦争等の緊急時に社会的な混乱を防ぐために法令として、債券の支払いを猶予する意味で用いられました。

その後、心理学の世界でモラトリアムで活用されるようになり、人間の発達を可能にする準備期間という意味で発展していきました。

エリクソンという精神分析家は青年期の発達課題として、アイデンティティの形成を重要視しています。アイデンティティとは自我同一性と言われます。具体的には自分は何者であるか?社会とどのように関わっていくか?どんな職業につくか?などを決定することなどを指します。

モラトリアムの意味や期間について解説

しかし、みなさんもご経験があると思いますが、自分の進路はすぐ決められるものではありません。

エリクソンによると、アイデンティティ形成においては、「人が一人前の大人として出ていく準備期間」が非常に重要な役割を果たすとしています。そしてアイデンティティを形成する前の模索段階として、自分の進路などの決定について猶予された期間のことを心理学の世界では「モラトリアム」と呼ぶようになりました。

アイデンティティ確立の関係

モラトリアムは、アイデンティティを形成する段階で現れます。そのため研究はアイデンティティ研究と絡めながら行われているものが多くあります。マーシャ(1966)はアイデンティティ確立までの類型を4類型に分類しました。分類する上で重要な単語はあります。それは「試練」と「挑戦」です。

・試練
危機とは自分の価値観を揺り動かす出来事です。例えば、就職活動で落ち続けた、病気になった、大失恋をしたなど。

・挑戦
積極的関与とは目標を定め、それに打ち込んでいる。行動を伴い努力していることを意味します。

その上で、下図をご覧下さい。解説の前にそれぞれどのような意味があるか考えてみましょう。少し難しい図ですのでまずは理解できなくてOkです。それぞれの説明をしていきます。

アイデンティティ確立
「人生の試練」を経験しその上で、自分の進路を決め、それに打ち込んで「挑戦」している状態。充実感が強いと言われています。「人生の試練において充分悩んで結論を出す」とアイデンティティが確立しやすいというのがポイントですね。その意味でピンチはその後の人生を考える上での重要な期間であると言えそうです。

 

早期完了
進路は決め、それに打ち込んでいる。しかし、アイデンティティ形成に向け充分悩むための「試練」はなく、平穏なまま自分の進路を安易に決めてしまった状態。また親の望みに応えるような形での進路決定もこれに含む。比較的後悔しやすいと言われています。

アイデンティティ拡散
アイデンティティ形成に向け、考えるタイミングもなく、また行動もしておらず挑戦もしていない状態。

何がやりたいのかわからない、あるいはどうしていいかわからず途方に暮れている状態。特に問題のない生活だが、どこか充実しない感覚があります。アイデンティティクライシスとも言います。

モラトリアム
アイデンティティ形成に向け充分悩んで「試練」は経験しているものの、自分の進路を決める「挑戦」には至らず、迷っている状態。ピンチでやらなくてはいけないことも分かるんだけど、でも先延ばしてにしてしまう・・・という感覚がある方はモラトリアム期間にあると言えます。アイデンティティ拡散と間違えやすいですが、モラトリアムはある程度追い込まれている環境でも先延ばしにしてしまうことに特徴があります。例えば、単位を落とし留年していたとして、それでもまだ勉強をしないなど。

拡散⇒隔離は人生の課題

アイデンティティの確立について、エリクソンも生涯にわたる課題と言っているように、様々な研究でこの4つのステイタスを行き来することが分かっています。アイデンティティ・クライシスコラムでも説明していますが、岡本(1995)はアイデンティティ形成のプロセスは、拡散と達成、達成の前のモラトリアムを繰り返すことを指摘しています。モデル化しています。

モラトリアムをらせん式発達モデルを参考に解説

このようにアイデンティティ形成は、青年期の課題とされていますが、一生の課題でもあるとされています。そのためアイデンティティ確立の準備段階である「モラトリアム」の期間もそれに伴い、大人になっても経験することがあります。具体的には、例えば「転職を考えているのだけれど、実際に転職活動するかどうか迷う・・」といったような時でしょう。そういう時は、これまで人生の中でやってきたこと、家族のこと・・など総合的に考えるのではないでしょうか。

形骸化するモラトリアム

日本の社会でのモラトリアムの実情に話を移します。青年期、あるいは最近まで青年期だった人は、モラトリアムを満喫しているかといえば、実はそうでもないようです。世界的な経済危機から、就職難が叫ばれている時代もありましたね。そのため学生のうちから資格試験を勉強するなど、とても忙しい青年期を過ごしていた人も多いのではないでしょうか。

宮下・杉村(2008)などの指摘では、現代の青年は自分のことについてゆっくり考える時間がなく、モラトリアムが形骸化しているという報告をしています。高校時代も、とにかくたくさん勉強して過ごした方も多いのではないでしょうか。なので、青年期にモラトリアムを感じられるという人はもしかしたらさほど多くないというのが印象としてあります。

こうしたモラトリアムをうまく使えなかった代償が、社会人になってからの早期離職・フリーター問題といった状態となることも無関係ではない気がしてなりません。そのため改めて、「じっくり自分のことについて考える」というモラトリアムの時期は、私たちにとって、仮に大人になったとしても重要な時間だと言えるかもしれません。

モラトリアムを理解!

今回は、モラトリアムの意味や定義について解説していきました。モラトリアムの時期は様々な葛藤を生み出しますが、そのなかで自分と向きあい、アイデンティティを確立させてくれます。この時期を大切に過ごして、ご自身と向き合っていきましょう。

次回は、モラトリアムの負の側面について解説していきます。

モラトリアムは大人になる前の準備期間!

目次

①意味や特徴・診断してみよう
②モラトリアムの意味や語源とは
③心理学研究「対人不安UP」
④簡易診断とチェック
⑤モラトリアム脱却法!

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科修士
  • 社会心理学会会員

取材執筆活動など

  • AERA 「飲み会での会話術」
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
  • TOKYOガルリ テレビ東京出演


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出典・参考文献
・Marcia.J.E(1966) Development and validation of ego-identity status. Journal of Peesonality & Social Psychology 3 551-558
・中島 義明 子安 増生 繁桝 算男 箱田 裕司 安藤 清志 (1999)心理学辞典 有斐閣
・岡本祐子(1994)成人期における自我同一性の発達過程とその要因に関する研究 風間書房
・宮下一博・杉村和美(2008) 大学生の自己分析―いまだ見えぬアイデンティティに突然気づくために ナカニシヤ出版