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対人不安は「自分を認め受け入れる」ことへの架け橋

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対人不安は「自分を認め受け入れる」ことへの架け橋④

コラム③では、対人不安などの障害を引き起こす原因の1つである「失敗への注目グセ」の解決方法をご紹介しました。失敗したというネガティブな感情にとらわれず、視野を広げて、可能性を広げた考え方をすることが大切でしたね。

今回は3つ目の原因「周りの目を気にしてしまう」について考えていきます。

対人不安や障害を強める共通点とは?

これまでのコラムで解説した「①完璧を目指してしまう」「②失敗への注目グセ」という対人不安の2つの原因には、実は共通点があります。それは、自分で自分のことを十分に認められず自分自身を受け入れていないということです。

自分で自分のことを認めることを「自己評価」と呼びます。
また、自分で自分を受け入れることを「自己受容」と呼びます。自己評価が十分にできていないと、
「そのままの自分では許せない」
「これでは自分はダメだ」
と否定的な価値観に繋がることがあります。

また、完璧主義な神経質な性格であると、完璧に振る舞えないことで不安に感じるのです。自分を受け入れられず、自分の心を支えることができないので、仕事などで否定的な評価を受けると、「自分がダメな人間だからだ」と必要以上に感じてしまいます。コラム②コラム③の例から考えていきましょう。

 

相手の評価が自分の価値を決めてしまう

まずは、コラム②で自己紹介を完璧にしようとした鈴木さんの例です。

自己紹介がうまくいかなかったからといって、鈴木さんはダメな人間ではありません。
しかし鈴木さんの中では、
自己紹介を失敗した自分=ダメな人間
という等式が成り立ってしまいました。

次に、コラム③で聴衆のニヤニヤ笑いが気になった田中さんの例を見てみましょう。
聴衆の反応をネガティブにとらえて、不安な気持ちを強くしていましたね。
このとき田中さんの中では、
聴衆に笑われた=自分のプレゼンは失敗している
という等式が成り立っていました。

さらに、この2つの例の共通点は
相手に悪く思われたと感じた=自分に価値がない
と決めつけてしまうことです。つまり、相手の評価次第で自分の評価が上がったり下がったりするのです。そのため、常に相手の顔色を伺うようになってしまいます。しかもその評価というのも、自分がネガティブにとらえた結果にすぎないのです。

 

自己評価?自尊心?自分を取り巻く様々な感情

私たちは何か行動する時に、多かれ少なかれ人からの見方うや評価が気になります。

例えば服装や立ち振る舞い、女性であれ ば化粧など周囲の人と合っているか、TPO に合っているかなど考えることもこれにあたります。また、「こんなこと言ったら 周りからどう思われるだろう?」と考えたりすることも当てはまります。

このように周囲からの自分の見方に意識が集中することを「公的自己意識」呼びます。
日本は規範やルールがしっかりしていて「はずれてはいけない」という価値観が根付いている文化であると言われています。そのため「人に迷惑をかけてはいけない」「〜したら恥をかく!」といった日本人の抱える公的自己意識の感覚は対人不安を招きやすいと考えられてきました。

公的自己意識とは反対に、周囲からの自分の見方や評価ではなく、自分自身の考え方や価値観などに意識が集中することを私的自己意識と呼びます。
対人不安を防ぐには、公的自己意識に偏らず私的自己意識も上手に育てることが必要です。そして自己意識から生まれる自己評価や自尊心という自分に対する感覚を適切に備えていくことが大切なのです。そうすることで、人と自分との距離や社会の中での自分の生き方などを理解していくことができます。

「自分とは〜という人間だ」と自分自身について理解することで、自分というアイデンティティを確立していくことができます。

 

自分で自分を認めて不安を解消!

それでは、アイデンティティを確立することですが、そのためには自分で自分を適切に認めるという適切な「自己評価」が必要です。新卒で電子部品メーカーに入社した佐藤さんの例を見てみましょう。

佐藤さんは工学部を卒業し、やりたかった製造・設計業務での採用が決まりました。
しかし、業務内容には、取引先からの部品発注や、顧客からの問い合わせ対応なども含まれていました。その際に、緊張して頭が真っ白になってしまうことがしばしばあり、おぼつかない対応をしてしまうことがありました。そのことで上司から「もっと落ち着いて対応しろ」と注意され、それが繰り返されることで周りの目も気になってしまい、さらに対応がおぼつかなくなるという悪循環でした。

佐藤さんは
「自分はダメな人間だ」
と自信をなくしてしまい
「この仕事は自分に向いていないのか?他に向いている仕事はあるのか?」
と悩んでいました。

私のところに相談に来たときには「会社には居場所がない」と話していました。
私はここで、
「仕事以外の居場所を探してみてください」
とアドバイスしました。最初は半信半疑だった佐藤さんでしたが、日を追うごとにみるみる表情が明るくなっていきました。

 

自己評価をつくる場所を見つける

佐藤さんは仕事で注意され続けることで、

仕事でのダメ出し=自分の人間性へのダメ出し

と感じてしまっていました。私が「仕事以外の居場所を」とアドバイスしたのは、「自己評価」を形成できる場所を増やしたいという狙いでした。「仕事で否定されても自分がダメなわけじゃない」と思ってもらいたかったのです。佐藤さんがしたことは、

○ 昔趣味だったテニスをする時間を持つ
○ 近所の気になる飲み屋さんに行ってみる
○ 新しい恋人を探す努力をする

たったこれだけです。もともと佐藤さんは電話が苦手なだけで、それ以外の仕事は優秀だったので、それもうまくいった理由かもしれません。

不安は「自分を認め受け入れる」架け橋

不安が消えないときには、佐藤さんのように「自分を自分で評価する場所を作る」ことが必要です。そこで「自己評価」が形成されると、自分に適切な自信が生まれ不安が軽減されます。

不安な気持ちが消えないときには、アイデンティティの形成に良い機会だと前向きに考えて、自分らしさを見つめなおしてみましょう!

次回は、これまで解説してきた対人不安コラムのまとめです。一緒に確認していきましょう!

★ 対人不安の原因は、周りを気にし過ぎてしまうこと
★ 自分で自分を認められる場所を見つけよう!

 

出典
認知的概念モデルによる対人不安の検討:自己意識特性,自己評価および対人不安の関連について
冨田俊昭,水子学,金子義弘 川崎医療福祉学会誌9(1),49−54,1999−06−25
自己受容の独立性の検討と安定・不安定成分の分離 長谷川博一東海女子大学紀要19,187−199,1999
対人不安研究における公的意識の意識について 菅原 健介 1988 東京都立大学人文学報,196, 103116. 菅原健介



プラスに変える対処法を身に付けていきましょう。