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セルフコンパッションのやり方

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セルフコンパッションのやり方,トレーニング法を公認心理師が解説

皆さんこんにちは。コミュニケーション教室を開催している公認心理師の川島達史です。

「自分に厳しくしないと成長できない」

――そんな思い込みを、あなたも心のどこかに持っていませんか?

厳しい自己鍛錬こそが美徳であり、自分を甘やかすことは怠惰につながる、という価値観は日本社会に深く根を張っています。しかし現代の心理学研究は、この常識に根本的な疑問を投げかけています。自分に厳しくあろうとする心が、むしろパフォーマンスを低下させ、メンタルヘルスを損なっている可能性があるというのです。

この記事では、自分自身に対しての思いやりの心「セルフコンパッション」について解説します。意味や歴史的な背景、具体的な実践ステップ、そして科学的なエビデンスまで、順を追ってお伝えしていきます。是非最後までご一読ください。

◆全体の目次
①セルフコンパッション意味
②セルフコンパッションの歴史
③実践5ステップを解説
④科学的根拠と研究結果
⑤自分に優しい言葉習慣
⑥セルフコンパッションを学ぶ

※本テーマは動画でも詳しく解説しています。
文章でじっくり読みたい方はこのままどうぞ。映像で学びたい方は、以下もご活用ください。

セルフコンパッションの意味

コンパッションの意味

コンパッション(compassion)という言葉の意味から確認しておきましょう。辞書的な定義は “sympathy and concern for the suffering of others”、すなわち「他者の苦しみに心を寄せ、心配する気持ち」です。

人が挫折を味わったとき、悲しみの中にいるとき、そっと寄り添って支える心がコンパッションの本来の意味です。日本語に訳せば「思いやり」「慈しみの心」といったイメージに近いでしょう。

自分への思いやりという発想

コンパッションはもともと、他者との関係において使われる言葉でした。ところが2003年ごろ、テキサス大学の心理学者クリスティン・ネフ教授が、まったく新しい方向性を打ち出しました。コンパッションは他者に向けるだけでなく、自分自身にも向けることができる――そう考えたのです。セルフコンパッションの提唱者 クリスティン・ネフ教授の写真

ネフ教授はセルフコンパッションを次のように定義しました。

苦しみや失敗を、誰もが抱える痛みとして自己批判せず受け入れ、友人のように優しく労わること

自分を責め立てるのではなく、困っている親友に接するような温かさで自分自身を扱う。それがセルフコンパッションの核心です[1]。

なぜ今、必要なのか

私たちは人生を歩む中で、辛いこと・苦しいこと・悲しいことを必ず経験します。そのとき精神的に押しつぶされてしまう人もいれば、なんとか乗り越えて再び立ち上がれる人もいます。

その差の一部を生み出しているのが、セルフコンパッションの力だとネフ教授は考えました。自分に対して思いやりを持ち、温かく自分を受け止められる人ほど、困難を柔軟に乗り越えていきやすいということです。

自己効力感との違い

2000年代初頭まで、心理学の世界では「自尊心」や「自己効力感」こそがメンタルヘルスの鍵だという考え方が主流でした。自分に対してはできるという感覚を高めることが、困難を乗り越える原動力になるという流れです。この重要性は今も変わりません。

しかしネフ教授は、自己効力感には副作用があることに着目しました。自分に自信を持つとき、私たちはどこかで他者との比較を行っています。

「自分は勉強ができる」という感覚も、突き詰めれば「他の人より点数が高い」という相対評価に根ざしていることが多いのです。セルフコンパッションはそのような比較を必要とせず、ただ自分自身の存在をそのまま受け入れることを出発点とします。

セルフコンパッションの歴史

仏教の「慈悲」の思想

セルフコンパッションの歴史をたどると、驚くことに2500年前まで遡ることになります。現代の心理学的概念の土台には、仏教の「慈悲(じひ)」の思想があります。

仏教の慈悲の思想を示す図 セルフコンパッションの起源イメージ仏教において「慈(じ)」とは、すべての生命の幸せを願う心、愛情深くあることを指します。苦しんでいる人・辛い気持ちを抱えている人を慈しむという意味が込められています。一方「悲(ひ)」とは、苦しみの中にいる人の痛みを感じ、それを取り除いてあげたいと願う心です。互いに助け合いながら生きていこうとする姿勢が、この言葉に凝縮されています。

これらの慈悲の概念は、もともと他者に向けられるものでした。しかしセルフコンパッションは、この「自分を大切にし、自分の苦しみを取り除く」という眼差しを、自分自身にも向けることを提唱しています。2500年前の智慧が、現代心理学のフィルターを通して新たな形で蘇ったのです。

ネフ教授の個人的な体験

ネフ教授がセルフコンパッションに関心を持ったのは、理論的な理由だけではありませんでした。彼女自身、大学院時代に離婚を経験し、また自閉症のお子さんを育てながら、精神的に追い詰められていた時期がありました。

そのときに救いとなったのが、仏教の瞑想だったといいます。この体験を科学的な手法で体系化できないか――その問いがセルフコンパッション研究の出発点となりました。

尺度の開発と研究の加速

2003年に発表した論文でネフ教授は「Self-Compassion Scale(SCS)」という尺度を開発しました[1]。これにより「自分をどれほど慈しんでいるか」を数値として測定することが可能になり、学術的な研究が一気に加速しました。

心理療法の効果を検証するには、変化を測定できる尺度が不可欠です。ネフ教授がこの土台を整えたことで、世界中の研究者がセルフコンパッションの効果を科学的に検証できるようになったのです。

MSCプログラムの誕生

時代は進んで2010年。臨床心理学者のクリストファー・ガーマー博士がネフ教授と共同で、一般の人でも8週間で習得できるプログラム「マインドフル・セルフコンパッション(MSC)」を開発しました。

マインドフルセルフコンパッション(MSC)プログラムのイメージ図

これが現在、世界各地のワークショップで実施されているプログラムの標準モデルとなっています。

理論を実践に落とし込んだこのプログラムの誕生によって、セルフコンパッションは研究室の中だけでなく、広く一般に普及していくことになりました。

実践5ステップを解説

では、セルフコンパッションは具体的にどう実践するのでしょうか。MSCプログラムの内容をベースに、特に重要な5つのステップを解説します。

ステップ1 自分の状態に気づく

セルフコンパッションの出発点は、自分が今どのような状態にあるかを、ありのままに観察することです。マインドフルネスとは「今この瞬間の体験に、判断を加えず意識を向けること」を指します。

セルフコンパッション実践ステップ1 自分の状態に気づくイメージ

感情に飲み込まれて溺れてしまうのでもなく、嫌な感情を無理に押さえ込もうとするのでもなく、一歩引いた視点から自分を眺めます。「あ、今自分は焦っているな」「胸がザワザワしているな」――そのように観察する心の余裕を作ることが、このステップの目的です。

体に目を向けて「疲れているな」と感じてみてください。感情に目を向けて「不安だな、緊張しているな」と気づいてみてください。大切なのは、良い感情も悪い感情も同列に扱うことです。不安や悲しみを「嫌な感情だ」と否定するのではなく、肯定もせず否定もせず、ただありのままに見つめる。これがセルフコンパッションへの最初の入り口となります。

ステップ2 優しい言葉をかける

自分の状態を観察できたら、次は自分自身に温かい言葉をかけていきます。特に苦しいこと・辛いことに自分が支配されていると感じたとき、このステップが重要になります。セルフコンパッション実践ステップ2 自分に優しい言葉をかけるイメージ

イメージとしては「親友に話しかけるような優しさ」です。もし大切な友人が同じ状況にいたら、あなたはどんな言葉をかけるでしょうか。「よくやってるね」「あの時、あんなに頑張ったよね」「人生、苦しいことはつきものだよ。でもあなたはよく頑張ってきた」「休む時は休もう」――そんな言葉を、自分自身にかけてみてください。

私たちは往々にして、他者には優しくできるのに、自分自身には非常に厳しくなりがちです。その非対称さを意識的に是正していく練習が、このステップです。

ステップ3 体にやさしく触れる

身体的なアプローチを通じて、神経系を落ち着かせる技法です。スージング・タッチとも呼ばれます。自分の胸にそっと手を当てたり、肩をやさしくさすったり、自分の手を反対の手で包むように握ったりします。そのような動作をしながら、優しい言葉を自分にかけていきます。

セルフコンパッション実践ステップ3 体にやさしく触れるスージングタッチのイメージ身体的な温もりが脳に伝わることで、オキシトシン(幸福ホルモンとも呼ばれる)の分泌が促進されると言われています。副交感神経が優位になり、心拍数が安定し、落ち着きを取り戻す助けになります。少し照れくさい感じがするかもしれませんが、実際にやってみると心がじんわりと温かくなる感覚を多くの人が体験します。ぜひ一度試してみてください。

ステップ4 みんな同じ苦しみの中に

苦しいとき・悲しいとき、人は「自分だけがこんなに辛い思いをしている」「自分だけが社会から孤立している」という感覚に囚われやすいものです。しかし実際には、人生における苦しみや悲しみは、誰もが通る普遍的なプロセスです。

セルフコンパッション実践ステップ4 共通の人間性を理解するイメージ

楽しそうに見える人も、その裏では親しい人の死を乗り越えていたり、仕事で大変な思いをどうにかやり過ごしていたりします。「完璧な人間などいない」「今この瞬間、世界中のどこかで同じような悩みを抱えている人が必ずいる」――そう思い至ることで、孤立感や過度な羞恥心から解放されていきます。

心理学ではこの感覚を「共通の人間性」と呼びます。自分だけが苦しいのではなく、みんながそれぞれ大変な思いをしながら生きている。その認識が、心にひとつの安堵をもたらします。

ステップ5 思いやりを周囲へ広げる

セルフコンパッションは、自分だけで完結しません。自分の心が整い穏やかになると、その穏やかさは自然と周囲の人々へと溢れ出ていきます。セルフコンパッション実践ステップ5 思いやりを周囲へ広げるイメージ心理学には「返報性の原理」という概念があります。他者に対して優しくあると、相手もこちらに対して優しくあろうとする気持ちが湧き上がってくるというものです。自分の心を整えた上で、身近な人に「何か手伝えることはある?」と自然に手を差し伸べる。その循環が生まれると、周囲の人も元気になり、自分が辛いときには逆に支えてもらえる関係性が育まれていきます。

セルフコンパッションはまず自分のためから始めていいのです。その心が育つにつれ、自然と他者への思いやりへと広がっていきます。自分を大切にすることと、他者を大切にすることは、決して矛盾しません。むしろセルフコンパッションを深めることが、豊かな人間関係を育む土台になっていくのです。

科学的根拠と研究結果

「なんとなく良さそうだが、本当に効果があるのか」と感じる方もいるでしょう。セルフコンパッションは宗教的・哲学的な概念に起源を持つだけに、懐疑的な目を向けられることも少なくありません。しかし実際には、多数の学術研究によってその効果が裏付けられています。ここでは代表的な3つの研究を紹介します。以下に折りたたんで記載したので、気になる項目があったら展開してみてください。

ネガティブ反芻が減る

早稲田大学の山崎らが日本人大学生420名を対象に行った研究では、セルフコンパッションとネガティブ反芻の関係が検討されました[2]。ネガティブ反芻とは、過去の嫌な出来事を何度も繰り返し思い返してしまう傾向のことです。

セルフコンパッションとネガティブ反芻の関係を示す研究図

ネガティブ反芻は不安感と正の相関を持ちます。つまり嫌な記憶を反芻するほど不安が強まることが知られています。この研究の結果、セルフコンパッションとネガティブ反芻の間には負の相関関係が認められました。すなわち、セルフコンパッションが高い人ほど、ネガティブ反芻の頻度が低い傾向があったのです。

過去のことをぐるぐると考え続けて、なかなか気持ちが前に向かないという方は少なくありません。そのような方にとって、セルフコンパッションを高めることは特に有効な心理的スキルとなりうることが、この研究から示唆されています。

先延ばし傾向が改善する

先延ばし傾向が改善する

シェフィールド大学のフュージア・シロワ教授は、先延ばしの研究で国際的に知られる心理学者です。シロワ教授は547名の成人を対象にセルフコンパッションと先延ばし傾向の関係を調査しました。

セルフコンパッションと先延ばし傾向の研究結果の図

その結果、他の要因を統計的に統制した上でも、セルフコンパッションが先延ばしを抑制する強さとしてβ=−.35という有意な値が得られることを報告しています[3]。

なぜセルフコンパッションが先延ばしを減らすのでしょうか。自分に厳しい人は「失敗してはいけない」という意識が非常に強くなります。その感覚が行動の前から重くのしかかると、一歩を踏み出す気力が湧いてきません。まるでゴールまでの道に一本の棘も踏んではいけないと分かっていたら、出発する前から消耗してしまうようなものです。

セルフコンパッションと行動の関係を説明する心理モデル図

一方、セルフコンパッションが育まれると「失敗しても、自分は自分を許せる」という心の準備ができます。多少の失敗があっても乗り越えていける、という感覚があれば行動に移りやすくなります。「確かにこの仕事はしんどいな。そう感じるのも無理はない。でも、まずやってみよう」という気持ちを、自分の中から引き出せるようになるのです。

免疫系にも好影響が出る

クイーンズランド大学のガブレイらは、16の独立した研究を統合したメタ分析を行い、合計1,775名のデータからセルフコンパッションが身体に与える影響を検証しました[4]。

セルフコンパッションと免疫系の関係を示す研究図

その結果、セルフコンパッションが高い人ほど、ストレスホルモン(コルチゾール)や炎症性サイトカイン(IL-6)の値が低いことが示されました。炎症性サイトカインとは、いわば体内でくすぶり続ける炎のようなものです。この値が慢性的に高い状態が続くと、免疫系が疲弊し、ウイルスへの抵抗力が低下すると言われています。

心理学的・生理学的研究の蓄積から、自分の心を落ち着かせられる人ほど免疫系が強くなることが分かってきています。自分自身に優しくあれる人、心を穏やかに保てる人ほど体の状態も良くなるということが、科学的に示されつつあります。セルフコンパッションは心の問題にとどまらず、身体的な健康にも実質的な好影響をもたらす可能性があるのです。

なお、メタ分析とは複数の独立した研究を統合して全体的な傾向を検証する手法であり、個別の研究よりも信頼性が高いとされています。1,775名・16研究という規模からも、この知見の重みが伝わるでしょう。

自分に優しい言葉習慣

セルフコンパッションは「自分を甘やかす」ことでも「努力しなくていい」ということでもありません。苦しいとき・辛いとき・失敗したとき、自分を必要以上に責め立てるのではなく、親友に接するような温かさで自分自身を扱う、ということです。

厳しさと優しさは二項対立ではありません。自分に優しくあることで心の体力が回復し、むしろより行動的に、より粘り強く生きていけるようになります。科学的な研究もその事実を裏付けています。

今日ご紹介した5つのステップを、すべて一度に完璧にこなそうとする必要はありません。まずは今夜、一日を振り返りながら、自分の心と体の状態をひとつひとつ確認してみてください。そして何か辛いことがあったなら、親友に語りかけるように、静かに自分へ言葉をかけてみてください。

人生で苦しい時、辛い時、自分を攻めすぎていないでしょうか。確かに結果が出ないことはあります。でも、一生懸命生きてきたはずです。どうにかしようと、もがいてきたはずです。その努力を一番知っているのは、自分自身です。今日この瞬間から、一番の親友のように、自分に温かい言葉をかけていきましょう。公認心理師川島達史の似顔絵イラスト

セルフコンパッションを学ぶ

ダイコミュでは、本コラムの筆者である川島達史をはじめ、公認心理師がコミュニケーション教室を開講しています。内容は以下のとおりです。

・聞き力,話す力をつける練習
・緊張を緩和する,心理的トレーニング
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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

*出典
[1]Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity, 2(2), 85–101.
[2]Yamasaki, K., et al. (2024). Relationship between rumination, self-compassion, and psychological health among Japanese university students: A cross-sectional study. 早稲田大学(対象420名).
[3]Sirois, F. M. (2014). Procrastination and stress: Exploring the role of self-compassion. Self and Identity, 13(2), 128–145.(対象547名、β=−.35)
[4]Gabryyl, J., et al. (2021). Self-compassion and physiological responses to stress: A systematic review and meta-analysis. Health Psychology Review.(対象1,775名、16研究のメタ分析)