マネジメント力入門,はじめて管理職になる方へ
皆さんこんにちは。現役経営者、公認心理師の川島達史です。私は現在こちらのコミュニケーション講座の講師として活動しています。今回のテーマは「マネジメント力」です。
「マネジメント」と聞くと、特別な才能や経験が必要だと感じるかもしれません、しかし実際は、生まれ持った才能ではなく、誰でも学び、実践を重ねることで確実に向上させていけるスキルです。
本コラムでは、これから管理職になる方や、マネジメントに不安を感じている方向けにマネジメントの基本をわかりやすく、具体的な例を交えながら解説します。ぜひ最後までお読みください。
マネジメントとは何か
まずはマネジメントとはどのようなことなのか見ていきましょう。
マネジメントの定義
リーダーシップ論の第一人者であるジョン・コッター博士は、自身の著書『リーダーシップ論(The Leadership Factor)』(1988年)で、マネジメントを「複雑性の処理である」と定義しています。
コッター博士は、組織がグローバル市場の変化や技術革新の加速、多様化する顧客ニーズなど、多くの複雑な要素が絡み合う環境に置かれている状況で、組織全体の複雑性を体系的に扱いながら、混乱を招くことなく、効率的に機能させることこそがマネジメントの本質であると述べています。これは、フレデリック・テイラーの「科学的管理法」が、個々の作業の効率化に焦点を当てたのに対し、組織全体の複雑性を体系的に扱う視点と言えます [1]。
ジョン・コッターの3段階のプロセス
コッター博士は、マネジメントを3つの主要なプロセスに分解しました。
①計画と予算策定
組織の目標を達成するために、具体的な計画を立て、必要な資源(ヒト、モノ、カネ)を割り当てるプロセスです。
たとえば、今期の売上目標達成のために、新しい商品のプロモーション計画を立て、予算計上する工程のことで、「誰が、何を、いつまでに、どれくらいの費用でやるのか」といった具体的なロードマップを描くことが求められます。
② 組織化と人員配置
計画を効果よく実行するために、組織の構造を設計し、適切な人材を配置するプロセスです。
たとえば、プロジェクトのマネージャー、マーケティング担当、営業推進担当などの役割に最適な人材を配置し、主な責任と各担当者との連携について組織体系を明確にすることで、必要なスキルを持った人材を採用したり、既存のメンバーを育成・配置転換したりすることも含まれます。
③統制と問題解決
計画通りに物事が進んでいるかを監視し、問題が発生した場合には、原因を特定し、解決策を実行するプロセスです。
たとえば、検証数値の現状を把握し、問題の早期発見と原因の特定、解決策をスピーディーに実行することで目標達成に向けた軌道修正を行います。進捗会議の開催、実績の分析、部下へのフィードバックなども含まれます。
これらのプロセスは、一見すると当たり前のように感じるかもしれません。しかしコッター博士は、これらのプロセスを「緻密に、そして安定的に遂行すること」こそがマネジメントの本質だと強調しています。
マネジメントとリーダシップの違い
リーダーシップとマネジメントは混同されがちですが、コッター博士は、両者が果たすべき役割は明確に異なると主張しています。リーダーシップは、将来を見据えて新たなビジョンを描き、そのビジョンに向かって人々を導いていくことに重点を置いています。
一方でマネジメントは、現在の仕組みを効率的に運用しながら、目標達成に向けて計画的に資源を配分し、進捗を管理・統制していくことに焦点を当てています。
コッター博士は、組織の成功にはリーダーシップとマネジメントの両方が不可欠だと強調しています。
比較図
マネジメントの基礎力と実践項目と手順
ここでは、マネジメント能力を伸ばす10の基礎力を紹介します。
1:計画力
2:業務設計力
3:タスク管理能力
4:問題対応力
5:関係調節力
6:チームビルディング力
7:傾聴・共感力
8:モチベーション支援力
9:メンタルヘルス配慮力
10:ハラスメント予防力
それぞれのスキルを伸ばすための実践項目も細分化し紹介していきますので、日々の業務にぜひ取り入れてみてください。
イラスト
1. 計画力
チームの目標に向けて、現実的かつ戦略的な行動計画を立てる力です。コッター博士の「計画と予算策定」に直結する能力で、目標達成に向けて「何を」「いつまでに」「誰が」「どうやって」やるのかを具体的に決めていくスキルになります。
<実践項目>
①目標の具体化
「売上アップ」ではなく「〇月までに売上を〇%アップする」のように、数字と期限を明確にします。
②タスクの洗い出しと分解
目標達成に必要なタスクを全て書き出し、一つ一つをさらに小さなステップに分解します。
③優先順位の設定「見える化」の徹底
分解したタスクに「重要度」と「緊急度」の視点から優先順位をつけます。
④「見える化」の徹底
作成した計画を、チーム全員が見える場所に共有し、常に進捗を確認できるようにします。ツールは、ホワイトボードや共有スプレッドシート、プロジェクト管理ツールなどからチーム全体が活用しやすいものを選びましょう。
2. 業務設計力
業務の流れや役割分担を整理し、部下が動きやすい仕組みを整える力です。コッター博士の「組織化と人員配置」の一部であり、チームメンバーが迷わず、効率的に動けるよう、仕事のルールや流れ、役割分担を明確にするスキルになります。
<実践項目>
①業務フローの作成
「誰が→何をして→誰に渡す」といった業務の流れをフローチャートや箇条書きで示します。
②役割と責任範囲の明確化
各メンバーの担当業務に加え「何に対して責任を持つのか」という責任範囲を具体的に伝えます。
③標準化の推進
よく発生する業務や、複数の人が関わる業務については、手順を標準化し、誰でも同じ品質でできるようにマニュアル化を検討します。
④「なぜこの仕組みが必要か」の共有
新しい仕組みやルールを作る時には、目的や期待される効果をメンバーに説明し、納得感を持ってもらいましょう。
3. タスク管理力
部下の進捗・納期・品質を把握し、必要に応じて調整や改善をする力です。コッター博士の「統制と問題解決」に通じる重要な要素で、計画通りに仕事を進めるには、部下それぞれのタスクの状況を正確に把握し、必要に応じてサポートしたり、計画を調整したりするスキルになります。
<実践項目>
①定期的な進捗確認の仕組み
毎日5分間の朝会や、週次の進捗報告会など、短い時間でもいいので部下から進捗報告を受ける時間を設けます。
②「困りごと」ヒアリング
進捗だけでなく「何か困っていることはないか?」「障壁となっていることは?」と積極的に質問し、早期に問題の芽を見つけるようにしましょう。
③問題の早期発見と軌道修正
進捗の遅れや品質の低下に気づいたら、その原因を究明し、スケジュールやリソースの調整、追加の指導など、素早く手を打ちます。
④フィードバックの継続
部下のタスクの進捗や成果に対して、良かった点、改善点などを具体的かつタイムリーにフィードバックしましょう。
4. 問題対応力
業務上の課題やトラブルに気づき、迅速に対処し、再発を防ぐ力です。コッター博士の「統制と問題解決」に欠かせないスキルの1つで、予期せぬトラブルに気づき、冷静に原因を探り、素早く解決することに加え、二度と同じ問題が起きないように対策を立てる一連のプロセスを実行する力になります。
<実践項目>
①「異常」に気づく感度を高める
いつもと違うこと、少しおかしいと感じることに注意を払い、そのままにしない習慣をつけましょう。
②事実に基づいて状況を把握
問題が発生したら、感情的にならず、まずは「何が起きたか」「いつ起きたか」「誰が関わっているか」など、事実情報を正確に収集します。
③ 原因分析の習慣化
表面的な原因だけでなく、「なぜなぜ分析」のように「なぜそれが起きたのか?」と繰り返し問いかけることで、根本原因を探る習慣をつけましょう。
④解決策の実行と効果測定
解決策を立てたらすぐに実行し、その効果を測定しましょう。そして、再発防止のために、業務フローやルールを見直すことを忘れず行いましょう。
5. 関係調整力
部下・他部署・上司との間で意見を調整し、協力体制を築く力です。コッター博士の「人員の整合化」にも通じる重要なスキルの一つになります。さまざまな立場の人との関わりの中で、意見が対立したり摩擦が生じたときに、みんなが納得できる落としどころを見つけ出し、協力を引き出す力になります。
<実践項目>
①相手の「立場」を想像する
自分の意見を主張する前に、「相手はなぜそう言っているんだろう?」「相手の部署の目標は何か?」と想像してみましょう。
②共通の目標を見つける
意見が対立しても、お互いに「何のためにこの仕事をしているのか」という共通の目標や大義を見つけ、そこに焦点を当てて話し合いを進めます。
③ 複数の選択肢を提示する
自分の意見だけでなく、相手の意見も取り入れ、複数の解決策を提示し、最適なものを一緒に選ぶ姿勢を見せましょう。
④感謝と労いを伝える
調整に協力してくれた人には、必ず感謝の言葉を伝え、今後の円滑な関係構築につなげます。
6. チームビルディング力
信頼・協力を育むチーム文化を醸成し、組織としての一体感を高める力です。メンバー同士が信頼し合い、助け合いながら、目標に向かって一丸となれる雰囲気を作るスキルで、コッター博士の「人員の整合化」と「モチベーションと鼓舞」にも深く関わる力になります。
<実践項目>
①心理的安全性確保
「心理的安全性」は、チーム内で安心して意見や質問をしたり、失敗を認めたりできる状態です [2]。部下が自由に意見を言えるように、「言いにくいことはない?」と積極的に問いかけてみましょう。
②共通の目標を共有する
チーム全員が「何を達成したいのか」を理解し、共有することで、一体感が作ります。
③ オープンなコミュニケーション
定期的なミーティングだけでなく、雑談やランチなど、コミュニケーションの機会を増やし、メンバー同士の距離を縮めます。
④成功体験の共有と承認
小さなことでも、チームで達成した成功体験をみんなで喜び、それぞれの貢献を具体的にたたえ合いましょう。
7. 傾聴・共感力
部下の話を丁寧に聴き、感情や背景を理解しようとする姿勢と力です。コッター博士が説く「人員の整合化」や「モチベーションと鼓舞」を実現するために欠かせない要素になります。コミュニケーションにおける傾聴・共感力では、部下の話をただ聞くだけでなく、その裏にある感情や、なぜそう感じるのかという背景まで理解しようとするスキルです。
<実践項目>
①最後まで聴く姿勢
部下が話している間は、途中で口を挟まず、最後までしっかり耳を傾けましょう。
②非言語サインへの注意
相手の表情、声のトーン、しぐさなど、言葉以外の情報にも注意を払い、感情の機微を読み取るようにします。
③相手の感情を「受け止める」
「それは辛かったね」「大変だったね」「頑張ったね」など、相手の感情に寄り添う言葉を使い、共感の姿勢を示しましょう。
④「つまり、こういうことかな?」と確認する
相手の話を自分の言葉で要約して、「私が理解したのはこういうことだけど、合ってる?」と確認することで、理解を深めることができます。
8. モチベーション支援力
部下一人ひとりのやる気と強みに気づき、成長に向けた後押しをする力です。コッター博士がいう「モチベーションと鼓舞」に直結する力で、部下それぞれの個性や強み、モチベーションの源泉を理解し、部下が「もっと頑張りたい」「成長したい」と思えるようにサポートするとともに自律的な行動を引き出す力になります。
<実践項目>
①ポジティブなフィードバックの習慣化
部下の努力や小さな成功を具体的に認め、「〇〇さんのこの部分が素晴らしいね」と具体的に褒めましょう。
②期待を明確に伝える
「君にはこれができると期待している」「この仕事は君の強みが活かせるはずだ」と、具体的な期待を伝え、信頼を示しましょう。
③ストレッチ目標の設定
部下の能力を少しだけ超えるような、挑戦的な目標を一緒に設定し、達成の喜びを経験させましょう。
④キャリアの展望を共有
部下のキャリア志向を聞き、現在の仕事が将来どのように役立つかを話し合うことで、長期的なモチベーションを育みましょう。
9. メンタルヘルス配慮力
部下の心身の変化に気づき、過剰負荷や不安を予防・緩和する力です。現代のマネジメントにおいて、非常に重要な要素とされています。部下の心身の小さな変化に早期に気づき、それが大きな問題になる前に、適切なサポートを講じることで部下のパフォーマンスを最大化するうえで非常に大切なスキルです。
<実践項目>
①日常的な観察
部下の表情や元気、食欲、睡眠状況など、普段と違う点がないかを日頃から意識して観察しましょう。
②気軽な声かけ
「最近どう?」「何か困っていることはない?」など、部下が心を開きやすいような、さりげない声かけを習慣にしましょう。
③過剰な業務負荷の調整
部下の仕事の量や内容が、無理な負担になっていないか常に気を配り、必要であれば業務量を調整したり、期限を見直したりします。
④相談しやすい雰囲気作り
部下が安心して「しんどい」「困った」と言えるような、心理的安全性の高いチーム環境を意識的に作りましょう。
10. ハラスメント予防力
威圧・侮辱・無自覚な発言を避け、安心して働ける職場環境を保つ力です。組織の「統制」や「人員の整合化」において、非常に重要な力になります。働く人の尊厳を傷つけ、チームの生産性を大きく損なうハラスメントを未然に防ぎ、すべてのメンバーが精神的に安心できる、公平で健全な職場環境をつくるスキルです。
<実践項目>
①自分の言動を客観視
指導の際、感情的になって高圧的になったり、部下を侮辱するような言葉を使っていないか、常に自分の言動を振り返りましょう。
②「受け止められ方」を意識
自分の発言が、相手にどう受け取られるか、不快感を与えないか、傷つけないか、常に相手の視点に立って考えましょう。
③多様性への理解と尊重
性別や年齢、国籍、価値観、性的指向など、人それぞれ異なる背景や特性を理解し、それらを理由にした差別的な発言や決めつけをしないように徹底します。
④プライベートへの配慮
部下が安心して「しんどい」「困った」と言えるような、心理的安全性の高いチーム環境を意識的に作ります。
⑤ハラスメント研修への積極参加
企業が実施するハラスメント研修やeラーニングに積極的に参加し、ハラスメントに関する正しい知識を学び続けましょう。
イラスト
マネジメント力を高める「3つ意識」
ここまで、マネジメントに必要な10の基礎力を見てきましたが、すべてに共通して欠かせないのが「人とのコミュニケーション」です。ここでは、マネジメント力全体を底上げするコミュニケーションスキルとして、「相手にどう伝わるか」という視点から考える3つの意識をご紹介します。
1.具体的かつシンプルに伝える
相手が「いつまでに、何を、どうするのか」を具体的にイメージできるよう、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識して伝えましょう。専門用語や曖昧な表現は極力避けるよう心がけます。
たとえば「この件、よろしくね」ではなく「〇〇部長への報告書、明日の午前中までに作成して、一度目を通させてくれる?」など具体的でシンプルな表現で伝えましょう。
2. 相手の理解度を確認する
部下に説明をした後は、「今の話、何か不明な点はある?」「〇〇さんが理解した内容を、簡単にまとめてくれる?」など、相手に話してもらうことで、理解度を確認しまます。こうしたやり取りは、伝えた内容が正しく伝わっているかを確認する大切なプロセスで、コッター博士が提唱する「統制」の一つの具体的なかたちでもあります。
3. 非言語メッセージを意識する
人は言葉だけでなく、表情や声のトーン、ジェスチャー、姿勢など、非言語的な要素からも多くの情報を読み取っています。部下の話を真剣に聴く時には相手の目を見てうなずく、怒りを伝えたい時には必要以上に威圧的な表情を避けるなど、自分の非言語メッセージが、相手にどのような印象を与えているかを意識することで、コミュニケーションの質は格段に向上します。
イラスト
まとめ
今回のコラムでは、ジョン・コッター博士の理論をベースに、マネジメントの基礎となる10の力と、それを支えるコミュニケーションの重要性について、深く掘り下げて解説しました。
診断結果が少し残念だったと感じているあなたも、今日からできる具体的な行動がたくさん見つかったのではないでしょうか。マネジメントは、特別な才能ではなく、日々の小さな意識と行動の積み重ねで確実に向上するスキルです。このコラムで挙げた具体的な行動の中から、どれか一つでも意識して実践してみることから始めてみましょう。
今回の診断とこのコラムが、あなたのマネジメントスキル向上への最初の一歩となることを心から願っています。もし、コミュニケーションやマネジメントについてもっと深く学びたいと感じたら、いつでも私たちのコミュニケーション講座をご活用ください。
もっと学びたい方へ
当コラムの内容をしっかり身につけたい方は、現役の経営者、公認心理師による講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。
・コミュニケーションの基礎,傾聴練習
・怒りを和らげる,共感力トレーニング
・限界設定で身を守る,アサーション
・説明上手になるトレーニング
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→

名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
*参考文献
[1] Taylor, F. W. (1911). The Principles of Scientific Management. Harper & Brothers.
[2] Kotter, J. P. (1988). The Leadership Factor. Free Press.