業務フロー設計力でチームを動かすマネジメント術
皆さんこんにちは。現役経営者、公認心理師の川島達史です。私は現在こちらのコミュニケーション講座の講師として活動しています。今回のテーマは「業務フロー設計力」です。
ビジネスの目標は、どれほど綿密な計画を立てても、実行のための「仕組み」がなければ、単なる絵に描いた餅に終わってしまいます。その仕組みをつくるうえで重要なのが、マネージャーの「業務フローを設計する力」です。
本コラムでは、これから管理職になる方や、マネジメントに不安を感じている方向けにマネジメントの基本「業務フロー設計力」をわかりやすく、具体的な例を交えながら解説します。ぜひ最後までお読みください。
業務フロー設計力とは
さっそく業務フロー設計力についてみていきましょう。
業務フロー設計力とは
業務フロー設計力とは、チーム全員の役割を明確にし、各部門ごとの連携を円滑にするための最適なルールやシステムを構築するるスキルです。ジョン・コッター博士が提唱するマネジメントの主要プロセス「組織化と人員配置 」の中核をなす能力になります。
設計力の重要性
仕事の役割や範囲が不明確なチームでは、以下のような問題が発生します。
混乱と非効率
「誰が担当する業務?」「書類はどこに出せばいい?」といった疑問が頻発し、ムダな確認や手戻りで業務が滞り、生産性が下がってしまいます。
責任の曖昧さ
問題が起きても責任者が分からず、押し付け合いや放置が発生します。その結果、対応が遅れ、再発防止も難しくなります。
モチベーションの低下
メンバーは「何のために働いているのか」と疑問を抱き、やる気を失いやすくなります。加えて役割が曖昧だと、評価も難しくなります。
属人化とリスク増大
業務が特定の人に集中すると、休職や退職で仕事が止まる属人化リスクが高まります。
このように業務設計が不足するとチームとしてのパフォーマンスが最大限発揮できなくなってしまうのです。
業務設計力を磨く4つのステップ
ここでは、業務設計力を磨く4つの手順を紹介します。
ステップ1:業務フローの作成と可視化
ステップ2:役割と責任範囲の明確化
ステップ3:標準化の推進とマニュアル化
ステップ4:必要性の共有と納得の促進
具体的なステップも紹介していきますので、日々の業務にぜひ取り入れてみてください。
ステップ1:業務フローの作成と可視化
主要な業務について、「誰が何をして誰に渡すか」をフローチャートや箇条書きで可視化します。業務の全体像が明確になることで、タスクの意味やつながりが分かりやすくなり、滞りやムダを見つけやすくなります。コッター博士のマネジメント論では「複雑性の処理」は現状把握から始まります。業務フローの可視化はその第一歩です。
業務フロー作成の手順
1.対象業務の選定
まずは、チーム内で最も頻繁に行われる業務や、多くの人が関わる複雑な業務を選びます。たとえば「新規顧客からの問合せ対応プロセス」「週次報告書の作成プロセス」などです。
2. 現状プロセスの洗い出し
選んだ業務の開始から終了まで、関係メンバー全員で話し合い、「誰が」「いつ」「何を」しているのかを具体的に書き出します。
3. フローチャート化
洗い出したステップを、開始・終了は楕円、作業は四角、判断はひし形などの図記号でフローチャートにします。各ステップの担当者や使用ツール、作成書類も明記しましょう。
4.「見える化」と共有
作成した業務フローは、チームメンバー全員がいつでも確認できる場所に掲示したり、共有ドライブに保存したりして「見える化」を徹底します。
コミュニケーションのポイント
参加型アプローチ
業務フローはマネージャーだけで作るのではなく、実際に業務を行うメンバーも巻き込みましょう。現場の知識や経験が正確なフロー作成に欠かせません。また、メンバーの当事者意識が高まり、新しいフローへの抵抗感も減ります。
疑問点の抽出と議論
フロー作成の過程で「この手順は本当に必要?」「もっと効率的な方法は?」と疑問を出し合い、議論の場を設けます。批判ではなく改善を目的とした建設的な議論を促すため、質問や傾聴を大切にし、活発な意見交換を目指しましょう。
図や記号で示す
直感的に理解しやすくなり、新しいメンバーのオンボーディング資料としても役立ちます。
ステップ2:役割と責任範囲の明確化
役割と責任範囲を明確にすることは、コッター博士のいう「人員の整合化」を実現し、チームの規律と効率を高めるために不可欠です。役割がはっきりすると、仕事のすれ違いや抜け漏れが減り、メンバーは自分の職務を理解して自律的に動けるようになります。加えて、責任範囲は具体的に伝え、可能なら文書化しましょう。ここでは、プロジェクトマネジメントで広く用いられる「RACI(レイシー)マトリックス」を紹介します。
RACIマトリックス
R (Responsible)
実際に作業を行う担当者です。複数人が担当する場合は、誰がどの部分を担当するかを明確にしましょう。
A (Accountable)
最終的な結果に責任を持つ責任者です。タスクが完了したことに対する最終的な権限と責任を持ちます。各タスクには必ず一人だけ設定し、責任の所在をはっきりさせることが重要です。
C (Consulted)
作業を進める際に意見を聞く相談者です。専門知識や視点を提供し、より良い結果につなげます。
I (Informed)
作業の進捗や結果を報告する相手です。直接作業には関わりませんが、状況を把握しておく必要があります。必要な人に情報を確実に伝え、無駄な共有は避けましょう。
主要なプロジェクトごとにRACIを明確にすることで、誰が何をすべきか、誰に相談すべきか、誰に報告すべきかが一目瞭然となり、責任の所在がはっきりします。たとえば「新サービス導入におけるウェブサイト改修」というタスクであれば、以下のように割り振れます。
R: ウェブサイト担当者(例:鈴木)
A: マーケティング部長(例:佐藤)
C: 開発チーム(技術的視点)、デザイナー(UI/UX視点)、営業部長(顧客視点)
I: 広報担当、経営層
コミュニケーションのポイント
役割発表と質疑応答
新しい役割や責任範囲を決めたら、チーム全体に発表し、質疑応答の場を設けましょう。疑問をその場で解消することで、誤解を防ぐことができます。
期待値の明確化
各役割にどのようなパフォーマンスを期待するのか、具体的な例を挙げて伝えることでメンバーは自分の役割をより深く理解することができます。また、メンバーの強みを活かした役割分担をすることで、モチベーションと生産性を高めましょう。
ステップ3:標準化と推進とマニュアル化
頻繁に発生する業務や複数人で行う業務は、手順を標準化し、誰が担当しても同じ品質を保てるようマニュアル化を検討しましょう。これは業務効率だけでなく、品質の安定や属人化の防止にも役立ちます。組織行動論でも、業務の標準化は組織の効率性と信頼性を高める重要な要素とされています。
マニュアル化のメリット
品質の均一化
誰がやっても同じ結果になるため、提供品質が安定します。顧客満足度の向上やブランドイメージの維持にもつながります。
効率の向上
手順が明確になることで迷いがなくなり、作業時間が短縮されます。特にルーティン業務で効果的です。
教育コストの削減
マニュアルを見れば、ある程度の業務は自分で進められるため、引き継ぎや教育が容易になります。OJTの負担を軽減できます。
属人化の解消
特定の人しかできない業務がなくなり、担当者の病欠や退職時にも他のメンバーがスムーズに引き継げます。
マニュアル作成のポイント
「誰でも分かる」レベル
専門用語を避け、平易な言葉で書きましょう。図やスクリーンショットなどの視覚情報を活用すると理解しやすくなります。
簡潔かつ網羅的に
必要な情報を過不足なくまとめます。ただし長すぎると読まれないので、要点を簡潔に。インデックスや検索性の工夫も効果的です。
定期的な見直しと更新
業務は常に変化します。マニュアルは一度作ったら終わりではなく、業務の変化に合わせて定期的に見直し、必要に応じて更新していく体制を整えましょう。メンバーからのフィードバックを積極的に取り入れることが、より良いマニュアル作りに繋がります。マニュアルに「最終更新日」を記載することで、情報が最新であることを示すこともできます。
共有とアクセス容易性
マニュアルがどこにあるのか、どうすればアクセスできるのかを明確にし、メンバー全員が簡単に利用できる状態にしておきましょう。共有ドライブや社内Wikiの活用が一般的です。
コミュニケーションのポイント
マニュアル活用の奨励
作成したマニュアルをただ配布するだけでなく、「積極的に活用してほしい」「疑問があればマニュアルを参照してほしい」というメッセージを伝え、質問や改善提案を歓迎する姿勢を示しましょう。
成功事例の共有
マニュアルを活用して業務が効率化された事例や、トラブルを未然に防げた事例などを共有し、マニュアルの有効性をチームに認識させましょう。これにより、メンバーはマニュアル活用の意義を実感し、自発的に利用するようになります。
ステップ4:必要性の共有と納得の促進
新しい業務設計やルールを導入する際は、「なぜ必要なのか」を伝え、納得感を持ってもらうことが重要です。一方的な押し付けでは、反発を招きます。コッター博士も、変革を成功させるには「理解」と「感情への訴求」が不可欠と述べています。メンバーの共感を得ることで、新しい仕組みはチームに根付き、持続的に機能します。
共有のポイント
「誰でも分かる」レベル
専門用語を避け、誰でも理解できる言葉で書きましょう。図やスクリーンショットを使うと理解が進みます。
簡潔かつ網羅的に
必要な情報を過不足なくまとめ、要点は簡潔にまとめます。インデックスや検索機能を付けると便利です。
定期的な見直しと更新
業務の変化に合わせて定期的に見直し、必要に応じて更新していく体制を整えましょう。メンバーからのフィードバックを積極的に取り入れることが、より良いマニュアル作りに繋がります。マニュアルに「最終更新日」を記載することで、情報が最新であることを示すこともできます。
共有とアクセス容易性
マニュアルの保管場所とアクセス方法を明確にし、誰でも簡単に利用できるようにします。共有ドライブや社内Wikiが有効です。
導入後の変化を具体的に示す
新しい仕組みで期待できる良い変化を、具体的な指標や事例で共有しましょう。たとえば「残業時間を月〇時間削減」「顧客からの感謝が増える」「情報共有の質が向上」など未来像を示すことで、メンバーはポジティブな変化をイメージし、モチベーションが高まります。
コミュニケーションのポイント
メンバーからのフィードバックを積極的に求める
疑問点や懸念点があれば、丁寧に対話し、解消に努めましょう。一方的な説明ではなく、双方向のコミュニケーションを通じて、メンバーの意見を尊重し、必要であれば柔軟に改善していく姿勢を見せることが、納得感を深める鍵となります。
定期的な振り返りの実施
「この仕組みを導入してどうだったか」「改善できる点はないか」をチームで議論する習慣をつけましょう。
まとめ
今回のコラムでは、ジョン・コッター博士の理論をもとに、マネージャーに欠かせない業務フロー設計力について解説しました。ご紹介したポイントを参考に、ぜひ日々の業務にとり入れてみてください。
業務設計力は、チームの「骨格」をつくるようなものです。骨格がしっかりしていれば、その上に業務を実行するメンバーが安心して動け、強いチームとして成果を出せるようになります。マネージャーは、設計者であると同時に、その設計の価値を伝え、メンバーの理解と協力を引き出すコミュニケーターとしてかかわっていきましょう。もし、コミュニケーションやマネジメントをさらに深く学びたいと感じたら、ぜひ私たちのコミュニケーション講座をご活用ください。
もっと学びたい方へ
当コラムの内容をしっかり身につけたい方は、現役の経営者、公認心理師による講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。
・コミュニケーションの基礎,傾聴練習
・怒りを和らげる,共感力トレーニング
・限界設定で身を守る,アサーション
・説明上手になるトレーニング
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連