ホーム >
コミュニケーション知恵袋 >
ビジネスコラム >
ハラスメントの予防法入門,管理職向け

日付:

ハラスメントの予防法入門,管理職向け

皆さんこんにちは。現役経営者、公認心理師の川島達史です。私は現在こちらのコミュニケーション講座の講師として活動しています。今回のテーマは「ハラスメントの予防」です。

職場のハラスメントは信頼関係を損ない、生産性やモチベーションを大きく下げます。放置すると離職や優秀な人材の流出、企業イメージの悪化といった深刻な問題につながるため、マネージャーには未然防止と迅速な対応が求められます。

そこで本コラムでは、これから管理職になる方や、マネジメントに不安を感じている方向けにマネジメントの基本「ハラスメントの予防」について具体的な実践方法を交えながら解説します。ぜひ最後までお読みください。

ハラスメントの定義と統計データ

まずは職場におけるハラスメントの法的な定義を見ていきましょう。

ハラスメントの定義

ハラスメントは多岐にわたりますが、職場におけるハラスメントは、主に以下の3種類です。

パワーハラスメント(パワハラ)
厚生労働省は、パワハラを「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」と定義しています。これには、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6類型が示されています [1]。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
職場におけるセクハラは、「職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」と定義されており、性的な冗談、性的なからかい、身体への不必要な接触などが含まれます [2]。
マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメントは、「女性労働者が妊娠・出産等したこと、男性労働者が育児休業等をしたこと等に関する上司・同僚からの嫌がらせ等により就業環境が害されること」と定義されています [3]。解雇や不当な配置転換だけでなく、心ない言動も該当します。

その他のハラスメントとしては、カスタマーハラスメント(顧客からの嫌がらせ)、モラルハラスメント(精神的な嫌がらせ)、アルコールハラスメント(飲酒の強要)、SOGIハラスメント(性的指向・性自認に関するハラスメント)など、様々な形態のハラスメントが存在します。

パワハラ防止は企業の義務

日本では、労働施策総合推進法(通称『パワハラ防止法』)の改正により、パワハラ防止措置が義務化されました。大企業は2020年6月1日から、中小企業を含むすべての企業は2022年4月1日から適用されています。

企業には、以下の対応などが義務付けられています。
・相談窓口の設置
・ハラスメント方針の明確化と周知
・発生時の迅速かつ適切な対応

これらを怠ると、行政指導の対象になるだけでなく、損害賠償請求に発展する可能性もあります。

統計からみる職場ハラスメントの深刻さ

独立行政法人労働政策研究・研修機構が2016年に実施した調査によると、過去3年間に職場でハラスメントを受けたことがある正社員は、男性で25.7%、女性で37.2%にのぼります[4]。特に女性のハラスメント経験率が高く、セクハラやマタハラの根深さがうかがえます。

また、厚生労働省の「令和3年度 個別労働紛争解決制度施行状況」によれば、2021年度の職場のいじめ・嫌がらせ(ハラスメントを含む)に関する相談件数は86,169件で、10年連続で民事上の個別労働紛争の相談件数で最も多い状況です[5]。

これらの統計は、ハラスメントが日本企業の職場で依然として深刻な問題であることを示しています。そのため、マネージャーは積極的に予防し、対応に取り組むことがとても大切です。

ハラスメントを予防する意味

ハラスメントを未然に防ぐことは、チーム力の向上にもつながります。

心理的資本を高める

健全なチーム文化を育むことは、メンバーの心理的資本(希望、自己効力感、レジリエンス、楽観性など)を高めます。心理的資本が高い人は、困難に直面しても諦めず、目標に向かって挑戦し続ける傾向があることが分かっています[7]。

マネージャーがハラスメント予防力を高めることで、信頼と尊重に基づいた強い関係が生まれ、オープンなコミュニケーションが促進されます。結果として、生産性や創造性、従業員満足度が向上し、組織の活力が最大化します。

ハラスメント予防力を磨く5つの手順

ここでは、ハラスメント予防力を磨く5つの手順を紹介します。

ステップ1:自分の言動を客観視する
ステップ2:「受け止められ方」を意識する
ステップ3:多様性への理解と尊重を深める
ステップ4:プライベートへの配慮を徹底する
ステップ5:研修への積極参加と知識のアップデート

具体例も交えて紹介していきますので、日々の業務にぜひ取り入れてみてください。

ハラスメントの予防

ステップ1:自分の言動を客観視する

ハラスメントは必ずしも意図的ではありません。無自覚な言動が相手に大きな苦痛を与えることもあります。マネージャーは指導時に高圧的な態度や侮辱的な言葉を使っていないか、自分の言動を客観的に振り返る習慣を持ちましょう。

具体的な実践方法

感情的になった時の自己チェック
部下を指導したり問題が起きたりして感情的になりそうなときは、一度深呼吸をして、「今、自分はどんな言葉を使おうとしているか」「その言葉で相手を傷つけないか」と自問する習慣をつけましょう。たった数秒でも冷静になる時間をとることで、不適切な発言を防げることがあります。

言動の記録と振り返り
指導や注意をした後は、自分の言葉遣いや態度をメモに残し、後から冷静に振り返ってみましょう。「あの時、もっと違う言い方ができたか」「相手の反応はどうだったか」などを客観的に評価することが大切です。

信頼できる同僚や部下からのフィードバックを求める
勇気はいりますが、信頼できる同僚や部下に率直なフィードバックを求めることも効果的です。「私の話し方で気になることはある?」とオープンに尋ねることで、自分では気づかなかった言動の癖や相手に与える印象を知ることができます。

ロールプレイングや模擬練習
ハラスメント研修などで行われるロールプレイングに参加し、自分の言動がどう受け取られるか体験するのも有効です。客観的な視点を得ることで、自身の行動を見直す機会になります。

コミュニケーションのポイント

謙虚な姿勢を心がける
フィードバックを受けるときは、言い訳をせず感謝の気持ちを伝える謙虚な姿勢が大切です。たとえば「気づかせてくれてありがとう」と伝えることで、相手との信頼関係が深まり、今後の建設的な対話につながります。
「私メッセージ」を活用する
自分の感情や意図を伝えるときは、「あなたは〇〇だ」と指摘する「Youメッセージ」ではなく、「私は〇〇という意図で言った」といった「Iメッセージ」を使うことで、相手に与える威圧感を和らげることができます。

ステップ2:「受け止められ方」を意識する

言動の受け止め方は、個人の背景や文化、経験によって大きく異なります。自分の発言が相手にどう受け取られるか、不快感を与えないか、冗談のつもりでも傷つけていないか、常に相手の立場に立って考えることが、ハラスメント予防の重要なポイントです。

具体的な実践方法

もし自分が言われたら?と想像する
発言する前に、その言葉をもし自分が言われたらどう感じるか想像してみましょう。不快感や侮辱を感じる可能性があるなら、その発言は避けるべきです。

相手の反応を注意深く観察する
自分の発言に対する相手の表情や声のトーン、態度の変化に注意しましょう。相手が沈黙したり顔色が変わった場合は、すぐに「今の言い方で何か気になることはあったかな?」と尋ねてフォローアップします。

TPO(時・場所・場合)を考慮する
発言の内容だけでなく、いつ、どこで、誰に話すかも大切です。公の場での個人的な批判や、休憩中の私的な質問などは、悪意がなくてもハラスメントと受け取られることがあります。

文化的な違いを考慮する
多様な背景を持つメンバーがいる場合、文化や習慣の違いで言葉の受け取り方が異なることを理解しましょう。異文化コミュニケーションの知識を深めることも効果的です。

コミュニケーションのポイント

「意図と効果」のギャップを理解する
自分が意図したこと(例:励ますつもり)と、相手が受け取った効果(例:プレッシャーに感じた)にはギャップが生じることがあります。ハラスメントでは、意図よりも「受け止められ方」が重視されるため、常に「効果」に責任を持つ意識が大切です。
疑問を持ったら尋ねる
相手の反応に疑問を感じたら、決めつけずに「私の言葉で、何か不快な思いをさせてしまったかな?」と直接尋ねてみましょう。小さな誤解が大きな問題になるのを防ぐことができます。

ステップ3:多様性への理解と尊重を深める

性別や年齢、国籍、価値観、性的指向、障がいなど、人それぞれの違いを理解し、差別や決めつけをしないことは、ハラスメント予防に欠かせません。多様性を尊重し、誰もが働きやすい職場をつくることが大切です。

具体的な実践方法

ステレオタイプや偏見を認識し、払拭する
「女性だからこうすべき」「若いから無理だろう」「〇〇国籍の人はこうだ」などの無意識の偏見は、ハラスメントの原因になることがあります。自分の中にある偏見を自覚し、取り除く努力をしましょう。

差別的な言動をしない・許さない
性差別や年齢差別、性的指向・性自認、障がい者差別など、あらゆる差別的言動は行わないことが大切です。チーム内で見かけた場合は、マネージャーとして毅然とした態度で止め、是正を促しましょう。

多様性に関する知識を深める
書籍やセミナーで多様な背景を持つ人々への理解を深めましょう。LGBTQ+の知識や障がい特性への配慮など、具体的に学ぶことが重要です。

異なる視点を受け入れる
チーム内で異なる意見が出たら、それを尊重し積極的に取り入れましょう。多様な視点は創造性を高め、良い意思決定につながります。ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授も、心理的安全性の高いチームは多様な視点を受け入れ、学習能力が高いと指摘しています[6]。

コミュニケーションのポイント

D&Iの重要性を語る
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の重要性を理解し、その価値をチームに繰り返し伝えましょう。単なる建前ではなく、D&Iがチームの強みになることを、具体的な事例を交えて説明すると効果的です。
個性を尊重する声かけ
メンバーの名前を正しく呼ぶ、特定の属性に触れるときは配慮のある言葉を選ぶなど、基本的なところから実践を始めましょう。

ステップ4:プライベートへの配慮を徹底する

個人の身体や容姿、結婚や恋愛、家族など私生活について、興味本位で尋ねたりコメントしたりするのは避けましょう。こうした行為は、個人の尊厳を損なうハラスメントにつながる恐れがあります。

具体的な実践方法

踏み込んだ質問を避ける
業務に関係のない個人的な質問は避けましょう。たとえば、「結婚はまだ?」「なぜ子どもを作らないの?」「その服、どうしたの?」といった質問は、悪意がなくても相手に不快感を与える可能性があります。

身体的特徴や容姿への言及を避ける
身長、体重、体型、髪型、服装、化粧など、身体や見た目に関するコメントは、褒め言葉でもハラスメントと受け取られるリスクがあります。業務に関係のない評価は控えましょう。

プライベートな話題は相手から
メンバーが自分からプライベートな話題を出した場合は、耳を傾け共感を示すのは良いことです。ただし、相手のペースに合わせ、深掘りしすぎないよう注意しましょう。

個人情報の取扱いに注意する
本人の許可なく個人的な情報を共有したり、噂話をしたりすることは絶対にやめましょう。

コミュニケーションのポイント

プライバシー意識を醸成する
マネージャー自身がプライバシーの重要性を理解し、チームメンバーにも意識するよう促しましょう。特にリモートワークの普及で、仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすい現代では、この意識がますます重要です。
境界線を明確にする
業務上のコミュニケーションとプライベートなやり取りの線引きを明確にし、メンバーが安心して仕事に集中できる環境を整えましょう。

ステップ5:研修への積極参加と知識のアップデート

ハラスメントに関する認識や社会の規範は常に変化しています。企業の研修やeラーニングに積極的に参加し、正しい知識を学び続けることは、マネージャーの重要な責務です。

具体的な実践方法

義務的な研修以外も受講する
企業が義務付ける研修だけでなく、応用的な研修や最新のハラスメント事例を扱うセミナーにも積極的に参加しましょう。

関連法規やガイドラインを把握する
厚生労働省が発行するパワハラ防止指針やセクハラ指針など、最新の法規やガイドラインを定期的に確認しておくことが大切です。

他社の事例から学ぶ
実際に起きたハラスメント事例や企業への影響を学び、自分のチームで起こりうるリスクを予測し、対策を検討しましょう。

相談窓口の役割を理解する
社内外の相談窓口の連絡先や役割、相談後のプロセスを把握しておきましょう。部下から相談を受けた際に、適切に案内できるよう準備しておくことが大切です。

コミュニケーションのポイント

研修で得た知識をチームに還元する
研修で学んだ内容やハラスメントに関する重要な情報は、チームミーティングなどで共有しましょう。一方的に伝えるだけでなく、議論の場を設けることで、より深い理解と定着を促せます。
「相談しやすいマネージャー」であること
ハラスメントの兆候や被害に気づいたとき、部下が「この人なら相談できる」と思える存在であることが重要です。日頃から信頼関係を築き、公正で誠実な対応を心がけましょう。

ハラスメントの予防 定義 統計

ハラスメント予防力とは、すべての従業員が安心して最大のパフォーマンスを発揮できる職場環境をつくるためのスキルです。ここで紹介した5つのステップを実践し、健全なチーム文化を育むことで、より一体感のある強いチームを築けると思います。

もっと学びたい方へ

当コラムの内容をしっかり身につけたい方は、現役の経営者、公認心理師による講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。

・コミュニケーションの基礎,傾聴練習
・怒りを和らげる,共感力トレーニング
・限界設定で身を守る,アサーション
・説明上手になるトレーニング

🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^) 

エンパワーメント力を高める方法,使い方,コミュニケーション講座

助け合い掲示板

コメントを残す

コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
Twitter→
元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

*参考文献
[1] 厚生労働省(2020)職場におけるパワーハラスメント対策に関する説明資料
[2] 厚生労働省(1999) 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成10年労働省告示第175号)
[3] 厚生労働省(2016) 事業主が職場において行われる妊娠、出産等に関する言動により女性労働者の就業環境が害されることのないよう講ずべき措置に関する指針(平成28年厚生労働省告示第312号)
[4] 独立行政法人労働政策研究・研修機構(2016)職場のハラスメントに関する実態調査
[5] 厚生労働省(2022)令和3年度 個別労働紛争解決制度施行状況
[6]Edmondson, A. C. (1999)Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383
[7] Luthans, F., Youssef, C. M., & Avolio, B. J. (2007) Psychological Capital: Developing the Human Competitive Edge. Oxford University Press