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ファシリテーションとは?

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ファシリテーションとは?意味や7つのスキルを解説

皆さんこんにちは。こちらのコミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。

今回のテーマは「ファシリテーション」です。会議で思うように意見が出ない、話がまとまらない、そんな経験はありませんか。

本記事では、ファシリテーションについて詳しく解説していきます。目次は以下の通りです。

①ファシリテーションとは
②ファシリテーションの効果
③実践で使える7つのスキル
④成功するための実践手順

ぜひファシリテーションスキルを高めて、会議や議論を改善するきっかけを掴んでください。

ファシリテーションとは

ファシリテーションの歴史的背景から基本的な概念、実際のビジネス現場での活用方法まで詳しく見ていきましょう。

定義と歴史的背景

ファシリテーションとは、英語の「facilitate(容易にすること、簡易化、助成、助長)」から転じた言葉で、グループや組織がより協力し、共通の目的を理解し、目的達成のための計画立案を支援することを意味します。

学術的には、

人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働き

と定義されています[1]

この概念は1950年頃のアメリカで誕生しました。非指示的カウンセリングの創始者である心理学者カール・ロジャーズが、ベーシック・エンカウンター・グループの実施者として「ファシリテーター」という呼称を用い始めたのが起源とされています[2]

ファシリテーション,提唱者

ほぼ同時期に、社会心理学者のクルト・レヴィンが設立したナショナル・トレーニング・ラボラトリーでも、集団での体験学習の手法として発展していきました。

ファシリテーション,提唱者2

司会との違い

多くの人がファシリテーションと司会を混同しがちですが、実は根本的な違いがあります。司会は決められたプログラム通りに進行することが主な役割で、台本に沿って進めることが基本です。

一方、ファシリテーターは参加者の意見を積極的に引き出し、議論の内容に深く関わります。ファシリテーターには台本がなく、その場の状況を見ながら最適な進行方法を判断し、参加者が自然に発言できる環境を作り出します。

また、意見が対立した時も、どちらかの味方をするのではなく、双方の意見を整理して共通点を見つけ出そうとします。

ビジネスでの応用分野

ファシリテーションは現代のビジネス現場で幅広く活用されています。会議運営はもちろん、プロジェクト推進、チームビルディング、問題解決、新商品開発など、人々が集まって何かを決める場面では必ずと言っていいほど必要とされるスキルです。

日本では2003年に組織コンサルタントの堀公俊氏がNPO法人日本ファシリテーション協会を設立し、ビジネス分野での普及に大きく貢献しました。現在では、組織開発、課題解決を目指したチーム活動、医療・介護の現場、教育分野など、様々な領域で活用されています。

ファシリテーション,歴史,日本での広がり

画像出典:https://www.faj.or.jp/

特に最近では、リモートワークの普及により、オンライン会議でのファシリテーションも重要になっています。画面越しでは表情や雰囲気が読み取りにくいため、より高度なファシリテーション技術が求められています。

ファシリテーションの効果

科学的な研究で証明されているファシリテーションの具体的な効果について、データとともに解説します。

会議時間の短縮効果

適切なファシリテーションが行われた会議では、時間効率が大幅に向上することが分かっています。これは、議論の方向性が明確になり、脱線や重複した議論が減るためです。

ファシリテーターが論点を整理し、今何について話しているのかを常に明確にすることで、参加者は迷うことなく建設的な意見を述べることができます。

結果として、同じ議題でも従来の半分程度の時間で結論に到達することも珍しくありません。また、事前準備の段階で議論の流れを設計することで、無駄な時間を削減し、より生産性の高い議論が可能になります。

参加者満足度の向上

東京大学の安斎勇樹氏らの研究[3]によると、適切なファシリテーションが行われたワークショップでは、参加者の満足度と学習効果が大幅に向上することが示されています。

これは、全員が発言する機会を得られ、自分の意見が尊重されていると感じるためです。

従来の一方的な会議では、一部の声の大きい人だけが発言し、多くの参加者が受け身になりがちでした。しかし、ファシリテーションにより全員参加型の議論が実現すると、参加者のモチベーションと当事者意識が高まります。自分の意見が会議の結論に反映されたと感じることで、実行段階での協力度も向上します。

チーム力強化への影響

ファシリテーションを通じて、チームメンバー間の相互理解が深まり、協力関係が強化されることも大きな効果です。建設的な議論を重ねることで、お互いの考え方や価値観を知り、信頼関係が築かれます。

この効果は一回の会議だけでなく、継続的にファシリテーションを活用することで、チーム全体の文化として定着していきます。

結果として、日常的なコミュニケーションも改善され、組織全体の生産性向上につながります。心理的安全性の高い環境が形成されることで、メンバーは安心して意見を述べ、創造的なアイデアも生まれやすくなります。

ファシリテーション,効果

実践で使える7つのスキル

ファシリテーションを成功させるために必要な具体的なスキルを、実践的な手法とともに詳しく解説します。

事前準備スキル

効果的なファシリテーションは、実際の会議が始まる前の準備段階で成否の大部分が決まります。参加者の背景や関心事を把握し、どのような流れで議論を進めるかを事前に設計することが重要です。

事前準備で行うべき作業は以下になります。

参加者の背景調査
議論の論点整理
会場レイアウト設計
必要資料の準備
タイムスケジュール作成

特に重要なのは、参加者にとってのメリットを明確にし、積極的に参加したくなる動機を事前に伝えることです。「なぜこの会議が必要なのか」「自分が参加することでどんな価値が生まれるのか」を理解してもらうことで、当日の議論の質が大きく変わります。

また、議論で扱う情報や資料を事前に整理し、参加者が同じ前提で話し合えるよう準備することも欠かせません。

場づくりスキル

会議の開始時は、参加者の緊張をほぐし、発言しやすい雰囲気を作ることが重要です。ファシリテーターは場の空気を読みながら、適切なアイスブレイク(緊張をほぐす導入活動)を行い、全員が参加しやすい環境を整えます。

また、会議の目的と期待する成果を明確に伝え、限られた時間の中でどのように進めていくかの道筋を共有します。これにより、参加者は安心して議論に集中できるようになります。

場のルールや基本的な進行方法についても最初に説明し、全員が同じ理解の上で議論を始められるよう配慮します。

積極的傾聴スキル

積極的傾聴とは、相手の話を単に聞くだけでなく、その人の気持ちや真意を理解しようとする聞き方のことです。ファシリテーターは、参加者の発言を注意深く聞き、内容を要約して他の参加者にも分かりやすく伝える役割を担います。

効果的な傾聴のポイントは以下になります。

発言内容の要約
感情の受け止め
適切なタイミングでの質問
非言語的サインの観察
相手のペースに合わせる

相手が話しやすくなるような相槌のバリエーションを持つことも重要です。「なるほど」「そうですね」だけでなく、「興味深いご指摘ですね」「具体的には何でしょうか」など、話を深めるような反応を心がけます。

また、発言者の表情や身振りなどの非言語的なメッセージも注意深く観察し、言葉にならない気持ちも汲み取ろうとする姿勢が大切です。

傾聴スキルについて深く知りたい方は、以下を参照ください。

傾聴力を高めるトレーニング法

対話活性化スキル

全員が積極的に議論に参加できるよう、発言機会を公平に配分し、多様な意見を歓迎する姿勢を示すことが重要です。特に、普段あまり発言しない人にも配慮し、安心して意見を述べられるよう働きかけます。

また、反対意見や異なる視点を積極的に求めることで、議論に深みを持たせます。「他に違った見方はありませんか」「反対意見はいかがでしょうか」などの問いかけにより、多角的な検討が可能になります。

ブレーンストーミングの手法を使って創造的なアイデアを引き出したり、グループディスカッションを組み合わせたりすることで、議論をより活発にできます。

構造化スキル

議論が進むにつれて、様々な意見やアイデアが出てきます。ファシリテーターは、これらの情報を整理し、論点を明確にして、参加者全員が現在の議論の状況を把握できるようにします。

ホワイトボードや付箋を使って意見を可視化し、関連する内容をグループ化したり、優先順位を付けたりすることで、複雑な議論も分かりやすく整理できます。

論理的な構造を作ることで、参加者は迷うことなく建設的な議論を続けることができ、最終的な合意形成もスムーズに進められます。

合意形成スキル

意見が対立した場合、ファシリテーターは双方の主張を冷静に整理し、共通点を見つけ出す努力をします。感情的な対立に発展させることなく、建設的な議論を続けるための環境を維持します。

重要なのは、妥協案を押し付けるのではなく、全員が納得できる解決策を一緒に探すことです。時には創造的な第三の案が生まれることもあり、それが最良の結果につながる場合があります。

対立する意見それぞれの背景にある価値観や懸念を理解し、それらを統合できる新しい視点を見つけ出すことが重要です。

実行促進スキル

議論の結果を実際の行動につなげるため、具体的な実行計画を立てることが重要です。「誰が」「何を」「いつまでに」行うかを明確にし、現実的で実行可能な計画であることを確認します。

実行計画の要素は以下になります。

担当者の明確化
具体的な行動内容
現実的な期限設定
進捗確認の方法
サポート体制の整備

また、決定事項が確実に実行されるよう、フォローアップの仕組みを作ることも重要です。定期的な進捗確認や、必要に応じた計画の修正など、継続的なサポートを提供します。実行段階で困難が生じた場合の対応策も事前に検討しておくことで、計画の実現可能性が高まります。

ファシリテーション,スキル

成功するための実践手順

理論だけでなく、実際の現場で即座に使える具体的な進行手順とコツを詳しく解説します。

①事前準備の要点

ファシリテーションの成功は、十分な事前準備にかかっています。参加者の情報収集から始まり、会議の目的と期待する成果を明確に定義し、効果的な進行計画を立てることが重要です。

参加者一人ひとりの立場、関心事、専門分野を把握し、どのような貢献を期待するかを事前に整理しておきます。また、議論で使用する資料や情報を準備し、必要に応じて参加者に事前配布することで、当日の議論をより深いものにできます。

会場の設営や必要な機材の準備も含めて、当日スムーズに進行できる環境を整えることが重要です。

②開始時の進行方法

会議の開始時は、参加者の心理的な壁を取り除き、積極的に参加したくなる雰囲気を作ることが重要です。簡単な自己紹介や近況報告などのアイスブレイクから始め、緊張をほぐします。

その後、会議の目的、期待する成果、時間配分、進行方法について明確に説明し、参加者全員が同じ理解を共有できるようにします。

この段階で質問や懸念があれば、遠慮なく発言してもらえる雰囲気を作ることも重要です。参加者が安心して議論に臨めるよう、ファシリテーターの役割や議論のルールについても説明します。

③議論中の調整

議論が活発になると、時として脱線したり、感情的になったりすることがあります。ファシリテーターは、このような状況を事前に察知し、適切なタイミングで軌道修正を行います。

話が脱線した場合は、「今の議論も重要ですが、まず最初の論点について結論を出してから進めませんか」のように、自然に本題に戻します。感情的な対立が生じた場合は、一旦休憩を取ったり、論点を整理し直したりして、冷静な議論環境を回復させます。

参加者の発言量に偏りが生じた場合は、発言の少ない人に意見を求めたり、話しすぎる人に他の意見を聞く機会を作ったりして、バランスを調整します。

④終了時のまとめ方

会議の終了時は、議論の内容を整理し、決定事項と今後のアクションプランを明確にまとめます。参加者全員が同じ理解を持っていることを確認し、疑問や懸念があれば解決してから終了します。

また、今回の会議の良かった点と改善点を簡潔に振り返り、次回以降のファシリテーションの質向上につなげます。参加者からのフィードバックも積極的に求め、継続的な改善を図ることが重要です。

最後に、決定事項の実行に向けた意欲を高めるような締めくくりの言葉をかけ、前向きな雰囲気で会議を終了します。

ファシリテーションの進め方

まとめ

ファシリテーションは、現代のビジネスや日常生活において欠かせないコミュニケーション技術です。単なる会議の進行技術ではなく、人々の知恵を結集し、より良い成果を生み出すための総合的なスキルと言えるでしょう。

今回ご紹介した7つのスキルと実践手順を参考に、まずは身近な場面から実践してみてください。最初は思うようにいかないかもしれませんが、継続的に取り組むことで必ず上達します。効果的なファシリテーションができるようになると、あなたの周りの会議や議論が劇的に変わり、職場や地域コミュニティでの存在感も大きく向上するでしょう。ぜひ今日から、一歩ずつファシリテーションスキルを磨いていってください。

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 日本ファシリテーション協会. (2014). ファシリテーションとは. 特定非営利活動法人 日本ファシリテーション協会.
 
[2] 中野, 民夫. (2001). ワークショップ―新しい学びと創造の場. 岩波書店.
 
[3] 安斎, 勇樹, 東南, 裕美. (2020). ワークショップ熟達者におけるファシリテーションの実践知の構造に関する記述研究. 日本教育工学会論文誌, 44(2), 155-174.