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フィードバックの技術

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フィードバックの技術で成果を出す|元Apple幹部理論を実践

皆さんこんにちは。コミュニケーション教室を開催している公認心理師の川島達史です。

・アドバイスしたのに空気が悪くなった
・良かれと思った指摘が逆効果だった
・厳しく伝えるのが怖くなった

――そんな経験はありませんか?

フィードバックは、相手の成長を促すために欠かせない重要な技術です。しかし現代は、厳しく言えばハラスメントと受け取られ、優しく言えば本音が伝わらないという、非常に難しい時代でもあります。だからこそ今求められているのが、ビジネス現場で使える「フィードバックの技術」です。

本コラムでは、心理学の視点を交えながら、元Apple大学講師であるキム・スコット氏が提唱した「ラディカル・キャンダー」を解説します。

◆全体の目次
①フィードバックの技術と注意点
②率直さのフィードバック技術
③ラディカル・キャンダーの4分類
④信頼を築く配慮の技術
⑤成長を促す伝え方の技術
⑥フィードバックの本質とは
⑦本質をより深く学びたい方へ

※本テーマは動画でも詳しく解説しています。
文章でじっくり読みたい方はこのままどうぞ。映像で学びたい方は、以下もご活用ください。

フィードバックの技術と注意点

良かれと思った指摘が逆効果に

皆さんは、誰かにアドバイスをした後に「なんだか空気が悪くなった」と感じたり、 逆に自分が指摘を受けて「やる気がなくなった」という経験はありませんか?

相手の成長を願って行うはずのフィードバックですが、 実はこの行為には、私たちが想像している以上の「リスク」が潜んでいます。 だからこそ、感覚や善意だけに頼らず、 正しいフィードバックの技術を理解することが重要なのです。

心理学者が明かした衝撃のデータ

このリスクを裏付けるデータがあります。 エルサレム・ヘブライ大学の組織行動学教授、 アブラハム・N・クルーガー氏らは、 過去約100年間に行われた研究(12,652人分のデータ)を分析しました。その結果、フィードバックを与えたケースのうち、 38%では、パフォーマンスが向上するどころか、 与えなかった場合よりも低下していたことが明らかになったのです[1]。

さらに重要なのは、 この結果が「褒めたか」「叱ったか」といった 単純な言い方の違いによるものではなかった点です。 つまり、表現テクニック以前に、 相手との関係性や伝え方の本質を誤ると、 どんな言葉も逆効果になり得るてしまうのです。

 

率直さのフィードバック技術

キム・スコット氏の異色の経歴

では、逆効果にならない「本物のフィードバック」とはどのようなものでしょうか。その答えを示したのが、元Apple大学講師のキム・スコット氏(Kim Scott)です。

元Apple大学講師のキム・スコット氏のポートレート

彼女の経歴は非常にユニークです。1990年代初頭にモスクワでダイヤモンド切断工場を経営し、その後ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。GoogleでYouTubeやAdSenseの責任者を務めた後、スティーブ・ジョブズ氏が創設した社内教育機関「Apple大学」でリーダー教育に携わりました[2]。

こうした実践的なマネジメント経験の中から体系化されたのが、「ラディカル・キャンダー(Radical Candor:徹底的な率直さ)」というフィードバックの技術です。

「犬の散歩」から学んだ本質

キム・スコット氏が提唱する「ラディカル・キャンダー(徹底的な率直さ)」の原点には、ある日常のエピソードがあります。

フィードバックの本質を学ぶきっかけとなった犬の散歩エピソードイメージイラスト

彼女が愛犬の散歩をしていた際、犬が興奮して車道に飛び出しそうになりました。その時、通りすがりの見知らぬ男性から「その犬を愛しているなら、座らせろ!」と激しく叱られたのです。

その言葉は厳しいものでしたが、そこには「犬の命を守る」という明確な配慮がありました。厳しさと愛情が両立していたのです。キム・スコット氏はこの体験から、「相手を思いやりながら、率直に伝える」ことこそが、信頼を壊さず成果を高めるフィードバックであると確信したのです。

書籍紹介「Radical Candor」

世界標準のフィードバック術

キム・スコット氏の著書(2017)『Radical Candor: Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanity』は、配慮と率直さを両立させるマネジメント理論が体系的に解説されており、グローバル企業でのコミュニケーションのスタンダードになっています。

Kim Scott(2017)Radical Candorの表紙写真

書籍のタイトル「Radical (根本的な、過激な)Candor(率直さ、正直さ)」は、遠慮せず包み隠さず話す誠実さのことです。日本語版では「徹底的な率直さ」と訳されています。

サブタイトルでは、Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanityは、ビジネスで成果を出すために、冷徹なマシーンになったり、嫌な上司になったりする必要はないと示しています。

◆Radical Candor=徹底的な率直さ
・Radical:根本的な、過激な
・Candor:率直さ、正直さ
◆Be a Kick-Ass Boss=圧倒的な成果を出すリーダー
・Kick-Ass:めちゃくちゃ仕事ができる
・Boss:リーダー、チームを牽引する存在
◆Without Losing Your Humanity=人間性を失うこと

現在のビジネスシーンで重要視されている「心理的安全性(チームで何を言っても安心な状態)」を作るために、フィードバックをどのように交わせばいいのかを学ぶための1冊におすすめです。

ラディカル・キャンダー4分類

キム・スコット氏が提唱した「ラディカル・キャンダー」では、フィードバックの技術を「個別の配慮(Care Personally)」と「直接的な異論(Challenge Directly)」の2軸で整理します。この2軸の強弱によって、コミュニケーションは4つのタイプに分類されます。

ラディカル・キャンダーの4分類図:Care PersonallyとChallenge Directlyの2軸

この分類は、感情論ではなく、行動レベルで再現可能なフレームワークです。

 徹底的な率直さ

徹底的な素直さ(Radical Candor)とは、相手を心から思いやりつつ、言うべき厳しい事実をはっきり伝える状態です。これが理想の形です。

例:資料の構成はいい。ただ結論が少し弱いんだよね。ここを強めればもっと説得力がでるよ

相手は「自分の成長のために言ってくれている」と確信できるため、心理的安全性と成長スピードが最大化します。

攻撃型

攻撃型(Obnoxious Aggression)とは、相手を尊重せず、ただ非難を浴びせる状態です。

例:何故こんな資料を出すの?レベルが低すぎる

相手は心を閉ざしてしまい、成長は止まってしまうでしょう。組織の風通しは最悪です。

 無責任な共感

無責任な共感(Ruinous Empathy)とは、相手を傷つけたくない一心で、肝心な問題を伝えない状態です。日本の組織文化の中では比較的起こりやすい傾向があります。

例:今回は仕方ないよ。次は頑張ろうね

相手を傷つけたくないという優しさが、結果として問題を放置する無責任さに変わってしまっているため、結果としてその人の社会的信用を奪い、長期的には成長機会を奪う結果になりかねません。

保身的な不誠実

保身的な不誠実(Manipulative Insincerity)とは、自分が嫌われたくない、あるいは波風を立てたくないという「自己保身」が優先され、相手に必要なフィードバックをしない状態です。

例:本人には「いいと思うよ」と言いつつ、裏では「〇〇君の資料は使いものにならない」と周囲に漏らす

相手の成長に必要な苦言をあえて避ける、いわば「計算された不誠実さ」なので、信頼関係が完全に崩壊します。

信頼を築く配慮の技術

では、この4つの中で理想とされる「徹底的な率直さ」に近づくには、具体的に何を意識すればよいのでしょうか。フィードバックの技術を機能させるためには、相手を一人の人間として大切に思う姿勢を、日頃の行動で見せることです。これが、信頼関係を土台から支えるフィードバックの技術になります。

挨拶と雑談が最強の土台

日常の小さな関わりが、フィードバックを受け入れられる関係性を育てます。これは心理学でいう「心理的安全性」を高める行為でもあります。心理的安全性とは、「意見を言っても否定されない」と感じられる状態を指します。

・挨拶
おはよう、お疲れ様を疎かにしないこと。そして「今日どうだった?」という雑談を大切にしてください。

・雑談
「特に用はないけれど、あなたに興味があります」という無言の愛情表現です。この積み重ねが、いざという時の指摘を受け入れる心の土壌を作ります。

「無条件の感謝」が心を開く

感謝を伝える際、何かをしてくれたからありがとうという条件付きの感謝だけでなく、「あなたと一緒にチームを組めて嬉しい」「同じ時間を過ごせて感謝している」という、存在そのものを肯定する無条件の感謝を意識してみてください。これが、厳しい指摘を受け止めるための強力なクッションになります。

信頼関係を築いているイメージイラスト

成長を促す伝え方の技術

フィードバックは、愛情だけでは不十分です。伝えるべきことを伝えなければ相手の成長は止まってしまいます。成長を促すフィードバックには、共通する構造があります。ここでは、勇気を持って直接的な異論を伝えるための、具体的なコツを2つ紹介します。

否定は事実、肯定は感情で

ミスを指摘する時は「君はダメだ」という人格否定ではなく、「このやり方で、こうした結果が出た」という事実ベースで話しましょう。

感情的に怒鳴ることは、相手の脳を防御モードにさせ、冷静な思考を奪ってしまいます。逆に、褒める時は「すごい!」「嬉しい!」と感情ベースで伝えてみてください。ポジティブな感情は、やる気を高める脳内物質を活性化させます。

相手のメリットとセットで話す

「こう改善すると、君はこういう利益を得られるよ。そうすれば君の人生も豊かになると思うんだ」と、相手の幸福とセットで指摘を伝えてください。

ロサダらのポジティブ心理学研究でも、単なる過去の評価より、未来の成功イメージを膨らませる要素を取り入れた方が、その後のパフォーマンスが20%~25%向上することが示されています[3]。

フィードバックの本質とは

フィードバックの技術とは、単なる話し方のテクニックではありません。その根底にあるのは「相手の人生がより豊かになることを願う心」です。金八先生が、時に厳しく生徒を叱りながらも慕われるのは、その指導の裏側に確かな愛情があることが生徒に伝わっているからです。

部下へのフィードバックの場面でも、この本質を意識すれば、信頼関係を損なわずに成長を促すことができます。まず自分の心の中に相手への配慮があるかを問いかけてみてください。そして勇気を持って率直に伝えてください。その一言が、相手のパフォーマンスを劇的に変えるきかっけになるかもしれません。

やる気があふれているイメージ

より深く学びたい方へ

ダイコミュでは、本コラムの筆者である川島達史をはじめ、公認心理師がコミュニケーション教室を開講しています。内容は以下のとおりです。

・聞き力,話す力をつける練習
・緊張を緩和する,心理的トレーニング
・健康的に人間関係を築く練習

🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者(川島)も講師をしています(^^) 

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

*出典
[1]Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996).The effects of feedback interventions on performance: A historical review, a meta-analysis, and a theoretical intervention theory.Psychological Bulletin119巻, 2号, 254–284ページ
[2]Scott, K. (2017). Radical Candor: Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanity.
[3] Kluger, A. N., & Nir, D. (2006). The Feedforward Interview.