フィードバックスキルとは?コーチングの基本を公認心理師が解説します
皆さんこんにちは。こちらのコミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「フィードバックスキル」です。なんとなく聞いたことがある方が多いと思いますが、実際にどう使えばいいのか分からない方も多いでしょう。
本記事では、コーチングにおけるフィードバックスキルについて詳しく解説していきます。目次はこちらです。
・フィードバックとは何か
・3つの効果的な手法
・成功するタイミングと頻度
・失敗を避ける注意点
・実際の場面での使い方
ぜひフィードバックスキルを高めて、相手の成長を支援するきっかけを掴んでください。
フィードバックとは何か
まずはフィードバックの基本的な意味から詳しく見ていきましょう。フィードバックの定義について、Kluger & DeNisi(1996)[1]は以下のように定義しています。
外的なエージェント(行為者)が、誰かの課題パフォーマンスのいくつかの側面に関する情報を提供するために行う活動
わかりやすくすると「誰かのパフォーマンスについての情報を提供すること」という意味で捉えておくとよいでしょう。
また、Hattie & Timperley(2007)[2]は以下のように定義しています。
エージェントによって提供される、パフォーマンスや理解の側面に関する情報
簡単に言うと「相手の行動や結果について客観的な情報を伝える」ことです。ただし、評価や批判とは異なります。フィードバックの目的は、相手の気づきを促し、より良い行動につなげることなのです。
科学的研究による効果
フィードバックの効果については、数多くの科学的研究で実証されています。
パフォーマンスを向上
フィードバックが本当に効果があるのかを調べるため、Kluger & DeNisi(1996)は23,663人を対象にした607の研究を分析しました。その結果、フィードバックは確実にパフォーマンスを向上させる効果があることが分かりました。
しかし同時に、新しい発見もありました。フィードバックの3分の1以上が逆効果で、パフォーマンスを下げてしまうことも明らかになったのです。
好循環・悪循環を生みだす
山本ら(2024)[4]は、596名の中学生を対象に、フィードバックが学習にどう影響するかを調査しました。 この研究で特に興味深い発見は、男子生徒において「循環的因果関係」が見つかったことです。循環的因果関係とは、簡単に言えば影響がぐるぐる回る状態のことです。 具体例で説明すると、こんな感じです。
好循環のパターン
1.先生が褒める
2.生徒が嬉しくなりさらに頑張る
3.また先生に褒められる
4.さらにやる気が出る…
・
悪循環のパターン
1.先生が厳しく言う
2.生徒がやる気を失う
3.また先生に叱られる
4.ますますやる気がなくなる…
この研究では、褒めたり具体的なアドバイスをしたりする肯定的なフィードバックは好循環を生み出しやすいことが分かりました。一方で、否定的なフィードバックは男女問わず学習効果がないことも明らかになりました。
成績を向上させる
Black & Wiliam(1998)[5]は、世界中から250以上の研究を集めて調べました。この研究は、フィードバックが学習にどのような効果をもたらすかを明らかにするために行われました。
その結果、効果量が0.4から0.7という非常に高い数値を示しました。具体的には、効果的なフィードバックは学生の成績を2学年分も向上させる可能性があることがわかりました。つまり、普通なら2年かかる成長を1年で達成できるほど強力な効果があるということです。
フィードバックの3つの理論
フィードバックの代表的な理論について見ていきましょう。
フィードバックの種類
Hattie & Timperley(2007)[2]は、フィードバックを4つのレベルに分類しています。
タスクレベル
課題が適切に理解・実行されたかに関するフィードバックです。「答えが正しい」「計算が間違っている」といった具体的な内容への指摘がこれにあたります。基本的ではありますが、このレベルだけでは深い学習は促進されません。
・
プロセスレベル
課題を実行するための戦略やアプローチに関するフィードバックです。「どのような手順で解いたか」「なぜその方法を選んだのか」など、学習者の思考過程に焦点を当てます。このレベルは理解を深め、応用力を高める効果があります。
・
自己調整レベル
学習者が自分で学習をモニタリングし、調整する能力に関するフィードバックです。「自分の学習方法を振り返ってみよう」「どこでつまずいているか気づけているか」といった、自律的な学習能力の育成を目的とします。
・
セルフレベル
学習者個人に関するフィードバックです。「よくできました」「頭がいいですね」といった個人的な賞賛がこれにあたります。
この中で、やり方や考え方について教えるフィードバックが最も効果的で、「すごいね」「よくできたね」といった褒め言葉だけでは効果が低いことがわかっています。
フィードバック介入理論
フィードバック介入理論とは、フィードバックを受けた人がどこに注意を向けるかによって効果が変わるという考え方です。Kluger & DeNisi(1996)[1]によると、フィードバックの効果は注意の焦点によって決まります。 理論では、注意が3つの階層に向けられると説明しています。
タスク学習プロセス
「課題そのものや学習内容」に注意が向く
・
タスク動機プロセス
「課題への取り組み方や動機」に注意が向く
・
メタタスク(自己関連)プロセス
「自分自身の能力や評価」に注意が向く
研究では、本人の性格や能力を評価するより、具体的な作業内容に注目したフィードバックの方が効果的だということがわかりました。「君は頭がいい」ではなく「この解き方が良かった」と伝える方が、学習効果が高いのです。
フィードフォワード概念
Hattie & Timperley(2007)[2]は、これまでのフィードバックに加えて「フィードフォワード」の大切さを強調しています。それぞれ以下の違いがあります。
フィードバック
過去の出来事を振り返るもの
・
フィードフォワード
これからの方向性を示すもの
フィードフォワードは、今の状況から目標達成に向けて、相手がもっと上手に情報を整理し、よく理解し、新しいやり方を覚えられるよう手助けします。
具体的には、「次はこのように取り組んでみよう」「この視点から考えてみると良い」といった、今後の学習や行動に向けた具体的な指針を提供することで、学習者の成長を促進します。
具体的なフィードバック手法
実際にフィードバックを行う際に心がける点や手法を紹介します。
関係性作る
Wisniewski et al.(2020)[3]の研究では、61,000人以上の学生を対象とした分析により、フィードバックの効果が環境や関係性に大きく影響されることが分かりました。例えば、どんなに良いアドバイスでも、受け手との信頼関係がなければ素直に聞いてもらえません。また、日本人は人前で注意されることを特に嫌がる傾向があるので、できるだけ個別に話すことが効果的です。
基礎質問を使う
Hattie & Timperley(2007)[2]の研究によると、効果的なフィードバックは3つの重要な質問に答える必要があります。
「どこに向かっているのか?」
「今どこにいるのか?」
「次にどこに向かうのか?」
これらの質問に対応するフィードバックが、自己調整能力を高め、成長を促すことがわかっています。
SBI型フィードバック
SBI型は、フィードバックを3つの要素に分けて伝える方法です。この手法は、元々は組織行動学の分野で開発されたもので、多くの企業研修で使われています。 SBIとは、Situation(状況)、Behavior(行動)、Impact(影響)の頭文字を取ったものです。
S(Situation:状況)
– いつ、どこでの話なのかを明確にする
・
B(Behavior:行動)
– その時に何をしたのかを具体的に説明する
・
I(Impact:影響)
– その行動がどんな結果を生んだかを伝える
SBI型の良いところは、感情的にならずに客観的に伝えられることです。事実に基づいて話すので、相手も受け入れやすくなります。また、具体的な状況と行動を示すことで、相手は何を改善すればいいのかが明確に分かります。
ペンドルトン型フィードバック
ペンドルトン型は、Pendleton et al.(1984)[6]が提唱した対話形式のフィードバック手法です。この方法は、医学教育の現場で開発され、現在では様々な分野で使われています。 ペンドルトン型の特徴は、フィードバックを受ける人が主体的に考える点です。一方的に指摘するのではなく、相手と対話しながら進めていきます。
基本的な流れは以下の通りです。
「今回の件について、自分ではどう思いますか?」
「良かった点はどこだと思いますか?」
「改善できる点はありますか?」
「次回はどうしたいと思いますか?」
この手法の良いところは、相手が自分で気づくため、納得感と当事者意識が高まることです。「言われたからやる」ではなく、「自分で考えてやる」という気持ちになりやすいのです。
ただし、時間がかかるという欠点もあります。また、相手がなかなか気づかない場合や、フィードバックする側と受ける側の認識に大きな差がある場合は、話をまとめるのが難しくなることもあります。
サンドイッチ型フィードバック
フィードバックの型の一つは「サンドイッチ型」です。具体的には以下のような順番でフィードバックをしていきます。
1.ポジティブなフィードバック
(褒める)
・
2.改善点の指摘
(ネガティブな内容)
・
3.ポジティブなフィードバック
(褒める)
ネガティブなフィードバックをポジティブなフィードバックで挟み込むことで、モチベーションの低下といった悪影響が生じかねないネガティブなフィードバックの側面を最小限に抑えることが期待できます。
この手法の良いところは、相手が最初と最後に良い気分になれることです。改善点を指摘されても、前後に褒められることで、「自分は認められている」という安心感を持ちながら話を聞くことができます。
まとめ
フィードバックスキルは、相手の成長を支援する強力なツールです。適切な手法とタイミングで実践することで、個人の能力向上だけでなく、組織全体の発展にも貢献できます。
今回ご紹介したSBI型、ペンドルトン型、サンドイッチ型などの手法を参考に、ぜひ日常のコミュニケーションに活用してみてください。
大切なのは、相手の立場に立って考え、成長を願う気持ちで伝えることです。フィードバックスキルを磨いて、より豊かな人間関係を築いていきましょう。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連