離職の原因と対策|統計で読み解く8つの防止策
皆さんこんにちは。コミュニケーション教室を開催している公認心理師の川島達史です。当コラムは下記にあてはまる方におすすめです。
・離職予防力をもっと高めたい
・離職という問題を体系的に理解したい
・離職防止策のヒントを得たい
離職の実態・原因・対策を、統計データとともに整理しました。当コラムを読み進めていくと、断片的な知識ではなく、離職予防の全体像がつかめます。

離職の問題|統計で見る現状
離職は、どの会社にとっても避けて通れないテーマです。まずは感覚論ではなく、客観的な統計から現状を押さえておきましょう。

厚生労働省の「雇用動向調査」によると、令和6年(2024年)の全国の離職率はおよそ15%前後で推移しています[1]。
令和5年(2023年)も入職率16.4%、離職率15.4%と、ここ数年は入職率が離職率をわずかに上回る「入職超過」が続いています[4]。
一見すると人の出入りは均衡しているように見えます。しかし業種別に見ると景色は大きく変わります。
宿泊業・飲食サービス業では離職率が25%前後に達する一方、複合サービス事業などでは1桁台にとどまります[2]。業種間で3倍近い開きがあるのです。
つまり「離職率が高い・低い」は業界特性に強く左右されます。自社の数値を見るときは、全国平均だけでなく同業種の平均と比較することが欠かせません。
さらに就業形態別に見ると、パートタイム労働者の離職率は正社員より高く出る傾向があります。生活関連サービス業・娯楽業などでは、パートタイム労働者の離職率が30%を超える年もあります[2]。
人手の入れ替わりが激しい業種ほど、教育コストが回収できないまま人が辞めていく悪循環に陥りやすくなります。

もう一つ押さえておきたいのが、新卒者の早期離職に関する「七五三現象」です。
これは、中学卒業者のおよそ5割、高校卒業者のおよそ4割、大学卒業者のおよそ3割が、就職後3年以内に離職するという厚生労働省の統計から生まれた通称です[3]。
学歴に関わらず、入社から3年間は離職リスクが特に高い期間だとわかります。新入社員の受け入れ体制や、配属直後の上司との関係構築が、その後の定着率を大きく左右します。
また、離職率の上昇は単に「人手が減る」という表面的な問題にとどまりません。
採用コストの増加、教育投資の損失、残されたメンバーの業務負荷増大、ノウハウの流出、職場の士気低下。組織全体に連鎖的な悪影響を及ぼします。
1人の退職を補充する採用・教育コストは、その人の年収の3割から数倍に及ぶとも言われています。離職率の高さは経営指標として無視できません。
だからこそ、離職率という数字を結果として眺めるだけでなく、その手前にある「原因」に目を向け、予防的に対策を打っていくことが重要になります。
離職の原因|6つの背景

離職の原因は一つではなく、複数の要因が絡み合っています。
厚生労働省の調査によると、転職者が前職を辞めた本音の理由は、男女ともに「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」が上位を占めます[5]。
ここでは、こうした調査結果や現場でよく聞かれる声をもとに、代表的な原因を6つに整理します。
① 労働時間・休日等の労働条件
長時間労働が常態化していたり、休日が思うように取得できなかったりする環境では、心身の疲労が蓄積します。
特に繁忙期の残業が慢性化している職場では、体力的な限界を迎える前に「見切りをつける」形で退職に至るケースが目立ちます。
② 職場の人間関係
上司や同僚との関係、あるいはハラスメントに近いコミュニケーションが日常的に発生している職場では、仕事内容や待遇に不満がなくても離職の引き金になります。
人間関係の問題は表面化しにくく、退職の意思を伝えられて初めて発覚するケースも少なくありません。
③ 給与・待遇への不満
収入が仕事の負荷に見合っていないと感じたとき、人は他の選択肢を探し始めます。
同業他社の給与水準と比較しやすくなった現代では、待遇面の見劣りが離職の直接的な引き金になるケースが増えています。
④ 成長実感・キャリア展望の欠如
「このまま働いていても成長できない」という閉塞感も、近年特に若手層で目立つ離職原因です。
単調な業務の繰り返しや、フィードバックのない評価制度はモチベーション低下を招きます。
⑤ 心理的な孤立・承認不欠如
自分の頑張りが認められていないと感じる状態、いわゆる承認不足も無視できません。
承認不足は本人が言語化しにくい不満です。退職理由として表には出にくいものの、多くのケースの根底に関与しています。
⑥ 業務量・裁量のミスマッチ
仕事の難易度と本人のスキルが釣り合っていない状態も、離職の温床になります。
難しすぎるタスクを裁量なく押し付けられ続けると、心理学でいう学習性無力感の状態に陥りやすくなります。
これらの原因に共通するのは、いずれも「日々のマネジメントの質」によって悪化も改善もするという点です。
給与制度のように即座に変えにくいものもあります。しかしコミュニケーションの取り方や指導の仕方は、明日からでも工夫できる領域です。
次の章では、こうした原因に対応する具体的な8つの対策を紹介します。
離職を防ぐ8つの対策

離職の原因に対応する形で、現場で実践しやすい8つの対策を解説します。
自社や自分のチームに取り入れられそうなものから読み進めてみてください。
対策1:1on1で傾聴力を高める
離職予防の土台になるのが、上司と部下の1on1面談です。ここで重要なのは「話す」ことよりも「聴く」ことです。
部下が話し始めたときにいきなり評価したりアドバイスしたりせず、まずは相手の言葉を受け止める姿勢が信頼関係の第一歩になります。
傾聴には技術があります。相槌の打ち方、質問の投げかけ方、沈黙の扱い方を意識するだけで、部下が本音を話しやすい場に変わります。
特に人間関係の悪化を理由にした離職を防ぐには、上司が部下の小さな違和感をキャッチできる関係性を日頃から築いておくことが欠かせません。
1on1は形式だけ導入しても機能しません。聴く側のスキルがあって初めて効果を発揮する点に注意しましょう。傾聴のポイントは、以下のコラムで具体的に解説しています。
・傾聴のポイントを知ると信頼関係が深まる
・ラポールを形成する15の方法
対策2:承認とフィードバックを仕組み化する
「頑張りを見てもらえていない」という感覚は、離職を静かに後押しします。
対策としては、結果だけでなくプロセスや小さな変化にも目を向け、言葉にして伝える「承認」の習慣を意識的に作ることが有効です。
あわせて、評価や批判ではなく事実ベースで気づきを促す「フィードバック」の技術を身につけると、部下は自分を客観視しながら成長実感を得やすくなります。
承認は結果だけでなく、努力や存在そのものを認める言葉を意識すると、成果が出にくい時期のメンバーの離職防止にも効果的です。
承認とフィードバックは、コーチングという枠組みの中で体系的に学べます。属人的になりがちな「褒め方・伝え方」を、組織のスキルとして共有できる点も大きなメリットです。
対策3:叱り方を見直す
離職の引き金の一つに、感情的で一貫性のない叱り方があります。人格を否定するような叱責はパワーハラスメントに直結しやすく、部下のやる気を根本から削いでしまいます。
大切なのは、行動そのものにのみ焦点を当てることです。なぜ問題なのかを説明し、次にどうすればよいかを一緒に考える姿勢を持ちましょう。
叱ることそのものを避ける必要はありません。ただし、感情に任せた叱責と、成長を促す指導とは似て非なるものだと理解しておく必要があります。
叱り方が不適切な管理職がいるチームは、本人だけでなく周囲のメンバーの心理的安全性も低下させます。間接的に離職者を増やす原因になります。
逆に、叱った後にフォローを入れ、関係修復までを一連の流れとして行える管理職がいるチームは、多少厳しい指導があっても定着率が高い傾向にあります。
対策4:管理職のリーダーシップ力を底上げする
現場のマネジメントの質は、そのままチームの離職率に反映されます。
指示型のリーダーシップが常に有効とは限りません。メンバーの成熟度や状況に応じてスタイルを使い分ける柔軟性が求められる時代です。
管理職本人がリーダーシップ理論を体系的に学ぶ機会が少ない組織ほど、我流のマネジメントによる摩擦が起こりやすくなります。
プレイヤーとして優秀だった人材がそのまま管理職に昇格し、マネジメントの型を学ばないまま現場を任されるケースは、日本企業に非常に多く見られます。
その結果、部下育成が場当たり的になり、特定の管理職の在任期間中だけチームの離職率が跳ね上がる現象が起こりがちです。
管理職研修としてリーダーシップの基礎を学び直す機会を設けることは、遠回りに見えて最も効果的な離職対策の一つです。
対策5:職場全体のコミュニケーション力を高める
離職理由の上位に人間関係が挙がる背景には、組織全体のコミュニケーションの質の低さが隠れていることが少なくありません。
特定の管理職だけでなく、メンバー同士が互いに聴き合い、伝え合える文化を育てることが、長期的な定着率の向上につながります。
コミュニケーション力は、傾聴力・発話力・非言語表現・対人不安のコントロールという複数の要素で構成されています。いずれか一つが弱いだけでも誤解や摩擦の火種になります。
コミュニケーション研修は、特別な役職者だけのものではありません。全社員を対象とした基礎教育として位置づけることで、組織全体の心理的な摩擦を減らせます。
部署間の連携がうまくいかない、報連相が滞るといった課題も、根をたどればコミュニケーション力の不足に行き着くケースが多く見られます。
対策6:チームの協調性を育てる
個々の能力が高くても、チームとして協調できていない職場は、メンバーに疲弊感を与えやすくなります。
特に協調性の乏しい言動が放置されると、周囲のメンバーが不公平感を抱き、それが離職の一因になることもあります。
「あの人だけ好き勝手にしている」という状態を管理職が見て見ぬふりをすると、真面目に協調しているメンバーほど不満をため込み、静かに転職活動を始めてしまいます。
定期的なチームビルディングの機会を設け、目標や価値観をすり合わせることで、個人プレーに偏りがちな組織文化を修正していけます。
協調性の問題は、本人へのアプローチだけでなく、評価制度やチーム編成といった、チーム全体の設計として考えることが重要です。
対策7:モチベーション低下を早期にキャッチする
やる気の低下は、ある日突然起こるわけではありません。多くの場合は段階的なプロセスをたどります。
過剰なタスク量、裁量のなさ、長時間労働の常態化などが重なると、学習性無力感と呼ばれる「何をやってもうまくいかない」という感覚に陥りやすくなります。
表情が乏しくなる、発言が減る、遅刻や欠勤が増える。こうした変化は、本人が言葉にする前に現れるサインです。
管理職がこのサインに早期に気づき、業務量の調整や裁量権の付与といった対応を取れるかどうかが、離職を防げるかの分かれ目になります。
「頑張っているのに結果が出ない」状態を放置せず、難易度とスキルのバランスを調整する視点を持ちましょう。
対策8:評価制度と労働環境を整える
最後に欠かせないのが、制度面の整備です。
どれだけコミュニケーションを工夫しても、評価基準が不透明であったり、労働時間や休日の運用に無理があったりすれば、根本的な不満は解消されません。
評価制度は、成果だけでなくプロセスや行動も適切に反映される設計にすること、評価の根拠を本人にきちんと説明できる透明性を持たせることが重要です。
あわせて、労働時間の実態を定期的に可視化しましょう。特定の部署やメンバーに負荷が偏っていないか、過重労働が発生していないかを定点観測できる仕組みが欠かせません。
個人の頑張りだけに離職防止を委ねるのではなく、制度そのものが「辞めなくてよい理由」を後押しする設計になっているかを、定期的に見直しましょう。
制度とコミュニケーション、その両輪がそろって初めて、離職予防は機能します。
まとめ
離職は、統計データが示す通り、業種や職場ごとに背景が大きく異なる複雑な現象です。
しかし原因を分解していくと、大きく二つに整理できます。労働条件や待遇といった制度面の課題と、日々のコミュニケーションやマネジメントに起因する課題です。
特に後者は、今日からでも着手できる対策が数多くあります。
今回紹介した8つの対策は、どれか一つだけを完璧にこなす必要はありません。
大切なのは、自社やチームの状況に照らして「今どこが一番弱いのか」を見極め、優先順位をつけて着手することです。
人間関係が原因で辞める人が多いチームであれば傾聴や叱り方の見直しから。成長実感の欠如が目立つチームであればコーチングやキャリア支援から。原因と対策を対応させて考えることで、限られたリソースを効果的に配分できます。
離職予防は、一度対策を打てば終わるものではありません。組織の状態を定点観測しながら、粘り強く続けていく取り組みです。
まずは自分のチームに最も当てはまりそうな対策から、小さく試してみることをおすすめします。
離職予防力を高めたい方へ

コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連








上記の図でわかるように、

