エリクソンの心理社会的発達理論とは?人生8段階をわかりやすく解説
当コラムでは、アイデンティティの確立をテーマに解説しています。
①アイデンティティを確立する方法
②ライフチャート法
③アイデンティティ拡散とは
④エリクソンの心理社会的発達理論とは
皆さんこんにちは。コミュニケーション教室を開催している公認心理師の川島達史です。当コラムは下記にあてはまる方におすすめです。
・今の悩みが、人生のどの段階の課題なのか整理したい
・「アイデンティティ」という考え方が生まれた背景を知りたい
・自分の人生をふりかえる視点がほしい
心理社会的発達理論とは、心理学者エリクソンが提唱した、人生を8つの時期に分け、各時期に固有の心理的課題があるとする発達理論です。①のコラムでも触れましたが、今回はその8つの段階を、生活に近い言葉で一つひとつ丁寧にご紹介します。
◆全体の目次
①理論の全体像
②人生8段階を詳しく見る
③理論とアイデンティティ
④カウンセラーの視点から
⑤最後に確認しよう
⑥まとめ・次に読みたい方へ
理論の全体像
エリクソンとは
エリク・エリクソンは、20世紀に活躍した心理学者です[1]。彼は人生を8つの時期に分け、それぞれの時期には「乗り越えたい課題」があると考えました。子ども時代だけでなく、大人になってからも、老後になっても、それぞれの時期に向き合うべきテーマがある、という考え方です。
理論が生まれた背景
エリクソンは、出自の複雑さから「自分が何者か」という問いを生涯抱え続けた人物だったと言われています。彼自身が青年期に強いアイデンティティの揺らぎを経験したからこそ、「自分とは何か」という問いを人生全体の課題として捉える視点が生まれた、とも考えられています。理論家自身が当事者だったという背景は、この理論に説得力を持たせている一因と言えるでしょう。
なぜ「8段階」なのか
エリクソンがこの理論を発表するまで、心理学の発達理論は子ども時代に焦点を当てたものが中心でした。しかしエリクソンは、様々な悩みを持つ方の援助を行う中で、人は大人になっても、老年期を迎えても、それぞれの時期特有の課題に直面し続けることに気づきます。子どもから高齢者まで、人生全体を切れ目なく捉え直した点が、それまでの理論にはない大きな特徴でした。
マズローとの違い
似たような考え方にマズローの欲求5段階説がありますが、マズローが「人間の欲求」に注目したのに対し、エリクソンは「人生の時期ごとの心の課題」に注目した点が違います。マズローの理論が「今、何を求めているか」を扱うのに対し、エリクソンの理論は「今、何と向き合うべきか」を扱う、と考えると違いがイメージしやすいかもしれません。
人生8段階を詳しく見る
まずは全体を一覧で見てみましょう。
| 時期 | 課題 |
|---|---|
| ①乳児期 | 基本的信頼 対 不信 |
| ②幼児期初期 | 自律性 対 恥・疑惑 |
| ③遊戯期 | 自主性 対 罪悪感 |
| ④学童期 | 勤勉性 対 劣等感 |
| ⑤青年期 | アイデンティティ 対 拡散 |
| ⑥成人期初期 | 親密性 対 孤立 |
| ⑦成人期 | 世代性 対 停滞 |
| ⑧老年期 | 統合 対 絶望 |
ここから、それぞれの段階を詳しく見ていきます。
①乳児期:基本的信頼
生まれてから1歳頃までの時期です。赤ちゃんは、泣けばお腹を満たしてもらえる、抱っこしてもらえる、という経験を繰り返すことで、「この世界は安心できる場所だ」という感覚の土台を作っていきます。逆に、必要な時に応えてもらえない経験が続くと、「人や世界は信頼できない」という不信感が根付いてしまうことがあります。
この時期の課題は、大人になってからの人間関係にも影響します。「なぜか人を信じきれない」「親密になるのが怖い」と感じる方は、乳児期の基本的信頼がうまく育たなかった可能性があります。心当たりのある方は基本的信頼感の意味と回復する方法もあわせてご覧ください。
②幼児期初期:自律性
1歳〜3歳頃、「自分でやる!」という気持ちが芽生える時期です。靴を自分で履きたい、スプーンを自分で持ちたい、といった小さな挑戦の積み重ねが、「自分は自分の力でできる」という自律性の感覚を育てます。
一方で、失敗するたびに厳しく叱られたり、先回りしてすべてやってもらったりすると、「自分はうまくできない」という恥や疑いの感覚が強く残ることがあります。大人になってから、自分の判断に自信が持てず、常に人の顔色をうかがってしまう背景に、この時期の経験が関係していることもあります。
③遊戯期:自主性
3歳〜6歳頃、自分から「これをやりたい」「こう遊びたい」と計画を立て、行動し始める時期です。この自主的な挑戦を周りが受け止めてくれると、「自分から動いていいんだ」という感覚が育ちます。
反対に、自分から動くたびに強く咎められたり、失敗を厳しく責められたりすると、「動くこと自体が悪いことだ」という罪悪感が根付いてしまうことがあります。
大人になっても、自分から意見を言う、行動を起こすことに強い罪悪感を覚える方は、この時期の経験が影響しているかもしれません。罪悪感そのものを手放したい方は罪悪感を消す方法,手放す6つの方法も参考になります。
④学童期:勤勉性
6歳〜12歳頃、学校生活を通じて「コツコツ取り組めばできるようになる」という感覚(勤勉性)を育てる時期です。勉強やスポーツ、友人関係の中で、努力が成果につながる経験を積み重ねることが土台になります。
一方で、周りの子と比べられ続けたり、努力しても認めてもらえなかったりすると、「自分は人より劣っている」という劣等感が強く残ることがあります。
大人になっても常に他人と自分を比べてしまい、苦しくなる方は、この時期の経験と関係していることが少なくありません。心当たりのある方は劣等感が強い人へ,克服する10の方法もあわせてご覧ください。
⑤青年期:アイデンティティ
思春期から青年期にかけて、「自分は何者か」「何のために生きるのか」を模索する時期です。これがまさに、①③のコラムで詳しく扱ってきたテーマにあたります。
この時期にしっかり迷い、自分なりの答えを見つけていくことが、アイデンティティの確立につながります。まだの方はアイデンティティを確立する方法、アイデンティティ拡散とはもあわせてどうぞ。
⑥成人期初期:親密性
20代後半〜30代頃、恋人や友人と、本音でぶつかり合いながら深い関係を築けるかどうかが課題になる時期です。自分をさらけ出すことを恐れずに人と関われると、親密な関係を築けるようになります。
一方で、深く関わることを避け続けると、表面的な付き合いは多くても、心の底では孤立感を抱え続けることになりかねません。前段階(青年期)でアイデンティティがある程度定まっていないと、この親密性の課題にも取り組みにくいと言われています。孤独感が強く続いている方は孤独感が強い人の対処法も参考になります。
⑦成人期:世代性
中年期にあたるこの時期は、子育て、後輩の育成、地域や社会への貢献など、「次の世代や周りのために何かを残せているか」が課題になります。自分のことだけでなく、周りに目を向けて役立てているという感覚(世代性)が、この時期の充実感につながります。
一方で、自分のことばかりに関心が向き、周りに何も還元できていないと感じると、「同じ場所で足踏みしている」ような停滞感に陥りやすくなります。いわゆる「中年期の危機」もこの時期に重なります。何をやっても手応えを感じられない方は無気力の対処法,治し方も参考にしてみてください。
⑧老年期:統合
高齢期にあたるこの時期は、これまでの人生全体を振り返り、「良いことも悪いこともあったが、これが自分の人生だった」と受け入れられるかどうかが課題になります。この受け入れができると、人生全体に対する満足感(統合)が得られます。
一方で、「あの時こうしていれば」という後悔ばかりが強く残ると、人生をやり直せないことへの絶望感につながってしまうこともあります。この課題は高齢期に限らず、人生の節目でふと訪れることもあります。強い絶望感がある方は絶望感がある時期の6つの対処法もあわせてご覧ください。
理論とアイデンティティ
前半4段階との関係
あらためて注目したいのは、アイデンティティが単独で存在する課題ではなく、8段階という大きな流れの「真ん中」に位置しているという点です。①〜④の乳児期・幼児期・遊戯期・学童期は、いわば「アイデンティティを築くための土台作り」の時期にあたります。
周りを信頼できるか(①)、自分の力を信じられるか(②)、自分から動いていいと思えるか(③)、努力すれば認められると思えるか(④)。これらの積み重ねがあってはじめて、⑤青年期で「自分は何者か」という問いに、腰を据えて向き合えるようになります。
後半3段階との関係
逆に、⑥〜⑧の成人期初期・成人期・老年期は、いわば「アイデンティティを土台にして、その先へ進む」時期です。自分が何者かある程度分かっていないと、人と深く関わること(⑥親密性)も、周りに何かを還元すること(⑦世代性)も、自分の人生を振り返って納得すること(⑧統合)も、足元が定まらないまま進むことになりがちです。
エリクソン自身、アイデンティティの確立を「その後の人生すべての土台になる課題」として重視していたのはこのためです。つまり、①〜④のコラムで扱ってきた「アイデンティティをどう確立するか」「拡散とどう付き合うか」という問いは、青年期だけで完結する話ではなく、その後の人生全体の土台を作る作業でもあるのです。
カウンセラーの視点から
この理論のおもしろさは、「今の自分の悩みは、実は青年期だけの課題ではなく、人生のどこかの段階と地続きになっている」と捉え直せる点にあります。
相談の中でも、表面的には人間関係の悩みに見えて、実は基本的信頼感や自律性といった、もっと早い段階の課題が背景にあるケースは少なくありません。今の自分がどの段階の課題と向き合っているのかを俯瞰する視点を持つだけでも、悩みへの向き合い方は変わってくると思います。
最後に確認しよう
専門家と一緒に整理しよう
ここまで8つの段階を見てきて、「今の自分はこのあたりかもしれない」と思い当たる部分があった方もいるのではないでしょうか。ただ、自分一人で振り返ろうとしても、どこが本当の課題なのか見えにくいことも多いものです。
ダイコミュでは、公認心理師による心理学講座で、エリクソンの発達理論やアイデンティティの確立について、実際に専門家と一緒により深く整理していくことができます。理論を知るだけで終わらせず、ご自身の人生に照らし合わせながら学べる点が特徴です。
まずはコミュニケーション教室のページから、お気軽にご覧ください。筆者も講師をしています(^^)
シリーズの続きを読む
「そもそもアイデンティティを確立するとはどういうことか」という全体像を知りたい方は、まず①をご覧ください。今回の8段階のうち、青年期の課題として詳しく扱っています。
過去の経験に意味づけをする「ライフチャート法」は、①の課題(自己斉一性)を実際にワークとして体験できる内容になっています。
「なぜアイデンティティは簡単に定まらないのか」が気になる方は、多くの人が経験する「拡散」という状態と、その乗り越え方をご覧ください。

コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典
[1] Erikson.E,H(1950) Childhood and Society. Norton
野栄三郎訳(1955)児童期と社会,日本教文社,









上記の図でわかるように、

